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とあるヒーローたちの日常の一コマ

作者: 細波

あくまで、ゆるゆるのなんちゃってヒーローものです!

*


地球にある日本という国の首都のどこかにある建物の地下に作られた秘密の会議室。


オフィスビルではどこにでも見られるような長机にパイプ椅子、ホワイトボードがある一室に、男女あわせて六名が顔を付き合わせていた。


「それでは、第三十八回地球防衛軍日本支部宇宙生物対策課第三班葛城隊の定例会議を始めます」


黒髪の少女が宣言する。


「テーマは『現状に対する待遇改善と給与及び賞与の引き上げについて』です」


……無反応である。

ある者は本を読み、ある者はスマホで誰かと話し、ある者は筋トレ、ある者は勉強、ある者は……寝ていた。


黒髪の少女ーーー朱理は、額に青筋を浮かべながら、拳を握り、震えた。

そして、たっぷり数分は待ったあと、耐えきれず、力の限り叫んだ。


「お前ら全員、やる気だせーーーーーーーーーー!!!」



*


今から十年ほど前。

地球では空前の天体ブームが巻き起こっていた。


あるときは皆既日蝕が見られ、専用のメガネが飛ぶように売れた。

また、あるときは月蝕が二ヶ月連続で見られた。

木星が大接近したり、流星群がやってきたり、三日月と金星が素敵にコラボレーションしたり……。


世界中の人々が何百年に一度、あるかないかの天体ショーに酔いしれている裏側で、それらはやってきた。



初めは、日本の人里離れた山奥の小さな集落だった。

そこに住む老夫婦が畑仕事をしていると、背後の茂みがガサガサ音をたて始めた。


ウサギでもいるのだろうかーーー?


