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4話 スレイブ...スラム街暮らしよりはマシ

 カエデに俺の弱点がバレたかも。


 眩暈のような「規制」が終わると、カエデが俺から離れて、不安そうに見つめてきた。「過程」を覚えられないものの、「結果」は覚えられるので、記憶が規制された理由は、カエデの胸の感触と俺がそれに目を向けた為だと分かった。

 そして、記憶が規制される事を恐れた俺が仕方なくカエデの同行を許可したようで、記憶のない今の俺が少し困った。


 カエデ「アマクモ様、わたくしも連れて行きますよね?嘘じゃないんですよね?」

 俺「...あぁ」


 記憶にございません!と本音を言いたいんだが、そこまでしてカエデを大事にしたくない。最初の仲間だけど、カエデは俺にとっては特別でもなんでもない。


 俺「カエデ、俺の腕を抱きついてこい」

 カエデ「えっと、はい」

 俺「胸で挟め」

 カエデ「はい...はい?」

 俺「やれ」


 カエデはもじもじしながら、胸で俺の腕を挟んだ。

 暗転。

 そして、再び目が見えるようになった時、カエデが俺を見つめて、恥ずかしそうにしていた。

 なるほど...


 俺「もう一度やれ」

 カエデ「え、また!?」

 俺「そ」

 カエデ「でも、離れてって言ったのはアマクモ様ではありませんか?」

 俺「今、俺は『もう一度やれ』と言った」

 カエデ「ぅぅ...」


 顔真っ赤なカエデがもう一度俺の腕を胸で挟んだ。

 見ない!


