表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

2話 プリンセス...「城主の娘」は職業じゃない

 騒がしい酒場の中で、一際静かなテーブルを選んで座った。四角に並べた椅子に主催者ちゃん・俺・女剣士ちゃん・カエテで一人ずつ座ると、最後のカエデは椅子をずらし、俺の隣に寄ってきた。

 俺の正面に女剣士ツムギが座っている。俺の側に寄ったカエテを見ると、理不尽に俺を一回睨んだ。

 俺は何も悪い事をしていないのに...


 イバラ「さる筋から聞いた話だが、お隣の山賊方の片方が少し前に活動中止したらしい」


 全員が座ると、すぐに主催者ちゃんことムナカタ・イバラが本題に入る。城主の娘だからか、「治安維持」の話をするつもり「らしい」。


 ツムギ「片方?二つあるということですか?」

 イバラ「ムギは暫く都暮らしだからね、知らなかったでしょう」

 ツムギ「ツムギです。最近できた『盗賊団』を討伐する為にここへ参りましたが、数までは確認していません」

 イバラ「実は、昔からずっとあった山賊団が一つで、少し前にできた山賊団が一つ。しかも、昔からあった方は女性が主体で、最近の方は男性が主体だ。それを纏めて『盗賊団』と名付たのでしょうね、都の『御偉い方々』が。で、話を戻すけど、昔の方の山賊団が今は活動中止になってて、最近の方が活躍し始めたようだ」

 俺「へ~」


 よく考えてみると、「山賊」と「盗賊」は全然違うものなんだ。「盗賊」は「盗む」ことを優先する基本「団」を組まない「ワンマン職業」だ。それに比べて、「山賊」は山に住む「賊」だから、「盗む」よりも「奪う」ことを優先する「組織団体」だ。

 だけど、ユウガオの職業は「盗賊」だ、「山賊」ではない。どうして?単純に「山賊」という職業がないだけかな?

 それにしても、主催者ちゃんの言葉遣いは面白いね。「活動中止」って、学校の部活活動かってんの。


 イバラ「で、で、ってさ、そのさる筋の話によると、『活動中止』の理由が『仲間割れ』らしいのよ。二人の頭の中の一人がもう一人を殺したそうだよ」

 カエテ「え、それって...」


 カエテは俺を突く。痛くないがうざい。


 イバラ「でも、でもでも、それだけじゃないらしいのよ!なんか、男トラブルらしいよ。あ、二人は姉妹で、同じ男を好きになったらしい」

 ツムギ「イバラ...相変わらず、そういう話好きよね」

 イバラ「ムギだって、昔よく話してたんじゃん!私だけのように言わないで」

 ツムギ「いや、それは...は!失礼しました、イバラ様」

 イバラ「もう、『イバラ』だって」


 この二人は幼馴染のようだ。仲が良いのはよろしい事だが、さっさと話を進めて欲しい...と思わなくもない俺がいる。


 イバラ「はぁ...では、本題に入るね、冒険者さん」

 俺「おう、何だ?」

 イバラ「貴方には見つけ出して欲しいのよ、その男。仲の良い姉妹を狂わせ、殺し合わせたその男を」

 俺「へ?」


 人探しミッション?一番めんどいヤツじゃないか!


 俺「何でその男を見つけたいんだ?見つけてどうするというのだ?」

 イバラ「だって、気になるじゃん!一体どれ程のイケメンなのだろうなと。母性をそそられる少年なのか、愛を強要するサディストなのか、人生経験豊富な老紳士なのか...夢が広がるぅ!」

 俺「その男を自分の物にしたいのか?」

 イバラ「そういう訳でもない。ただ一目が見たいだけ。報酬はたっぷりあるよ」

 俺「報酬ね...」


 痛っ!

