6話 ジジイ無双
今日も二話です。
もう一話は昼に公開します。
始まりの町。中央。
「何あれ」
私達はその光景に呆然とした。
「ガハハハッ、どうしたどうした!? 小僧ども、もうおしまいか?」
そこでは手に初期装備と思われるアックスを装備した白髪褐色の男が三人程の男性プレイヤーを地面に伏し刺せている光景が広がっていた。
アックスを持ってるプレイヤーの名前は『ゲンジ』。
祖父のリアルネームである。
(ていうか、まるっきりおじいちゃんじゃんっ!!)
あの人、何やっちゃってんの!?
良く見れば傍で黒髪ロングの女性プレイヤーが口元に手を当てて「あらあら」と笑ってる。
『トメ』
おばあちゃんぇ。
ていうか止めなよ。何で笑ってるの?恥ずかしいよ。
「あら、アリサどうしたんですの?」
「・・・アリサ。あれ?」
さすがニア。もう気付いたか。
そうです。あれが一緒にインした私のおじいちゃんです。超目立ってます。
「すげえ、アイツもう五人抜きだぞ」
「初期装備だろ?」
「いや、それは皆一緒だけどさ」
ちなみにアバターはシミや皺までは再現されていないので二人とも見た目若いです。
おばあちゃんはおっとり系でおじいちゃんはワイルドに見える。
仕様なのかおじいちゃんはお腹が引っ込んでいて、おばあちゃんは垂れてた乳がゲームの誤認なのか巨乳になってる。・・・運営っ!
色々突っ込みたくなった。
でも、それより今はおじいちゃんだ。
「お、また誰か勝負するみたいだぞ」
「でけえ盾持ってるな。あれ初期装備じゃないだろ?」
「なんか開始早々防具屋突っ込んで買ってたぞ」
「どんだけ盾好きなんだ・・・」
「βテスターは金だけは持ってるからな・・・」
今度の人はなんか強そう。金髪で大きな盾を持ってる。タンクかな?
もう始まっちゃうみたいだし、一回は見るか・・・。
「お、やるか」
「さすがに我慢できなかったよ。こんな面白イベント開いてくれたことに感謝するぜおっさん!」
「ハッ、どっかで孫が見てるかもしれんからな。格好悪いところ見せられんわいっ!」
ごめん。その姿がすでに色々格好悪いです。
主に社会的な意味で。
「おっさんかと思ったら・・・中身爺さんかよっ。元気すぎだろ」
「はっはー! 若いもんに負けてられんのだ! ゆくぞ!」
二人の頭にカウントが出現した。
PVPの合図だ。
確かPVPで負けてもペナルティ無しで、その場に倒れるんだったっけ? 十分間硬直はするらしいけどね。
デメリットってこれかな?
もちろんその間に物を盗まれるとかはない。ただ動けなくなるだけだ。
さらにPVPは街中でしかできないという制限があるので、襲われたりダメージを負う心配はない。
β時代の感想では『死ぬほど恥ずかしい10分』らしい。
既に三人転がってるけど。
その前の二人はもう回復したのかな?
「「うおおおおおっ」」
あ、始まってた。
ゲンジのアックスが『レムス』というらしい男の大盾にガードされる。
「ふっ、もらった!」
「なんの!」
盾の影から剣で突こうとしたところを、ゲンジはバックステップを踏みながらアックスを水平にしてガードする。上手いっ。
「なっ・・・ふ、やるな。じいさん」
「ハッハー、負けられんと言っておろうがっ!」
その後も二人は何度も打ち合うが有効打にはつながらない。
一応何度かお互いに掠ってダメージは受けてるみたいだけどね。
「ちぃ、やるなじいさん。正直もっと楽に勝てると思ってた!」
「ガッハハハ!」
「特別にこれを見せてやる。《シールドバッシュ》」
それはアーツと呼ばれる技で、スキルのレベルが一定数を越えると取得できる。
その能力はスキルの特性によって様々。MPを消費することで使用できる。
今回の《シールドバッシュ》は公式にも乗っていて、盾から小規模の衝撃波を放つ技だったはず。
ていうかあの人、もうアーツ使えるくらいレベル上げてるんだね。
ゲンジはおそらくまだレベル1だろう。
PVPしてるからスキルと職業のレベルは上がってるかもしれないけど。
あれ?じゃあアーツ使えるんじゃない?
「おごっ」
「よしっ!」
初めてダメージらしきダメージが入った。
もしかしてゲンジは、アーツの使い方を知らないのかもしれない。
説明書とか全然見ないからなあの人。
「おらぁっ」
「ごへっ」
と思った直後、明らかに無理な体勢から投げられたアックスによってレムスがダメージを受ける。
完全に虚を突かれて、盾で守るのを忘れていたのだ。
ていうかメイン武器なげるなっ!
「うらぁ!」
「へっ?ごはぁ!」
それから拳骨が顔面に入る。
殴る殴る。レムス盾落とした。レムス怯んで下がる。ゲンジ怯んだ瞬間にアックスを拾って振りかざす。あっ。
『勝者:ゲンジ』
「うおおおおおおおおおおっ!」
アックスを掲げるゲンジ。
周囲は「えーっ!」という声を上げる。そりゃそうだ。
何あれ?
途中まで良かったのに最後完全に不良のごり押しだったよ。
殴るって何、殴るって。武器持ってるってことは【闘士】じゃないんでしょ? いや【闘士】でももうちょっと格好よく戦うと思うよ。
結論。色々酷い。
これは・・・うん。駄目だね。ちょっとお灸を据えよう。
スタスタと前に出る。
「え?アリサ?どうしましたの?」
「・・・何する気?」
私はメニューを操作する。
それを見た周囲は困惑する。
「は? おいおいまじか?」
「え、あの子がやんの?」
「可愛い・・・だからお願い、戦わないで!」
「お嬢ちゃん無理すんな! レベル上げ手伝ってやるから!」
「怪我するよ! ゲームだけど・・・トラウマとかなっちゃうって!」
無駄に優しいなこのゲームの男性プレイヤー達。
まあでもそんなのは無視。
私はPVPの申請をおくった。
「お、今度はお嬢ちゃんかい? 俺にも君くらいの孫がおるんだが・・・よし、いっちょじいちゃんが相手したろう!」
あ、気づいてないなこの人。
名前『アリサ』って気づきそうなものなんだけどなぁ。
顔もリアルより確かに可愛いけど、ていうか幼く見えてるみたい。さっきエレナとニアにその話をされて落ち込んだ。エリーめっ。
まあ、そんな訳で顔の印象は現実とちょっと違うのだ。
奥の方でトメが「あらー」なんて口空けてる。向こうは気づいてるみたいだ。
ニコッ
「「「「「やめてぇー!」」」」」
『受理されました。カウントを開始します』
さあ、ジジイ狩りを始めよう。