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3話 セイント...聖なる何か

 俺「俺だ!俺!門を開けろ、『山賊』。」

 女盗賊「貴様など知らん!名を名乗れ!」


 オレオレ詐欺が通用しないのか。面倒だなぁ。

 いっそ、この門をぶち壊そうか?


 俺「『縦切り』で行けるのかな?まだはちょっと強めの『横切一閃(よこぎりいっせん)』の方が...」

 女盗賊「ま、待て、貴様!まさか、この門を壊す気?」

 俺「あれ、聞こえた?そうだよ。お前が門を開けないから、『ぶち壊そう』と思っているところだよ。」

 女盗賊「なんて危険な奴だ!ちょっと待って、今開ける。」


 マジかよラッキー、こんなで入れるんだ。ちょっと緩くない、警備?いいのか、これで、警備?

 そう思ったが、開いた門の向こう側に武器を持った女盗賊が十数名も俺を出迎えに来た。なるほどそうかとその時思った。

 コイツら、門の耐久度に自信がないんだ。


 女盗賊「貴様何者だ?『餓狼』の一味か?何の目的で来た?連れの二人は誰だ?答えろ!」

 俺「あ〜...」


 答えらせる気あるのか?そんな一遍に質問されても、俺は一つずつしか答えんぞ。


 女盗賊「待て!」

 俺「は?」


 答えようと思ったのに、「待て」と言われた。俺はまだ何も言ってないし、足一本動いてないけど、何を待てればいいんだ?


 女盗賊「貴様、見覚えがある!」

 俺「俺にとってのお前もそうだ。」


 女盗賊はみんな「女盗賊」の顔をしているからな。


 女盗賊「昔、あたしらに捕らえた男の一人だ!」


 ...俺の言葉、スルーされた。

 そういうイベントシーンなんだな!イベント会話なんだな!俺が何を喋っても、何も喋らなくても、お前はお前で、お前のペースで喋るだけの、ただの俺抜きのイベント会話だよな!

 クソぅ、俺も次、スルーしてやる!何を聞かれても、スルーしてやるぞ!


 女盗賊「そして、脱走すると同時に、あたしらのアジトにある全ての宝箱を空にした大悪党」

 俺「ふーん」


 女盗賊に「大悪党」と呼ばれた。心外だ。

 そもそも、お前達「賊」なんかに物を所有する権利なんてない。俺はただ宝箱の中に「落ちてる物を拾った」だけだ。

 反論したいが、スルーしてやる。ツッコミのないボケがどれ程辛いものか、思い知るが良い!


 女盗賊「どうか、もうあたしらに関わらないでください!」


 女盗賊全員に土下座された。

 え?関わらないでください?盗られた物を取り返ししたくないのか?

 いやっ、突っ込まないぞ!スルーだスルー!スルーに徹してやる。


 女盗賊「あたしらはもう、旅人を襲ってない。男を奴隷扱いするのもやめてる。真っ当に畑を耕して生活してる。家畜を盗んでもいない、野生の動物しか狩っていない。もう『賊』をやめて、真っ当に生きているから、あたしらに関わらないでください!」

 俺「...ふーん」


 二回も「真っ当」と言ったな、語彙力の底が知れてる。

 どうせ俺が喋らなくても、話が続くだろう?これもスルーだ!

 ってか、「賊」をやめてると言ってるけど、お前の標識名称は「女盗()」のままだぞ。「賊」やめてないじゃん!

 くっ、まだだ!俺はまだスルー出来る!


 ツムギ「お前は一体、ここで何をしたんだ?」


 土下座女盗賊の群を見て、安全と判断したのか、ツムギとカエデが門の前に来た。

 カエデを連れて、俺一人を行かせて、遠巻きにして見てただけのくせに、よくもいけしゃあしゃあと平然に俺に声を掛けられるな、レベル183だったツムギちゃんよ!


 俺「ふーん」


 いや、これも突っ込まないぞ!どうせ俺抜きで話続けるだろう?「ふーん」以外、絶対喋らんからな!