 脇がカエテに突かれた。


 カエテ「アマクモ様」

 俺「なに?今忙しいんだけど」

 カエテ「ちょっとお話...」


 そう言って、カエテは俺の袖を掴んで、人目の少ない暗い場所に指を差す。


 俺「俺以外とも喋れるように練習したら?」

 カエテ「その、他の人に聞かれたくない話なのです」

 俺「トイレ?」

 カエテ「ちがっ」


 大声を出しそうになったカエテは慌てて自分の口を塞いだ。その後、小声で俺に言う。


 カエテ「違います。アマクモ様に関する話なのです」


 イバラ「私達の事に気にしないで、彼女と一緒に向こうで話をしてきたら?」

 俺「そのまま帰っちゃうよ」

 イバラ「それならそれで構わない。それまでの『縁』と言うことで」

 俺「じゃ」


 カエテと一緒に別の騒がしい暗い場所に一時的に身を移した。


 カエテ「どうしましょう、アマクモ様。ムナカタ様が貴方様を見つけようとしています」

 俺「そうだな。たぶん彼女が見つけようとしているのは俺だ。『山賊』、『姉妹』、『片方が死んでいる』...間違いない、山賊・ハナバチ姉妹のことだろう」


 ユウガオ達と出会うまで、このイベントは発生しなかったんだろう。つまり、あの時の「話」の続きとなるイベント。逃したら、このシリーズのクエストはここで終わり、女盗賊アサガオはこの世界から正式に退場するだろう。

 まだ退場していないんだ。

 でも、確かに続きが気になる。


 カエテ「どうします?失礼ですが、勝手に帰りましょう?」

 俺「いや、俺はやる気だ」

 カエテ「どうして?まさか『自分だ』と名乗るつもり?」

 俺「まぁ、話の進み次第だな。戻るぞ」

 カエテ「えっ、えぇ」


 主催者ちゃんの所に戻る。


 ツムギ「理解できません!どうして私があの男と一緒に居なくちゃいけないのですか?」

 イバラ「ここまで拒むムギも珍しい。では、聞こうじゃないか。どうしてあの冒険者が嫌いだ?」

 ツムギ「ど、どうしても!兎に角、私は嫌です」

 イバラ「もう」


 幼馴染の二人が喧嘩している。何となく理由も分かる。


 イバラ「ごめん、冒険者さん。この話、なかった事にしましょ」

 俺「え、いきなり!?俺はもう受けるつもりだが」

 イバラ「ムギがムキになってるの。点が二つ足りないの」

 ツムギ「人の名前で遊ばないでください。『イラ』っとします」

 イバラ「なので、この話、なかった事にしましょ」

 俺「俺としては、『どうして女剣士ちゃんに決定権があるのか』が知りたいね。依頼を受けるのは俺だろ?彼女じゃないだろう?」

 ツムギ「そうです。こいつ一人に行かせて、死なせればいいんです!」

 俺「死ぬ?」


 人探しミッションじゃないのか?


 俺「そう言えば、依頼の中身を聞いていなかったな。俺に何をさせるんだ?」

 イバラ「貴方には女性山賊団の拠点にに忍び込んで、噂の男を助け出して、ここへ連れて来てほしい」

 俺「女性山賊団に『男』を行かせるのか?」

 イバラ「大丈夫!全員が女性という訳じゃない、男性もいる。その男性の中に紛れればばれない」

 俺「なるほど」


 この女、俺が何も知らないとても思ってるだろうな。「男性」って、あの山賊団の中の「奴隷」達のことだろ?


 イバラ「でもね、やっぱり一人じゃきついと思って、ムギに手伝ってもらおうと思ったの」

 ツムギ「嫌です」

 イバラ「ムギにはあの山賊団の一員に化けてもらおうと思ったの。実はムギ、『役者』になるのが夢だったの」

 ツムギ「子供の頃の話でしょう!今は剣に一筋です」

 俺「本人が嫌がっているのなら、俺一人が行けば良いだけだろ?」

 イバラ「貴方一人だと戻って来れないでしょう?ムギの力がなければ、送り損だよ」


 人を送り込んで損する?

 つまり、間諜を送ったが、逆に敵に捉えられて、しかも情報を吐かされて、目的がばれて、更に雇い主が城主の娘である事がばれて、町が襲われて、雇い主自身が襲われて...

 なるほど。俺でもその負の連鎖は嫌だな。理解できる。


 イバラ「でも、まさかムギがここまで嫌がるとは...貴方、ムギに何がしたの?」

 俺「あぁ、実はむっ」


 む!剣先目の前に!


