1.プロローグ/01
作者の妄想こと「スイフレ!」をお楽しみください!
ほどよい暖かさを含む風が、頬を撫でる。
風に舞う桜は、幻想的な光景を生み出す。
空に輝く満月の神々しさも、それを引き立てるのに一役買っている。
融合し、産み出される、調和した美。
それは、一種の芸術品に見えた。
そして、それは、俺――柏木 湊にケーキを想像させた。
柔らかなスポンジ。
それを優しく包み込む生クリーム。
ワンポイントに添えられたいちご。
その全てが融合し、調和して産み出されるスイートなフレーバー。美しい見た目。
それが、俺にとってのケーキだ。
俺がケーキと出会ったのは10年前のことだ。
ショーケースに並んだケーキたち。そのひとつひとつが、それぞれの輝きを持っていた。
そのとき、俺は「ケーキを作りたい」と思った。
その日から、俺は趣味でいろんなお菓子やケーキを作るようになった。
小学生になってからも、それは変わらなかった。
中学生になる時には、絶対にパティシエになると決めていた。
高校は、調理専門の学校を選んだ。
そして2年次の春。俺は研修として、バイトをすることになった。
バイト先は、学校から徒歩15分ほどの場所にあるカフェ「フェアリア」。お洒落なテラスを持った。そこそこ大きなカフェだ。
フェアリアは、洋菓子・和菓子・お茶・軽食を取り扱っている。
メニューの幅が広く、また地域の活動にも積極的など、地元から愛されている、常連が多い店だ。
そんなフェアリアのテラスも、今は閑散としている。
今は、閉店時間を少し過ぎたころ。俺はテラスのテーブルを拭いている。
丁度拭き終わったとき、テラスと店内をつなぐ扉が開き、声がかかった。
「みなっち、お父さんが呼んでるよ!」
彼女は|坂上 ありす。このフェアリアのオーナーの一人娘だ。俺より、ひとつ年下で、俺のことを「みなっち」とよんでいる。明るい笑顔を振り撒く、看板娘だ。
「ああ、わかった。すぐ行くよ」
俺はありすのあとに続いて、店内に入った。
2018/4/8 一部改稿しました。