第十四話 Dragons and flames
四天王を全て撃破し、私は階段を上っていた。
――ここを上れば、フタメさんに会える。
私は、フタメに伝える言葉を何度も口ずさむ。
もし一言でも言い間違えば、彼女は帰ってこない気がしたから。
階段が終わり、あの四天王と戦った部屋に似た、広い空間に足を踏み入れる。
その時だ。
部屋の中央にあった何かが、眩い光を放った。
「・・・・・・ッ。くっ」
数秒後目を開け、私は見た。
ツンツンした、薄い金髪。
どことなく私に似ている、青の二重瞼を持つ容姿。
だがその二つとも、白い頭巾とゴーグルに収まっている。
そして、ファンタジー世界の主人公のような白い服。
あのデスゲームで、私が最も長い時間を一緒に過ごした友。
虎龍双女――そのはずだ。
だがその姿は、私が知るフタメではなく。
戦争で故郷を失い生き延びた、コリューメのものだった。
その少女は、ゴーグル越しで私の顔を見た。
どういうことだろうか。彼女は上杉の《精神凍結》のせいで、心を閉ざし、動くことも話すことも出来ない状態にされた筈では無かったのか?
一抹の不安を感じながら、フタメに声を掛ける。
「フタメさん・・・・・・」
フタメは少し黙っていたが、口を開く。
「・・・・・・敵」
「え?」
「北条朝美。貴方は私の敵。
排除するべき者」
感情のないその声を、私は心から恐れた。
一度眼を閉じ、唾を飲み込んでから、もう一度尋ねる。
「ねえ、君はフタメさん・・・・・・虎龍双女さんなんだよね?」
「知らない。私はコリューメ。
私は貴方の敵」
「違う!! 私は君の敵じゃない!!
私は君の友達だよ!!」
フタメの声に恐れず、私は反論していく。
「例えそうだったとしても、私は自分の望みの為に貴方を殺さなきゃいけないんだ」
「それは、なんなの?」
フタメは数秒間沈黙してから、頭巾に隠れた口を開く。
「知る必要はないよ。どうせ君は私に殺されるんだから」
「フタメさ
私が言い終わる前に、フタメの右手が動いた。
全体が刃のように輝く籠手を装着した右拳が、私の頬を掠める。
いや刃のよう――ではない。
全体が刃で出来た籠手は、私の右頬に傷を付け、血を流させた。
これは恐らく、決別の意思表明だ。
もう私を殺すことに容赦はしない、フタメは――いやコリューメはその意思を行動によって示したのだ。
何より、ゴーグル越しに見える夜の海のような青い瞳が、私にそれを教えている。
「私は、自分の意思でここにいる。
私は洗脳などされたことはない。
お前も本気で掛からなければ、本当に私に殺されるぞ」
その言葉も、脅し文句ではあるまい。
彼女の"眼"が、嘘で無いことを語っているから。
私は歯を食いしばってから、息を吐き、眼を開く。
拳を、握る。
「そうだ。戦おう。
私に殺されるのが嫌なら、逆に私を殺してみろ」
「殺さない。私は君と一緒に帰るッ!!」
私とフタメは、同時に動いた。
フタメの右拳に装着されていた籠手が破壊され、龍の顔に変形する。
対して私はフタメの心臓ではなく、左肩に向かって必殺の一撃の構えを取る。
単発重攻撃《奪命拳》。
私の意思に反応し、右拳の炎が激しく燃え盛る。
「うおおおおッ!!」
龍の顔を至近距離が回避し、左肩に接近する。
そのまま命中し――
「甘いよ」
その声が聞こえた時には、フタメは動いていた。
彼女は一瞬にして、《奪命拳》の射程距離外へと後退し。
更に。
着地したばかりの私に、追撃したのだ。
「うああッ!!」
間一髪の回避。遅れていれば、私はあの龍の餌食となっていた。
追撃は止まらない。躱す事しか出来ず、攻撃の体勢にも入れない。
一度で良い。この攻撃を止められれば。
隙を見つけろ。
集中し、思考が加速する。
あれだけ速く動いていたフタメが、今はゆっくりに見えた。
そして、隙を見つけた。
「行くぞッ!」
拳が青の炎を纏う。解放技《青炎之拳》。
迫る龍を回避し、右拳を《奪命拳》と同じ構えにする。
しかし、《奪命拳》よりも激しく、炎は人型の神と化して私そのものを飲み込む。
《奪命拳》と似て非なる技を、フタメの左肩に叩きつける。
《奪命拳》の進化技・単発重攻撃・《炎神拳》。
私が纏う炎の神が、フタメを飲み込み。
殺さないように手加減しながら、技を解除した。
青い炎が消える。
倒れたフタメに、私は言う。
「どうだ、私の勝ちだ!」