 ツムギ「喋るな」

 俺「はい...」


 怖いよ!この女剣士、物騒すぎるよ!

 別に、お化けとか怖くないよ!びっくり系が苦手なだけ。


 イバラ「そういう訳なので、依頼はキャンセル。ごめんね、他の人に頼むわ」

 俺「......」


 条件未達により、クエスト進行不可。

 あの時、俺が女剣士ツムギの胸を揉まなければ、俺達は普通に知り合い、このクエストも続くだろう。もしかしたら、ツムキちゃんは俺に好感を持つ可能性もあるだろう。

 しかし、俺は下らない実験の為に、彼女の胸を揉んだ。イベントの進行を自分の手で妨げた。せめてその胸の感触を味わえれば、全く「無駄」ということもなくなるが...これは「全年齢版」だ。


 カエテ「アマクモ様、帰りましょう」

 俺「カエテ...」

 カエテ「良かったじゃないですか?危険ですし、わたくし達では決して達成できない仕事ですわ」

 俺「......」


 このルートが消えたら、別ルートに進めばいい。「人生」は一回だけだが、「選択肢」は無限にある。

 変えよう!カエテと別ルートに進もう。


 俺「俺が、その男だ」

 イバラ・ツムギ「え?」


 やっぱ変えない事にする。


 カエテ「あ、アマクモ様!?」

 俺「山賊・ハナバチ姉妹の仲を裂いたのは俺。姉のアサガオが妹のユウガオを殺した理由は俺だ」


 俺は城主の娘、ムナカタ・イバラにそう告白した。



 +×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


 イバラ「驚きな告白~!」


 そう言ったイバラ嬢は反応が淡泊だ。


 イバラ「ん~、どう言えばいいでしょう?えっと、驚きと喜び、そして少しばかりの失望が入り混じった感情は...ん~」

 俺「言葉が見つからない場合は絶句すればいい。」

 イバラ「しかしね、貴方。私は貴方の勇気に好感を持てたよ、うん!よく恥ずかし気もなく今の嘘を付けたね。」

 俺「あっはっはっは!『嘘』か!」

 イバラ「だって貴方、特別に人を惹きつけるような...えっと、魅力というか、気質というか。そんなのないじゃない?なのに、自分が『仲の良い姉妹を仲違いにさせる』ような魅力的な人だと、言うじゃありませんか。うふふ、面白いわ。そんな見栄を張っても、貴方に得なんてないでしょう?」

