エネミーエンカウント
町を出ることにした。
町というか、城...どっちでもいいや!
この世界の「モンスター」はどういうものなのかが気になる。動物なのか、怪物なのか、人間なのか。俺的には「怪物」の方が都合がいいが、具体的な設定を「オマカセ」した。どういうものが出てくるのかは楽しみの一つだが、やはり人の形をしているものは遠慮したい。
でも、実は後一つとっても大切な理由がある:お金がない。
俺は町民一人を襲って1万円手に入れたが、その同時に役立たずな仲間一匹、おまけされた。自分の装備を揃えたと同時に役立たず仲間の装備を買うことになった。大したお金は掛からなかったが、今後の食事代・宿代などを考えれば損しかならない。同じ事をしたらまた一匹増えるかもしれない、養う為の料金も一人分増えることになる。自由に使える金がどんどん減っていく。金欠に追われる。金策に走らせる。貧乏人の子沢山。
ペットは二匹以上に増えると、飼え主を探さないといけない。増やさないに越したことはない。
だから、真っ当な稼ぎ方をすることにした。モンスター狩りだ!
カエデ「本当に、外に出ますの?」
俺「そうだよ。怖いなら帰っていいぞ」
カエデ「外はとても危険な場所です。いつ襲われてもおかしくありません。外に出ない方がいいです」
俺「中も別に安全じゃないだろう?レイプされたことはもう忘れた?」
カエデ「ぅ」
ここでお別れになってくれたら俺としても助かるが、そう簡単に別れてくれるような人なら最初から俺をストーキングしない。
そして予想通り、カエデは俺と一緒に町を出ることになった。
町近く、ぐるぐる。
カエデ「あの、アマクモ様。どこに行きたいところはありますか?」
俺「ない」
カエデ「それなら、どうして天山城を出て、まるで危険を探しているように歩いているのですか?」
俺「天山城?ふ、あの町の名前?安易な名前だな」
カエデ「ご存じなかったのですか?天の神様に最も近い城塞都市とされていて、60パーセント以上の住民が信者ですよ」
俺「ふーん」
高いところに建てているから天に近い・神様に近いと、安易な考えだ。
しかし、実際俺が生まれ落ちたところであるから、間違っていないな。
浮浪者「か、金を出せ!」
カエデ「ぎゃ、本当に出ました!」
浮浪者、人間、敵。
最初に出会った「モンスター」は人間だった。
俺「死ね!」
浮浪者「ぎゃあああああ!」
戦士イズルの攻撃、浮浪者に122のダメージを与えた。
浮浪者を倒した。
経験値は14P増加した。
早っ!簡単すぎる。
そして、どうやら浮浪者のHPは122以下のようだ。
文字が自動的に頭の中に浮かぶ。分かりやすいが、俺に優しすぎない、この世界?
カエデ「アマクモ様!どうして問答無用に斬りかかるのですか?相手の話を聞くもしないで...酷すぎます!」
俺「え?なに?エンカウントした敵を倒しただけで責められる?殺されたほうが良かった?」
カエデ「そういうことじゃない。人を殺したら消えるのですよ!動物と違って、何も残らないのです」
確かに、周りに浮浪者の死体はなかった。倒した時に自動的に塵となって消えるシステムだった。
俺「動物は消えないのか?」
カエデ「動物が消えたら、わたくし達は草しか食べれないじゃないんですか。話をそらさないでください!どうしてあの人を殺したのですか?」
俺「どうしてって、ふっ。エンカウントした敵を倒さないと、お金と経験値は入ってこれないじゃん?だから倒した」
床に落ちてる紙幣を拾い、数えてからポケットに突っ込んだ。
312円...浮浪者にしては大金だな。
カエデ「お金の為に、人を殺したのですか?そんなことの為に?」
俺「その為にこうして外に出てるじゃないか?」
カエデ「そんな...無暗に人を殺すのはよくないと思います!」
俺「じゃあ何か?今後、俺を殺そうとした敵に遭っても、殺されてもいいから反撃してはいけないと?」
カエデ「そういうことを言ってるんじゃありません!せめて、話だけでも聞いてあげてから...」
俺「あ、うん、分かった分かった」
だから役立たず仲間は嫌だったんだ。戦闘に役に立たないのに、文句ばかり口にする。
町周辺くるくる。
カエデ「またお金の為に、殺す人を探しているのですか?」
俺「文句があるなら帰れ。誰もお前を引き留めていないよ」
カエデ「......」
カエデは帰らなかった。なぜ彼女はしつこく俺の周りに居るのだ?
