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「お前ら! 今日から地獄の前哨戦だ! 気合い入れろよ!」
「「「「はい!」」」」
3連休の初日にして、平日を2日挟んだら4連休という地獄の期間のその1日目。
ありす以外が気合いを入れた。ありすはなんだか、「まーたいつもな感じかな」とか言っていた。
そしてそれから3時間。
つまり12時ごろ。
「「…………暇」」
帆風さんと声が被った。
客がいないので、休日はあまり表に来ない俺が表に出て、平日やっているよりも丁寧に準備を仕上げた。途中から帆風さんも同じことをしていた。
ちなみに、時雨とありすはテラスでお茶を飲んでいて、山崎はオーナーと美春さんの話相手にさせられている。
その後は窓拭きをしていたが、冗談抜きでやることがなくなった。
「連休初日の午前中なんて、大体こんなもんさ」
オーナーは苦笑いしながら言う。
天波市から出かける人は来ないし、天波市を訪れる人もまだ天波市に来ていないくらいの時間だからだそうだ。
「じゃあなんであんな号令を?」
「ノリ」
本当にやることがないので、俺はパンケーキを焼くことにした。
オーナーから教わったパンケーキ。その練習を兼ねて、スタッフへの差し入れとして焼く許可を得て、厨房へ。
しばらくして、ふんわりとしたパンケーキが出来上がった。といっても、差し入れ用なので、味付けはシンプルにしてあるのだが。
「うむ、まあ、合格点だろう。柏木ならもう少し、いや。もっと上を目指せるだろう。それこそ、俺を越えて、な」
「買いかぶりすぎですよ」
嬉しいけども、お世辞の可能性もある。調子にのってポカしないよう自制も兼ねて、そう言った。
「おい、山崎どうした。前より格段に酷いぞ」
……あいつみたいにならないように。
テラスに、パンケーキを持っていくと、ありすが尋ねてきた。
「みなっち、それどしたの?」
「暇だろうし、差し入れだ」
パンケーキを差し出す。
「おっ、美味しそう! しぐれん、お茶にしよう!」
「……さっきからお茶をしてばかりな気もするけど」
「いいんじゃないか?」
「……うん、そうだね。じゃあ、いただきます」
「召し上がれ」
そして俺はパンケーキを、帆風さんの元へ運ぶために、その場を離れた。
店内に戻って、奥の方に作られた休憩室に向かう。
予想通り、帆風さんはそこにいた。
「帆風さん、差し入れ」
そう言ってパンケーキを差し出す。
でも、返事はない。
「あの、帆風さん?」
「…………気遣いは嬉しいけれど、甘いものは苦手で」
「なるほど。次回からは気をつけるね」
そう言ってパンケーキをさげる。
帆風さんは、律儀だということとコミュニケーションが不得意だということ、本をよく読んでいることと、甘いものが苦手だということ以外全くわからない。
「柏木くん、元気にやってますか?」
「中村先生、いらっしゃってたんですか」
俺と山崎の担任の中村先生がフェアリアにいらっしゃっていた。
「ええ、私の教え子が元気にやっているか気になりまして、ちょっと覗きにきました。私は祐二を信頼してるので、ここは最後ですね」
「あれ、先生とオーナーってお知り合いだったんですか?」
「学生時代の親友ですよ。専門が同じだったからというのもありますがね」
中村先生は、少しの間昔を懐かしむような表情を浮かべ、そして、いつもの先生としての表情に戻った。
「柏木くん、山崎さんも呼んでもらってもいいですか? あなたに関してはあまり心配ないことですが、彼女の場合、ちゃんとしているのか少し心配なので」
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先行公開エピソード、凪のは完成しました。あと3人!