 ツムギ「先まで騒々しかったんだが、今はヤケに静かだね」

 カエデ「アマクモ様、お疲れ様ですか?」

 俺「ふーん」

 カエデ「...分かりました。ツムギ様、後程わたくしがご説明致します。今は一先ず目の前の事に...」

 ツムギ「急に喋らなくなったのも気味が悪いが、その口が開けば、またどんな珍妙な言葉が飛び出るか...これはこれで、好都合と考えるべきか」


 俺が喋らない事をいい事に、言いたい放題だな、ツムギちゃんよ!それにカエデも、何を「分かりました」のだろうか?

 そういえば、ツムギちゃんの苗字は何だろう?名乗られた事がないな。カエデもそうだ。

 この世界の人達って、何故か苗字より、名前を優先して名乗るのかな?


 ツムギ「私は『いさめ()(みやこ)』から来た、クレナイ第3軍第1小隊隊長のツムギだ。貴様達の頭領、賊王アサガオにお会いしたい」


 イサメノミヤコ?かがり城じゃないのか?俺はずっとツムギはかがり城から来たとばかり思ってた。

 それにしても、「イサメノミヤコ」って、どういう漢字だろう?ミヤコは「都」だろう。イサメは「(いさめ)」と「(いさめ)」のどっちか?

 ...今後、場所の名称について深く考えない事にしよう。今知っている場所の名称が「天山(てんさん)城」と「かがり城」、そして今聞いた「いさめ()(みやこ)」、どっちも漢字に変換できる名前だったが、次にいきなり「イザベラ城」とかいう名前が出てきたら、俺絶対ツッコミを入れる。

 そんな「用意された」ボケに振り回されるなんて、絶対に嫌だ!俺が「振り回す」方!誰にも振り回されない!


 ...未だに「天山(てんさん)城」しか見た事がないのに、場所の名前を三つも知った。俺、既に振り回されている?


 女盗賊「な、何故都の人間が姉御に会いたいんだ?あたしら、もう悪事をしないと...」

 ツムギ「降伏命令だ!『天山(てんさん)城』城主ムナカタのご令嬢が『蜜蜂山賊団』に温情を賜った。従って、私の小隊は今回の『賊討伐』を『餓狼山賊団』のみに的絞る事にする。『蜜蜂山賊団』は直ちに投降し、クレナイ第3軍の指揮下におく事を命令する。もし逆らえば、現場指揮官として、『投降の意思がない』と判断し、再び『賊』として見定める」

 女盗賊「あっ...えっ?」

 ツムギ「急ぎ道を()け!」

 女盗賊「っ!」


 ツムギの声を聞き、女盗賊達はそそくさと散らばり、一際大きいなテントまでの道を開けた。


 強引!偉そうに!

 ってか、本当に俺抜きで話が進んでいく。この世界での会話の無意味さを思い知るイベントだ。


 ツムギ「一戦交わると思ったが、本当に改心したようだ」

 俺「腑抜けてるとも言う」

 ツムギ「お前は...本当、口を開けば碌な事を言わないね。先程のように静かにしててくれない?」

 俺「...ふーん」


 油断して喋ってしまったが、「喋るな」と言われると、逆にもっと喋りたくなる。

 しか~し!俺はそんな罠に落ちないぞ!絶対っ、「ふーん」以外っ、喋ったりしないからなっ!



 +×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


 大きいテントに入ると、中には「女盗賊アサガオ」以外、一人学者っぽい格好した男もいた。二人とも机に向かっていて、俺達が入った事に対し男は視線を一度こっちに向けただけ、女盗賊アサガオは顔も上げなかった。

 どうやら、「女盗賊」アサガオちゃんは学問に目覚めたらしい。このテントの中で一番体が大きいのに、小さな文字を丁寧に紙に書き込んでいる、実に奇妙な光景だ。


 ツムギ「貴殿が『賊王アサガオ』か?」

 アサガオ「...もう、『賊』を辞めてるから、ただの『アサガオ』だ」


 ツムギに返事しながら、頭を上げるアサガオ。すぐにツムギの少し後ろにいる俺に気づいたようで、俺を凝視した。

 口をパクパクして、体も震い始めて、そして、俺と目が合って...


