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無銘の英雄譚 - The Legend Memory of…?  作者: 紫紅魔
事が始まるなら
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Ep-3 Side-H 枯れた木の様な

 エルフの集落―霊峰タクアマの麓から北へ。南アイナムとして分類される地域には全冒険者に公開される『オープンクエスト』でも依頼者直々に交渉する『クローズドクエスト』でもなく、冒険者協会から発布される治安維持行動、『ミッション』が発令された。

『ミッション』には、原則として在留している対象の冒険者が全員参加する。無論、怪我人などは除外されるが。


「“今回のタクアマでの騒動は『フェネクス』団員の報告により、大型の魔物によるものと推測された。よってここに、全ての第二級冒険者以上の者に対し厳戒態勢を取るよう通達する。”だってさ。」


「やるしかないだろう。相手がドラゴンだっていうなら、ここの戦力で足りるかどうか…」


「おやおや、世界に名を馳せる第一級冒険者様が弱音を吐くのかい?」


 ムカツク。ていうかアンタの方が強いだろうが。


「イヤミか?射月綾様?」


「そーだそーだ!」


 ふざけるな。


「ていうか、大体の元凶はアンタだろう暁。何が悲しくて左目隠して生活しなきゃならんのだ。」


 暁。元々は狐みたいな奴に伸びる刃を持った尻尾をつけたような奴。今は人間の形をとって冒険者として活動してる。

 事は話せば長くなるのだが…それは射月綾との交流が始まった理由にもつながる。

 話が少し飛ぶが、冒険者はお互いに初対面で少人数のチーム、所謂パーティーを組むことがある。ここで、お互いの大方の役割を把握し合うため、『クラス』のシステムが導入されている。これは、セイヴァー、バウンサー、デュエリスト、レンジャー、ハンター、コンダクター、ウィザード、エンチャンターと8つに分けられている。これをメイン、サブと二つ登録して連携を取りやすくするのだ。

 問題だったのが、私の登録クラス。実は、コンダクターのみ特別な許可が必要なクラスで、その戦い方は『友好的な魔物との契約によって身体強化を行う』というもの。同時に危険を伴うため、契約による効果、副作用など書面などで証明できなくてはならない。この時、契約に安全な手法が取られれば良いのだが、例外が存在する。私のような『強行契約』が行われてしまった、もしくはそれを意図的に行った者だ。

『強行契約』は契約時の安全性やその後の後遺症などを一切度外視して強さだけを得る。かなり強力な契約のため、場合によっては契約者の魔物が持つ特徴を引き継ぐことさえある。

 つまり、私はコンダクター登録ではないのに、暁と契約をしてしまったのだ。正確には無理やりされたんだが。今でも契約時についた頸の傷が残っている。完全にリンクさせれば色々とできるみたいだが、その時の後遺症で左目が見えない。血塗れになって赤黒く染まっている。だからする気はない。その完全リンク時に暴走していたところを助けてくれたのがそこにいる綾、ということになる。


「ところで、トキの状態はどうかな?」


「ああ、さっき担ぎ込んできたこの子?」


 どうやら彼女も…素質持ちみたいだ。綾の対応がその証明になる。彼女が救うのは決まって『神の眼』の素質を持った人ばかりだから。


「いろいろあって疲れてたみたいだよ。今はぐっすりさ。問題は…」


 暁が伝えて。


「やっぱり精神面だろうね…」


 こればかりは仕方ない。目の前で帰る場所を失ったのだから。


「綾、そろそろ私達は警戒に出る。ここのことは頼んでいいね?」


「ああ、こういう時、冒険者じゃないってのは強みだね。」


 とにこやかに返す。内心複雑なのは見え見えだ。何せ綾自身、ドラゴンの討伐を許されなかった自分に苛立っているのが十分表に出てしまっていたから。トキといったか、彼女が寝ているのを見て安心した後、そっと舌打ちしていたのを、知っているから。


 警戒に出てからしばらく経った。木製の櫓の中、おもむろに暁が口を開く。


「彼女はいつまで置いておく気だい?」


「どういう意味?先に言わせてもらうけど、金も居場所もないような子を捨て置くほど私は畜生じゃない。」


「なら質問を変えよう。アイナムからはいつ頃発つつもりなのかな?」


 成る程。大方理解できた。今回此処には仕事できている。綾からのクローズドクエストで。要約すれば今回みたいな事態を想定して、ベースキャンプを作っておくのが仕事だ。


「今回は大陸越しで動いてるんだ。本人の意思も確認しないといけない。アフターケアは可能な範囲で、だ。」


 アイナムのあるエスゴニア大陸は私達の主要活動地のカルティア自治都市群があるエルデグラッツルァ大陸まで少々距離と時間を必要とする。具体的には一国と海を挟んでいる。幸い数年前まで全国を旅していた身、慣れてはいるが彼女は違うだろう。カルティアなら知り合いも多いし、職も居場所もなんとかなるはずだ。


「六日後。」


「何が。」


「六日後にここにいる『フェネクス』の連中がイルミストの本部まで引き上げる。それに便乗するのが一番安全だからね。」


「安全、ねぇ。」


 ため息一つ、するとより険しい口調で暁が


「監視班から報告、南方に大型飛行物体。多分ドラゴンだね。東に進んでる。この様子ならこっちにはこなさそうだ。」


「本当に目が良いな、魔物さん。んじゃ協会に伝えて来る。」


 安全。そんなこと言ったって、納得しないままに彼女を動かす気にはなれない。故郷を完全に捨て去るか、それを精神の不安定な時に決めろと急かすことは…私にはできない。

 協会支部へ一歩、二歩。跳躍するように地を蹴り三歩、四歩。まるで、逃げ場を探すように。


 指定された時間の警戒を終えて、私は暁と宿に戻る。

 出来る限りのケア…と言ったが、やはり情が移ってしまうのは仕方ないのだと自分に言い聞かせて。彼女の居る部屋の扉を開けた。

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