白い猫
白い猫の話です。暇潰しにどうぞ。
公園の噴水が太陽の光を受けキラキラと輝き、アスファルトはゆらゆらと陽炎を立ち上らせていた。近代的な景色の広がるこの住宅街は、整備がよく行き渡っていて、住みやすい街として有名だった。この街を、数えきれないほどの猫が住処としている。
「この街にも慣れてきたかな。」
絹を思わせるような美しい白毛を持つ猫は、快晴の空を見上げそう呟いた。道端に植えられた街路樹の木漏れ日がより一層彼女の白さを際立たせている。
一ヶ月前この街に移り住んだこの猫は、知り合いの猫から「シロ」と呼ばれていた。近頃は街になれてきたからか、よく散歩をしている。今もその最中だった。
「やあシロちゃん、元気かい。」
体に浮かぶ茶トラ独特の縞模様が特徴的な猫が、陽気に声をかけてきた。
「ええ、元気よ。今日はいい天気ね。」
このトラ猫はシロにとってこの街での初めての知り合いだったため、シロは彼との会話が散歩の楽しみになっていた。
「今日はなんだか倉庫の前が騒がしいね。なにか集会でも開いているみたいだ。シロちゃんも見てくるといいよ。」
「そう、じゃあ見てくるわね。」
そう言うと、シロは倉庫へと向かった。
この町にある大きな倉庫は二つ。一つはマンションの裏にある倉庫、もう一つは消防署にある防災倉庫だ。シロは勝手にマンションの裏で集会をしていると思っていた。しかしそこには集会は見られず、昼寝をしている猫がちらほら見えるだけだった。その中の1匹がおもむろに体を起こし、シロに目を向けた。白地に斑模様の入った華奢な三毛猫だった。
「あまり見ない顔だけど、あなたは誰?」
「はじめまして。一ヶ月前にこの辺りに来たの。みんなはシロって呼んでるわ。」
「私は3.14、面倒だからサンって呼んで。」
こいつはゆとり世代だな、という確信がシロにはあったが、敢えて言わないでおいた。
「シロの目は綺麗な赤色ね。まるで宝石みたい。」
「ありがとう。私はあまり好きではないんだけどね、こんな変な目。」
「確かに珍しいかもね、でも私は好きよ、あなたの目。」
「そう言ってもらえると嬉しいわね。あなたの斑模様も綺麗で羨ましいわ。」
少しわざとらしい言い方になってしまったが、サンは気にしていない様子だった。
そしてサンに別れを告げると、消防署に向かって歩き始めた。
公園から消防署まではそう遠くはなかった。少しして消防署に到着すると、倉庫のある広い駐車場に向かった。倉庫が見えてくる頃、周回を開いているであろう猫達の声が聞こえていた。
「最近は聞かなくなったけど、少し前にあった連続殺猫事件、まだ犯人が捕まっていないのよね。」
「ええ、三毛猫ばかりが狙われているらしいのよ。私、黒猫でよかったわ。」
集会の話題はこの街で起きた殺猫事件らしかった。あまり聞いていて気持ちの良いものではなかったため、シロは集会には混じらず、そそくさと住処へと踵を返した。
帰るときには、もう日が落ち始めていた。
「やあシロちゃん、集会は面白かったかい。」
「いいえ、殺猫事件の話がつまらなそうだったから帰ってきちゃったのよ。」
「そうかい、それは残念だったね。殺猫事件っていうのは、一ヶ月前くらいのやつだろうね。三毛猫が狙われたっていう。」
「ええ、そうね。」
「かわいそうなもんだ。一ヶ月前っていうと、シロちゃんがこの街に来た頃じゃないか。危ない時期に来たもんだね。」
「私は大丈夫よ、三毛猫ではないもの。正しくは、三毛猫になれなかった、だけどね。」
「シロちゃん、三毛猫になりたかったのかい。」
笑いながら言うトラ猫に、シロは愛想笑いとも苦笑いとも言えない微笑みを浮かべていた。
日はもうほとんど暮れ、西日が街を赤く染め上げていた。しかしその中でも、シロの毛皮は白く輝いていた。それはまるで、群れからはぐれた一匹狼のように、異彩を放っていた。
「あれ、シロじゃない。どうしたのこんな時間に。」
シロはマンション裏に来ていた。それを見かけたサンが声をかけてきた。
「サン、あなたに用があってきたの。」
なにか覚悟がこもっている、そんな話し方だった。サンは何か胸騒ぎのようなものを感じたが、シロに変に思われるのも嫌だったため、気にしないことにした。
「そろそろ寝ようと思っていたところなの。いいタイミングだったわね。」
「そうね。でも折角の睡眠を邪魔するのも悪いから寝てくれて構わないわよ。大した用ではないの。」
「そう。じゃあお言葉に甘えて寝させていただくわ。」
そう言うとサンは倉庫の横で丸くなった。
するとシロはこの時を待っていた、と言わんばかりに全身の毛を逆立て、迷いもなくサンの首元めがけ襲いかかった。突然の出来事だった。短い悲鳴が鳴り響く。シロは立て続けにサンの腹部に爪を向ける、その時だった。サンの悲鳴に驚いた猫達がシロを囲むように群がっていた。シロがその圧力にたじろぐ、その隙を見計らって、周りの猫たちがシロに飛びかかり、シロの身体を押さえつけた。
間一髪、サンの命に別状はなく、重たげに身体を起こした。流血こそあったものの、それも僅かなものだった。
シロは身動きが取れないまま、赤い目でサンを睨みつける。シロの身体は土埃を被っていたが、なおも白いままだった。
次の日、消防署の倉庫は、事件の話題で持ち切りだった。
「また事件がおきたんですって、物騒ねぇ。」
「犯人は、アルビノっていう珍しい病気を患っていたらしいのよ。」
「アルビノ、聞いたことのない病気ね。どんな病気なのかしら。」
「なんでも、三毛猫に起きる病気らしくて、毛皮が真っ白になっちゃうのよ。目も赤くなるみたいね。」
「三毛猫になれなかった三毛猫の恨み、みたいなものなのかしら。ひどいものね。」
白い猫、いかがでしたか。終わり方がおかしい、続きはないのか、等思われる方もいるかと思いますが、私は満足です(ドヤ)。
実はこの作品が初投稿となります。実は小説を書いたのも初めてです。楽しんでいただけたら嬉しい限りです。
では。




