~経営~
ステイシル滞在六日目。
街はカジノ経営の関係者の逮捕に騒然としていた。
罪状は横領、本来支払われる金額を減らし懐に入れた疑惑だ。
疑惑とはいえセファーナ達の活躍により証拠は揃っていた。
それにより即座に警察が動き逮捕に至ったのだ。
過去にも何度もあった横領、それはお金の力を意味する。
お金の魅力の前に人は簡単に堕ちてしまうのだろう。
それは今までに見たそれが証明していた。
「とりあえず片付きましたね。」
「そうですね、悪人にはどんな形であれ罰が下る、ですか。」
それは歪んでいる正義そのものである。
セファーナだけではない、このチームそのものが歪な正義を持っている。
正義などは人の価値観にすぎない。
正しい正義なんてものはどこにもないのだ。
正しいと思い込む事の危険性。
セファーナ達のやっている事はまさにそれなのである。
思い込みは人を狂気へと駆り立てる。
自分は正しいと信じ込む事で罪の意識を鈍くさせるのだ。
この世界において最も危険な思想、それが正義なのである。
だがそんな正義があるから平和は成り立つのもまた事実である。
「結局私達もその正義に取り憑かれているんでしょうね。」
「でもその許せないという気持ちは本物ですから。」
許せないという気持ち。
それは誰しもが抱くであろう感情。
悪人を見て「こいつだけは許せない」と誰もが一度は思うだろう。
それは当然の感情であり、人としてあるべきものだ。
だがその感情は場合によっては悲劇を生んでしまう。
正しいと思ってやった事がとんでもない結果に繋がりもする。
セファーナ達のそれは私刑ではなく、あくまでも法に任せる事。
もちろんそれが必ずしも正しい結果になったわけではない。
だが何かを変えるには見せしめが必要なのだ。
人は現実に何かが起こるまでそれを過信する生き物なのだから。
意識を変えるには悪事をしていた者を見せしめに一人捕まえる。
そうする事で危機感を芽生えさせねばならない。
高を括っていると思わぬ結末になってしまう。
誰しも自分が正しいと思うだろう、しかしいつか自分も斬られるだろう。
それが因果というものであり、繰り返される罪と罰の螺旋なのだ。
セファーナ達もそんないつ斬られてもいいという覚悟は常にしている。
「私達もいつかはその法に斬られるんでしょうね、いつかは。」
「ならその斬られるその日まで正義を貫けばいい、私はそう思います。」
四葉らしい答えだった。
それは同時に彼女の持つ正義の歪さも意味していた。
セファーナとは別の形の歪な正義。
それは確かにその心の中にあるのだろう。
このチームの正義、それは歪で狂った思想。
それでも法を重んじ無益な殺生を許さないという精神。
そんなどこかおかしな精神がこのチームの支えである。
悪人であろうと法によって裁かれるべき、そんな思想が。
「さて、それでは戻りますか。」
「ですね、この国での仕事は終わりです。」
そうして飛空艇に戻る二人。
飛空艇に戻るとシスシェナが待っていた。
「お帰り、仕事は終わったのね。」
「はい、とりあえずは。」
そしてシスシェナは次の目的地を尋ねる。
「次ですか、ならシュリックに行こうと思います。」
「はいよ、そんじゃ準備しとくわね、あんた達は休んでおきなさい。」
そう言ってシスシェナは準備をするために部屋に戻る。
四葉もカリーユと勉強のために部屋に戻っていく。
するとそこにヘイロンが姿を見せる。
「ねえ、いつまでこれを続けるのさ。」
「そうですね、私には夢があります、それを叶えるまでですか。」
その夢、それは自分に賛同する人間を集め組織化する事。
そのためには通信技術の発達を待たねばならない。
「ふーん、なら私もそれに付き合うぜ、その夢に投資しようじゃん。」
「はい、ありがとうございます。」
ヘイロンらしい答えだった。
彼女はそれだけセファーナに何かを見ているのだろう。
「そのときまで死んだら許さないからね、いいね?」
「はい、約束します。」
ヘイロンはその確認をした後部屋に戻っていった。
そのタイミングでレイネも戻ってくる。
「あら、仕事は終わったのね。」
「はい、そっちも買い物ですか。」
レイネは相変わらず多くの食材を抱えていた。
彼女の作る食事はシンプルながらも深い味でメンバーにも好評である。
「でも今まで巻き込んですみません、自分からとはいえ。」
「気にしないで、私は自分で選んだの、それに堕ちるのも意外と悪くないわ。」
レイネらしい答えだった。
田舎の村のシスターが楽しそうに悪堕ちするとは誰が思ったか。
「それじゃ私は今夜の仕込みをするから、そっちもきちんと休むのよ。」
そう言ってレイネはキッチンへと向かう。
セファーナも部屋に戻りフェラナと共に次のシュリックのリサーチだ。
「というわけなんですが。」
「シュリックか、あそこはリゾート地のある小国、まあなんとかなるかな。」
そうして次の目的地はシュリックに決まった。
夢を叶えるその日まで、その灯火は消させはしない。
その正義が世界に広がるその日まで戦い続けるのだから。
 