二人で茂みを眺めていると、そこから出てきたのはウサギーーーではなかった。


いや、ウサギにとてもよく似ていたが、明らかに違う生物だった。

何せ、頭から鋭い角を生やし、目が三つあったのだからーーー。


夫婦はしばし呆然とし、自分達の知る生物ではないと認識するやいなや、絶叫し、逃げ出した。


生物は老夫婦を獲物と判断し、脚をめがけて鋭い爪を振りかざした。



生物はあくまでもウサギだった。


爪と牙は鋭かったが、所詮はウサギモドキ。

老夫婦の絶叫を聞き付け集まった集落の人間たちの連携の前では、敵ではなかった。


生け捕りである。


人々は未知の生物を山の麓の町の役場に届け、もて余した役場が市役所に、市役所が県庁に、県庁が国に、と、あわれウサギモドキはたらい回しにされた。


この日を境に、未知の生物が世界各地で目撃されるようになり、捕らえられたものを調べた結果、どうやら地球外生命体と呼んでも差し支えのない生物だということが判明した。


奴らはみな闘争本能が強く、自然を、街を、人々の生活を、突然現れては壊していく。

長い間、人々は為す術もなく、理不尽な破壊を受け入れるしかなかった。



しかし、人間は学習し、対応する生き物である。


世界中の国々が、この未知なる生物が現れた瞬間からお互いが歩み寄り、協力していく必要性を感じていた。

そして、様々な意見や要望をすり合わせた結果、初めてウサギモドキが現れた日から約五年後に、一つの機関を設立したのだ。


それが、地球防衛軍である。



*


「そもそもさー、ヒーローが給与制っておかしいでしょ」


会議を真面目に進行することを諦め放棄した朱理は、椅子に座り、長机に肘を乗せ頬杖をついた。


「こっちは好きでやってるんじゃないんだし……」


ぶつぶつ愚痴を言い始めた朱理。


彼らがヒーローになることを承諾するにあたり、防衛軍と国は話し合いの末、彼らに公務員と同等の給与や待遇を用意した。

彼らのほとんどは未成年で、しかも全員が学生だった。

さすがに子どもをタダ働きで、しかも危険な宇宙生物と戦わせることに、大人たちのささやかな良心がチクチクと痛んだ結果の対応である。


「給与や賞与はおいといて、待遇改善って、何?」


キリの良いところまで読み終わったのか、本を閉じて隼人が声をかけた。


「別に今のままでも支障はないと思うけど」

「呼び出し頻度が高すぎる」

「それは宇宙生物に言ってくれ」


寝ていた男、葛城が伸びをしながらあくび混じりで答える。


彼は朱理たちの直属の上司にあたり、第一班である作戦本部とのパイプ役でもある。

ちなみに、第二班は武器や防具を作る製作部、第三班は直接宇宙生物と対峙する実行部であり、朱理たちはここに所属している。


「朱理ちゃん、真面目すぎるよ~。行きたくないんなら呼び出し無視すればいいじゃん」


スマホでの通話を終わらせた美姫が、会話に入ってきた。


「美姫、デート中だったから、この前の呼び出しスルーしたし」

「この前来なかったの、デートだったの!?」

「俺も練習試合中だったから行かなかった」

「悠生も!?」

「僕も模試だったから……」

「駿くんまで!!!」


朱理は頭を抱えた。


前回の呼び出しに応えたのは、朱理と隼人だけだった。

幸い、そのときの宇宙生物は比較的小さく(それでも二階建ての建物に相当する大きさだったが)、特別何かに優れていたわけでもなかったので、二人でも余裕だったのだが。


ほとんど全員が揃わない理由を知った朱理は、何とも形容しがたい脱力感に襲われた。



*


地球防衛軍が設立されたさらに二年後、対宇宙生物用の武器が開発された。

普通の銃弾では対応しきれなくなってきた防衛軍は、世界各国から選りすぐりの科学者を集め、金を惜しむことなく注ぎ込み、たった二年で対宇宙生物用のレーザー銃を完成させたのだ。


そして、この武器を扱う専門の特殊部隊を作り、世界中に設置。

宇宙生物を退治、もしくは撃退することに成功した。


これにより、人間はいつ現れるかわからない宇宙生物に怯えることなく、平和な日常を取り戻した。


はずだった。



未知なるものとはいえ、生物は生物。

奴らは環境に適応した。

人間が開発した武器に対抗するため、自身を進化させ始めたのだ。


単純に身体を大きくし、攻撃の効果を弱めたもの、スピードに特化し、攻撃に当たらないようにしたもの、超音波を駆使し、攻撃される前に人間を無力化するものなど、仲間が殺られる度に、別の個体が少しずつ進化をとげていった。


そしてついに、特殊部隊だけではどうにもならない個体が現れ始めた。



この事態に対し、防衛軍は次の策に出た。


水面下で着々と進行していたこの策は、正直なところ、誰も使う気はなかった。

そう、開発に関わった科学者や、防衛軍のトップたちでさえも……


レーザー銃で十分効果は出ていたし、予算もこれ以上増やせない。

そんななかで、科学者やトップたち、いや、世界中の少年少女たち、ある種全人類の夢を実現しようとした壮大なプロジェクトーーー。


戦隊ものヒーロー作っちゃおうぜ計画ーーー。



*


「大体、何で私たちだったわけ?」


朱理はまだ愚痴を言い続けている。

美姫は再びスマホをいじり始めた。

悠生は中断していた筋トレを再開。

駿も勉強に戻ってしまった。

葛城はまた船を漕ぎだしたので、朱理の愚痴に付き合ってくれるのは隼人だけになった。


「確か、開発されたヒーロースーツに適合する者を厳選なる審査によって選び出し、そのなかから無作為に選んだ五人、なんだっけ?俺たち」

「その『無作為』ってホント何なの?!!!」



戦隊ものヒーロー作っちゃおうぜ計画。


当初は予算を節約し、ひねり出した貯金でコツコツ進めていた計画だったが、進化した個体が現れ始めた頃から惜しみなく予算が追加され、狂喜乱舞した科学者たちが張り切って作り上げたもの。


それが、ヒーロースーツだった。


このヒーロースーツは主要各国に五体ずつ配られ、国内でそれぞれのスーツに最も適合する人物を五人選び出したのち、彼らに託された。


ここ日本では、朱理たち五人にーーー。



*


それは、一年半前に遡る。


突如政府から発表されたヒーロー計画。

それに伴い、全国民のデータを照合し、ヒーロースーツの適合資格を有する者を選出。

選出された者の面接を行い、最終的に五人に絞る。

余程の事情がない限り、拒否権はないものとする。

そのような旨が通告され、国内はざわついた。


特にざわついたのは、思春期の男子たち。

いわゆる中二という、ある種特別な階層に位置する者たちだった。


自分が選ばれたらマジでやべーよ!

地球を守る正義のヒーロー、めっちゃ憧れるわ~

サイン頼むなら今のうちだぜ~

おめぇには無理だよ、バーカ!


そんな会話を笑いながらして歩く中学生たちを横目に見ながら、朱理は思った。


ーーー熨斗つけてくれてやりたいっっっ!!!



