1話 デイム...怒らせるとマジで怖い
天山城に戻ってから何日が過ぎた。
この何日、俺はカエデを連れてダラダラと町をぶらつき、外に出ないことにした。お金が大分溜まっていたので生活には困っていない。住んでいた宿屋は安くて快適、特に困るようなことはない。
敢えて変わった事があるとしたら、俺はカエデと一緒の部屋に住まなくなった事くらいだ。
そして、今日も武器屋にウィンドショッピングで来たのだが...
女剣士「銅の剣しかないってどういうこと!?」
おやっさん「すまねぇ、嬢ちゃん。材料が切れてて作れねぇだよ」
女剣士「材料?何で切らす前に補充しなかったのだ?」
おやっさん「そりゃ...最近、この辺に新しい盗賊団が出来たじゃない?そいつらに仕入先とのルートを塞がれちゃってさぁ...」
女剣士「その盗賊団を討伐しに来たのだ。剣の修復が終わるまで『銅の剣』使って盗賊団とやり合うとても!?聞いた話では、その盗賊団に鉄製装備を提供した店主は貴殿らしいじゃないか。まさか、盗賊団と裏で繋がっているとか?」
おやっさん「人聞きの悪いことを言わねぇでくださいよ。大金に目が眩んで盗賊達に装備を売った事、わしも後悔しているよ。お陰でここ何日、銅製の装備しか作れず、売上がドンと落ちてるよ。でもよ、わしじゃなくても、商売人なら大口注文に逆らえねぇじゃねぇのか?」
女剣士「これだから商売人は...」
どうやら女剣士は諦めたようで、何も買わずに店から出ようとした。偶然にも店に入ろうとした俺と目が遭い、挨拶をしてきた。
女剣士「冒険者か。私は昨日からこの『天山城』に滞在する事になったクレナイ第3軍第1小隊隊長のツムギだ。此度の滞在はこの辺りを根城にした盗賊団の討伐の為。貴方もここに住む民人の為に力を貸したいと思っているなら、我が軍に来なさい。いつでも入隊を歓迎する」
引き締まった体に凛々しい目つき、気の強そうな女性だな。そして、スレンダーなのに巨乳の持ち主。高嶺の花だな。
俺「え、いきなりの勧誘?急すぎて返事に困るなぁ断る」
カエデ「アマクモ様!断っている、もう断っている!せめてもう少し考えてから返事をしましょうよ」
俺の後ろに隠れているカエデがツッコミを入れた。
俺「なら、お前が返事して来い」
カエデ「え!いや、わたくしは...」
カエデは身を縮め、声を小さくした。
残念なことに、カエデにかつての強引さが消え、「人見知り」に逆戻りしている。
女剣士ツムギ「無理強いはしない。ただ、もしその気があったら、来なさい。いつでも歓迎する。場所は東の方。目立っていると思うので、来ればすぐに分かる」
俺「女多い?」
女剣士ツムギ「むっ。確かに、全軍の中では女性率は高い。その中でも、私の隊は全員女性だ。それと人の為に力を振るう事と何か関係があるとても?」
ツムギちゃんの顔つきが少し険しくなって、目が微かに赤くなっていた。間違いなく怒っている。
俺「俺にとって関係あるな。実は...」
手をツムギの胸に伸ばす。
...暗転...
俺は自分の手を見つめている。そして、ツムギを見ると、彼女の顔が耳の先まで赤くなっていて、全身が震えている。
カエデ「アマクモ様、なんて事を...」
俺「女の乳房には魔力が篭められていて、常に男の手を誘っている――」
――そして、俺はエロイ事をしたらその間の記憶を失う。女だらけの場所は俺にとって危険――
俺「――だから、俺は断る」
敢えて一番肝心なところを省略した。さて、ツムギちゃんはどう動く?
