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第四話 Dragon's fist

このデスゲームが始まって、もう五週間が経過した。

 Jの大学生が死んでからの三週間で、更に三人が《裏切り者》に殺されたが、未だ脱出方法は見つかっていない。残り人数は十一人。松田との約束まで、あと二人。

 

 生存者十一人 アサミ、C、D(松田)、E(薄い金髪の少女)、F、G、H、I、M、N、P

 

「まだ、見つからないね」

 Eの少女がため息混じりに呟く。

「大丈夫、きっとなんとかなる!!」

 私は明るい笑顔で答えると、Eの少女は落ち込みながらまた口を開ける。

「こんな時でも、Bさんは笑顔でいられるんだね・・・・・・。私には、無理だよ」

「Eさん・・・・・・・」

 私はEの右手を左手で掴む。

「確かに私達は極限状態にあるけど、誰かが希望の光になって導かないと、それを破ることなんて出来ない。

だから私は、死んだ人の遺志を継いで、皆でここを出る為に、皆を照らす篝火になりたいから」

「そっか・・・・・・。私もそれ、手伝うよ!」

 

 Bとの会話の後、Eの少女は別の場所を探索し始めた。

 もう全ての場所を調べたような気もするが、隅々まで調べる。

 だが狭い部屋を調査中。

 Dの男――松田が入った。

「キミは松田!? 何をしにきた!!」

 Dは部屋をロックしてから、口を開く。

「決まってンだろ? イライラしてきたから、お前を殺す」

「何だって!? Bさんとの約束で九人になるまで殺さない筈じゃ

「バーカ。あんなの嘘に決まってンだろ? あんな簡単な嘘に引っかかるとは、あのアマ相当なお人好しだな」

「騙したのか! ふざけないでよ!」

「ふざけてねェよ。俺はこのゲームのルールに従ってるだけだ」

「私は絶対、アンタなんかに負けない!!」

「ほう、ならば勝負して勝ってみろ」

 ――Bさんだって、皆の為に松田と戦ったんだ。私も!

 Eはアビリティ《竜の拳》を発動し、拳を握る。

 発動と同時に、龍が鳴く。

「ぎゃあああッ!!」

「なるほど、右手を竜の顔に変形させたのか。ふッ、《グングニル》発動!!」

 松田の一の腕から手までが透明な紫の三角錐に変形する。

「さあ、行くぞ!!」

 松田の合図と同時に動き出す。

 竜は自分の意思で動かせるらしい。手が竜の顔に変形しているが、手の感覚はある。

 掌を開いている時は、龍の口は半開き。閉じている時は、口も閉じる。そこから開くと大きく口は開き、勢いよく閉じればかみ砕く。

 先手を取ったのはEの少女。右拳を松田の前で大きく開く。

「ぶるわあああ!!」と叫びながら、龍は口を開いた。

「かみ砕け!!」

 松田の右手の近くで、拳を握り直す。竜は右手を噛み砕いた。

 否、噛み砕くはずだった。

 竜が噛み砕いたのは、左腕の角錐の槍。それを噛んだ瞬間、龍は悲鳴を上げて消え去った。

「ばかな・・・・・・」

「なんだお前、あの女より弱えじゃねェか。あの女に顔似てっから、少し期待してたんだけどな」

「くッ・・・・・・」

「もう、死ね」

 

 その時。Eの少女に、ある記憶が蘇った。

 下校中。ナイフを持った男に襲われた事があった。

 だがEは、そのナイフの男を逆に殺したのだ。

 

 ――そうだ。私なら殺せる。

「うおおおおおお!!」

 Eは松田の右手を蹴り上げた。ナイフが宙を舞い、その柄を握って。右肩に振り下ろして、再び叫ぶ。

「らああ!!」

 刃は右肩に突き刺さり、抜いてから切っ先を向けてEは言う。

「これ以上やるなら、右腕を切り落とすぞ!!」

「ふッ。やめてやるさ。Bと戦うまで、右腕は必要だからな」

 松田は部屋を出て行く。

 Eはナイフを握ったまま、疲れで倒れた。

 

 その週の犠牲者は、Mの男子中学生だった。

 

◇◇◇

 

 次の日の事。あの隠れ家をあとにしたコリューメ達一行。

 フィナードは歩きながら、昨日コリューメの胸ぐらを掴んだ右掌をずっと見ていた。

「よ、フィナード。昨日の夜アンタの怒鳴り声がコリューメちゃんの部屋から聞こえたんだけど、何かあったのかい?」

 青い髪に、オレンジの瞳のやや童顔の少年が、フィナードに軽い調子で聞いてくる。

「・・・・・・なんでもない」

「右手見てっけど・・・・・・。なァ、あの女の胸揉んだのか?