 カエデ「これで、いい、ですか」

 俺「うん。もう離れていい」

 カエデ「っっ...」


 カエデが離れた。

 ...記憶、規制されてない。

 なるほど。なんとなく「規制」の仕組みが分かってきた。


 カエデ「あのぅ、何でわたくしに...ああいうことをさせたの?」

 俺「実験」

 カエデ「何の実験?」

 俺「脳が爆発するかどうかの実験」

 カエデ「...爆発しそうです」


 恨めしそうに俺を見つめるカエデ。嫌なら俺から離ればいいのに。


 俺「ツムギちゃん」

 ツムギ「ん、イチャイチャ終わり?」

 カエデ「っ」

 リリー「...」

 俺「物欲しそうに見つめてくるな、初対面」

 リリー「(しゅ)の御心のままに」

 俺「ツムギちゃんは一緒に行かない?冒険者風情に功をとられたくないだろう?」

 ツムギ「私は『冒険者』を見下していない。けど、一緒に行くつもりだ」

 俺「レベルが必ず俺より下である今日?俺の事が好きすぎじゃない?」

 ツムギ「ムカっ...えぇ、そうよ。大好きだわ!好きすぎて、私以外の人に殺されて欲しくないと思う程に」

 俺「うわー、散々ヤられてんのに、まだヤり足りないの?色情魔」

 ツムギ「聖女候補様をも魅了するフェロモンをだせる貴様ほどじゃないわ。切り裂いて、中身が見たいね」

 俺「そんな事をされたら消えるじゃん。見れないわ」

 ツムギ「死なないように気を付けるから。やってみない?今から!」

 リリー「あの、我が主」

 俺「あん?」

 リリー「殺しましょうか?」

 俺「...え?」


 思わず巫女シスターの顔を見た。

 綺麗で、無垢な顔だ。本気で殺人教唆してる。


 俺「お前は人間の命を何だと思ってる?」

 リリー「主にとっての犬畜生だと思っています」


 ツムギちゃんのヤンデレ発言はあくまで冗談だけど、リリーは本物だ。


 俺「リリーさん、人の命は大事。君は『聖女候補』でしょう?」

 リリー「やはり我が主、お優しいです」

 俺「いや、全肯定やめろ」


 リリーのようなタイプは苦手だ、知らぬ間にイジられる方にされるからだ。


 ツムギ「私を亡き者にする相談は終わった?」

 俺「ヤンデレへの正しい対処の仕方をしてるところ。もう行く。来たいなら来い」

 ツムギ「私は聖女候補様と攻撃も出来ないか弱い少女冒険者の為に...」

 俺「言い訳?今言い訳しようとした?」

 ツムギ「...貴様が私と同じレベルになった日に、決闘を申したいものだね」


 あからさますぎる足跡に沿って、俺達四人が進んだ。



 +×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


 浮浪者やはぐれた盗賊を殺しながら進んだら、いつの間にか夜になった。負傷状態の俺は仲間を庇う事こそできているが、攻撃ではツムギの剣とリリーの弓矢に頼りきりだ。

 そして、遂に人が居そうな山に辿り着いた。


 カエデ「お願いです、アマクモ様。一度、戻りましょう。もう夜になったし、危険ですよ。もう、ボロボロな体で、わたくし達を庇えないでください」


 途中、カエデがずっと隣でうるさい。相手にしても、無視しても、小鳥の群れのようにうるさい。


 俺「リリー、沈黙の呪文とか、知らない?」

 リリー「申し訳ありません。呪いの場合は永久に沈黙させてしまうので、一時的の沈黙は存じてないです」

 俺「呪い、こわっ!」


 黙らせることはできないが、もう男山賊団の砦が目の前だ。もう一度カエデに説明する?

 ...しよう。


 俺「こっそり入って、様子を見るだけ。オーケー、カエデ?」

 ツムギ「お前の言葉は信用に値しない、だそうね。鈍感男」

 俺「うるさい、間女」

 ツムギ「『間』に入る気は...はぁ」

 カエデ「でも、もう夜遅いし...」

 俺「だから、いいんじゃないか」

 カエデ「でも、四人だけですし...」

 俺「少人数の方がいいんじゃ」

 カエデ「みんな疲れているし...」

 俺「無理強いしてない」

 カエデ「アマクモ様は怪我しているし...」

 俺「俺の体だ」

 カエデ「敵の本拠地ですし...」

 俺「敵味方を分けるようになったか、だいぶ堕ちたな。んで、だから?」

 カエデ「でも...」

 俺「それ以上ギャーギャーうるさいと、お前を木に縛り上げて捨てるよ」

 カエデ「ぅ...」


 ようやく黙った。

 一先ず、敵の気配に気を付けながら、山を登ろう。



 +×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


 もぬけの殻だった。


 ツムギ「何も残ってない。きっと軍が動く前から準備していたに違いない」

 俺「説明、乙」


 頼んでもないのに状況の説明をしたツムギちゃん、やはりこのルートのキーパーソンだ。


 リリー「聞こえる...」


 リリーが小声で呟いた。目が虚無ってる。


 俺「気になる事があったら、言っていいぞ」

 リリー「...ありがたきしあわせ」


 リリーが一人で奥へ行った。

 え?言葉を残してから行けよ。


 俺「カエデ、お願い」

 カエデ「あっ、はい!」


 カエデがリリーの跡を追った。


 ツムギ「お前は行かないの?」

 俺「ツムギちゃんと二人きりになりたいから」

 ツムギ「気持ち悪い事を言うな。何か話があるのか?」

 俺「...あの男は、なに?」


 ただのボス敵だと思ったら、逃げられて戦闘に入れない。とんでもない過去があるようで、仲間にする事も出来るらしく、本拠点に来たらいなくて、この場所を統治している王国の軍が動く前に逃げる準備をしていて...なかなか退場してくれなかった。

 何かの大きなイベントの点がバレたかも。


 ツムギ「...いいわ。少し話そう」


 そう言って、ツムギちゃんは腕を組んで、近くの木に背を寄せた。


 ツムギ「あの男は...」

 俺「絵になるな」

 ツムギ「え?」

 俺「お前、麗人だな」

 ツムギ「...話を逸らすな」


 感情を隠そうとしたのか、ツムギちゃんは目をぎゅっと瞑り、眉を顰めた。


 ツムギ「あの男は賞金首よ。聖人聖女を汚す、背信者だ」

 俺「汚す?」

 ツムギ「.........子供ができるようになる行為の事だ」

 俺「そんな事でぇ?」

 ツムギ「貴様って奴は...信心深く神を敬う神職の人間達は純潔を神に捧げている。そのお陰で聖なる力が授けられている。その純潔を奪う事はその人達の心を壊す事だけでなく、神への反抗にも繋がる。許されざる行為だ」