 ツムギ「つくづくお前という人は...呆れるほどのダメ男だ。」


 やはり信じて貰えなかったか。それはそれでいい。俺は「信じて欲しい」と思っていないからな。


 俺「そんな俺に、先の依頼を任せたいと思うでしょう?」

 イバラ「うふふ、それはまた別の話よね。面白いからと貴方に依頼したら、私がバカみたいじゃない?」

 俺「バカなふりをするのが好きだと思ったけど、違うのか?」

 イバラ「そんな事、うふふ。誰だって、他人から賢いと思われたいのに、どうして私が『バカなふり』が好きなの?」

 俺「探すその人に、欠片ほどの興味も持ってないのに?」

 イバラ「......」


 イバラの表情が凍った。「うふふ」笑顔のまま、目だけ開いて、俺を見つめた。


 俺「いいね。ようやく俺を見てくれた。イバラちゃんの気を引こうとさっきからずっと頑張っていたのに、今ようやく、俺の事を見てくれたな。」

 イバラ「貴方は...」

 俺「別に目ぇ閉じてても話が進むのなら、俺はそれでもいいよ。お前がキツネ目キャラだとしても、俺は態度変えない。警戒とかしない、疑うも信じるも、なんもしない。」


 それによって変わる事が結構あるだろうか、楽しむ為にこの世界を作った俺にとって、それらは全部が「些細な事」だ。


 イバラ「つまり貴方...最初から私の『正体』に気づいているの?」

 俺「『正体』?そんなの気付ける訳ないだろうか。俺達は『初対面』だろう?『正体』も何も、まだ『他人同士』の俺達に、『正体の探り合い』が出来る程の()が、ない!」


 心地よい椅子に全体重を預けて、俺はイバラの方に頭傾けて、その目を見つめ返した。

 パチパチと、視線と視線がぶつかり、火花を散らしているような音が...する筈ない!漫画の世界じゃあるまいし。

 この世界では、そう...目の色が変わる。

 イバラちゃんの今の目の色は微かに赤くなっている。微妙に怒っているが、冷静さを失くすほどに怒っていない状態だ。


 ツムギ「イバラ。私は二人の会話についていけないが、イバラがこの男を危険視してる事なら分かる。心配なら私が何とかしようか?」

 イバラ「いいえ、ツムギ。今は動かないで。」

 俺「え、俺をどう処分するって話?混ぜて混ぜて、聞きたい!女二人がどんな陰険な殺し方で男を殺すのか、興味あり!」

 カエデ「あわあわっ。」


 カエデの慌てぶりが言葉になった。


 イバラ「うふ、やはり気に入りました、貴方!」


 態度を一転して、イバラちゃんはまた「キツネ目ちゃん」に戻った。


 イバラ「ん~、アマクモさん?ですよね。」

 俺「そう自称してまーす。」

 イバラ「では、改めて依頼いたしますわ。いいえ、依頼内容を変えますわ。今現在も『餓狼山賊団』と睨み合っている『蜜蜂山賊団』、その頭領のハナバチ・アサガオと交渉し、懐柔してきてください。」

 俺「ふーん、あの女を『懐柔』か。」


 難しそうだし、そもそもしたくない。


 俺「ってか、『蜜蜂山賊団』って名前かよ、女の子らしい~。」

 イバラ「知りませんでした?」

 俺「興味がなかったから。わざわざ名前まで付けて、己を『山賊』と認識する。つまり最初から自分達が『悪』だと認めているって事だな。」

 イバラ「そこまで深く考えているかどうかは知りません。山賊なんて人達は大体、頭悪いでしょう?善悪とか、考えてなさそう。」

 俺「あ、それ!やっぱりそれがいい!」

 イバラ「ん?」

 俺「お前の喋り方だよ、イバラちゃん。急に敬語を使い始めたから、気持ち悪くて。お前はやっぱり先のような『人を見下している』喋り方が似合っている。」

 ツムギ「気安く『ちゃん』付けて呼ぶな、下郎!」


 またもツムギちゃんの剣が俺の喉に...だから、怖いって!


 イバラ「私が『人を見下している』?」

 俺「気づいてないのか?」

 イバラ「ん~、どうでしょう?自分で意識してしてないけど、見下しているかもね。見下されたいの?」

 俺「いや。他人を見下しているお前を見下すのが好きなだけだ。」

 ツムギ「城主の娘に失礼な言葉使いをするな、下郎!」

 俺「お前だって、俺を『下郎』呼びしてんじゃん!お互い様だ。」

 ツムギ「立場をわきまえろ、下郎!目上の人に敬称付けるのは当たり前の礼儀作法!それすら...」

 イバラ「ねぇ、ムギ。彼を『下郎』と呼ばないでくれない?」

 ツムギ「イバラ!?」


 まさか自分が先に叱られるとは露程思ってなかったようで、ツムギちゃんが目を大きく見開いて、イバラちゃんを見つめた。


 イバラ「アマクモ様は私達が知ってる『常識人』とかけ離れているようだよ。だからムギが幾ら怒ろうか、彼に剣先を向けようか、アマクモ様は自分自身を変えないのでしょう。」

 俺「『常識人』のつもりだよ、俺。」

 イバラ「ねっ、ムギ。それに、私たちだって、昔は...」

 ツムギ「...そうだね。」


 ツムギちゃんがようやく剣を鞘に戻した。

 ...怖かった!「殺すぞ」という態度を見せながら、全く殺しに掛かって来ないってのも、剣先を向けられた方にとってかなりのストレスのようだ。「いっそ殺して」って思ってしまった。


