第二話 Conducting the girls
奴の指示通り、私は広場に行った。
そこにいたのは十五人。全員がネームプレートを付けていた。
私が広場に到着すると、全員のネームプレートの小型LEDが点灯し、スピーカーからあの男の声。
『それでは、1stピリオド開始です』
まずはあの時と同じように、全員に協力を呼びかけなくては。
だがそれをやる前に、十五人の中から一人の人間が私達の目の前に移動する。
女だ。ツンツンした薄めの金髪に、白いブレザーに黄色のネクタイ。そして白いスカート。その少女の容姿と、体型がどことなく私に似ていた。ぱっちりとした二重瞼から、鼻や口の形まで全て。その少女のネームプレートには、Eと書かれている。
「皆さん! このゲーム、犠牲者0で終わらせませんか?」
声も、私のそれにそっくりだ。
「諦めなければ、裏切り者を殺さずとも出られる筈です!
一週間以内に、ここから出ましょう!」
「私もそれに賛成だよ!!」
Eの少女の考えに対し、賛成と返す私。
「Bさん・・・・・・。ありがとうございます!」
それに、Eの少女は感謝した。
他のほとんどが、それに賛成する中。
「俺は反対だ」
黒めの肌の、スーツを着崩した見覚えのあるDの青年が答える。
だがあの青年、である可能性は0。ということは。
「そして俺の事はDではなく、松田義信と呼べ」
義信・・・・・・。松田という名字は聞き覚えがあるが、名前は聞き覚えの無いものだ。
「脱出する方法など、探すだけ無駄だ。この場の全員、俺のナイフで死んで貰うぜ」
そう。ここはあのゲームと同じ。VR空間ではあるが、ここで死ねばダイブマシンに内蔵されている毒が脳に注入されて死に至る。
「義信さん! それだけはダメです!」
「確実に脱出する方法も分からない小娘がえらそうに言うな。この状況で殺さず出るなど不可能だ」
私は反論する言葉が思いつかなかった。
「と、とにかく一週間待って下さい!!」
Eの少女が反論した。
こうしてゲームは始まる。
最初の一週間は、全員で脱出方法を探し続けた。
幸い十六人の内の一人、Kの男性が官僚だったらしく、政府との連絡手段を探してくれている。
あっという間に時間は経過し、タイムリミットまで一時間になった時の事。
Dの義信はイライラしながら頭を掻き、他の皆は落ち込んでいた。
Eの少女と私は、皆の心の叫びを聞き、それに「大丈夫、希望はある」と返していたが、それも限界が来ている。
遂に全員、披露により催眠ガスの放射より前に、個室にも戻れず倒れた。
目が覚めた。
部屋に戻ることなく眠ってしまった為、冷たい床の上で目が覚める。
最初の犠牲者は、官僚のKだった。
◇◇◇
自分の国から遠く離れた山の洞窟から、自分の家や畑が焼ける光景を見た。
自分の国を見る十六歳の少年――フィナードが生まれる前から自国は戦争をしていたらしい。
元々この国は建国されてまだ五十年にも満たなかった。
建国されたのは四十年前で、戦争は三十年前に起きたらしい。
戦争が開始された当時の人口は三千人弱。そしてフィナードが訓練に参加するようになった五歳の頃の人口は二千五百人。その二年後には二千人にまで減少し、四日前。千人いた自国の人間は国王含めてほぼ殺され、敵国の襲撃から生き残ったのはフィナード含め三十人。もうあの国は敵国のものになってしまった。故に現在戦争が起こっていない日本に亡命するより道は無い。
当然車なども無いので、歩きでの移動だ。今は各地で第三次世界大戦が行われているから、日本までの移動には困難や危険が伴う。
そんな危険な集団移動のリーダーを務めたのは、自分より一つ下の少女だ。
その少女の顔や髪は、木綿の頭巾とゴーグルに隠されていて今は窺えないが、かなりの美人らしい。少女は普段、フィナード達に顔を見せようとしない。服は、白を基調としたもの。胸を押し上げる膨らみも豊富だ。
この三十人の中では、彼女は一番冷静で子供離れした判断力を持ち、行動力もある。この大移動のリーダーも、彼女自ら志願した。本来ならば国王の跡継ぎか親族が務めるべきだが、国王の息子シャルルは国王と共に殺され、他の親族も皆同じように殺されたから仕方ない。
