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「準備ということで、柏木、勝負よ!」
「面白い。だが断る!」
山崎がこの手の提案をしてくるのはいつものことだ。ライバル視されている影響だろうか。
「なんで断るの!?」
「それはだな……」
こんな風に俺がハイテンションで話すのは山崎くらいだ。なんだか、こう弄りがいがある。ちなみに受けなかった理由は、
「面倒だからだ!」
普通にやった方が速く、しかも丁寧にできる。俺は一足先に、準備を始めた。
「だったら、1テーブル分でいいから!」
「どうしようかな~」
準備を進めながら、山崎の言葉を受け流す。まあ受けるんだけどさ。
「じゃあ受けよう。今からな」
「わかったわ。って、え!?」
「どうした?」
俺はわかってて聞き返す。
「なんでそっちはすすんでるのよ!」
「準備を先に始めたからな」
「あっ……」
山崎は落ち込んだ表情を浮かべ、
「次は絶対負けない、騙されない!」
と言った。
ちなみにこの手を使うのは、たったの3日ぶりだったりする。
「ただいまー!」
「こんにちは」
午後5時ごろ。裏口からありすと帆風さんが帰ってきた。帆風さんに対して帰ってきたという表現はなんか違うけど。
「とりあえず、準備してくるね!」
「おう」
そんな親子の会話が繰り広げられ、5分後。
制服に着替えたありすと帆風さんが戻ってきて、客間の方へと移動した。
メイド服…… 最初の頃こそ見て緊張したが、今は慣れた。フェアリアがメイドカフェではないというのも大きいだろうけど。
そんなことを考えていると、ありすがお盆に空いたグラスをのせて戻ってきた……ってひとつ落ちそう!
と思った時にはもう遅く、そのグラスが落ちるて砕けた。
「ありす、大丈夫か?」
「みなっち、大丈夫だよ」
どうやら怪我は無さそうだ。
「娘に怪我がなくてよかったよ」
オーナーも安心したような表情を浮かべている。
「絶対に手で拾おうとしないでね」
山崎はそういうと、厨房の隅に立て掛けてあったほうきを持ち出して、破片を集めた。山崎のやつ、こういう行動は速いんだよな……
「お父さん、ごめんなさい……」
「気にするな。気にするんだったら、もっと周りに頼れ」
「はい……」
シュンとするありす。そして、深呼吸をしたかと思うと、
「よし! 残りも頑張ろう!」
切り替えて行動に移した。この切り替えの速さは、俺も見習いたい。
そのあとは、特に何事もなく閉店時間を迎え、片付けをして、帰路についた。