 ツムギ「ですか、イバラ様、この男が本当にあの姉妹を仲違いさせるような男とはとても思えませんし。仮にそうだとしても、ハナバチ・アサガオを懐柔できるとも思えません。やはり諦めて、両方を討伐した方が...」

 イバラ「またそんな物騒な事を...『役者になりたい』って言ってた時のムギが懐かしいわ。いつから人を殺す事ばかり考えるようになったの、ムギ?」

 ツムギ「私は別に...!他人に迷惑をかける『賊』に情けを掛ければ最悪、守るべき罪のない民を傷つける事になります。私はただ、己の責務を全うしたいだけです。」

 俺「あ~ベラベラベラベラ...」


 無駄に長い「説得シーン」に俺のリミットが、限度が...


 俺「なぁ、これ、省略してくれない?」

 ツムギ「...はぁ?」

 俺「どうせ、ツムギちゃんが説得されて、あの『甘蜜山賊団』とやらに俺と一緒に行くって流れだろう?長いって、話が。」

 ツムギ「貴様!人が葛藤してるのに...」

 俺「もう決めろ、ツムギちゃん。俺達と一緒に行くか、俺一人で行くか。どっちだ?」

 ツムギ「っ...」


 ツムギちゃんの顔が羅刹みたいな顔になった。

 怖くないぞ!全然、怖くないからな!