少女がリーダーとなって二日くらいは、彼女に不満を持つ者が多かった。
しかし昨日、この身を隠すのにうってつけの洞窟を発見出来たのは、間違いなく彼女の功績である。
だから今は、皆が少女を頼りにしている。少女がリーダーなら、一人の犠牲も出さず日本まで亡命出来ると信じて。
今のフィナードの役目は、元自国から敵の軍勢がいつ来るかを見張る係。敵に見つかれば、敵兵は話など聞かずに自分達を襲う。
だから『剣豪』などと呼ばれているフィナードは、見張りとしては最適と少女は判断したのだ。
ツンツンした白い髪を掻きむしりながら、見張りを続けていると、豆粒程度の敵兵が山の入り口に侵入したのを――見た。
「敵軍が侵入した! コリューメ!」
命令を、という言葉を省略し、フィナードはコリューメ――自分達三十人の命を預かる者に顔を向ける。
「皆の者! 東の森に逃げるぞ!」
可憐な美しい声でコリューメは叫ぶ。
彼女の呼びかけで、皆が急いで準備を進める。バッグに荷物を詰め、万が一敵に遭遇した時の武装を整えるなどだ。
フィナードは準備を終わらせてから、妹――ストラノの所に駆け寄った。
水色の短髪で、大人しめな雰囲気の妹は既に準備を終わらせたらしい。
「なあ、ストラノ。走れるか?」
「大丈夫ですよ、兄さん」
コリューメを先頭、フィナードを最後尾にし、逃走が開始された。あの洞窟から東の森に逃げる為には、ここから東への下り道を駆ける必要がある。勿論舗装されていない道故、行き止まりなどもあるだろうが、その時はロッククライミングなどで移動しなければならない。
そしてフィナードには、背後から迫ってくる敵兵を駆逐するという役割がある。
東の森付近に到達した時の事。足を止めずに駆けていたが、蹌踉ける者も当然いた。
そしてコリューメ達先頭集団が東の森に入っていった時。
ストラノが転んだ。
「うわっ!!」
「ストラノ!!」
フィナードは妹をおぶろうと駆け寄る。しかし。
敵兵の銃弾が、妹の脳を貫く。
「ストラノ――!!」
妹は助からない、直感でそう理解し、助けられなかったという自分に対する憎悪、妹を失った喪失感で満たされた叫びをほとぼらしながら、フィナードは東の森に逃げた。あれほど叫んだのに、他の人間は愚か、リーダーのコリューメまで気付いてくれなかった。仲間の緊急時には気付いてあげるのが、リーダーの務めだろうに。
東の森で新たな隠れ家を見つけ、自分より前で駆けていた男に叫び声がうるさいと叱責を受けた頃には、フィナードの喉は枯れ、足はほとんど動かなかった。
彼は隠れ家に着いてから、まずコリューメ以外の全員に妹の死を告げ、ストラノと関わりがあった者は嘆き、ある者は敵に怒り、ある者はフィナードを励まそうとしてくれた。
そして、コリューメにも知らせに行く。
「コリューメ、妹が死んだ」
「そうか」
コリューメはその一言だけ呟くと、名簿らしきものにバツ印を付けた。
そして何も言わず、用が済んだならば出て行けと言わんばかりに、背を向けて椅子に座る。
そんなコリューメの態度に、腹が立った。
「おい」
気付けばフィナードはコリューメの眼前に回り込み、胸ぐらを掴んでいた。
「お前、ふざけているのか?」
まだ頭巾とゴーグルを着けているから、コリューメの表情は分からない。だけど亡霊のように、死人が出たというのに平気そうなツラをしているだろうと予測することは、態度を見れば簡単だ。
「いいか!? 人が死んだんだ! なのに何故お前は平気そうなんだ!」
「人が死んだから、どうしたの?」
少女の答えは簡潔だ。可憐な声だが、まるで機械のようだった。
「だからッ
「人が死んだのを泣いたり、喚いたり、怒ったりして、それに何の意味があるの?
そんなことをしたって、君の妹は生き返らない。
私にそうして欲しいなら、そうするべき理由を説明して欲しい。
ともかく、明日敵が来るかも知れない。今日はもう休みなさい」
何も言い返せず、強引にコリューメを解放してから、自分の部屋に戻った。
眠りにつくまで、彼の泪が止まることは無かった。