 俺「飛躍しすぎ。っつか、純潔な奴しか巫女などに成れないの?厳しい世の中だな」

 ツムギ「神職にっ!はぁ...経験の有無は聖なる力の多さに関わっているだけで、神職への選択を妨げていない」

 俺「じゃ、巫女達はどうやって子供を作る?」

 ツムギ「作らんわ!神にその身を捧げているんだから、神様とじゃない?」

 俺「聖女の方を汚すのはともかく、聖人も汚す?どうやって?」

 ツムギ「知らん!部下に任せてるじゃない?いや、そもそも『汚した』のは候補達だけ、聖人聖女が奴の手の届かない高い地位にいる」

 俺「神様とエッチするの、巫女は?」

 ツムギ「っ、言葉に気遣いしろ!話を順序よくしろ!」

 俺「そんな奴がいるのなら、何故総力を挙げて捕まえようとしない?」

 ツムギ「急に話を戻すな...アイツは神出鬼没だ」


 ツムギちゃんが沈んだ声を出した。


 ツムギ「出没情報は全国各地、当たりは一つだけ。運よく出会えた私だが、レベルが元に戻るまでの時間も惜しんで来たのに、既に部下諸共いなくなってた」

 俺「レア珍獣だな」

 ツムギ「次に会えるのはいつになると考えると、頭が痛い」

 俺「ツムギちゃん的にも初体験の相手だから、会いたいよね~」

 ツムギ「......」


 ツムギちゃんが喋らなくなった。俺が怒らせたからな。

 と思ったら、突然笑い出した。


 ツムギ「初体験?そんなの、まだゴミ溜めにいた時に捨てた!私は『姉貴』だからな!」


 彼女は人をも殺せそうな視線を送って来て、ゾッとするような笑顔を見せた。


 ツムギ「神様を敬いたくても、その神様を知る前に、資格がなくなってた!生まれが平等であっても、生まれた場所は平等じゃない!私がしないと、イバラ達までもがその資格を無くすかもしれない!我らの神は実に寛大である!」

 俺「キレんな。分かった、お前はよく頑張った。うん、偉いぞ」

 ツムギ「うるさい!お前なんかに何かわかる?」


 ツムギちゃんが俺に睨みつけるを使った。俺の心の壁に罅が入った。


 ツムギ「...いまさら、聖女になりたいとか、思わないわよ」


 ツムギは背中で木を攻撃した。


 俺「清い身じゃなくなった程度で神聖力をケチるような神なんて、敬わなくていいじゃん?」

 ツムギ「お前が信者に殴り殺されようか、聖人聖女にまで軽蔑な眼差しで見られようか、私は知らないが、忠告する。神を貶す言葉は教会から1里離れた場所でやれ」

 俺「それはもちろん。神はケチくせぇ!処女厨!」

 ツムギ「...お前が誰に何されようかは知らないが、誤解するな。神職の人達が使える聖なる力は『経験人数』と関連していない。神への信心が十分なら、望まぬ酷い事された人でも授けられる」

