~大道芸~
リンファを迎え入れてから数日。
相変わらず彼女は口数も少なく内気なままだった。
このままでは教育するにも支障が出ると判断する。
とりあえずどこかへ連れ出し人に慣れさせる事にする。
セファーナはシスシェナに頼みとある国へ来ていた。
この国は錬金術と呼ばれる技術が伝わる国らしい。
人通りも多く人に慣れさせるには最適だろう。
セファーナはリンファを連れて街へと繰り出す。
「どうぞ、美味しいですよ。」
「は、はい…。」
露店でお菓子を買いリンファに渡す。
リンファはそれを黙って黙々と食べていた。
この時間は人混みが発生する。
セファーナの狙いはまさにそれだった。
意図的に人混みに紛れ意図的にはぐれる。
そうする事でリンファに自己解決を促そうという魂胆だ。
そうして買い物に行くと言いリンファと共に人混みへ入る。
そのままセファーナは気づかれないように手を離し姿を消す。
「うぅ~、セファーナさん…、あれ?セファーナさん?」
計算通り涙ぐむリンファ。
我慢をしてその様子を見守る。
「セファーナさん?どこですか?もしかして…、はぐれた?」
今にも泣き出しそうなリンファ。
セファーナはグッとこらえてそれを見守る。
「グスッ、私一人じゃ…。」
それでも自力でセファーナを探そうと歩き出すリンファ。
それを後ろからこっそりとつけていく。
リンファは泣きそうになりながらも広場に出て周囲を見渡す。
それに合わせセファーナはリンファの死角に隠れる。
「セファーナさん…、どこに行ったの…。」
セファーナは非情を決め込み死角からそれを見ていた。
リンファは涙目で広場を歩き出す。
すると広場の中心の方から賑やかな音がした。
リンファはそれに引き寄せられるかのようにそっちへと歩を進める。
その先には大道芸人が芸をしていた。
リンファはそれに魅了され見入ってしまう。
すると大道芸人がリンファに気づく。
そして思わぬ行動に出るのだった。
「そこの女の子、こっちに来てくれるかな?」
「へっ?私…ですか?」
その大道芸人はリンファを自分の方へと呼ぶ。
そしてまさかの行動をした。
「それじゃ、今回の助手はこの女の子だよ、あなた名前は?」
「へっ?えっと…、リンファ…、です…。」
今にも消えそうな声で答えるリンファ。
大道芸人は彼女に手に持っている人形を手渡す。
「それじゃ、始めるよ!」
「へっ?あのっ、私…、何をすれば…。」
大道芸人はリンファに身振り手振りで説明をする。
リンファは泣きそうになりながらも言われた通りにやってみる。
すると初めてにも関わらず成功させてしまった。
観衆からは大喝采の拍手が鳴り響く。
リンファは気づいたら涙は消え自然と笑みがこぼれていた。
そして大道芸人はリンファにお礼をする。
「ありがとう、あなたのおかげで大盛況だったよ。」
「い、いえ…、私は言われた通りにやっただけですから…。」
それでもその大道芸人はリンファを褒める。
そしてお礼として稼ぎの一部の金額を手渡す。
「そんな…、悪いです…。」
「いいの、受け取って、あなたも立派に務めを果たしたんだから。」
リンファは断るのも失礼だと思いそれを受け取る。
そうして頭を下げてお礼を言いその場をあとにする。
「思わぬ事に巻き込まれちゃった…、早くセファーナさんを探さなきゃ…。」
するとまたチャラい男達にからまれてしまう。
リンファは勇気を出して声を振り絞る。
「や、やめて…。」
「そんな小さい声じゃ聞こえないよ?それよりお茶でも行かない?」
リンファは必死になって声を絞り出す。
だがその声はチャラい男達の声にかき消される。
やっぱり勇気なんて…、そう思い助けてと念じる。
すると誰かの声がした。
セファーナ?違う、さっきの大道芸人だった。
彼女はチャラい男達をしっかりと叱りつける。
「怖がってるよ?無理に誘うのは感心しないけど。」
「あんたは…、分かったよ、それじゃな。」
そう言ってチャラい男達は去っていった。
そして大道芸人はリンファを慰める。
「よく勇気を出して言えたね、偉いじゃない。」
「そんな事…、私の声なんて凄く小さくて…。」
すると大道芸人は言う。
その言葉は不思議とリンファを勇気づける。
「勇気は世界を変える魔法、私の友達が言ってたんだ。」
「勇気は世界を変える魔法?」
その言葉に不思議と暖かくなる。
そして大道芸人はリンファに優しく微笑む。
「あなたも勇気を出せばきっと変われるよ、殻を破る勇気を出さなきゃ。」
「殻を破る勇気…、私に出せるでしょうか…。」
大道芸人は少しだけ昔の話をしてくれた。
自分も昔はリンファのような性格だったそうな。
でも勇気を出したら世界が変わった。
そんな話だった。
「だから勇気を出す事からね、きっと変われる、私が保証するよ。」
「はい…、私、変わってみせる、変わってみせます。」
その言葉に嬉しそうになる大道芸人。
そうして次からは気をつけるように言って立ち去っていく。
それに合わせてセファーナが姿を見せる。
リンファはムスッとした顔で少しイジケてみせる。
「いい経験だったのでは?」
「うん、私変わるよ、変わってみせる、セファーナさんも見ててね。」
それに対して優しく微笑むセファーナ。
そうして本来の目的の息抜きをしに街へ歩き出す。
そうして二人の息抜きは終わり飛空艇へと引き上げる。
今日の出来事はリンファに大きな勇気を与えてくれた。
彼女も変わるべくその決意を新たにする。
それはこの先の運命を照らし出すかのような笑顔だった。
その決意と共に掃除屋はいよいよ動き始めるのである。
 