女剣士ツムギ「それを説明する為に、私の胸を揉んだのか...?」
俺「分かり易いでしょう?」
女剣士ツムギ「殺す!」
ツムギは素早く右手を腰に添えた。
女剣士ツムギ「あ!」
俺「何か探し物?」
女剣士ツムギ「私の剣...」
なるほど、そこが彼女の武器の定位置か。習慣というものは恐ろしい。俺が彼女を殺そうと思っていたら、今の隙は絶対に逃さないだろう。
女剣士ツムギ「なにか、替れる物...あ!店主、銅の剣を売ってくれ!」
ツムギちゃんは財布を取り出して、受付のカウンターに叩き付けた。
おやっさん「え、どうしたんだい、嬢ちゃん?さっきまで『銅製なんて絶対に買わない』といったような感じなのに。どういう風の吹き回しだ?」
女剣士ツムギ「いいから、早く売ってくれ!」
おやっさん「そりゃ、売り上げが増えるのはとして助かるんだが...」
おやっさんが渋々と勘定をする。
よし、逃げよう。殺されるのを待つほど、俺も暇じゃないし...暇だけど。
俺「カエデ、走れ」
カエデ「え?あ...」
カエデの手を引っ張って走り出した。
カエデ「アマクモ様、どうして、先、あんなことをしたのですか?」
俺「ご乱心だ」
カエデ「ご、乱心?」
俺「驚いた?俺にもアホな事をする時はあるんだ」
カエデ「いいえ。驚いたのはアマクモ様の言葉使いです。それに、『ある』じゃなくて、『よく』アホな事をしますじゃなくて?」
俺「ふっ、言うね」
女剣士ツムギ「待てぃ!逃げるな!」
ツムギちゃんは鬼の形相で追いかけてくる。
俺「待ってやたら、どうするつもりだ?」
女剣士ツムギ「殺す!」
俺「じゃ、待たない。当たり前だろう?」
俺はさらに加速するが、カエデの足が俺に追いつけなくなりそうだ。
カエデ「あ、アマクモ様。ちょっと、待っ、て...」
俺「チッ、邪魔だ」
ツムギちゃんの狙いは俺だけなんだから、無理にカエデを連れて行かなくてもいいだろう。寧ろカエデを放した方が、俺も逃げられるし、カエデも一緒に狙われなくなる。だから――
俺「さよなら」
カエデ「アマクモ、様?」
都合よく柔らかそうな草束を見つけて、そこにカエデを突き飛ばした。
後で拾ってくるか。
女剣士ツムギ「待てぃ!絶対に逃がさない!」
予想通り、ツムギちゃんはカエデの傍を素通りして、俺だけを狙ってきた。心なしが、先より殺気が増えたような...
+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×
不味い事に、ツムギちゃんは素早さも体力も俺より高いようだ。
町を出て、海辺のような場所まで走って、ついに体力が限界に達したように、俺の足が急に止まった。そのすぐに、ツムギちゃんに追いつかれた。
俺「いや、これはイベントか。」
俺は「体力」のステータスを設定していないから、「体力が限界に...」ということはありえないんだ。
女剣士ツムギ「やっと、はぁはぁ、追いつい、た!」
俺「追いつかれた。イベントなら、しょうがないな」
剣を抜き、試しに女剣士ツムギちゃんを斬る。
女剣士ツムギ「ぐっ、随分と弱い攻撃を仕掛けてくるわね。それとも、それが全力か?」
HPが全く減らせなかった。
女剣士ツムギ「ハァア!」
攻撃を受けた。俺のHPが一気に三分の一まで減った。
ヤバイ!