 カエデ「アマクモ様ぁ...」


 傍のカエデが何故か悲痛な声を出した。


 俺「なんだよ!言葉、間違ってねぇぞ!ツムギちゃんが行かないなら、お前も連れて行かないよ!危ないから」

 カエデ「アマクモ様ぁ...」


 このカエデ、最近「甘える」というスキルを身につけたらしい。ちょくちょく俺にそのスキルを使ってくる、MPゼロのくせに。


 カエデ「わたくし、役に立ちますから。立ちますから、置いて行かない下さい。」

 俺「うわー、鬱陶しいぞぉ、カエデちゃん。最近マジ鬱陶しいぞぉ、カエデちゃん。」


 これはもう完全に魔法攻撃じゃない?魅了魔法攻撃だよ!MPゼロのくせに。


 ツムギ「分かったよ、一緒に行くよ。」

 俺「ん?ようやく心が折れた?」

 ツムギ「『折れた』じゃない、『決めた』んだ!わざとでしょう、貴様?」

 俺「いや、たぶん俺の方が合ってるぞ。」


 嫌な人と一緒に旅するから、きっと「折れた」の方が心情的に合ってるだろう。


 イバラ「ムギは優しいねぇ。」

 ツムギ「...責務を全うしたいだけだ。」


 そして、パーティーが終わり、夜が更けてゆく。



 +×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×


 朝になって、俺達が「蜜山賊団」に向かって出発したが、なんと!俺とカエデ、そして女騎士ツムギの三人だけで行く事になった。


 俺「なぁ、ツムギちゃん。」

 ツムギ「『ちゃん』を付けて呼ぶな、下郎。」

 俺「ツムギちゃんって、部下、いるよね。何で俺達三人だけで行く事になってる?」

 ツムギ「今更の質問だね。今回の目的はあくまで『懐柔』だって事、覚えてる?」

 俺「覚えてるけどさ、三人だけで?ちょっと相手を舐めすぎじゃない?」

 ツムギ「大人数で行ったら逆に相手に警戒されて、話すらできなくなるでしょう?目的は『懐柔』、『戦闘』ではない。」

 俺「理に適ってると、とりあえず同意してやろう。ってないと話が進まない気がする。」


 人は、時には「妥協」も必要だ。


 俺「だからって、何で俺達三人だけなんた?」

 ツムギ「話が進まないのは貴様の所為ではなかろうか...」


 ツムギ女騎士ちゃんに呆れて物も言えないって顔をされた。


 ツムギ「大体、今回の私は『冒険者』として同行しているんだ。最大4人しか同時に戦えないのに、部下大人数を連れて来れないじゃないか。」

 俺「え、4人しか戦えない!?何で?」

 ツムギ「『冒険者』だからに決まってるじゃないか!最初に『冒険者』と言ったろうに!」

 俺「お前の職業は『騎士』だろう?馬は?」

 ツムギ「話飛ぶな、お前は...」


 眩暈を起こしたのか、女騎士ツムギちゃんが頭を押さえた。


 俺「え、まさか?今日がお前の『女の日』?」

 ツムギ「うがああああ!んな訳あるか!」


 いきなり吠えられた。

 まぁ、元気そうだな。「女の日」じゃないのか。


 ツムギ「あのねぇ、はぁ...私の今の職業は『剣士』だ。馬を連れてない。」

 俺「え、何?騎士やめたの?」

 ツムギ「やめてない!今は『剣士』を選択しただけだ!今回は『冒険者』だって、何回言わせる気だ?」


 あれ?話、噛み合ってないように思えるが、気のせいか?


 俺「ちょっと話、最初に戻るけど...」

 ツムギ「最初!?えっ!話を進ませる気あるの?」

 俺「いや、ツムギちゃん、キレるな、キレるな。どうも俺とお前、話噛み合ってないような気がする。」

 カエデ「あ、それはわたくしも思いました!」

 俺「...思っただけで、何とかしようと思わなかった、カエデちゃん?」

 カエデ「す、すみません。割り込んで良いかどうか...」


 恰好が普通になったけど、人見知りカエデは「人見知り」のままだ。


 俺「えっと、気になる事、一つずつ聞いていくよ。」

 ツムギ「もう、どうにでもなれよ...」

 俺「俺が最初に気になっているのは、『職業』だ。『職業』って、簡単に変えられるもの?」

 ツムギ「簡単ではないが、適性があって、レベルも十分だったら、適性に合う職業に切り替える事が出来る。ってか、これが最初の質問?三人云々とか、もういいの?」

 俺「なんかどうでもいいと思った、あの話。」

 ツムギ「自分から振っといて...」

 俺「『レベルが十分』って、つまり『転職』できるレベルって事だよな。最初は15で...」

 ツムギ「そして40、65と上がっていく。今のお前はまだ『冒険者』でしょう?レベル15まで上がれば、上位職の戦い全般の『戦士』になれる。適性があれば『剣士』とか、『馬術師』とかいう専門職も選べる。」

 俺「専門職?」

 ツムギ「お前はまだ15にもなってないのか。」

 俺「失礼な!今年18だ。」

 ツムギ「誰も歳の話をしてない!良いから、一々話を意味なく逸らすな。」


 そう言われても...「性格」というものは簡単に変えられるものじゃないので。


 ツムギ「レベルが15になったら、最初の『転職』が出来るようになる。その時に、なれる『職業』が自然と頭の中に浮かぶが、もしその中に『灰色の職業名』があったら、それは何かの条件が達成すればなれる職業で、『適性』に合わない職業はそもそも頭の中に浮かばない。」

 俺「まぁ、魔法使いがいきなり盾を持ってナイトになって欲しくないからな、俺は。」

 ツムギ「大体の人はその時、二つ以上の職業を任意に選ぶ事ができる。『灰色』になっている方は、そうだな...例えば『馬術師』、馬を所有していれば、選べるようになる。もちろん、今の職業を変えずにそのままでもいいが、別にメリットはない。迷ったら、とりあえず『戦士』を選べばいい。」

 俺「とりあえず『戦士』って言われても、俺は既に『戦士』だけど?」

 ツムギ「嘘っ!」


 ツムギちゃんが大袈裟に驚いて見せた。


 ツムギ「今のお前のレベルはどのくらい?」

 俺「10だけど。」

 ツムギ「10なら、まだ『戦士』を選べない筈だか。」

 俺「いや、俺は最初から『戦士』だ。レベル1の時から、ずっと『戦士』で、他を選べなかった。」

 ツムギ「そんな、いきなり『上位職』なんて、ありえない!『適性』がどれだけ高くても、最初から次の段階の職業になってる人はいない!」


 これは、もしかして言っちゃういけない「タブー」か?俺の「個人パラメータ」を「通常より少し上」と設定したから、「最初から戦士」がそれの反映で、基本は「冒険者」とかの「スタート職業」になる筈だと。

