~本能~
バラハ滞在三日目。
セファーナ達は残りの情報を集める事となる。
ヘイロンに言われたのは元外務省の人間が住んでいるとの事。
その人に聞けば何かが掴めるかもしれない。
それを聞けるかはともかく、その人に会ってみる事に。
表向きは国際ジャーナリストという事で接触を試みる。
その人の家は街外れの静かな住宅地だ。
仕事で稼いだ金で買った中規模の一軒家である。
「さて、行きましょうか。」
「ですね、その人から何か聞けるといいですが。」
そう言ってセファーナと四葉はその家へ向かう。
表向きは国際ジャーナリストという事になっているのを忘れずにだ。
そしてその家の前に到着する。
家の入り口にあるチャイムを鳴らしてから少しして声がする。
そこに出てきたのは初老の男性だった。
セファーナはその人に話を切り出す。
「えっと、外務官僚の違法薬物の密売の事で来たんですが。」
「…記者か何かですか?それなら中へどうぞ。」
意外にもすんなり受け入れられる。
家の中に通された二人は単刀直入に話を切り出す。
「それで聞きたいのは外務官僚の違法薬物の事でしたね。」
「はい、国際ジャーナリストとして様々な記事を書いていて。」
そしてその元外務省は神妙に口を開く。
その話は衝撃的なものであった。
「あれは今から五年前ですか、その官僚に薬らしきものをもらいましてね。」
「それが違法薬物ですか?」
当時のものが保管してあるという。
警察に証拠として突き出すかも考えたが、踏み切れないという。
「これです、なんでも外国から買った気持ちよくなれる薬だとか。」
「この文字は…、見た事がありますね。」
元外務省は言葉を続ける。
それはその外務官僚が権力を握ったときの話だ。
「その官僚は当時に組織のトップになりましてね、そのときにもらいました。」
「つまりばらまかれ始めたのもその辺りから?」
だが話はもっと深刻らしい。
その目で見た衝撃の話だという。
「その官僚はドラッグパーティーなどもやっていた、ヤク中ですよ。」
「それなのにどうして今も逮捕されないんですか?」
どうやらその官僚は政治家を買収して黙らせていたという。
その結果クスリが国内にばらまかれ、本人も今も居座っているという。
「そんな…、どうしてそんな事が許されるんですか…。」
「簡単ですよ、お金の力は偉大だという事です。」
それは至極正論だった。
人は金の前に簡単に屈する生き物だからだ。
どんなに綺麗事を言おうともお金を積まれれば簡単に屈服する。
それは世の中の真理であり、人の心の本質でもある。
「まあ簡潔に言えばお金の力でクスリがばらまかれ今も居座っている、ですね。」
「分かりました、それだけ聞ければじゅうぶんです。」
そうしてその元外務省に礼を言い家をあとにする二人。
お金の力の偉大さを改めて思い知らされる事でもあった。
「お金の力、ですか。」
「今までの国でもお金で悪を見逃すケースは多々ありましたから。」
それはお金の力の前に人は簡単に屈服するという現実でもある。
悲しくも本能のままにあるのが現実なのだろう。
とりあえず二人は飛空艇に戻る事に。
飛空艇に戻るとシスシェナが迎えてくれた。
「お帰り、情報は得られた?」
「はい、あとは私はそれを精査しておきます。」
そうしてセファーナは部屋に戻る。
四葉は自分の父の事を思い出し苦虫を噛み潰していた。
「お金の前に人はなぜそんな簡単に屈服するのでしょう。」
「そうねぇ、お金が全てとは言わないけど、お金の力はそれだけ強いのよ。」
商人のシスシェナらしい意見だった。
お金の力の偉大さはシスシェナ自身嫌というほど知っているのだ。
「とりあえず私は部屋に戻ります、カリーユ様とお勉強ですね。」
そう言って四葉は部屋に戻る。
そこにヘイロンが顔を出す。
「あんたも冷たいお方だねぇ。」
「本当の事を言っただけのつもりなんだけどね。」
まだ若く純粋な少女には酷な話だ。
それでもシスシェナはその現実を話している。
「ま、それもシスシェナなりの優しさなんだよね。」
「そういう事にしといて。」
ヘイロンはそれを理解していた。
そしてシスシェナを茶化したあと部屋に戻っていく。
そしてそのタイミングでレイネが戻ってくる。
「あら、何かあったのかしら。」
「ん?ああ、少し現実を見てただけよ。」
シスシェナの見ている現実。
それは悲しくもその通りなものである。
「何があったかは訊かないでおくわ、それじゃ私は食材を運ぶから。」
そうしてレイネはキッチンへと行ってしまった。
シスシェナも分かっているからこそ悔しいのだ。
それでも自分はそんなお金の力で力になる。
そう自分を信じ部屋に戻っていく。
一方セファーナはフェラナと情報を確認していた。
「どうでしょうか。」
「そうだね、本人の証言だし証拠もある、間違いないと思うよ。」
黒で間違いないという事だろう。
ターゲットは決まった、あとは執行するのみである。
小さな腐敗すらも見逃さないその正確さは、鷹の目の如くである。