俺「ポーション!」
鞄から回復薬を取り出して、HPを回復した。でも、満タンにはなれなかった。
女剣士ツムギ「もう一撃!」
HPが四分の一になった。
勝てない。このイベントを起動させるのが早かった。
このままでは死ぬ、すべてが終わる。
俺「はぁ。まだ死にたくないな」
命乞いをしよう。そう思って、俺は自然に土下座の体勢を取った。
俺「コロサナイデクダサイ」
女剣士ツムギ「は?」
膝が床につけている感覚は嫌だ、おでこが床に触れている感覚は嫌だ、目に床しか映らない状況は嫌だ。
棒読みしていることは自分でも分かる。戦闘が自然と終了したのは良いが、土下座していること自体が俺のプライドを傷つける。棒読みは今の俺の精一杯だ。
女剣士ツムギ「命乞いをするくらいなら、どうしてあんな事をしたのだ?」
俺「あんな事とは何の事だ?生憎、記憶はないんだ」
嘘を言っていない。記憶に残っていない事は確かだ。
女剣士ツムギ「惚けるつもり?私の、わ、私の、む、むむむむむ...」
なんた、乙女か。
俺「大声ではっきりと言いなさい!」
女剣士ツムギ「胸!あっ...」
胸か。やはりエロい事をして、それで記憶が規制されたんだな。
女剣士ツムギ「ぅぅぅ...やはり、殺す!」
俺「人の命を何だと思っているんだ?」
思ってもいない事を言った。
因みに、この世界の人の命なんて、俺はただの塵芥だと思っている。
女剣士ツムギ「なっ...」
俺「俺はお前の胸を揉んだ。そしてお前は俺の命を奪おうとしている。この二つは等価なのか?」
女剣士ツムギ「っ...そ、そんな事を言ったら、男が女のむ、胸を!揉んでも...勝手に揉んでも良いと、言うことになる...」
俺「だから土下座した。それでも、俺を殺すのか?」
女剣士ツムギ「だ、だって、貴様!が私を辱めた。その報いを...」
俺「そう」
土下座を止めて、猫のように両手を前に、一度体を伸ばして欠伸をした。
俺「じゃ、死ぬしかないな。もう少し生きていたかったな」
正座して、ツムギちゃんを見つめた。
今のツムギちゃんの顔から戸惑いが見える。初めて経験する事に戸惑っているように見える。
女剣士ツムギ「貴様、怖くないのか?」
俺「死ぬのが?いや、怖くないな。死にたくないだけだ」
女剣士ツムギ「切られた時も、全然痛い様子がなかった。痛くないのか?」
俺「あぁ、そうね。それはやせ我慢だ。実はめちゃくちゃに痛い」
嘘も方便...いや、面白くする為だ。
女剣士ツムギ「はぁ...」
ツムギちゃんは剣を納めた。戦闘終了した時点で、結果もう分かっているのに、彼女が剣を鞘に直すまでは随分と時間が掛かった。
女剣士ツムギ「二度と私の前に現れるな。次にあった時、必ず貴様を殺すから」
俺「その時のお前が俺を殺せると良いな」
女剣士ツムギ「調子に乗るな」
淡々と一言、そして去っていく女剣士ツムギちゃん。
俺も一度町に戻ろうか。
+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×
俺「戻っていない?」
女将「えぇ。いつも一緒じゃないのかね?」
俺「いつもじゃない。大分前に分かれたが、こっちに戻ってきていない?」
女将「そう言ってるじゃない。何度も同じことを聞くね」
と、ここまでが回想。俺はカエデが宿に帰っていると勝手に決め付けて、宿に戻ってカエデを探した。そして、帰っていなかった。なので、カエデを置き去りにした場所に戻って、カエデを探すことにした。
俺「いない」
意外と夜までに掛かってしまった。
路地裏の方を探そう。また知らない男に犯されていなければ良いんだけど。
ちょっと心配。
カエデ「あ、まくも、さま?」
俺「ん?そっちにいたのか」
路地裏にいた。しっかりと探さないと見つからないような暗いところに隠れていた。
俺「先に宿に帰れば良いのに。もしくは、自分一人で町内を廻るとか、色々できるのに。何でここに隠れているんだ?」
カエデ「アマクモ様!」
急に抱きつかれた!