 そうなると、説明がややこしくなるなぁ。


 ツムギ「貴様!一体どういう方法でいきなり『戦士』になった?何かの薬とかを飲んだの?呪いとか受けたの?」

 俺「生まれつきだ。そうとしか言えない、俺自身も分からない事だ。」


 適当な嘘で誤魔化す。


 ツムギ「そ、そうか...そうだね。たぶん...きっとそうだと思う。」

 俺「あっさりと納得したな、おい!」

 ツムギ「世界は広い。今まで見た事がなかっただけで、今日からは『見た事がある』という事になる。それだけの事だ。」

 俺「お前の適応能力も高いな。ってさ、ツムギちゃん、何で『剣士』に転職した?」

 ツムギ「『騎士』は『軍職』だからだ。『冒険者』になるには冒険者が選べる職業に変えなければいけない。『剣士』を選んだのはただ単に私に『剣』を扱う適性があるからだ。『軍職』の時でも、私は『剣騎士』だ。」

 俺「なるほどねぇ。」


 15レベルになると、最初の「職業選択」ができるか。楽しみだな!


 俺「なぁ、カエデちゃん。君は何になりたい?」

 カエデ「え、わたくしですか?」

 俺「いつまでも『娘』のままで居たくないでしょう?何になりたい?」

 カエデ「『何になりたい』と聞かれても...自分の適性に合う職を選ぶしかないではありませんか。『何になりたい』とかはありません。『成れるものになる』としか...」


 ...あぁ、やっちゃったな。

 隠しパラメータ「適性(Fitness)」を入れた為、この世界の人達は「成れる者」にしか成れなくなってる。「何になりたい」とか、聞くべきじゃなかった。

 ちょっとの間、カエデに話し掛けないでおこう。


 俺「ツムギちゃん、続き、質問してもいい?」

 ツムギ「いきなり礼儀正しいね。何が狙いだ?」

 俺「お前を狙ってる...とか言わせたい訳?意地汚い自惚れ屋だなぁ。」

 ツムギ「...何でお前とパーティーを組んでしまったんだろう、私。もういいから、質問どうぞ。」

 俺「と言われても、特に思いつかないなぁ。」

 ツムギ「じゃ何で話し掛けてきたの、お前は!?」

 俺「じゃさ、とりあえず、お前のレベルを教えてくれ。」

 ツムギ「レベル?そんなことに興味あるの?」

 俺「『お前』にじゃなくて、『レベル』の方だよ、自惚れ屋。」

 ツムギ「私は『自惚れ屋』じゃない!一々気に障る男だな、貴様は!」

 俺「で?レベルは?」

 ツムギ「はぁ...183だ。」

 俺「ぷっ!」


 お茶を飲んでないのに、吹いた。


 俺「え?ちょ、ま!えぇ!?」


 183?レベルが?俺、一生懸命に浮浪者を殺しまくっても、まだレベル10だけど!?この世界って、レベル最大99じゃないの!?

 あ、そういえば、「上限なし」って設定してた!人間の分際で、どこまで上がれるかが知りたくて...


 俺「ちょ、これじゃ経験値得られなくない!?お前が傍にいると、こっちが幾ら人を殺しても、経験値入らなくない?」

 ツムギ「確かに、この辺では。私達の目的は『懐柔』だって、覚えてる?誰かと戦う必要はないでしょう?」

 俺「いや、経験値欲しいよ!それでも、序に経験値欲しいよ!このままだと、出会った人を殺しても、ただの『人殺し』じゃん!意味ないじゃん!意味なく人を殺さないよ、俺は!」


 誰か好き好んで、自分と同じ形の奴をただ切るだけ?切ったら、経験値が入るから、切るんだよ!


