Ep-10 Side-N 芽が出て
始まりの季節が過ぎて、この町も少しは落ち着きを見せ始める。第二級冒険者にとっては競争の始まりと言える時期だ。我先にと偉業となり得るクエストを貪りあい、ある者は名声たる異名と共に第一級冒険者としての地位を得て、ある者は激戦か、はたまた油断の中なのかその命を散らす。
『巨躯討伐』『高級物回収者』『孤高討伐』『世界踏破』他にも様々な偉業が存在する。『巨躯討伐』の様なパーティー単位の偉業もあれば、『孤高討伐』の様な個人の偉業、はたまた戦闘の実力を問わないものもある。
僕はクレイモアを背負って軽金属の鎧に身を包み、今日の仲間を探す。第二級ともなれば固定の面子を持つ冒険者が多く、無論それに合わせてオープンクエストはパーティーの連携が取れていること前提で格付けされているものが多い。とどのつまりは私が相当な実力者でもない限り第一級への昇格は無いと考えていいのだ。事実現状は昇格希望者にとっての捨て案件…地味なクエストを受ける事が大多数なのだから。なんだか死に急いでいるようで、段々と冷めていくというか…第二級でも生活はできるんだからいいんじゃ?と思ってしまう僕がいる。
因みに僕が大型案件に巻き込まれたのはこれまでに三回。『巨躯討伐』を目的としたダンジョン中層へのアタック、そして遭遇したのが二回。残りの一回はそもそもそれを目的としたオープンクエストへの参加。無論三回とも失敗、内二回で他のパーティーメンバーが全滅、もう一回も言い出しっぺの奴が先行して脱落。生きてるのが奇跡みたいなもんだ。
うーん、今日は釣れないな…セイヴァーは過疎っているというのがいい釣り針になるかと思っていたけど…しょうがない、ランク落としてでも少し稼ごう。…ん?あそこにいるのは…?
「あれ、ノエルさん?」
「や。その節はどうも。」
近寄って正解だった。そりゃトキに近付く奴はいないか。だって何もまともに装備してないもんね。ウィザードなら杖の一つくらい持ってなきゃ…とも思うが彼女の場合は話が別。素手から魔導杖一発分のマインドが飛んでくるんだから。一体何をやったらそうなるんだか…まぁちょうどいい機会だ。
「せっかくだし、一緒になんか出てみない?僕はハント・セイヴァーだし相性は悪くないと思うよ?」
ざっくり言えば盾。そりゃ過疎るよなぁ…
「よろしければ是非!」
「じゃあ、取り敢えず火力一人確保と。よろしくね。」
いや何、トキは本当に見ていて楽しいなぁ。なんか生き生きしてて、こっちまで奮い立つというか、元気になるっていうのかな?
「あー、後流石に募集する時くらいは杖があったほうがいいんじゃない?」
「うーん、そうですねぇ…折角ですし私、取ってきます!」
あれ、一応持ってはいるのか。てっきり一本とて持ってないもんだと思ってた。聞くところによれば教導中もほとんど素手撃ちだったって聞くし…
気を取り直して第三級冒険者向けの依頼をっと。多分あの様子じゃ実戦は一、二回踏んでりゃいい方か。冒険者業暫く放ってたみたいだし多少割りに合わなくても経験になるやつを…ん、マッドスネーク狩り。悪くないけどセイヴァーだとやりにくい…まぁいいか。いざって時にはアレもある。
「お待たせしましたー!」
「おかえりー。これとかどうかな。」
さっきの依頼を見せる、しばらくの間食い入る様に依頼書を読み、頷く。どうやらこの依頼、気に入ってくれたようだ。
―移動が完了したが…
「成る程、かなりいるね。これ。飛べる?」
一時間かかるか分からない程度離れた所。正面に広がるは最早沼レベルのマッドスネークの群れ。多分本人達は群れようとして群れてるわけじゃなかろうけど。
「はいっ。集え風、天を行く力となり、我が身に宿れ!疾風の鳥、ここに発つ!ウィンドフライヤー!」
どう見ても滑ったせいで谷間に落っこちてきた様にしか思えない。多分バカだな。それも相当な。自分がヌメッとしてることを理解してるんだかしてないんだか…
改めて依頼内容を確認しよう。今回の依頼は大量に発生したマッドスネークを討伐すること。一匹6アーチ。マッドスネークは全身泥濡れレベルに泥を被った蛇のような何か。正直中身は知らないし知りたくないかといえば微妙なライン。特段危険でもないが、その性質上傷を作らないように戦えとよく言われている。まぁ飛んでさえいりゃ安全な相手だ。
「じゃあ適当に引きつけるから。当てないように気をつけてね。」
「はいっ!」
「我が身の闇、刻まれた黒が力を堕とす。願うは速さ。ダークスライドっ!」
ふっと体が持ち上がり足元が滑るような感覚で移動できるようになる。今回は引き付けるだけ。無闇に攻撃も防御もしない。踏ん張る必要がないから機動性を重視して。それに踏ん張ろうにもどうせ足元滑るだろうしね。
トォン!トォン!
ん、あそこに撃つ気かな?指定してくれるならっと…崖に近い部分に軽く乗り上げて指定された位置へ。…よし、いいぞ。そのまま僕についてこい。
「全てを包む大気、この一撃に宿りて―」
トキはもう準備万端だ。杖は真下に向けられ、今にも地を穿たんとしている。
「―万物の守護者の名の下、その力を証明せよっ!スピアオブテンペスト!」
駆け抜けたっ!