~離脱~
掃除屋結成から二年が経過した。
今やその名は世界に知られるようになった。
結成から間もないにも関わらず、その腕前は見事の一言だ。
中央政府も不殺の執行者として、なかなか手を出せない曲者なのである。
それもそのはず、明確な殺人にはきちんとした国際法による罰則がある。
だが掃除屋の手口は情報をどこからともなく手に入れ、法の裁きへ誘う事。
それは法で裁くには極めてグレーなやり方なのだ。
その事もあってか、中央の国際警察は掃除屋は法を熟知した集団と見ている。
だがそれは当然の話でもある。
掃除屋に参加するにあたって法についてみっちりと教育されるからなのだ。
それによりグレーな範囲で確実にターゲットにその鎌を執行する。
暗殺で邪魔者を消すような奴らとは一線を画しているのだ。
セファーナも元々法政に詳しい人間、それから生まれた組織なのだ。
法の教育、グレーな手口、それは役人を困らせるにはじゅうぶんすぎるのだ。
「世界各地も順調なようですね。」
「そうだな、西のヘイロンも南の四葉も東のフェラナも上手くやってる。」
各地の支部の状況も把握しつつ次の仕事を考える。
ちなみに中央大陸の仕事はその時点で一番近い位置にいる支部の人間がやる。
東西南北の支部の人間で一番近くに待機している者が指示を受け動くのだ。
それにより中央は比較的手薄ながらも、どこからでも人を送れる状態だ。
「それにしてもリンファ遅いですね。」
「あいつ仕事で出たっきり何やってるんだ?」
リンファは今は仕事に出ている。
だが帰りが妙に遅いのが気になっていた。
普段の彼女なら仕事を終えたらすぐにでも連絡を入れてくるのに。
ドジを踏んだか、とも思うがそれならネット上にニュースが流れるはずだ。
それが未だにないという事は、ヘマはしていないのだろう。
だが帰りが遅い、こっちから迎えに出向くかとも考える。
そんなときセファーナの携帯端末が鳴る。
それはリンファからの電子メールだった。
「なんだって?」
「あの子、また勝手な真似を…。」
そのメールには掃除屋を抜けクランに移籍すると書かれていた。
クラン、それは以前から耳に挟む総合商社的な組織だ。
さらにメールには続けてこう書いてある。
恩人に自分なりの恩返しがしたい、そのために恩人と同じクランに移籍すると。
セファーナはそれに対して心当たりがあった。
過去に内気なリンファを変えるために行った国の事だ。
そこで誰かに出会ったのか、そのときからリンファは大きく変わった。
恐らくそのときに出会った恩人なのだろう。
ちなみに掃除屋の契約は通報は出来ないが、抜ける事は出来る。
そのため通報しなければ脱退するのは自由なのだ。
その契約は抜けたあとも残り続ける。
とはいえ通報さえしなければ、契約の力が発動する事はない。
つまり抜ける事に問題は何一つとしてないのだ。
セファーナもそんなリンファを知っているので追わない事にする。
「本当に追わなくていいのか?」
「特に問題もないでしょう、彼女はああ見えて義理堅いですから。」
それはこの二年リンファを見ているセファーナの信頼だった。
わずか二年と言うべきか、二年もと言うべきか。
どのみちリンファらしい義理人情だった。
だがセファーナはそれにより一つ閃く。
リンファを通してクランとのパイプを持てるのではないかと。
本来目的が真逆の組織を巻き込むのは気が引ける。
以前から気になっていたクランという組織。
それと少しでも交流が持てるのなら悪くないのではと思った。
もちろんクランを自分達に巻き込みたくはない。
だがそんな組織を束ねる長と話せれば、何か得られるかもしれない。
そんな考えも浮かぶのだった。
だからこそあえてリンファを追う事はせずに、パイプにしようと考える。
そしてセファーナはそのメールに返信をする。
体に気をつけて自分なりの正義を貫き続けなさい、と。
「ふふ、あの子も大人になったものです、飼い犬に手を噛まれた気分ですよ。」
「その割に放し飼いだったろ、何を言ってるんだ今さら。」
まあそれはそうだ。
掃除屋は基本的に強い束縛はしない組織。
セファーナ達もそれは当然あった。
だからこそこうして今までやってこられたのだ。
リンファは自分から巣立っていった、そう考えると親の気分になる。
そんな中セファーナは少し考える。
カリーユもいつまでも自分のそばに置いておいてもいいのかと。
確かにカリーユを育てたのは自分だ。
だがそれにより彼女にも何かと苦労をさせている。
ならいつかは解放してあげるべきなのか。
彼女も立派な大人だ、自分という保護者はそろそろ必要ないのでは。
だとしたら機会があればクランにカリーユを委ねてみるか。
どこかでクランの者と出会う機会があったらカリーユを任せる。
それが彼女の卒業であり、空へ羽ばたくという事になる。
それを考えつつ次の仕事を決める。
いつかはカリーユも卒業させてやる、そう決めた。
そうして掃除屋は少しずつ名を広めるのである。
 




