~始動~
あれからさらに30年が経過していた。
仕事を始めたときから実に70年近くが経過している。
今の世界は近代化が進み先進国と呼ばれる国の近代化は著しい。
通信技術も大きく進歩し今では通信機器も小型化が進んでいる。
そんな近代化が進む世界でセファーナは夢に向け本格的に動き出す。
あえて中規模の国へ行き、裏の酒場に求人を出す。
それは長年の夢だった掃除屋の始動である。
掃除屋とは言うがハウスキーパーではない、セファーナの仕事の仲間集めだ。
本当に賛同してくれる者には連絡先を教える。
そうして仕事の何たるかを叩き込むのだ。
「集まるでしょうか…。」
「あんたの夢なんだろ、もっと自信を持てよ。」
カリーユは彼女なりにセファーナの背中を叩く。
他の仲間達も四葉やヘイロンが別の国でその仕事に移っている。
そんな中セファーナの携帯端末が鳴る。
そこには仕事の話という電子メールが届いていた。
それに返信し何度か本当に覚悟があるのかとの確認をやり取りする。
そうして10回ほどやり取りした後セファーナはある場所へ向かう。
その場所は今滞在しているシグ王国の空き家だ。
カリーユと共にその空き家に向かうと、そこには一人の男性がいた。
「あなたが連絡をくれたユルバンさんですね?」
「は、はい…、えっと、あなたがセファーナ…さんですか?」
そのユルバンは少しおどおどしていた。
だがセファーナは彼の緊張を解きほぐす。
「それでは訊きます、あなたは私に賛同し仲間になってくれるのですね?」
「は、はい!そのために全てを捨ててこの仕事に決めたんです!」
どうやら本気らしい。
そしてセファーナは彼に問う。
「では情報収集能力、それはどの程度持ち合わせていますか。」
「えっと、今から2年前まで国の諜報機関で働いていた経歴があります。」
どうやら国家機関の経験者らしい。
それなら問題はないだろう、そしていくつかの質問をしていく。
「ならあなたはその機関で得た能力を法と断罪のために使えますね?」
「は、はい!私も元々その機関で犯人を完全に裁けない事にモヤモヤしていて…。」
国際機関といえど直接裁きを下す権限はない。
そこはあくまでも司法、その国が裁きを下すのだ。
「では犯人を裁くために、確実に追い詰める事は出来ますか?」
「やれます、そのためにこの仕事に決めたんですから。」
その覚悟は本物だと受け取った。
そうしてカリーユが封筒に入った書類を渡す。
「それを一ヶ月で完全に会得してもらいます、そのあとテストを行いますので。」
「これは…、情報収集能力の強化と隠密行動の指南書ですか?」
そう、今までセファーナが培ってきたものを記したものだ。
身元の偽り方や監視の死角を知る方法、さらには情報の見定め方などだ。
「分かりました、必ずや会得してみせます。」
「合格したときはあなたが新たな指導官になるのです、いいですね?」
それは人員を増やすための方法だ。
最初の一人を確保したら、その人を軸にさらなる人を確保するというものだ。
「つまり私が認められたら、私がこの地域のリーダーになって仲間を増やすと?」
「そうです、私が目指すのは大規模な組織化、そして世界に網を張る事。」
それは情報屋のやり方から学んだものだった。
世界に網を張るものの仲間を助ける事は決してしないという冷酷な掟だ。
「もしあなたとその部下が失敗しても、私は関与しませんし助けません、いいですね?」
「分かりました、でもセファーナさんとの連絡手段は教えてもらえるのですよね?」
連絡手段は当然教える事となる。
だがそれは場所を特定されないために、一週間で変更される事になるものだ。
「連絡先は頻繁に変更になりますが、あるワードを教えます、いいですね?」
「分かりました、では合格した暁には必ずやセファーナさんの期待に応えます。」
ユルバンはそう言うと頭を下げその場をあとにした。
今回の契約はある特殊な契約を用いている。
それにより国際警察や国の警察への通報は出来ないのだ。
その特殊な契約を使い確実に組織を大きくする。
目標とする規模は全世界で1000人クラス。
地域を拠点とした世界の東西南北に支部を作る。
そうしてその各地域に独自の網を張るのだ。
セファーナ自身は仲間を増やしつつ世界を飛び回る。
旧型とはいえ今も現役のシスシェナの飛空艇は健在だからだ。
一ヶ月後、ユルバンのテストを行い成否を問う。
そして彼が失敗したときはまた新たな人材を探す。
とはいえ最初の一人は厳しい条件をつけてある。
それは警察や国の機関で働いていた経歴、または法に精通している事。
それをリーダーに据え賛同者を教育するのだ。
契約とその条件によって掃除屋は確実に規模を広げていく。
国の警察や機関の経験者の掃除屋への転身。
それはその人の心を見るという事でもあった。
セファーナの夢は確実に動き始めたのである。
「では他にも連絡を取りますか。」
「だな、引き上げるぞ。」
そうしてその夢は静かに世界を包んでいくのである。
 




