第十話 Awakening of betrayal, a star of fire, challenging the blue sea
ここは、どこ?
コリューメは辺りを見回す。
誰も、いない。
自分に何か特殊攻撃を行った上杉も、最後まで自分を支えようとしていたアサミも。
暗い青一色で構成された世界が広がるのみで、自分以外の存在は感じ取れない。
「コリューメ」
後方から声が。
振り向くと、高貴な服に身を包む少年の姿がある。勿論コリューメ自身、彼の姿を見るのは初めてで、誰だか分からない。
「お前は、誰だ?」
「僕? 僕はマグニ帝国の皇帝。
シジンだよ」
マグニ、帝国・・・・・・。
その国の名前だけは聞き覚えがある。自分が生まれた家を焼き、父を殺し、母を殺し、何度も追いかけて自分達についてきてくれた仲間を殺した、憎き敵の国名。
よくも笑顔で、自分に話しかけられたものだ。
「貴様が、貴様が私の父さんと母さんを殺した国の皇帝なのかッ!」
「君のお父さんの名は、ペテロだっけ。
その頃は、僕は皇帝じゃなかったよ。前皇帝――即ち僕の父が殺したんだと思うよ。
まあ君のお母さんや君のお仲間の一部を殺したのは僕だよ」
その少年は無邪気に告げた。
自分と自分の父が、コリューメの家族や仲間を殺したと。
だから余計に辛かった。自分達の命が、どれだけ軽く扱われていたのかを、思い知らされたのだから。
「そっか・・・・・・。辛いよね。
だから、謝るよ」
え?
謝る、だと?
「謝ったところで、何になるんだ?」
「ふーん、でもこの話を聞いたら、そんな態度は取れなくなるよ」
何?
だがどんな話で釣ろうが、自分は皇帝なんかの為には動かな――。
「君のお父さんとお母さんに、会わせてあげられるかも知れないよ。
あとフィナードにも」
え?
そんなことが出来るわけがない。だって彼らは死んだじゃないか。
「出来るさ。完璧に再現したAIがある。
そのAIとなら、会わせてあげられる」
たかがAIじゃないか、AIなんて所詮は作り物じゃないか。
いや、もうAIでもいい。作り物では良い。あの日々が帰ってくるなら、五ヶ月間、自分と仲間を守りながら戦い、そしてクールながらも熱い心を持つフィナードを愛せるなら。
「どうやら君はフィナードに恋してたみたいだね。
じゃあそれを叶えてあげるけど、その前に条件があるんだ」
シジンは一瞬だけ悪い顔をした。
「アサミ――北条朝美さんを殺してきて」
え?
アサミを?
「アサミの首と引き替えに、君のかつての暮らしを、幻想だけど返す。
これでいいかな?」
本当に、これでいいのかな?
自分はどうしたらいいのか分からなかった。
――いや。もういい。
アサミなんてどうでも良い。
「腹は決まったみたいだね。
じゃあ、僕の右手に左手を添えて。
そうすれば、君はアサミが近付くと同時に目覚められる」
「分かった」
そう言ってから、フタメは左手を添え始めた。
その左手が右手に触れた瞬間、自分が今までやってきた事が全て無駄になるということは、理解出来ていた。
でも永遠の幸せを約束してくれる幻想を与えてくれるなら、血塗られた不幸しか見えない現実なんていらない。
もう、現実なんて見なくても。友の死と引き替えに、想い人と家族が帰ってくるのならそれで良い。
――アサミ、さようなら。
「ふ――」
シジンは子供のように笑った。
◇◇◇
敵の姿は、まるでファンタジー世界を思わせるような装いだ。
青銀の鎧に身を包み、青い長髪、そして過不足なく整った顔。腰には長剣。
現実の兵士と同じく火器や現代兵器で戦うと思っていたが、相手は剣で戦うらしい。
敵は座りながら、ワイングラスを弄んでいた。
「君が最初の敵かな?」
「そうだ。我が名はセイリュー。マグニ帝国四天王の一人。
国民からは甘いマスクなどと言われているがね」
それはどうでも良い情報な気がするけど・・・・・・。
「上の階に進みたければ、我を倒すしかないぞ」
セイリューは剣を抜く。
私も拳を握る。
敵もアビリティを使えるかどうかは分からないが、それを考える余裕は無い。
最初に駆け出したのは私だ。
私がゲームで編み出した拳技の一つ。右手の手刀による右薙、左拳による三連続の刺突、そして右腕の上段斬り。オリジナル技《右重左軽》。
これは全て防がれてしまった。
「軍人でも無いただの人間にしては中々やるな。
次は私の番だ」
両手で構えた敵の剣が淡い青に変化し、そのまま飛び上がって唐竹割りを私に向かって放つ。その剣を右手の籠手で受け止める。
だが。
剣の光が消えない。
それが何故かは、すぐ明らかになった。
僅かに、水が噴き出すような音が籠手と剣の間から聞こえる。
そして剣から、膨大な水流が発生した。
「なにッ!?」
その水流を回避することなど出来なかった。拳と剣の間から発生した水流は巨大な波となって私を押し流し、壁に激突する。
よろよろと立ち上がった私の近くに、もう水流は存在しなかった。
いるのは、青い長髪を持つ剣使いの青年のみ。
バックステップしてしゃがみ、右手で手刀を作り、そのままバネのように跳躍する。オリジナル技《後退突》。
右手を覆っていた炎が激しくなり、そのままそれを青年の胸に打ち出す。
「らァァァァッ!」