そんで、ビビって叫んだんだろ?」

「拾えない飛躍をするな、グーシン」

「そこで襲って、強引にヤれないんじゃ、お前は男じゃねえな」

 いたずら顔をしながら、少年――グーシンは言う。

 グーシンとの関係は、まあ幼馴染みと言ったところだ。フィナード自身は、グーシンをめんどくさい奴だと思っているが。

「それにしても、コリューメちゃんのおっぱいでけぇよなぁ。なんで奴を見る時、アンタは睨んでんだ?」

「それは・・・・・・」

 あの少女はゴーグルと頭巾で表情を隠しているだけじゃない。あの少女の声や行動には、感情が感じ取れないのだ。このグーシンでさえ、妹――ストラノが死んだ時はフィナードを励ましてくれたし、心では敵国を憎んでいるか、ストラノの死を悲しんでくれただろうに。

「あの女が、気に入らないんだ」

「どこがだよ? おっぱいもでかくて、中身は美人さんって噂だぜ?」

「いい加減見た目の話じゃないと気付けバカ。そうじゃなくて、行動が気に入らないんだ」

「フィナード・・・・・・。お前は奴が俺達になんて言ったか覚えてるか?」

「『覚悟がある者だげ、ついて来い』」

「だったら、ストラノが死のうとも、お前がどれだけ心を痛めようともそれはコリューメのせいジャねぇ。お前の覚悟不足だ」

「お前はコリューメと同じ事を言うのかッ!!」

 フィナードの怒号が森に響く。皆が歩くのを止める。

「静かにしなさい。敵に気付かれる」

 コリューメの心のこもっていない声が、フィナードの身に入った。

「はい」

 フィナード達は再び歩き出す。

 

 歩き続けて二日。池の水などを飲み、飢えに耐えながら、夜も眠らず歩き続ける。

 フィナードの足は悲鳴を上げていて、それはグーシンも同じだった。

「足が痛ぇな。そろそろ次の隠れ家を見つけたいもんだぜ」

「ああ、そうだな」

 その時。コリューメ達の先頭集団が止まった。

「どうした? コリューメ」

「来た。敵が」

 フィナードの鼓動が高まる。

「全員。戦闘用意!!」

 フィナードは剣を抜く。それと同時に、敵軍が攻めてきた。

「うおおお!!」

 フィナードは剣を敵に向かって振り下ろす。

 昨日妹を殺した、忌まわしき敵を自分の手で斬ることに、もう躊躇いは無い。

「せやあッ! ふァッ!」

 血がフィナードの黒い服に染み付いていく。それでも狂ったように剣を振る。目の前の敵全てを殺すことでしか、フィナードを止めることなど出来ない。

 だから彼は気づけなかった。コリューメ達は既に逃げ切っていることも。グーシンが気を遣ってここに残り、現在苦戦していることも。

「ふんッ!!」

 グーシンはまとめて三人を相手していたが、既に限界が来ていた。

 敵の斬撃を赤い刀身の剣で受け止めるが、銃弾までは防げない。

 腹は既に、銃弾に貫通されており、今は死力を振り絞っていた。

「グーシン!!」

 親友の声。白い髪や、黒い服を血に染めて、黄色い眼の瞳孔が開いたままこちらに向かってくる。

「フィナード!!」

 グーシンは叫び返す。だが。

 脳が焼けるような痛み。銃弾に貫かれた痛みだ。

 眼に映るのは、左手を伸ばし、悲痛な表情を浮かべる親友の顔。

 ――フィナード、お前は生きろ。

 親友が無事に、日本に亡命出来ることを祈りながら。

 グーシンは、十七年の生涯を閉じた。


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