 俺「俺を騙したな!?」

 ツムギ「違う!うるさい!」

 俺「じゃ、無垢な顔をした聖女が、実は黒ミサの主催者だったって事?」

 ツムギ「根も葉もない話をするな。お前と喋ってると本当に疲れる」


 呆れたのか、ツムギちゃんは肩の力を抜いた。


 俺「お前は『姉貴』だったのか?」

 ツムギ「...昔の話だ」

 俺「イバラ...妹を守ったのか?」

 ツムギ「......自己満足だ」

 俺「仕方なかった事なのか」

 ツムギ「.........パンが、いるんだ」


 あぁ、ダメだ。俺はツムギちゃんが好きだ。


 俺「お前って、確か今は俺よりレベルが低いんだよね~」

 ツムギ「...なにを考えてる?」

 俺「嫌な事を沢山知ったから、腹いせに好きなように動きたい」


 ツムギちゃんが逃げられないように両手を広げる。


 ツムギ「私を安い女だと思ってる?その傷だらけの体で?」

 俺「ツムギ!」

 ツムギ「っ!」


 俺の突進に反応して、ツムギちゃんはしゃがんだ。

 が、俺がその行動を読んでいた。


 俺「そこだ!」

 ツムギ「なっ!?」


 ツムギちゃんの頭を抱きしめた。


 ツムギ「てめっ、やめ...」

 俺「お前は聖女だ」


 俺はツムギちゃんの髪を優しく撫でた。


 俺「自分より他人を大事にするお前は、どれだけ清い人よりも、その心は崇高だ。候補を飛び越えて、お前はもう聖女だ」

 ツムギ「お前に認められても...お前なんかに...」

 俺「お前は聖女だ」

 ツムギ「......私は別に聖女候補様のようにお前を求めてない。何なんだ、お前?」


 暫く、ツムギちゃんの頭を温めた。



 +×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


 約10分くらいか、リリーだけが戻ってきた。


 リリー「我が主、苦しんでいる私達の内の一人をお救いくださって、ありがとうございます。ご報告があります」

 ツムギ「っ!」


 ツムギちゃんが後ろにキュウリを置かれた猫のように跳ねて、俺から離れた。


 ツムギ「弱ってる人の心に付け込むとは、貴様は最低だ!」

 俺「付け込まれたくないなら、弱ってる姿を見せなければいいのに」


 ツムギちゃんを嘲笑ってやった。


 俺「それで、カエデはどうしてだ?」

 リリー「生存者が発見されました」

 俺「なるほど」


 心優しい少女が心優しい事をしてるって訳か。


 リリー「お気に召しませんでしたか?天国に連れて行くには資格が足りないのでしょうか」

 俺「いや、俺はそういうの興味ないから」

 リリー「一人の人間の生死を、主の手を煩わせてはいけないという事ですね。失礼いたしました」

 俺「そういう話じゃないよ、不思議ちゃん。もういい。生存者に会わせてくれ」

 リリー「はい」


 リリーが歩き出した。


 ツムギ「馬だ」

 俺「なに?馬に発情した?」

 ツムギ「殺すぞ、お前!イバラ様に報告しに行くか、迷ってるだけよ」

 俺「当てが外れたから、急がなくていいじゃん?」

 ツムギ「同時に、お前と一緒にいなくてもいいって事だ」

 俺「気性が荒い馬のようだが、乗れんの?」

 ツムギ「じゃじゃ馬には慣れている」

 俺「っぽいね。イバラちゃんは扱いにくそうだ」

 ツムギ「イバラ様をちゃん付けて言うな。イバラ様に失礼な事を言うな」

 俺「早く会いたくてしょうがないみたいだけど」

 ツムギ「...そうよ。好きだもん、イバラの事が」

 俺「女の国だと、やっぱソッチ系が多い?」