 アサガオ「ぅああああああああああ!」


 ...発狂した。

 俺から隠れようとしたのか、アサガオちゃんは右往左往と必死にその大きい体が隠れる場所を探した。

 しかし、見つからず。最後は自棄になったのか、現実から自分自身を騙そうとしたのか、テントの隅っこに身体を縮めた。


 ツムギ「お前、ホント何をしたんだ、彼女に」


 ツムギからの呆れ顔。

 心外だ。


 俺「何もしていねぇよ」


 俺に背を向けたアサガオ、俺は一歩ずつ、近寄る。


 俺「なぁ、アサガオちゃんよ、俺はお前に何をしたのかよ?」


 一歩。


 俺「妹を...血の繋がった双子の妹を、殺したお前に...俺は何をしたのかよ!」


 更に一歩。


 俺「なぁ!返事しろ!」


 大声、怒鳴る!


 俺「お前の『罪』に、俺は何か『罰』を下したのか!あぁ?」

 カエデ「アマクモ様」


 腕を掴まれた。

 か弱くて、震えている両手に、腕を掴まれた。

 それを振り解くのはとても簡単だが、しなかった。


 俺「...分かってる」


 自分の腕を掴む手に、自分の手を重ねる。

 それだけで、俺の腕を掴む両手の震えが止まった。


 はぁ...

 どうやら俺は、またも情けなく、己の感情を制御しきれなかった。

 いや、しなかった。しようとも思わなかった。

 嫌いなキャラクターに対して、「嫌い」という感情を隠す必要がないから、しなかった。


 俺「悪い、カエデ、俺は外に出る。お前は?」

 カエデ「わ、わたくしは...」

 俺「決められないなら、ここで女騎士様の手伝いしてやれ」


 そして、ツムギちゃんに顔を向ける。


 俺「いいよな、ツムギちゃん?」

 ツムギ「えっ?あぁ、それは助かるけど...何か事情があるみたいだが、また後で話そう。私に対しての『ちゃん付け』呼びも、なんだか...」

 俺「なに?何か質問、ある?」

 ツムギ「いや、今はいい」

 俺「そっ」


 俺の腕を掴むカエデの手を外して、一人でテントの外に出た。



 +×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


 あぁぁぁ、タバコ吸いてぇ...

 もう、とっくの昔に辞めた筈なのに、今すげぇ吸いてぇぇぇ...

 ......

 今回のイベント、本当に「俺抜き」で進んでいる。「積極的に関わりたい?」と訊かれたら、「いや、別に」と返事できるだろうが、正直「傍観者」という役割は好きじゃない。何かのアクションに、必ず俺が関わっていなければ、楽しくないからな!

 だが、今回、なぁ...あのアサガオちゃんが絡んでるイベント...冷静な自分になりたくない。


 どの世界でも、別に意図的に設定しなくても、どの生物も「血の繋がり」を重視する傾向がある。特に「人間」という生き物は他の生き物よりも、圧倒的に大事にする。

 冷静さを捨てた「狂戦士状態」とはいえ、この「血の繋がり」が最も濃い「双子」、その片割れが対となるもう一方の片割れを殺した。

 ...最も重い「罪」をアサガオが犯した!


 俺「あぁぁぁ、タバコ吸いてぇ...」


 何も敷いていない汚い地面に尻を着け、そして、仰向けになって横たわった。

 くそっ!アサガオちゃん一人の所為で、ゲームオーバーしたくなった。


 ???「やっとお会いする事が出来ました、主よ」


 何処からか、色っぽい声が耳に流れてきた。

 でも、構う気力が湧かなかったので、目を閉じて寝る事にした。


 ???「主よ、忠誠の口付けをお許しください」

 俺「ん!?」


 変なことが聞こえて慌てて目を開くと、知らない女の顔が迫ってきた。

 そして、暗転...次に目に入ったのは俺に手を伸ばしてくる綺麗な知らない女の人と、その人を裸絞めをするツムギと、俺の顔をベタベタと触るカエデの三人だ。


 カエデ「アマクモ様!大丈夫ですか?返事をしてください!」

 俺「ほえ...」


 何かがあったのか?