浮浪者「か、金を出せ!」
俺「さっきと同じセリフだ!」
どうやら浮浪者の固定セリフのようだ。
カエデ「アマクモ様、問答無用で斬りかからないでください」
俺「はぁ、分かったよ」
戦士イズルは浮浪者に話しかける。
俺「金を出せないが、お前が金を欲しがる理由を教えてくれ」
浮浪者「だ、出さないなら、殺す!」
浮浪者は戦士イズルに斬りかかる!
俺「うお!」
ミス、ダメージを与えられなかった。
反射的に避けてみたら、敵の攻撃を回避してしまった。
びっくり!浮浪者が斬りかかって来たことも、それを避けられることも、どっちもびっくりだ。
俺「見た、カエデちゃん?話し合っても無駄だよ」
カエデ「そんな、嘘...」
娘カエデは浮浪者に話しかける。
カエデ「お金を欲しがっている理由を教えてください!何かとても重要な理由があるなら、お金を貸してもいいですよ!」
この娘はなに頓珍漢な事を言ってるんだ?俺のお金を勝手に知らない人に貸すつもりか?
浮浪者「黙って金を出せ!」
浮浪者がお金を欲しがる理由は:特になかった。
良かった!もし、エンカウント敵一人一人に理由があったら、一人も倒せなくて、経験値が増えることもなく、最後に魔王とか倒せない。
俺「気が済んだ?」
カエデ「でも、何か理由が...」
俺「殺されたくなければ、殺すしかないだろう。嫌なら帰れ」
カエデ「うぅ」
浮浪者「ぎゃあああああ!」
戦士イズルの攻撃、浮浪者に125のダメージを与えた。
浮浪者を倒した。
経験値は14P増加した。
戦士イズルのレベルが1上がった。
娘カエデのレベルが1上がった。
俺「お、レベルが上がったね」
ステータスが見えないので、どのくらい上がったのかがわからない。
そして、さっきから気になっていたけど、「娘」ってなに?職業?
俺の職業は普通に「戦士」だったのは先ほどまで知らなかったけど、割と普通の職業だと思う。しかし、「娘」はないわ。あれは「職業」じゃなくて「身分」だ。
カエデ「レベルが上がって良かったですね」
俺「へぇ、お前も見えるんだ。俺にしか見えないじゃなかったのね」
カエデ「人を殺してレベルを上げるとか、野盗と同じじゃない!」
俺「だ~か~ら、嫌なら帰れば?別に俺に付き合うことはないのに」
カエデ「駄目です!一人はとても危ないです。誰かと一緒にいないと、危ないです」
俺「お前が居ても、別にプラスになってないぞ。ゼロを幾つプラスしても、数字は上がらないよ」
カエデ「助けを呼ぶことくらいできます!一人だったら、助けも呼べません!」
俺「あそっ。はぁ...」
これ以上話しても無駄になりそうだ。
俺「お前は俺の後ろに隠れていればいいよ。ちゃんと守ってあげるから」
カエデ「!!!」
人ってのは誰かに頼りたいと思う生き物なんだ。俺を頼りたいのなら、頼って結構。
+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×
レベルが一つ上がったことでステータスが少し変化したと思う。それを調べる為に一度町に戻ろっと思った。
思ったが、すんなり帰れなかった。
浮浪者「か、金を出せ!」
空気の読まない浮浪者とエンカウントした。
俺「よしっ!じゃ、殺すか!」
カエデ「そんな簡単に人を殺そうとしちゃう駄目!」
仲間のはずのカエデが俺の腰に抱き着いた...俺を拘束した!
この世界の「仲間」は時々「敵」になるみたいだ。
俺「はぁ...仲間が攻撃の邪魔をするシステムとか、とんだ縛りプレイだな」
カエデ「な、仲間...?」
しかし、浮浪者は攻撃してこない。さっきと同じプルプル震えて立っているだけ。
なるほど、「ターン制」システムなのか!俺の方が素早さが高いから、俺の行動が終えるまで動けないんだ。
しかし、俺も動けない。邪魔なお仲間を押しぬけて動けるが、その場合は「行動した」ということになる。
別にそれでも構わないが、俺の邪魔をする「仲間さん」の行動を見てみたい。
俺「分かった。じゃあ...お前に任せるわ。好きなように動け」
カエデ「...うん!」
戦士イズルが防御態勢を取った。
つまり、「待機」はイコール「防御」ということだな。
カエデが前に出た。
カエデ「何方が知りませんが、お金が必要の理由を教えていただけませんか?わたくし、貴方様のお力になりたいのです」
浮浪者「う、うるさい!」
浮浪者は娘カエデに斬りかかる!