 ツムギ「知らないよ。男の国だとアッチ系が多いのか?」

 俺「どうだろう?俺はそこの出身じゃないから」

 ツムギ「意外ね。我が強いから、てっきり流れ者だと思ってた」

 俺「俺に興味を持った?浮気する?」

 ツムギ「しない!いいえ、イバラは私の彼女じゃない。あの子は普通よ」

 俺「普通って何?」

 ツムギ「......私は戻る。聖女候補様、お気を付けて」


 ツムギちゃんは男盗賊団が残した馬に跨り、その馬を馴らしてから山を下りていた。


 リリー「あの女が気に入りました?」

 俺「それはお前に何の関係がある?」

 リリー「御無礼を致しました」


 リリーの案内で、俺は壁のない建物のような場所に入った。中にはカエデ以外、ボロボロな布を被った少女がいた。


 俺「...知り合いだ」

 カエデ「っ!アマクモ様、ヒイラギ様が...ヒイラギ様が...」


 この女関連のフラグをきちんと折ったと思ったのに、別ルートに入ったのか。


 俺「何があった?」

 ヒイラギ「......」

 俺「カエデ、何があった?」

 カエデ「恐らく、慰み者にされていたと思います。体中に多くの打撲の跡があり、後ろに、その、血が出てって...」

 リリー「多くの方がこの場所でお亡くなりになられました。戦いに身を投じた方々ではなく、戦う力を持たない平民達です」

 俺「まるで見てきたかのように言うね」

 リリー「巫女ですので」

 カエデ「リリー様は治療を手伝ってくださいました。わたくしの薬では内側の傷を癒せなくて」

 俺「心の傷は薬に頼っちゃうダメだ」


 五月蠅いヒイラギがずっと無言、目に光が消えている。

 壊れてるな、これは。彼女に何かあったかは容易に想像できる。

 この()は嫌なんだよなー、仲間にしたくないよ!

 でも、この姿を見せられると、放っておけないじゃん。


 俺「一先ず、外に連れ出そう。夜遅いから、ここで一晩を過ごそう。カエデ、お風呂できる場所、一緒に探そう。体が汚れていると、元気になっても、後遺症が残りそうだ」

 カエデ「あの、ツムギ様は?」

 俺「追い返した。イジリ過ぎちゃった」

 カエデ「アマクモ様、女の子にあまり酷い事を言わないでください」

 俺「そうだな...」


 ツムギちゃんは頑張っている子だから、これからは少し優しくしてあげよう。


 リリー「主、お祈りしてもよろしいでしょうか?」

 俺「誰に?」

 リリー「ここで亡くなった方達を弔う為の舞を捧げたいの」

 俺「人を殺してるのに?」

 リリー「私も全ての去った方達を弔いたいけれど、私に殺された方達は私の祈りを求めないでしょう。できる事をしたいの」

 俺「分かった。後で合流しよう」


 殺人巫女が死者の弔いをするという矛盾、世界を作り直さないと変えられないだろう。巫女かシスターか、どっちかに統一して欲しい。



 +×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


 気付いたら、次のシーンだ。

 カエデと一緒に寝る場所を見つけ、寝床も整った上、ヒイラギの体もカエデがきれいにしておいた。

 そうした後、リリーが戻ってきた。


 俺「まだ食事の時間じゃないから、遊んできていいよ」

 リリー「ありがたき、しあ...」


 突然、リリーが倒れた。

 頭が地面にぶつかる前に、その体を支えた。


 俺「おっと」

 リリー「ありがとう、主」


 よく見ると、彼女の顔が真っ青だ。相当疲れているようだが、何があった?