 カエデ「ショックで言葉を忘れています。お可哀そうに、アマクモ様」

 俺「いや、忘れてないか...」


 何かあったのかが分からないってことは...十八禁的な何かが起きていたのか。しかも、規制される程のシーン。


 ???「(しゅ)よ!どうか私にお情けを」

 ツムギ「聖女候補!お前は清らかでいなければならない聖女候補!」


 ツムギちゃんが巫女装束の痴女を必死に止めている。

 止められている女が俺に手を伸ばしてくる...綺麗で巫女装束なのに、痴女だ。

 ってか、俺はこんな卑猥な世界を頼んでないんだが?


 俺「どちら様、ですか?」


 個性的過ぎるユニークNPCの出現によって、俺はうっかり弱気になってしまった。

 まただ。この世界は俺が出会うをする前に、出会いをぶつけてくる。


 ???「私の事をお知りになるのですか?光栄至極!」


 巫女装束の女は両手を合わせて、俺に向かって膝を曲げる。


 ???「我等の(しゅ)よ、祈りを捧げし下賤の身である私の洗礼名はマリア、神子を預かりし者でございます」

 俺「フーン。巫女なのに、クリスチャンなんだ」


 時代設定と地域設定はちゃんとすべきだった。

 しかし、MPを使って回復な見た目だから、後々重宝するキャラかも。


 俺「ええっと、お尋ねしますか、マリアさん。ご職業は何でございましょうか?」

 リリー「あ、えっと!ご丁寧なお言葉、誠に感謝?いいえ、感激でございます。私はマドンナリリー、職業は神女(しんじょ)見習いです」


 神女?巫女でも修道女でもないのか。

 マドンナリリー、少し化けの皮が剥がれたな。でも、このくらいはまだ可愛いか。


 俺「じゃ、リリーちゃん、俺の仲間になりたいって事?」

 リリー「神子を授かってくださるのですか!?」


 そう言って、リリーは立ち上がって、俺に向かって走ってきた。

 暗転。

 次に目に入ったのは俺を触るカエデと、ツムギがリリーを裸絞めするという、さっきと同じ光景だった。


 カエデ「アマクモ様ぁ、ぅぅ。正気に戻って来てください」

 俺「......」


 また規制された...だめだ、この女、早いうちに世から退場してもらおう。


 俺「リリーさん、レベルがおいくつ?」

 リリー「あい、24れす」

 俺「...差があるな」


 返り討ちにされかねない。まずは普通に遠ざけてみよう。


 女盗賊「敵襲!餓狼が襲ってきやがった!」

 ツムギ「タイミング最悪だ。」


 なんかのイベントが発生した。たぶん、これはシナリオ通りで、リリーさんの出現は本ルートと関係のない「横道」だろう。


 俺「あ、タイヘンだ!ハヤクニゲナイト」

 ツムギ「莫迦な。味方になった人間を見捨てられない!」


 レベルが十倍も下がったツムギちゃんが門の方へ駆けて行った。頭の悪い選択だ。


 カエデ「アマクモ様、わたくし達はこれからどうしましょう?」

 俺「ん...俺だけだったら、簡単に決められたったんだけど」


 ツムギといかにもボスっぽい敵が山の広場で「イベント立ち」しているが、出口の門に誰もいない。またもルート分岐だ。

 お荷物のカエデが邪魔だ。でも、カエデの為に出口に行くのは癪だ。


 俺「ツムギちゃんが時間稼ぎをしているうち、経験値を稼ごう」

 カエデ「それは...」

 リリー「無力の私達をお救い下さるのですか!心優しい我が主よ」

 俺「近寄るな、変態!」