カエデ「えっ?」
俺「やばっ!」
戦士イズルが仲間を庇った。ダメージ15を負った。
頭の中に総HPポイントが現れて、そこから15ポイント減少し、残り324ポイントになった。
ダメージを負った時、一度残りHPが見れるみたいだ。そいつは助かる!それが見れないと一々HP残量に気を付けないといけなくなる。
よかった!
しかし、痛みは感じない。良いことだが、どこまで「無感覚」なのかが気になる。
カエデ「アマクモ様!アマクモ様、大丈夫ですか?ご、ごめんなさい。わたくし...わたくしの所為で...」
カエデが心配そうに俺の全身を触る。
触られてる「感覚」はある...「無感覚」じゃないんだけど、「痛み」のレベルに達すると感覚がなくなる、ということでしょうか?
俺「てぃ!」
浮浪者「ぎゃあああああ!」
戦士イズルの攻撃、浮浪者に115のダメージを与えた。
浮浪者を倒した。
経験値は13P増加した。
レベル上がってるのに、「与えダメージ」がダウン!?毎回のダメージは変化するみたいだ。
カエデ「ごめん、ごめんなさい、アマクモ様。わたくし...わたくしがアマクモ様の邪魔をしなければ...ごめんなさい...」
俺「あ~はいはい、ソウデスナ~」
浮浪者の所持金チェック...59円。
手に入れる金の量も固定じゃないみたいだ...くそっ!
カエデ「アマクモ様?本当に大丈夫ですか?辛くありませんか?」
俺「うん」
カエデ「先ほどに受けたダメージ、痛くないのですか?」
俺「うん」
カエデ「全く?少しも痛くありません?」
俺「はぁ、うるさいな。町に戻るよ」
カエデ「あ、待ってください!」
+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×
町に入って、アノ武器屋を探した。
おやっさん「ん?よぅ、また来たね、あんちゃん。どした?お金、貯めて来た?」
俺「いや。ちょっと水晶玉を貸してほしい」
おやっさん「おう、いいぞ。一回百ね」
倒した浮浪者による平均収入で一人につきステータス確認2回分か。超割に合わない!
俺「じゃ、水晶玉を借りるね」
おやっさん「ちょちょちょちょちょ、あんちゃん!わしの水晶玉をどこに持っていく気だ?」
俺「ちょっとの間、借りるだけ」
おやっさん「金払ってねぇし、そもそも貸出禁止!あんちゃんほど迷惑な客はないわ!」
俺「ちぇ~」
そう簡単に誤魔化せないか。
俺「はい、百円」
おやっさん「まいど」
嫌そうな顔で低い声...俺はおやっさんに嫌われてるね。
ふむ、
攻撃力:221
防御力:13
素早さ:21
魔法力:14
レベル:2
HP:324/339
MP:123
経験値:21
レベル1の時の数値が覚えてない...どれくらい上がってるのかがわからない。
経験値が「14+14+13」だから、合計は41の筈だが、21しか残ってない。レベルが上がった分の経験値が消えるみたい。
つまり、レベル1から2までには経験値20Pだけでいいということだな。
...うん!忘れよう!「経験値」のシステムについて考えるのが面倒。
カエデ「ぁ、ぁのぅ」
カエデは帰って来てから俺とまともに喋れない。これは彼女の「町スタイル」なのか?
でも、そうだな。彼女のステータスも見てみよう。
おやっさん「あんちゃん。一回に百!」
俺「チッ」
目ざといおやっさんめ。
俺「はい、百円!」
おやっさん「まいど!」
おやっさんの返事が元気がいいのがむかつく。
俺「カエデ、水晶玉を触ってみ」
カエデ「え?わたくし...ですか?」
俺「そうだ。お前のステータスを俺に教えて」
カエデ「ぅ...分かり、ました」
カエデが水晶玉を触った。
ふむ、仲間のステータス、
攻撃力:0
防御力:4
素早さ:3
魔法力:0
レベル:2
HP:102
MP:0
経験値:21
予想通りのゴミだが、攻撃力ゼロでどういうこと!?攻撃しても相手にノーダメなのか?使えねぇ!使えなさすぎ!