 俺「ちょ、お前はどっか行って!パーティーから追放だ!」

 ツムギ「はぁ!?貴様...私がどんな思いで、貴様の護衛役を引き受けたと思ってるんだよ!誰か好き好んで、貴様のような男と一緒にいたいと思う訳?」

 俺「だって、お前レベル高いじゃん!確かに三人...というか、お前一人で十分って感じがするか。俺は『ただ山賊団の所に行く』という時間の無駄なんて、したくないよ!もう、どっか行けよ、お前!」

 ツムギ「はぁ...あぁ、もう!何で貴様と一緒にいなきゃいけないだよ、もう!」


 ツムギちゃんは更に両手で頭抱えて、悶え始めた。

 と思ったら、何故か自分の肩当ての裏に手を入れて、何かを出して口に入れた。

 そして、飲み込んだ。


 俺「え、何それ?お前、何か飲んだ?」

 ツムギ「レベル下げの薬だ。」

 俺「はぁ!?」


 レベル下げの薬?何の為に?

 というか、何故そんな薬があるんだ?


 ツムギ「これで今日の間だけ、私のレベルは今のパーティーの他のメンバーの平均レベルより下回る。これなら、経験値も入るから、文句はないでしょう?」

 俺「いや、アホか、お前?何で自分のレベルを下げた訳?バカじゃん!」

 ツムギ「貴様が『経験値入らない』とぐちゃぐちゃ言うから、合わせてやったのに。何その言い草?誰かバカだ!」

 俺「だって、折角の183だろう?どれだけ苦労して183になったのは知らないけど、それを捨てだろう?」


 俺だって、たったのレベル10でも、結構一生懸命人を殺しまくってようやくだから、183まで上がるには「とんだ苦労だろう」くらいは想像もつく。

 それなのに、俺とカエデの為に、そのレベルを捨てたのか?


 ツムギ「捨てた訳じゃない。」

 俺「え?」

 ツムギ「『今日の間だけ』と言ったよ、私。今日の間、お前達の...あなた達のレベルより下回るし、レベルも上がらないが、経験値は入る。薬の効果が切れたら、レベルも元のままに戻るし、得た経験値はそのまま上乗せになれる。だから、『捨てた』訳じゃない。」

 俺「...そう?」


 わざわざ今までの苦労を捨てた訳じゃないのか。よかった。


 俺「マジでちょっと心配したよ、ったく」

 ツムギ「お前が私の心配、ねぇ。」


 苦笑いを見せるツムギちゃん。


 ツムギ「上昇志望があるなら、そのうち、お前もこの薬を頼るようになる。レベルが上がれば上がるほど、必要の経験値も増えていく事くらいは、理解してるよね。」

 俺「あぁ、まぁ...計算した事がある。」


 途中からはもう面倒くさくて、やめたけど。


 ツムギ「レベルが15を超えたら、お前もすぐ分かる事だが、レベル15以下の敵からの経験値が半減する。40になれば更に半減。そして、遂に1しか入れなくなった後、次の『転職ポイント』後、得る経験値が完全に0になる。」

 俺「へぇ~、そういう仕組みなんた。」


 高すぎると、経験値が入らないから、敢えて低いレベルに戻って、経験値だけでも稼ごうと、「レベル下げの薬」が作られたのだろう。

 人間の分際で、本当...どこまで上がるつもりだろう?


 ツムギ「分かってて、私を追放しようとしたじゃなかったのか?じゃ、何でさっき、私に『どっか行け』と言ったのよ?」

 俺「あー...勘?」

 ツムギ「...やっぱ、お前は嫌いだよ、私は。改めで理解した。」

 俺「俺は別にツムギちゃんが嫌いじゃないよ。揶揄って、すげぇ面白かった。」

 ツムギ「人を玩具扱いするな!」


 そして...気づくと...山賊団の門の前まで、来てしまった...


 俺「結局、エンカウントなかった!経験値なかった!お前の薬も、飲む意味なかった!」

 ツムギ「あぁ、もう!うるさい!さっさと門を開けるように、お願いしていけ!」


 そう言って、ツムギちゃんは俺の背中を押して、門の前に行かせた後、自分とカエデと一緒に、ちょっと離れた安全な場所まで下がった。

 あの女、俺の護衛役じゃなかったっけ?


 女盗賊「誰だ!名を名乗れ!」

 俺「...『山賊』のくせに。」


 未だに固有名称が女「盗賊」だよ!いい加減に「山賊」に修正しろや!システムエラーだろう?

 はぁ...とりあえず、交渉を始めるか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