 カエデ「アマクモ様~、面白い山菜を見つけたのですが、食べます?」

 俺「ああ、食えるようにしてくれ!」


 遠くにいるカエデに返事したが、彼女の料理の腕がとても心配だ。


 俺「何でこんなに辛そう何の?」

 リリー「死者への弔いの舞はMPを大量に消費します」

 俺「なら、どうしてそんな事をした?」

 リリー「辛そうな声が、聞こえまして...」


 俺の腕に頭を乗せるリリー、気持ち良さそうな吐息をした。


 俺「何かしてほしい事はある?」


 ツムギちゃんの弱った姿のせいか、俺はちょっと甘い人間になったようだ。


 リリー「...願わくば、神子を賜りたい」

 俺「またそれ?お前達は純潔を大事にしてるじゃないのか?」

 リリー「その純潔は主の為の物。主に捧げるのは当然のことです」

 俺「あまりにもバカらしいから言わなかったが、俺は神じゃないぞ」

 リリー「あなた様は私の(しゅ)です」

 俺「俺はラッキーだけど、お前は俺とヤると一生後悔するぞ。一人の人間が神の訳ないだろう」

 リリー「私は信じます、唯一の主。あなた様は私に光を照らします」

 俺「...疲れているでしょう?またの時にしよう」

 リリー「主よ、私にご慈悲をください」


 話が通じない。

 もういい、奪っちゃう。俺もちょっと「聖女」を汚したい気分だ。


 カエデ「アマクモ様、できましっ...何かありました?」

 俺「カエデ、俺はリリーの世話をする。お前はヒイラギの世話をしろ」

 カエデ「はい...」

 俺「それと、今夜は俺とリリーは別部屋だ。入ってくるな」

 カエデ「.........はい」



 +×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


 夜のシーンが飛ばされて、朝になった。

 気持ちが良かった気がする。簡易布団の上に血痕がある。


 俺「リリー、体は平気?」

 リリー「気を掛けてくださって、ありがとうございます。支障になるような痛みはなく、とても元気です」

 俺「悪いな。初めてなのに、ほぐしが足りなくて」

 リリー「ありがとうございます。その...ありがとうございます」


 この話題にもう触れない方がいいだろう、恥ずかしがっているリリーの為にも、記憶のない俺の為にも。


 カエデ「アマクモ、様...おはよう、ございま、す」

 俺「はよ。眠そうだけど、大丈夫?」

 カエデ「アマクモ様こそ、随分と長い時間っ...いいえ、なんでもありません」


 この反応、まさか覗いてた?当事者の俺すら見れなかったシーン、カエデが見れたって事?

 全年齢版、最悪!


 俺「ヒイラギは?」

 カエデ「今も何も話してくれません」

 俺「人懐こい元気娘だったのに...いっそ殺す?」

 カエデ「そのような事を言わないでください。昨晩優しかったアマクモ様」

 俺「優しくした記憶がねぇんだよ」


 俺が優しいのはきっと今のキャラのデフォルトだろう。

 このままヒイラギが無口キャラだとシナリオも進まなさそうだ。しかたない、殺さない代わりに魔法の言葉を試そう。


 俺「トオルはもういいのか?」

 ヒイラギ「トオル、君...」

 俺「そのトオル君に会いたくない?」

 ヒイラギ「トオル君...」

 俺「会いたいなら、俺についてこい」

 ヒイラギ「トオル君」


 ヒイラギちゃんが「トオル君人形」になった。一応俺を見るくらいの知性が戻ったようだ。


 俺「これでクリア」

 カエデ「凄いです、アマクモ様!わたくしには何も反応してくれなかったのに」

 俺「それ程トオルちゃんの事が大事だろう。幼馴染は仲よしが王道だからな」


 とはいえ、正気に戻る程ではなかった。もっと頑張ってくれよ、トオルちゃん!