カエデは全身を押し付けるように、まるで俺の体の中に入ろうとしているかのように俺に抱きついた。胸もくっ付かれているので、規制で記憶が飛ぶと思ったが、「規制」されなかった。
カエデ「アマクモ様、どこにも行かないで!どこにも...わたくしを一人にしないで!ふええ...」
俺「え、泣いてんのか?」
カエデと出合ってただの一ヶ月弱で、こんなに懐かれる筈がないと思っていた。
あ、いや、違うか。俺感覚で「一ヶ月弱」だが、実際は「三、四ヶ月」くらい経っているのか。
そうか。ちょっとの間に放置したら、泣き出すようになるのか。「勇気のある」女の子のはずなのに、意外と弱いな。
カエデ「男の人が、一杯で、ふえ...いや、男は嫌!一人にしないで!」
俺「えっと、俺も生物的に男なのだが...」
カエデ「ふえ、ふええええええ!」
俺「はぁ...」
犬を飼ってる気分だ。
カエデが落ちつくまで、頭を撫でてあげた。
+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×
俺「これは何?」
カエデと晩御飯を食べている時に、知らないメイドが俺に一枚の封筒を渡してきた。
メイドさん「我が主からの招待状です。是非、今度のパーティーに参加して欲しいとのことです」
俺「何で俺に?俺はパーティーが開かれること自体、知らないんだが...」
メイドさん「詳しいことは聞かされておりません。『具体的の話は当日に』との事ですので、入らしてくれれば、我が主自らお伝えするのでしょう」
俺「はぁ...」
メイドに話しかけられたこと自体はとても嬉しい事だが、何の理由もなく招待されるのはありえない話だ。自分の出身について特に弄った事はないので、今の俺は「一般人」の筈だ。
時期イベント?
それしかないだろう。
俺「わかった。当日に出席すると伝えといてくれ」
メイドさん「かしこまりました」
メイドがお辞儀をして、宿の食堂を出ていった。
これはどのようなイベントだろう。時間制限型?イベントポイント触発型?それとも、封筒を開けた瞬間に発動する条件達成型?
当日になって食事するだけじゃないだろうけど、何かのイベントの前イベントの可能性が高い。いきなり戦闘になる事もないだろう。
ま、いい。封筒を開けよう。
そう思って封筒開けて、中の手紙を出して読んでみたが、俺は文字が読めない事に今気付いた。
なるほど。俺が文字が読めるのなら、もし文の中に何か裏の情報が隠されていたら、俺はそれを読み取れるだろう。そうするといきなり世界の秘密を知ることになるとか、面白さが半減する可能性がある。だから、最初から俺を文字読めない人に設定されたのだろう。
この世界の生まれじゃない俺だ、ペナルティを負っておかないとな!
カエデ「アマクモ様、あのメイドさんと何の話をしたのです?」
俺「お前は今までどこに行ってたんだ?」
メイドが俺の所に来る前に、カエデが「すみません、ちょっと...」と言って、どこかに行った。それ自体は別におかしくないが、メイドが帰った途端に戻ってきて、しかもメイドの話をして来た。怪しさが凄い!
カエデ「ちょ、ちょっとお花を摘みに...」
俺「摘んだ花を見せろ」
カエデ「そ、それは、ちょっとここでは見せられないと言いますが、その...」
カエデの顔が微かに赤くなった。
これはいけない、ちょっとおかしな空気になった。
女性がトイレに行く際、他の何かを使って誤魔化すのが普通だ。それなのに、カエデは「トイレに行ってきました」と言った。それは逆に、「トイレに行った」よりも重要な何かを隠そうとしている、そうに違いない。
...実際は「お花を摘みに」だが、俺的には「トイレに行った」と同義だ...
カエデが隠そうとした事を聞き出そうと、俺は「摘んだ花を見せろ」とさらに詰め寄ってみたら、逆にカエデから「二人きりな場所でなら...」と反撃された。「規制」の所為で、今の俺はエロい事に抵抗力がない。エロい事で攻められたら、俺は降参するしかない。
成長したな、カエデ。出来れば、俺に対してだけ成長するのは止めて欲しい。
俺「メイドから封筒を渡された。この町で何がパーティーが開かれるらしい。ホイ」
カエデ「あ!」
俺はカエデに封筒を渡した。
カエデ「行きますか?」
俺「いや、俺は文字読めないんだ」
カエデ「はい...」
カエデは手紙を開いて、代わりにその中身を目に通した。
それだけで俺の目的が分かるとか、パシリ根性が付き始めているな。
カエデ「パーティー会場は天山城城下町内の一番広い酒場『野良犬会館』ですね。主催者は...城主の一人娘・ムナカタ イバラです。下々の人達を招待したいだそうです」
