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無銘の英雄譚 - The Legend Memory of…?  作者: 紫紅魔
事が始まるなら
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Ep-1 Side-R 始まりを告げる終わり

初めまして、紫紅魔と申します。本作品では4人のキャラクターにスポットを当て、それぞれの視点で物語が進行していきます。

それが誰の視点かはSideを確認してください。今回のSide-Rを例にするとSide-Rと付いている話はジン・フィッツェンハーゲン視点となります。

また、ターニングポイントを迎えることで、キャラ固有のアルファベットが変化します。乞うご期待!

というわけで、無銘の英雄譚 - The Legend Memory of…? をよろしくお願いします。それでは開演!

 心臓が壊れるくらいに鼓動が早くて、信じられない光景を目の前にして、何故かはわからないけど、オレの頭の中はこれまで生きてきた中で一番冷静だったかもしれない。あるいは元より狂気色に染まっていたか。

 オレの住んでいる森が焼かれる。焼かれる。飛来したドラゴンに。朱に、橙に、追い討ちのように黒が視界を濁す。

 親父は火中で魔物の相手をしていて、母さんはもう焼かれた。此処にはもう灰としてしか残ってはいない。

 せっかく親父が帰ってたのに。家族みんなが、久しぶりに顔を合わせられたのに。

 妹のコダマは先に逃がした。たまたま住んでいたところが集落のある森の奥の方で助かった。無論、いくら剣術を嗜んでいるとはいえ、戦えるとは思っていないオレも焼け残りから食料を持てるだけ掻っ攫ってさっさと尻尾を巻く。

 今はどうしてこうなってるかなんてどうでもよかった。生きる。死なない。死ななきゃ考える時間はある。まだ死にたくない。齢13で人生に幕を下ろしたくなどない。そんな事を考えるくらいなら、生きる為に体を動かし続けることを優先すべきとわかっていて、身体も自然とそう動いている。

 食せそうなものを手近にあった巾着に投げ入れ、焼け残りから外へ。コダマのいる森の深く、崖の洞窟へ脱兎の如く駆け始める。始めたかった。その一瞬さえ無ければ、迷いなんてなかった。


「…ッ!ぁ゛…」


 親父が死んだ。目の前で。ドラゴンの尾に弾き飛ばされて。死体が焼けきっていない我が家の木の壁に叩きつけられて、親父のカットラスが転がり落ちる。それを拾い上げると、奴と目が合う。

 忘れもしない、傷つきのドラゴン。親父がつけた、左腕の肩から肘、右手の甲、そして顎の傷。

 オレじゃ勝てない。分かってる。でもいつかはこんな奴と対峙して、コダマの事を守ってやらなきゃならない。

 軽く足がすくむ。

 鼓動が一層早くなる。

 逃げないと。

 脱兎すらも凌駕する勢いで、俺はその場を離れて行く。森の奥へ。戦いもしていないのに、さながら敗走する兵士の様に。

 でもその中で、オレの中にうずいていたたったひとつの違和感。

 復讐心。

 アイツだけは、オレが殺す。絶対に。

 幸いオレ達は助かった。親父の到着が遅い事に違和感を感じた第一級傭兵団『フェネクス』、つまりは親父の職場の人が集落に来た事でドラゴンの襲撃が認知された。どこで聞いたんだか知らないが、親父が家に帰って来ることは報告済みだったらしい。生存者はオレとコダマの二人だけ。無論集落のあった場所になんて戻っちゃいなかったからその時は全滅したって言われてた。

 暫くは町に蔓延る盗賊どもを形見のカットラスで狩って、金とかを奪って生きてた。この頃、すでに俺には殺すことに抵抗が無かったかもしれない。そんじょそこらの賊と第一級傭兵直伝の勝負じゃ、無論話にはならない。初めはそうやってなんとかしてた。

 そうやって過ごしてどれくらい経ったかはよく覚えない。いつもみたいにやってると、『フェネクス』の団員と鉢合わせしたんだ。


「すぅ…はぁ…っ!」


 予め盗賊の結集地点に待ち伏せ、奇襲。人数の少ない奴らを狙って。タガーナイフで武装している一人を背後から一閃。


「マック!クソッ、なんなんだお前r―」


 さっと距離を詰め、荒っぽく腰のあたりから肩口まで切り裂く。


(お前ら?)


「んダァ?ガキの盗賊がまだ残ってやがったか。」


 明らかな敵意を受け、一歩引いて新鮮な血て濡れたカットラスを構え。


「悪ぃが、くたばれヤァ!クソガキ!」


 ただのクソガキなら五秒持つか。懐まで飛び込まれ、次に来るは目にも留まらぬ鋼の拳。


「だぁあッ!」


 刹那、両手に持ち替えたカットラスを拳に横から叩きつけて軌道をそらす。そのまま勢いに任せて飛んでくる回し蹴りをしゃがんで回避し、距離を取る。

 不利。圧倒的なまでに足りていない。相手の装備はナックル。実戦経験も豊富な第一級傭兵。狭い路地で行われる戦いではナックルの小回りには敵わない。そして反撃の隙も見せない動き。


(防ぐのが精一杯かよッ…!)