 俺に近寄ろうとする巫女シスターに剣先を向けた。


 リリー「あっ!恐れ多くも、また主に触れようとして、すみません。でも、必ず主と天使様のお役に立ちますから、私もお使いください」

 俺「天使?」

 リリー「みすぼらしい恰好をしていますが、主の側におられるお方が天使じゃない筈がありません」

 カエデ「え、わたくし?」


 俺が「主」などというものではないが、カエデが天使というのはあるかもしれない、経験済みだけど。


 俺「お前、ホントか?言っとくけど、お前は俺に近寄っちゃうダメだぞ」

 リリー「...許しを得るまで、主に触れません。ただ、私をお傍にいさせてくれるだけで充分です」


 この女は何で俺を彼女の(しゅ)だと思ったのかは分からないが、丁度いいレベルのお仲間になってくれるのなら、願ったり叶ったりだ。前衛が俺一人、後衛が二人になったけど、そのうち、また前衛のお仲間と出会うだろう。


 俺「分かった、リリー、俺についてこい。カエデ、その女を俺に近づけさせるな」

 リリー「有がタキ幸せ!」

 カエデ「ぅぅ、ん...」


 一先ず、周りの女盗賊達の手助けをしよう。



 +×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


 面白い事に、攻めてきた男盗賊一人を倒す都度、広場の様子が変わっていく。ツムギちゃんの体に少しずつ傷が増えていき、彼女の周りの女盗賊達も減っていく。

 俺がレベルアップの為に敵を倒す数によって、ツムギちゃんのピンチ度が変わるみたいだ。


 俺「レベルか、ツムギちゃんか」

 カエデ「アマクモ様、ツムギ様が...」

 リリー「主よ、あなた様のお考えをお聞かせください」


 仲間二人の警告頻度もどんどん増えていく。うるさい。


 俺「ツムギちゃんの為に、他の人間を見殺しか?カエデちゃんも随分変わったな」

 カエデ「その...すみません」


 人の命を大事にすると宣う人間でも、自分にとって親しい人を優先してしまう。そういう矛盾が一番好きだ。


 男盗賊A「いひひ、女を犯す!女を犯す!」

 男盗賊B「ヤリまくれ!」


 男と女が戦争を始めたと設定したけど、ヤリまくりの世界に設定してない筈だ...ちょっとこの世界が嫌になった。

 ......


 結局、俺はツムギちゃんが盗賊達にエロい面でヤられるまで、レベルアップに励んだ。

 しかも、俺とカエデはレベルが15を超えて、転職できるようになった。


 俺「カエデが薬屋か。適性があると思ったが、すごいな、お前は」

 カエデ「ありがとう、ございます、アマクモ様。アマクモ様は何になりました?」

 俺「ふふ、隠したら逆に面白くないから、教えてあげよう。奴隷商だ」

 カエデ「奴隷、商!?」


 自分に絶対服従する人が二人以上側にいると選べる職業、奴隷商。「自分に絶対服従」という条件がかなり難しいと俺は思うから、折角なので、奴隷商になってみた。

 絶対服従、か...カエデはともかく、出会って半日もないリリーもか?カエデにも警戒させてもらってるが、余計だったのか?


 リリー「全ての人間は(しゅ)のしもべ。我が主にぴったりな職業だと思います」

 カエデ「あっ、でも...いいえ」


 初対面の人に必ず口数が少なくなるカエデ、娘の成長を育成する世界を思い出す。

 お、アサガオもヤられてる。もう気絶しているみたいだが、実は死んでないか?