俺「そんな事を書いていたのか?」
カエデ「内容自体もっと堅苦しいものですけれど、恐らく代筆でしょう。あの人は『礼儀正しさ』という言葉の知らない人なので、原文はきっと『天山城内の名のある野良犬達、集え!弾けるパーティーに参加せよ』みたいなものです」
俺「名のある野良犬って...少なくとも、俺は『名のある』者なんだな」
カエデ「参加するのですか?」
俺「ちょっと覗いてくるだけ。時期は書いているのか?」
カエデ「書いていますが...参加するのなら、急いで準備しないといけませんわ。だって、時間は今夜9時ですから」
俺「あぁ...ん?今夜!?」
カエデ「はい。今夜9時です。後二時間弱です」
俺「いや、それはおかしいだろう?たった今、あのメイドから手紙を受け取ったばかりだ、焦りも何もない顔で!」
カエデ「あのメイドさん、有能そうに見えても、実はドジばかり踏むのですよ。有能そうに見せているだけ、仕事なんて大体失敗していますわ。役者の方が向いていますわ」
俺「マジ!?ってか、お前はあのメイドの何なんだ?知り合い?」
カエデ「え!?いいえ、いいえ!全然知り合いじゃありません!全然知らない人です!」
俺「あっそ」
隠したい事なんだ。
俺「まあいい。間に合わなかったらそれでいい。俺達のペースで行こう」
カエデ「良いんですか?城主の一人娘が開いたパーティーですよ?見初められてもしたら、一気にお金持ちになれますわ」
俺「お金持ちなんて、その内に必ずなるからいい。それに、俺は支配する方で、支配されるのは嫌いだ。見初められて付き纏われたら、逆に困る」
カエデ「そ、そうですか...」
食事を済ませよう。
パーティーでは食事も出るだろうが、空腹ゲージが満タンだ、味わえないだろう。
あのメイド、なんてタイミングで招待状を送ってくれるんだ!?
+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×
俺「ずっと我慢して言わないようにしていたが...気合入りすぎじゃないか?」
パーティー会場に着く手前に、俺は我慢できずにカエデに問いかけた。
長い時間を掛けて化粧をしたカエデが見違えるほどに醜くなった。
小悪魔の化粧で顔が殆ど真っ白、大胆に太ももを露出し、両肩も脇まで出している装束だ。逆に普段露出している両手が長い手袋、顔の下半分が黒い仮面を付けている。
清楚だったカエデがいなくなった。
俺「仮面を付けるくらいなら、何で顔全体を白くするんだ?」
カエデ「仮面がうっかり取れた時の為です!」
俺「あっそ」
自分の正体を隠すつもりの変装なら、実に見事だと言えるな。
俺「着いた」
人が溢れかえっている。一人一人に声を掛けたら、どのくらい時間が掛かるだろう?
主催者らしい人「みんな!私のパーティーに来てくれて、ありがとう!」
人々「うおおおおお!」
主催者らしい人「世間では私達をゴミ屑と蔑んでいるが、本当のゴミ屑は私達ではなく、偉そうに私達の上に立っている人達だ!違うか!」
人々「違わない!」
主催者らしい人「私の事を知っている人達なら、私がスラム出身だってのも分かるよな!いきなり跡継ぎだと言われて『お嬢様』と言うものになったが、それで私達を償ったつもり?償えないよな!」
人々「そうだそうだ!」
主催者らしい人「だけど金はくれるんだから、その金は使わない手はないよな!」
人々「おおおう!」
主催者らしい人「みんな!どんどん注文して、城主様の金を思い切り使おうぜ!」
人々「おおおう!」
パーティー?アイドルのステージ会場じゃないのか?もしくは宗教の集まり場?
一気にやる気なくなった。
男「ねぇねぇ、君。どこに住んでるの?遊びに行っても良い?」
カエデ「ひぃ」
男「あ、もしかしてお金取るタイプ?良いぞ、君なら払っても良いよ」
カエデ「アマクモ様ぁ...」
小悪魔姿のカエデが俺の背中に隠れた。
俺「そんな格好しているから、こうなるんだ」
男「なんだ?連れがいたのか。ねぇ、君。この子を一晩借りるって、幾ら出す?」
俺「十万」
男「じゅ、十万!?どんな高級娼婦だよ!」
俺「え、十万の娼婦っているのか?じゃ、十億」
男「十億!?誰もそんな値段で売ってないよ」
俺「売らないって事だ。シッシッ」
男「ったく」
男が去っていく。
あっさり引いてくれた。もうちょっとチンピラっぽく絡んできても良いんだぞ、そろそろ経験値が欲しいんだ。
カエデ「あ、ありがとうございます、アマクモ様。わたくしを大切にしてくれて、とても嬉しいです」
イベントまだ始まらないのかな?誰かと話をすれば始まるのだろうか?