 心の中でか、表面に出たか。舌打ち一つして嵐のような猛攻をギリギリいなしていく。しばらくして仕留められないのに苛立ちを覚えてか、敵は次の行動に出た。


「迸る…電、……」


 詠唱、魔法詠唱。必要こそないが、多くの者が好む前準備のような行動。

 この世界において『マインド』と呼ばれるそれは肉体に直接的なダメージこそ与えないが、使いようによっては人命をも奪う代物。

 これは『パーソナルマインド』と呼ばれる個人個人の意思を中心に集うものと『フィールドマインド』や『エリアマインド』と呼ばれる大気中を漂う二種に分けられ、前者を操ることで後者と反応、収束させて撃ち出すのが基本となる。


(魔法陣が…無い!?)


「いい加減くたばレッ!」


 回し蹴りから放たれる電光。完全に見落とした。彼の右足首には、間違いなく魔法陣が描かれている。魔法が使われる際、手なら手首、杖なら杖のどこかに魔法陣が描かれる。これはほぼ例外ない。

 咄嗟の出来事。身体を後ろに逸らすが…


「うぁっ…ぐッ!」


 間に合わない。何とか胴体では無く左腕で受けたがタダで済むわけではない。痺れて左腕は使い物にならなさそうだ。オレ自身、マインドの使い方に慣れていないのもあって防御にパーソナルマインドにほとんど回せていない。防御に回せていれば多少はマシだったが…それどころでは無い。

 マインドは魔法陣さえあれば同じ形に収束することができる。片手で攻撃をいなしながら出来るか…?


「まだやってるのか。」


(っ!)


 二人目。ここで来られるのはマズい。だがオレの行動はもっとマズかった。何がって、正面から対峙している第一級傭兵から目を逸らしたんだから。


「余所見してんなヨッ!」


「しまっ…!」


 幸運の女神とやらに愛されているのか、鋭く突き刺さるような鋼の拳になんとか反応する。

 しかし右手のカットラスにそれは直撃し、二人目の男がいる方へ吹っ飛ばされた。回収するのは無理だ。更にその時右手も一緒に弾かれたことで体勢を崩す。


(次こそ最期か…)


 むしろここまで耐えられたこと自体、奇跡のようなものだ。オレの目の前で、最期の…


「ストップ、ちょっと待て。」


「アァ?」


 なんだ?二人目の男が制止した…?


「君、この剣が誰のか聞きたい。」


 カットラスを拾い上げて。


「んな事聞いてどうするんです。」


「死ぬ方がいいか?」


 ごもっともだ。今のは失言だったな。


「親父の形見ですよ。」


「へぇ。じゃあ二つ目の質問。」


 何を考えているか知らないが、これはチャンスなのか?相手は胸のマークから『フェネクス』の人間だとわかる。次いで、どうやらかの反応からするに彼は親父のことを知っている。


「君の名前を聞こう。」


「ジン。ジン・フィッツェンハーゲンです。貴方は親父を…ゼント・フィッツェンハーゲンを知っているんですか?」


「ダリル、一度退こうか。用事ができた。」


「チッ、わぁーったよ。あの人の子供の相手したとわかったんじゃ、やる気もでネェしな。」


「あの、オレをどうする気かくらいは教えてもらってもいいですか?」


 これが重要だ。うまくいけば『フェネクス』の下で多少の仕事くらい貰えるかもしれない。そうなれば、今よりはマシな生活も望める。悪い返事なら、コダマだけでも守る必要がある。


「なに、悪いようにはしない。ちょっと話を聞きたいだけなんだが…何なら暫くうちに籍を置ける様、掛け合ってみよう。」


 どうやら運命はまだまだ味方をしてくれているらしいな。


「すみません、妹もいるんです。迎えに行かせてもらってもいいでしょうか。」


「妹さんも生きてるのか!良かった。二人とも無事だったんだな!」


 後にスコットと名乗った彼は、驚きと安堵を混ぜ合わせたかのように声を昂ぶらせた。

 その後、オレ達兄妹は暫くの間『捕虜』の扱いとして『フェネクス』の下に置いてもらうことになった。無論待遇は通常のそれに比べてとても良かった。基本的に襲撃に関する証言を行う以外は自由だったし、オレの希望もあって訓練にも参加させてもらえた。

 それから一年くらい経ってオレは正式に『フェネクス』の準二級傭兵として、冒険者活動を始めることになるんだ。

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