実は、発表の前日にはすでに適合者たちの面接が行われており、内定が出ていた。

そう、朱理、隼人、美姫、悠生、駿の五人にーーー。


当時の朱理は高校二年生になったばかり。

勉強は中の上、運動が得意の普通の女子高生だった。



発表の三日前。


届いた封筒は真っ白で、開ける前から嫌なオーラを放っていた。

ダイニングのテーブルの中央に置かれた手紙を、家族全員で睨む。


ーーー開けたくない……。


家族の心が一つになった瞬間だった。


しかし、差出人は地球防衛軍の日本支部。

日本どころか世界規模の権力を前に、朱理たち家族が抵抗できるわけもなく。

しぶしぶ開けた中身は赤い紙切れが一枚。


ーーー徴兵かっっっ!!!


全員が心のなかでツッコミをいれつつ、朱理は泣く泣く指定された日時に指定された場所へと赴き、簡単な面接を受けたあと、ありがたくない内定を、箝口令とともに頂いたのだった。



*


ヒーロースーツには個性があり、色がある。

ひとつひとつに装備されている武器や能力も異なる。


例えば、隼人はブルーで剣を使う。

本人は子どもの頃からずっと剣道をやっているそうで、有段者。

スピードもあり、敵の体力を削り、弱めてくれる。


美姫はピンクで魅惑。

少しでも知能のある生物なら百パーセントの確率でかかり、一気に骨抜きにする。

個体によって持続時間が異なるが、一瞬でも敵の隙を作ってくれるので重宝している。

ある意味、恐ろしい能力……。


悠生はエメラルドグリーンで身体強化。

空手の黒帯でもある彼は、空手だけでなく柔道やテコンドー、ボクシングなど、様々な格闘技をかじっており、肉弾戦が得意である。

以前、十階建てのビルくらいの大きさの生物と戦ったとき、ビルを垂直に駆け上がり、大きくジャンプして脳天に一撃をくらわせたときは、ヒーローパネェ……と遠い目になったものだ。


駿はブラックで道具を使う。

その時々で使う道具は異なり、敵に合わせて最適な武器を作り出す。

ある意味、チート。

また、駿はこのチームのブレーンであり、手こずる相手には簡単な作戦をたてたりもしてくれる。

一番年下なのに……。



普段スーツは指輪になっている。

必要に応じてヒーロースーツになるのだ。


この指輪は、本部に保管されている鍵でしか取れない仕様だ。

つける指は選べるとのことだったので、朱理は左手の小指にした。

一番、邪魔にならない場所だった。

他の四人も各々好きな指にはめている。


この指輪が震えると、呼び出しの合図である。

携帯に入る葛城からの情報を確認して、速やかに現場へ出動するのだ。


ちなみに、地球防衛軍日本支部が被害を最小限に留めるため開発した『宇宙生物ほいほい』なる装置のおかげで、日本では宇宙生物は基本首都にしか現れない。

これは朱理たちにとってとてもありがたいことだった。



*


「この指輪さぁ、呼び出し無視すると締め付けてくるじゃん」

「え?何それ」


朱理の発言に、隼人は目を丸くした。


「え?だから、呼び出しを無視し続けるとだんだん締め付けてくるでしょ?」

「……そんなことないけど」

「……は?」

「みんなはどう?」


隼人がそれぞれ好きなことをしている他のメンバーにも問いかける。


「美姫も締め付けてはこないな~。だからデート中は無視してるんだよ」

「俺もないな。試合中に震えられると正直気が散るけど」

「僕も大丈夫」


どうやら朱理以外のメンバーの指輪は、締め付けてはこないらしい。


「大体、内定もらった段階で美姫、大学の受験があったから、無理なときは行かないってハッキリ言ったんだよ。そしたら『日常生活を優先してくれて構わない』って言われたし」