 俺「ツムギちゃんに死なれたら、たぶん強制終了だろう」


 まだツムギちゃんが息をしているうちに、俺は広場のイベント範囲に立ち入った。


 男盗賊ハノカゲ「ん?奴隷商か。さすが、鼻が良いな」

 俺「へー、職業によって、反応が変わるんだ」


 ツムギちゃんは俺が戦士だと見抜けなかったのに。


 俺「散った花の香りに誘われてきた。まだ生きてるのか?」

 男盗賊ハノカゲ「あぁ、アサガオって女盗賊はまだ生きている」


 ちっ、アサガオは死んでないのかよ。


 男盗賊ハノカゲ「しかし、苦労して戦った俺の部下達もお前にかなりやられたな。安い値段で済ます気ないよな?」

 俺「いや、あの女はいらない。今ヤッてる方をくれ」

 男盗賊ハノカゲ「都からの女か...」


 男盗賊はツムギちゃんを放して、他の盗賊達に渡した。


 男盗賊ハノカゲ「アレはダメだ、危険すぎる。ここで息の根を止めないとだめだ」

 俺「レベルが高いから?」

 男盗賊ハノカゲ「分かってるじゃないか。何故かはわからないが、レベル下げの薬を飲んでいるようだ。でも、明日にでも...」

 俺「やっぱ王国が怖いか?情けない反逆者だな」

 男盗賊ハノカゲ「これでも知性派を気取ってんだよ、俺は。職業は斧盗賊だか」


 む、こいつは意外と優秀なキャラか?


 俺「なぁ、ハノカゲさん。俺の仲間にならないか?」

 男盗賊ハノカゲ「...ふん!お前が俺を誘うのか?力の差は分かってんのか?」

 俺「だろうな」

 男盗賊ハノカゲ「いや、逆に受けようじゃないか。お前の女をくれれば、な」


 お、まさかの分岐だ。選択によっては、この男盗賊を仲間にできるのか。


 カエデ「アマクモ様...」

 リリー「主よ、私達をお導き下さい」

 俺「ふーん」


 そもそも、これは俺が選べられる選択か。たぶん、違うな。


 俺「どっちが欲しい?」

 男盗賊ハノカゲ「ほー、中々の下衆だな。なら、友情の証として、安い方で妥協してあげよう」

 俺「安い方...?」

 男盗賊ハノカゲ「今お前にしがみついている方だ」

 カエデ「うそ...アマクモ様!?」


 カエデか。

 渡すかどうかを選べるが、誰かを選べないか。


 俺「男盗賊ハノカゲ...選択を間違えたな!」

 男盗賊達「え、きゃああああ!」


 俺はツムギちゃんに囲む盗賊達に「横切一閃(よこぎりいっせん)」し、立っている盗賊達を切り殺した。


 俺「安くない方を選ぶべきだったな!」

 カエデ「アマクモ様!」

 リリー「......」


 大分レベルが上がったが、果たしてボス敵に勝てるのだろうか。

 けど、アサガオとユウガオ姉妹の時も何とかなったから、いざとなったら、なんかイベントが発生するだろう。


 男盗賊ハノカゲ「連戦か...時間かけ過ぎだ」


 ハノカゲは逃げ出した。

 男盗賊達が現れた。


 男盗賊A「イかせねぇよ、げへへへ!」

 男盗賊B「死に晒せ!」


 あれ?


 カエデ「気づけ薬、ツムギ様!」

 ツムギ「くっ、酷い様...」


 ツムギちゃんが参戦した。

 あれ?


 カエデ「ツムギ様、助力が間に合わなくてすみません。一先ず、これを羽織ってください」


 カエデはツムギちゃんにボロ服を渡した。

 あれは、もしかして、カエデが最初に羽織っていたあのボロ服か?


 カエデ「まともな服がなくて、申し訳ありません」

 ツムギ「ありがとう、カエデさん...王都の騎士がこのくらいの事で、めげてはいけない」

 リリー「『癒しの呪い』」

 ツムギ「聖女候補殿、助けてくださり、ありがとうございます」

 リリー「全てが神の思し召し」


 どうやら、正規ルートに沿った選択のようだ。たぶん、一番正しいのはツムギちゃんが襲われる前に助けに入る事だが、ツムギちゃんの好感度を必死に稼ぎたくない。

 そして、今のツムギちゃんは服を着たと思うから、もう目を向けてもモザイクはないだろう。


 俺「うわ、酷い様だ」


 服着ているが、薄着で煽情的だ。その上に、ねばねばした白い何かが付いている。


 俺「時間稼ぎ、ご苦労だった、ツムギちゃん。酷い匂いするから、どっか行け」

 ツムギ「貴様...協力に感謝するが、無様に下がる訳にはいけん」

 俺「臭いけど」

 ツムギ「うるさい!」


 俺を睨むツムギちゃん、なんかイヌみたいだ。

 一応、これで前衛二人後衛二人だが、ボロボロのツムギちゃんはちゃんと戦えるのか?


