Ep-11 Side-W 異常なまでの
今っ!
バチバチバチッ!
不快な音が手元から放たれる。理解不能な光景が目の前で引き起こされ、私は唖然としているしかなかった。
バチッ!ミシミシミシミシ…
握られた杖が芯から反発しあうかのように裂け始める。
バキバキバキッ!
「うぇっ!?」
突然の事に素っ頓狂な声を出してしまい、手からメチャクチャになった杖が放り出される。あれでは使い物にならない…というのは建前で普通にびっくりしてしまったのが大きい。
「ちょっ、何がっ!?」
ノエルさんも大分焦っている。どうすれば…
「取り敢えずは一旦息を落ち着けて!話はそれから!」
折り返したせいかかなりの数を正面に、防御をしながらちまちまと一匹、また一匹潰していく。ただ幾ら第二級冒険者とはいえ数に圧倒的な差がある。既に足からの魔法を止めたようで地に足をつけ、大分かかとを深く地面に食い込ませている。踏ん張りこそしているがこのままではジリ貧だ。次いで言えば足下の状態も悪いからバランスも取り辛い。
「落ち着いてきたなら確実に仕留められるやつからでいい。少しでいいから削っていって!」
…堅実、そして以外にもすぐ平静を取り戻したノエルさんがいたからか、大分心に余裕ができた。これが第二級冒険者…か。
ふぅ…右腕に左手を添えて正面へと。時間はかけられない。まとめて吹き飛ばすのは危険だから、一匹一匹プチプチと潰す他ない。
「空を裂く鷹の目の衝撃、今ここに魔弾となりて我が手に宿れ!」
だが、一匹一匹でも素早く落とす方法はあるっ…ぐっ!
一瞬で今まだ見えていた世界がまるで別物のように見え、鮮明に敵の数、動きが読めるかのようになる。同時に大量の情報に押されてか、私の頭がはち切れんとばかりに強い頭痛を訴える。シャレにならないレベルなので持って数秒間。それにパーソナルマインドの消耗も激しいため、短時間で的確に叩く必要がある。
「ホークスバレットっ…!」
頭痛に耐えながら感覚だけを頼りに右手を滑らせて、一発一発を的確に乱れ撃つ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
目視で落とせたのはどれくらい…かな?大体半分はいったはず…
下では一転攻勢とばかりにノエルさんがクレイモアを振るい始めていた。完全にこちら側に注意が引かれていたためにマッドスネークが次々と潰されていく。その光景は正直少しグロテスクだった。
マインドの使い過ぎで少し頭痛が残るもとりあえずは討伐完了。小型のナイフを取り出してマッドスネークの胴体を一匹ずつ引き裂き、討伐証明とする。多くの場合、魔物はそのままマイナーマインドとなってまた散り散りになる。だがどういう仕組みか、人間における心臓…要は生命の中心に近いところからあらかじめ切り離すことで形を残すことができる。ただし、その中心を潰した場合は即座にマイナーマインドとなって散るため、注意が必要だ。
因みに私達のマインドが魔物に直接的なダメージを与えているのは素体がマイナーマインドだかららしい。人間なんかに撃っても基本的にはマインド同士の干渉で気絶するか、もしくは間接的な原因での危害しか加わらない。
「しっかし、杖がバッキバキだぁ…聞いたことないよこんなの。」
「最後に使ったのはもう一年半以上前で、それ以来ずっと素手撃ちだったんですよ…」
これ、あの時の杖。まさか折れちゃうなんてなぁ…後で謝りに行こっかな。
「まぁ、お互いに無事で何よりってことで。なかなかいい動きだったと思うよ。それに、ホークスバレットも凄く良い。命中精度と火力が両立できてるのは珍しいんじゃないかな!」
褒められこそしたものの、その日のうちには気分が晴れることは無かった。折れた杖は、使えもしないけれど持って帰った。ティルディヌアの人達は折れた杖や折った私に興味津々だった。実験参加で多少資金に余裕が出来たのは不幸中の幸だったかな。元々人に協力するのは好きだし、いつもお世話になってるから。
謝りに行った時に、ノゾミさんは「安物だったから別にいい、むしろ釣り合わないものを渡してしまったことを詫びるべきだ。」とか言ってたけど…やっぱり納得がいかない。正直気にしてなかったことには安心していたけどなんだかもやっとする。この杖、辛い思い出しかないのに。
結局しばらく経ったけど、今のところ私のマインドに耐えられる杖は見つかっていない。原因は教導のおかげでコントロールの精度が上がった事や、基礎出力が向上したことが挙げられているが、はっきりとした原因は突き止められていない。耐えうる物がないのは、少し寂しかった。