カエデ「あ、あの...」
俺「なに?」
カエデ「こ、攻撃力は...その、ゼロ...です」
俺「は?」
カエデ「防御、よん...です」
俺「え?もしかして、自分のステータスを俺に伝えようとしてる?」
カエデ「は、はい。すみません」
何でわざわざ口で伝える?もう彼女のステータスを全部わかってるのに、もう一度聞いてもしょうがないよ。
カエデ「素早さは...」
俺「あ~、いい。言わなくていい」
カエデ「え?ど、どうして?」
俺「素早さは3でしょう?もう分かってる」
カエデ「わ、分かってる?どうして?」
俺「お前が水晶玉に触れた時に一緒に見た」
カエデ「え?嘘!」
カエデが周りを見た。
おやっさん「ん?どした、お嬢さん?」
カエデ「あ、あの!お、おじ...お兄さん?」
おやっさん「その呼び方は嬉しいが、普通にあんちゃんと同じ『おやっさん』でいいぞ」
カエデ「あ、はい!おやっさん。その、わたくし達の会話、聞こえましたか?」
おやっさん「ん?聞こえてねぇが...どした?」
カエデ「ぃ、いいえ!何でもないです!あはは~...」
笑って誤魔化すカエデ...何かを誤魔化そうとしているのが見え見えなんだけど、彼女が隠そうとしている事がわからない。
突然、カエデが俺の手を掴んで外に出ようとする。
カエデ「アマクモ様!一緒に来て下さい。二人きりでお話があります」
俺「ん~?まぁ、別にいいけど...?」
店を出た。
おやっさん「まいどあり~」
...挨拶を返す暇もなく、俺はカエデに引っ張られて店を出た。
カエデ「アマクモ様、教えてください。アマクモ様はどうやってわたくしのステータスをお分かりになりました?」
俺「『どうやって』って、普通に見ただけだよ」
カエデ「『普通に』?何時見たのです?」
俺「お前の手が水晶に触れた時。何がおかしかった?」
カエデ「はい、おかしいのです。如何なる状況であろうと、他人のステータスを見ることはできない筈です。例え高名な神職者でも、高位の魔術師でも、それは変わりません」
俺「へ~」
自分のステータスは自分しかわからない世界...別におかしくない。「自分でも分からない」のが普通だから。
カエデ「アマクモ様、もう一度お聞きします。アマクモ様はどうやって、他人のステータスを、お分かりになれましたのだ?」
俺「特異体質」
カエデ「ゔぇ?」
俺「生まれつきにそういう力を持っている」
カエデ「そう...ですか。なるほど、そうですね。普通はあり得ない事ですよね」
納得してくれたみたいなので、もう一度町を出よう。夜になるまで金策にレベルアップしておこう。
カエデ「待って!アマクモ様」
俺「なんだ?またついてくるのか?」
カエデ「も、もちろんついていきます!えぇ、ついていきますとも、『帰れ』と言われても帰りません」
俺「ちょっと図々しくなってない?」
カエデ「そ、うかもしれません...でも、ついていきます!」
俺「お前について来られても俺にメリットはないんだけど?理想論を語るや、邪魔はするし。お前を庇ってケガするし」
カエデ「も、もう邪魔したりしません!一緒に居させてください!お願いします...」
懇願された。
俺「はぁ...分かった。同行を許す」
カエデ「あ、ありがとうございます」
上下関係はこれではっきりしたみたいだ。
カエデ「でも一つだけ!アマクモ様、決して他の人にご自身の特異体質を教えないでください。危険です、気を付けてください」
俺「はいはい、分かったよ」
お前は俺のお袋かよ。
+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×
浮浪者狩りを思い存分した後、俺は大量のお金と経験値を手に入れて、町の宿屋で一夜を過ごす事にした。
紙幣のお金をポケット一杯...零れそうなので、一緒にいる働かない連れに全部預けた。
そして、十数人を殺してようやくレベル5...「浮浪者狩り」は終わりだな。
女将「一晩三百ね」
俺「安っ!」
浮浪者...宿に住めるじゃん!