「俺も高校受験が控えてたから、似たようなこと言われたな」

「僕も今年高校受験だから、この前葛城さんに勉強第一でいいって言われた」

「……私、今年大学受験だけど、そんなこと言われてない……」


駿の言葉に、朱理は自分も受験生であることを改めて思い出した。

受験勉強はしているが、最近の宇宙生物の出現頻度の多さに、思うように進んでいない現状。

このままでは、浪人生になるかもしれない。


「……なんで私だけ……」


みんなの発言を聞き、愕然とする朱理。

壊れた人形よろしく、ゆっくりと首を回して葛城の方を見る。

自然と他のメンバーも葛城を見る。


五人の視線を受け、葛城がゆっくりと姿勢を正した。

そして、視点を朱理に合わせる。


「それは、あれだ。お前の武器じゃなきゃ奴さんたちが倒せないからだ」



*


朱理はレッドで武器は銃。

進化した宇宙生物の急所と言われる『核』を百発百中で撃ち抜き、壊す。


ただし、この百発百中は銃の性能ではない。

あくまで朱理自身の能力による。


朱理のこの能力のおかげで、進化した宇宙生物には心臓とは別に『核』という急所があることが判明した。


『核』が破壊されるまで、奴らは完全には死なない。

ちなみに、進化する前の個体にはなかったものなので、新たに手に入れた器官なのだろう。


現在、この『核』を発見し壊すための武器を開発中なのだが、如何せんデータが足りない。

現在は朱理を戦わせ、データを収集している段階なのだった。



葛城の説明に、唖然とする朱理。


「つーわけで、お前さんには常に戦場に赴いてもらい、奴らを倒しつつ、データも集めてもらわなきゃならんわけだ。だが、他の連中みたいに無視されたら困る。考えた末にお前さんの指輪に一定時間が経ったら徐々に締め付けるという機能が追加されたっつーわけ」


おわかり?と首を傾け、葛城は朱理に同意を求めた。


「……まるで孫悟空の輪っかみたいですね」


隼人が誰もが思ったが言えなかったことを口にした。



*


結局、会議は何一つ進展しないまま、解散となった。

朱理のやる気が一気に底をついたからだ。


今残っているのは朱理と隼人だけである。


「……大学落ちたら呪ってやる……」


朱理は椅子の上で膝を抱え、上司や防衛軍や国のトップたちを呪っていた。


確かに、受験生でしかも花の女子高生である朱理にだけ毎回宇宙生物と戦えという上層部は、端から見れば外道だ。

しかし、彼らも必死である。

いつビッグバン並みの宇宙生物がやってくるかもわからないのだ。

全人類の未来と朱理の日常を天秤にかけ……る前から、朱理の日常に勝ち目はなかった。


「そこら辺は大学側も考慮してくれるんじゃないかな?」


隼人が朱理を励ますように、可能性の高い対応を指摘する。


「実際、俺も内定先で融通きかせてもらったし」

「え?そうなの?」


朱理が膝から顔を上げる。


「そういえば、内定もらったことは聞いたけど、どこの企業?」

「ああ、公務員だよ。都庁で働くんだ」

「そうなの!?……融通って……もしかして……」


朱理が疑うような目付きで隼人を見る。


「いやいやいや、ちゃんと実力で内定もらったよ。俺、コネって嫌いだし。まあ、就活中にものすごくお勧めはされたけどね。融通は残業が少ない部署にしてもらうってとこ。正直、仕事内容によっては活動に支障が出るかもだしねぇ」

