~逮捕~
あの暴動から二週間が経過していた。
街はすっかり元の賑わいを取り戻していた。
上が下した決断は下町を国の監視下に置く事で決定となった。
セファーナも何もなかったかのように騎士としての仕事に戻っていた。
そんな中アーベルが慌てて飛び込んできた。
「た、大変です!」
「どうした?何事だ。」
ガルザスが落ち着かせつつ説明を求める。
「国の上層部の中核議員の…バルビーノ議員が収賄の罪で捕まりました!」
その言葉にその場にいた人間達がざわつく。
バルビーノ議員といえば穏健派として知られる議員だ。
ガルザスはアーベルに簡潔に説明を求める。
「なんでも下町から賄賂を受け取って悪事を見逃していたと…。」
その言葉にリリーシェも言葉を失う。
だがバルビーノ議員は法務部出身の議員だ。
それぐらいは容易いだろうとセファーナは考える。
ガルザスは捕まった理由が気になっていた。
リリーシェもアーベルになぜそうなったのかを知らない事を承知で問う。
「そ、それが…何者かが偽名で証拠を揃え法務部と騎士団に密告したそうで…。」
その言葉を聞いてリリーシェとガルザスが驚いた顔をする。
「そんな馬鹿な…情報がどこかから漏れたと言うのか!」
「悪事を働いていた以上隠すのはあれだが何者がやったというのだ!」
アーベルもそれには困惑した様子だった。
なにしろこの国は情報管理がとても厳しいとしても有名だからだ。
そんな厳しい管理をされた情報を何者かが盗み出したのだから。
だが偽名である以上犯人を特定するのは困難だそうだ。
さらに文字は筆跡を特定されないようになっていたという。
その周到な手口に熟練の手口だと誰もが疑わなかった。
そしてアーベルは続ける。
「この事は公表するそうです、あと騎士団は総出で犯人を探せと…。」
その言葉に再び騒然とする。
国は国内に犯人が残っていると確信しているらしい。
だが特定に至る証拠が少なすぎるため逮捕は困難になるだろう。
「あと…港や国境も封鎖するそうです、犯人に逃走をさせないために。」
それは当然の措置だった。
犯人が国境を突破した様子もなければ船で国外に出た様子もないのだ。
つまり犯人は今も国内にいるのは確かなのだろう。
セファーナは法が犯人を裁く事を信じていた。
だが犯人はどこへ消えたのか、それが最大の謎である。
「とりあえず手の空く騎士達は街から街道、港の倉庫まで徹底的に探せと。」
その言葉にガルザスは口を開く。
「分かった、とりあえずうちからも数人をいったん動かす、順次増員するので何人かは出てくれ。」
その言葉に騎士達数人が飛び出していく。
アーベルはいったん待機し状況説明を求められる。
そんな中ガルザスがセファーナを呼び止める。
「セファーナ、少し構わんか。」
「はい、構いませんが。」
そうして二人は外へと出る。
「とりあえずこいつでも食べるといい。」
「これは?」
「東方のジパングという国のドラヤキというお菓子だ。」
セファーナはそれを受け取る。
「…今回の逮捕についてどう思う?」
その問いにセファーナは答える。
「悪事を働いていたのなら因果応報なのでは?」
その答えにガルザスは言う。
「だがあまりにも妙だと思わないか?何者…いや、私は内部犯だと思っている。」
「つまり内部告発ですか?」
「そうだ、そうでもなければこんな簡単に事が進むはずがない。」
その言葉は的を射ていた。
外部からのリークなら他国のスパイ、あるいは工作員が有力だろう。
だが今回の逮捕は国外には知られていない情報での逮捕なのだ。
「つまり何者かがバルビーノ議員の証拠を揃えたと。」
「そうだ、少なくともこんな短期間で仕事が出来るのは内部犯しかない。」
その言葉は核心的だった。
だが犯人の特定に至るにはどうすればいいか、それは難しい問題だ。
「それでも悪人は法によって裁かれるべき、それが国の姿です。」
「そうだな、私刑ではないだけいいが恐怖もある。」
「そうですね、何にしても犯人を捕まえる、それだけです。」
そうして改めて犯人を探す事に力を入れる事となる。
それからも犯人の捜索は続くが、犯人が捕まる事はなかった。
国内は混乱に陥り事態はさらに思わぬ方向へと進んでいく。
セファーナも犯人を探していた。
消えた犯人はどこへ行ったのか、行方はまったく掴めなかった。
この時歯車はすでに狂っていた、現実の壁は少しずつ姿を見せていたのだ。
国の行く末は少しずつ道を外れていく、その先に待つ結末に向けて…。