女将「食事代や風呂代は別料金ね。それと、二人部屋は五百ね」
俺「あ、こいつは俺のペットだ、一人部屋にしてくれ」
女将「むっ!ペットの入店はお断りするね。二人部屋にするか、出てくか、どっちかにするね」
女将、鬼の形相。冗談の通じない女将ね。
俺「ふ、二人部屋、するよ...もちろん。んで、食事代と風呂代を合わせて、全部で幾ら?」
女将「...お金持ってんね?」
俺とカエデの身なりを見て、女将は失礼な勘繰りをした。
俺「持ってるよ!小銭ばっかりだけど...カエデ、金を出せ」
カエデ「は、はい!」
カエデはワンピースのポケットから一杯お金を出した。
女将「ほんと小銭ばかりね。ちゃんと財布を買ったね?」
俺「財布?買ってないけど、ここに売ってるの?」
女将「ここは宿屋、売ってる訳ないね。財布を買いたいなら、ちゃんと服屋で買えね」
服屋は財布も売ってるのか。
俺「また後で買うけど、今日はとりあえずこれで」
女将「はいよ。205ね」
俺「あんがと」
自分の部屋に向かった。
カエデ「あの、アマクモ様」
俺「なに?」
カエデ「あの、ごめんなさい!わたくし、アマクモ様に『財布』の事を教えていませんでした。許してください」
俺「ん?あぁ、別に怒ってないよ。ってか、それ謝るような事?」
カエデ「アマクモ様は何たが、その...わたくしより、その、失礼ですか...世間知らず?」
俺「うん」
カエデ「ごめんなさい!失礼な事を言ってしまって」
俺「あぁ。いや、それも別に謝るような事じゃないだろう?」
カエデ「あ、ありがとうございます」
俺が「世間知らず」か...確かにその通りだな。今日生まれたばかりだったから、世間を知る時間はなかった。
カエデ「その、『財布』の事なのですが...お金を財布の中に入れれば、集めた小銭は纏まったお金になります。何百年前にとてもすごい魔術師が発明した物だそうです」
俺「へぇ」
カエデ「......」
俺「......」
カエデ「...?」
俺「それだけ?」
カエデ「は、はい!それだけ...です」
金策に走っても、お金が多すぎてポケットに詰め込めない状況に落ちる事にならないようにする「大切な物」か。なるほどわかった。
しかし、俺は遂に気付いた。
俺「カエデ、俺以外の人と話せないのか?」
カエデ「そ、そんな、そんなことはありません!話せます。もちろん話せます」
俺「しかしさぁ、いつも俺がおやっさんや女将さんに話しかけてるじゃん。別にカエデが先に話しかけてもいいのよ」
カエデ「は、はい...そう、ですね」
と言いながら、カエデは少し身を縮めた。「弱気」で「臆病」で「泣き虫」で、・「人見知り」・。そっか、彼女は人と上手く話せないんだ。
俺が設定したけどな!!!
そして部屋に入る。
俺「水晶玉!?」
部屋の隅ステータスをチェックできる水晶玉が置かれていた。
下の机にご丁寧にメモも張っている。
「持ち出し禁止!!!入居時、ご自由にお使いください」
宿屋に住めばただでステータスを見れる!おやっさん騙したな!
俺「確かに、俺は『世間知らず』だ」
カエデ「はい。わたくしも、宿屋に水晶があることを知りませんでした」
ま、こういう感じで知っていくのが楽しいのだ。
+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×+×
カエデ「ベッド、一つしかありませんね」
俺「一個しかないな」
男女二人にベッド一つ...
俺「俺はベッドを譲るつもりはないよ」
カエデ「も、もちろんです!わたくし、床で寝ます!」
俺「いや、そうじゃない。女の子を床に寝かせる訳にはいかない」
カエデ「でも、それだと...」
俺「男女二人で一つのベッドに寝ることになる」
カエデ「そうなりますね...」
俺「そうなると、何が起こると思う?」
カエデ「『何が』って...何が!?」
俺「分かるだろう?」
カエデ「その............はい、分かります」
俺「だから、最後のチャンスだ、カエデ」
カエデ「最後の、チャンス?」
俺「今からでも、お金を均等に二つに分けて、俺とお前で半分こ。お前はそのお金で別の部屋を借りろ」
カエデ「いいのですか?」
俺「ただし、それで俺とお前の関係は終わりだ。お互い自分の道を歩むことになる。いい?」
カエデ「そんな!でも...」
俺「嫌なら俺と一緒に寝るか?」
カエデ「......」
普通なら、俺はこれで「お荷物」とお別れする事が出来るのだが...
カエデ「一緒に寝ます!」
カエデは「芯が強く、勇気のある女の子」だ。
...変な勇気だ...
そして、一晩が過ぎた。