カエデ「アマクモ様、誰かをお探しですか?」
俺「イベントポイント」
カエデ「イベント...ポイント?そのような場所はありますか?」
俺「へぇ、『場所』を指しているんだと分かるんだ。じゃさぁ、次は何をすれば良いと思う?」
カエデ「次?えっと、料理を味わうとか、誰かを誘ってダンスとか、でしょうか?」
俺「はぁ、使えねぇ」
やはり返ってきたのは当たり障りの無い返答だった。
他の人に話しかけてみよう。
俺「よ、そこの彼女、俺とダンスしない?」
女剣士ツムギ「ん?」
俺「あっ」
昼に会った女剣士ちゃんだ。
次に遭う時は俺を殺すだそうだが、一日も経たない内にまた遭っちゃった。
女剣士ツムギ「城主に借りがあるとはいえ、こんな『チャラついた』パーティーなんかに参加するべきじゃなかった。本当に、最低な人たちしかいないようだね」
俺「胸揉まれた位でいつまで根に持ってんだよ」
女剣士ツムギ「まだ一日も経ってないぞ、この野郎!やはり殺そう」
カエデ「だ、ダメです!」
カエデが俺の前に立った。
カエデ「アマクモ様。わたくし、アマクモ様の役に立ちますので、捨てないでください」
俺「はぁ...」
カエデ「アマクモ様ぁ...」
カエデが俺の方に振り向いて、泣きそうな顔をした。
卑怯だ!それを使われたら、NOとは言えない。
俺「今更捨てないよ」
カエデ「アマクモ様...」
嬉しそうにしちゃって、可愛く思っちまう。
女剣士ツムギ「誰?」
俺「あれ?朝、俺と一緒にいた女の子だよ。もう覚えていないのか?」
女剣士ツムギ「あんな清楚な子がこの子な訳が無いでしょう。女遊びもするとか、やはり貴様は最低な奴だ」
こんな格好だと分からないよな。その上、俺が女遊びとか、とんだ名誉損害だ。
主催者らしい人「あああ、丁度良いところに!ムギ、そしてそこの男。私は二人に用がある」
酔っ払っている主催者さんが俺達に絡んできた。
ツムギ「イバラ様、私の名前を変な略し方をしないでください。私はツムギです」
イバラ(主催者)「ムギこそ、あたしに丁寧語を使うのを止めたら?昔のように『イバラ』と呼び捨てしなよ」
ツムギ「今の貴女様はこの城の城主の娘さん。立場上、呼び捨ては出来ません。ご理解を」
俺「よう、イバラ!久しぶりだな」
逆に酔っ払いに絡んでやる!
そう思って、俺は二人の談話に割り込んだ。その結果、ツムギちゃんの視線が痛い。
ツムギ「城主の娘さんだ、礼儀を弁え、下郎!」
俺「胸柔らかいのに頭が固いぞ」
ツムギ「な、な!」
ツムギちゃんの顔が真っ赤になった。
女剣士ツムギ「殺す!」
カエデ「ダメ!」
俺「人殺し!」
女剣士ツムギ「殺す!!!」
ツムギちゃんは本気で俺を殺そうと隙を窺い始めた。カエデを纏めて斬らない辺り、まだ理性があると言える。
イバラ「待て!これから協力し合う二人が睨み合ってどうする?ムギ、殺気を抑えろって」
女剣士ツムギ「イバラ、先程のやり取りで分かるだろう?この男はどんな...協力し合う!?」
イバラ「そう。その為に貴方達をこのパーティーに呼んだ。それと、男。私はあなたと呼び捨てするような間からではないでしょう?ムナカタと呼べって」
俺「へいへい」
酔っ払いは酔っ払っていなかったようだ。
ツムギ:紬
ムナカタ イバラ:宗方 茨