「あ、そっか。そうだよね」


実は、『宇宙生物ほいほい』は都庁の地下にある。

そのため、宇宙生物は都庁を中心とした円形上の範囲内に現れる。

つまり、都庁にいれば現場へ行きやすいのだ。


「うわ~、だから私の第一志望が通らなかったんだぁ……」


朱理は入学したときから他県の大学を志望していたのだが、ヒーローになってから何故か進路指導の先生に変更するよう言われていた。


「どこだったの?」

「K大」

「ああ、ちょっとここからは離れちゃうね」


何の因果かヒーローになってしまったからには仕方ない、と朱理はもう大学に関しては割り切っていた。


ちなみに、朱理もコネは嫌いである。

ちゃんと実力で受からなければ、わざわざ通う意味がないと思っている。


「今の第一志望も勉強するには良い環境みたいだし、実力で受かれるように頑張ろう。まあ、ヒーロー業も思ってたほど悪くないし、引退するまではこっちも頑張りますか」

「いつ引退できるのかな」

「……せめて結婚したら辞めたい」


乙女の願いは切実だ。


「……彼氏いるの?」

「……何回か出来そうだったけど、宇宙生物のせいでフラれた……」


せっかく異性といい雰囲気になっても、呼び出されればデート中でも行かなければならない。

そして途中帰宅やドタキャンが何度も続けば、相手は離れていくのが道理である。


「そういう隼人さんはどうなの?彼女いるんでしょ?」


隼人はいわゆるイケメンである。

整った優しい顔立ちは、さぞや女性を惹き付けてやまないだろう。


ちなみに、美姫も大層な美人だ。

遊んでそうに見える派手な外見だが、彼氏一筋で八年である。


悠生は男らしい、これまたイケメン。

しかも引き締まった身体をしている。


駿はまだ幼さが残るが、数年後が楽しみな顔立ちだ。


朱理は彼らに比べて華はないが、十分可愛いレベルである。

本人は気付いていないが……。


「今はいないよ。いたらあんなに頻繁に出動してないよ」

「そうなんだ。そういえば隼人さん、毎回来てくれるもんね」


強制出動の朱理と同じくらい、隼人は出動している。


「あの話を聞いたあとだと、本当に感謝しかないよ。いつもありがとう」


朱理は満面の笑顔を浮かべた。


「どういたしまして」


隼人も笑顔を返した。


「でも朱理ちゃんだったら、指輪の締め付け機能がなくても毎回現場に行くんじゃないかな」


隼人は確信を持って言う。


「う~ん、行ってる……かも」


苦笑とともに朱理は答えた。


「スルーしたとしても、結局は気になって他のことに集中出来ないと思うんだよね。だったら最初から出動した方が自分のためにもいいのかな、って思うかも」


自分達にしか出来ないことだしねーーー。


朱理の答えを聞き、隼人は眩しそうに目を細めて朱理を見つめる。


「朱理ちゃんなら、そう言うと思ったよ」



「さて、そろそろ帰りますか」


朱理が鞄を持って席を立つ。


「良かったらご飯食べていかない?近くに新しいパスタのお店が出来たんだよね」

「あ、知ってる!この前雑誌に載ってたとこだよね?気になってたんだ~。ぜひぜひおとも致します!」


敬礼する朱理を見て、隼人が笑う。


「よし、決まり。食べたあと水族館にも行こう。デートしよう」

「……」


さらりと水族館デートに誘ってきた隼人に、朱理は呆れながらも感心する。


ーーー彼女はいなくても、遊び相手はたくさんいそうよね……。


何となくモヤモヤする気持ちに蓋をして、朱理は了承した。



そうして二人は、日が落ちて夜が始まろうとする街のなかを、目当てのお店に向かいながらゆっくりと歩いていく。


今日は宇宙生物の出現もなく、平和な一日であった。



*


あれはヒーローになって半年が経とうとする頃。


隼人はしばらく前から左手の親指につけた指輪が震えているのに気付いていたが、あえて気付かないふりをしていた。


ーーーまたか。今日は朝から面接が続いて疲れたし、無視していいかな……。


慣れないリクルートスーツで就活をしている隼人は、このときヒーロー業を煩わしく思っていた。


視線を上げれば遠くに見える宇宙生物の姿。


ーーー今日の奴はまた一段とデカイな……。


パニックにはならないまでも、少しでもその場から離れようとする人々で流れが生まれていた。


ーーー自分が行かなくても、誰かが行くだろう。


そう考えながらネクタイを緩め、流れに身を任せた隼人の視界に、長い黒髪を振り乱し、人の波に逆らいながら一生懸命走る女の子の姿が飛び込んできた。

向かう先に見えるのは巨大宇宙生物。


ーーーあれは、朱理ちゃん?


四歳下の、自分と同じヒーローになってしまった女の子。


朱理は必死になって前に進もうとするが、小さな身体ではなかなか上手くいかず、今にも押し戻されそうになっていた。


ーーー何であんなに必死になっているんだろう?呼び出しなんて無視すればいいのに……。


そう思うものの、何故か朱理から目を離せない。


そして、自分に気付かないまますれ違おうとする朱理の横顔を見た瞬間に、隼人の心臓は激しく鳴った。


ーーー綺麗だ。


隼人は、真剣な眼差しで前を見つめる朱理の横顔に、見惚れた。

そして無意識にその手を掴んでいた。



『あれ?隼人さん?』


いきなり手を掴まれたことに驚き、振り向いた先に隼人がいることにさらに驚いた朱理は、目を見張った。

そして、自分の手を掴んだまま同じく驚いた表情の隼人を見て、さらに目を丸くした。


『どうかしましたか?あ、もしかしてケガしたんですか!?』


いつもと違う隼人の様子に、この人の流れでどこかケガをしたのかと心配になった朱理。

宇宙生物も気になるが、隼人がケガをしたのならそちらも気になる。


返事がないことにさらに不安になり、再び口を開こうとしたそのとき。


『大丈夫。ちょっと驚いただけだから。それより早く現場に行こう』


そう言って隼人は朱理の手を引き、人の流れに逆らって進みだした。

さっきまでの疲れや煩わしさなどが、キレイさっぱりどこかへ吹き飛んでいた。



あのときから、隼人はどんなときでも必ず出動するようになった。


理由は、一つーーー。




きっと今、私、文章に飢えてる!!!


寝てる我が子を横目にいつか訪れる洗礼に思いを馳せてたら、自然と頭に浮かんだので。


せっかくなら文字にしてみよう、と思い至り。

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