 カエデ「いつ、天山城へ戻りましょうか?」

 俺「もう戻るつもりだったけど、カエデに言われると急に帰りたくなくなった。家なし子の恐怖に震えるがいい」

 カエデ「意地悪を言わないでください!もう帰りましょう。アマクモ様の傷も早く癒さないと」

 俺「アー、そうだな」


 痛みを感じないと、自分が傷病者だという事を忘れてしまう。


 リリー「主、いいでしょうか?」

 俺「ん?」

 リリー「私は一度、主と出会った場所へ行きます。主と共にいられない事をお詫び申し上げます」

 俺「あー、大丈夫?一人じゃん?」

 リリー「はい」

 俺「一人で大丈夫って?」

 リリー「はい。主と出会った日も一人でした」

 俺「そうだな、あれもおかしかったな。危険じゃなかった?」

 リリー「ご安心ください、主の祝福と共に」

 俺「益々不安だ」


 けど、この不思議ちゃんから真面な回答を期待できそうにない。


 俺「もういい、分かった。いってらっしゃい」

 リリー「...ふふっ。いってきます」


 リリーは先に行ってしまった。


 カエデ「あの方には優しいのですね。次は『おかえり』ですか?」

 俺「どっちか言うと、俺達の方が危険だからな」

 カエデ「え?」

 俺「一人は動かない。一人は動けるが、人を攻撃できない。最後の一人は負傷状態で、まともな攻撃ができない。エネミーエンカウントしたら、全滅の可能性が高い」

 カエデ「.........一生ここで暮らそう」

 俺「偶然集まってくる野良盗賊団に殺されるぞ」

 カエデ「うぅ、助けてください、アマクモ様!」

 俺「素直でよろしい。神に祈りながら帰ろ、カエデ」

 カエデ「うん...」



 +×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


 死亡フラグを沢山立てたのに、敵一人とも出会わずに天山城へ戻った。


 カエデ「戻れました...」

 俺「ま、章の終わりなんて、こんなものだ」


 ヒイラギを引き連れて、彼女が働いている「夕焼亭」に入った。


 女将「らっしゃい...って、ヒイラギ!?」


 女将がヒイラギを見た瞬間に走り出した。


 女将「昨日どこに行ったね?心配したんじゃ...ヒイラギ?」

 ヒイラギ「トオル君」

 俺「酷い目に遭ったらしい」

 女将「!?」


 女将がショックで眩暈を起こした、という反応を見せた。

 この女将までがユニークNPCになったら、俺は凄く困る。ので、シーン飛ばし飛ばしで進めよ。


 俺「トオル君っている?娘さんを守る為に、一度俺の『奴隷』という事にした。購入金額は宿代一晩でいい。近くの病院に行った後、すぐに戻ってくるので、晩御飯をよろしく」

 女将「あ、あいよ...トオルも昨日から戻って来てない。私の娘を奴隷に!?はい、はいよ...え?」


 トオルちゃんもいない?このパターン、たぶん死に別れだ。恋人未満が目の前で殺されて、更に自分が何人にも犯された事で心が壊れたのか。

 とはいえ、名前付きのNPCが簡単に退場する事は珍しいから、後に敵として現れるパターンもあり得る。


 俺「カエデ、いくぞ」

 カエデ「え、もう?あっ、はい!」

 ヒイラギ「トオル君?」


 宿屋を出ようとしたところ、俺の服の裾がヒイラギの「人質」になった。

 役立たずの仲間になりたさそうな目つきは嫌いだ。けど、心が壊れた人に凄んでも、無駄だろうな。


 俺「トオル君に会いたいなら、ここにいろ。まだお前を捨ててない」

 ヒイラギ「トオル君」


 ヒイラギが俺の裾を放した。けど、俺の後を付いてくる。

 アヒル、うぜっ。けど、これは彼女を奴隷にした後遺症かもしれない。

 奴隷商となった俺は仲間を奴隷にする事ができる。そして、奴隷を「同行」状態から「商品」状態に変える事もできる。「同行」だと戦闘に参加する代わりに人数コストにダメージを負うといったデメリットがあるが、「商品」にしたら戦闘に参加できない代わりに、一人枠が空き、俺が死ぬまで怪我一つ負う事はない。役立たずの仲間を追放せず連れまわせる便利な権限だ。

 いつでも「商品」状態から「同行」状態に戻す事も出来るから、自分が死なないように肉の盾にする事も出来る、まさしく「奴隷商」だ。

 けど、自分の頭で思考しなくなった仲間を奴隷にしない方がいいらしい。烙印を押していなくても、奴隷商の俺から離れてくれなくなるようだ。


 俺「はぁ...カエデ、先にお前の部屋へ行くぞ。自分の都合の為に、気安く人を奴隷にすべきじゃなかった」

 カエデ「わたくしはちゃんと止めました」

 俺「あーはいはい、ゴメンナサーイ」


 女将に事情説明をして、俺は一旦部屋へ戻る事にした。この宿屋で一晩泊めてからでないと、ヒイラギの奴隷状態も解けないだろう。


 ???「カエデ?」


 不意に、カエデを呼ぶ声が聞こえた。


 ???「カエデ...やはりカエデだ!ずっと探していたよ」


 爽やかな笑顔を浮かべた一人の青年が俺達に向かってきた。

 その青年を見て、カエデは一瞬笑顔を見せたが、すぐに何かに怯えているように俺の腕を掴んで、青年に見られないように顔を逸らした。

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