 ツムギ「クソ、私の装備を持って行きやがった!」

 俺「追い剥ぎは盗賊の基本スキルだよな」


 幸い、ボス戦の筈のボスが逃げていたから、ツムギちゃんを守りながらも勝てるかも。

 え?ってことは、俺はカエデ、ツムギちゃん、リリーさんの三人を守りながら戦えないといけないのか?仲間を復活させたカエデはいい事をしたと思ったが、実は戦いの難易度を上げたのでは?


 俺「ツムギちゃん、後でお前を剥いた奴の話を聞かせろ。そうすれば、頑張ってやるよ」

 ツムギ「...分かった。協力してくれ、アマクモイズル」


 俺はツムギちゃんを加えた四人チームで、襲ってくる男盗賊達に立ち向かった。



 +×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


 凄惨な戦いだった、たぶん。


 カエデ「アマクモ様、アマクモ様...」


 戦い終わった後、カエデはずっと俺の体に薬を塗り続けている。

 砦にある水晶玉でステータスを確認したところ、どうやら俺は「負傷」状態に陥っているようだ。負傷状態だったら、宿屋で睡眠取るだけでは治らないらしく、ちゃんとした医者に診てもらう必要らしい。それで、薬師のカエデが必死になって俺の怪我を治そうとしている。

 薬師程度では「負傷」を治せないのに、無駄な事を...


 俺「ツムギちゃん、さっきの話を続けようか。何であの男、レベル20にも満たない俺達が参戦しただけで逃げた?雑魚だった?」

 ツムギ「あの男は...アレは非常に慎重深い男だ。だから、未だに捕まらない、都の大犯罪者だ」

 俺「何したの?あ、山賊だから、犯罪者だ」

 ツムギ「大犯罪者だ!次期王位継承者の姫様を誘拐した男だ」

 カエデ「え!?」

 リリー「姫様を!?」


 王位継承者が姫様...って事は、女側の王国か。

 その姫様、カエデだったりして?その場合はカエデ関係のシナリオになる。


 ツムギ「一度天山城に戻ろう、早くイバラ様に報告しなくては。折角降伏してくれたこの山賊団も、首領が今の状態では...」


 散々男盗賊達にヤられた女盗賊アサガオが復讐に闘志を燃やすことなく、情けなくテントに引きこもった。妹殺しの時の狂気、どこにいった?

 天山城に戻る、それも一つの結末だろう。けど、あからさまに地面に残ってる足跡が俺に男盗賊達のアジトを教えている。それを見逃せない。


 俺「あの男を追ってみよう」

 ツムギ「は?」

 カエデ「あ、アマクモ様!?」

 俺「カエデ、お前は邪魔だから、ツムギちゃんと戻れ。そしてリリー、お前は一緒に来てくれる?」

 リリー「っ!あぁ、我が主よ、私を受け入れてくださるのですか?」

 俺「淫らの行為は禁止だ」

 リリー「あぁ、我が主はやはり高潔であらせられます。分かりました。私は決して私個人の考えで動いたりしません。我が主の思し召しに」


 カエデとの二人旅が終わり、俺は新しい仲間と次の旅を始めた。

 負傷状態だと、全てのステータスが20%ダウンになるが、途中で回復の泉とかがあると良いんだか。


 カエデ「嫌です!」


 カエデの叫び声が聞こえた。

 そして、視界が暗転した。

ハノカゲ:刃影

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