~調査~
次の日、セファーナは密かに下町の調査を行う事に。
だが上官や同僚の目もあるため簡単には進まない。
そんな時一つの仕事が入った、それを利用して調査を企てる。
「誰か!下町へ食料を届けてくれ!」
それは下町への定期的な食料の配給だった。
どうやら国からの生活保護に当たるものらしい。
セファーナは挙手をしてその仕事を引き受ける。
そうして荷物の食料を一人で下町へ運ぶ事に。
力仕事は村での生活で慣れたものなので、この程度は軽いもの。
先輩達にも自分一人で足りると言い上手く納得させる。
そうしてセファーナは下町へと向かった。
下町に着いたセファーナは食料を各家に配りそのまま調査に移る。
すると路地裏で声が聞こえた。
「ちっ、また現物支給かよ。」
「だよなぁ、現金でくれればもっと楽が出来るってのに。」
どうやら支給品への不満のようだ。
それにもう少し耳を澄ませる。
「どうする?」
「売っ払っちまえばいいさ、そうすれば遊ぶ金になる。」
その言葉にセファーナは耳を疑った。
貧しい理由、体が弱い理由にも察しがついたのだ。
下町の人達は支給品を横流しして金を受け取る、そしてそれで遊び呆ける。
それを知ったセファーナは言葉もなかった。
とりあえず気づかれないようにその場を立ち去る。
だがその帰り道ゴロツキに絡まれてしまう。
「おう、騎士のねーちゃん、金持ってるか?」
「生憎財布は持ち合わせていませんが。」
その言葉にゴロツキ達は笑みを浮かべる。
「なら少し相手してくれよ、溜まってんだよ。」
セファーナは怒りが込み上げてきた、だが今は我慢だ。
「断ると言ったら?」
「それなら少し痛い目に…。」
その言葉にセファーナはこう返す。
「殴ったら傷害罪ですよ?あと余罪もありますよね?」
「あん?だからなんだ?」
「…殴れるものなら殴ってみてください。」
その言葉は相手に先に手を出させるトラップだ。
先に手を出せば正当防衛による応戦が可能だからだ。
「言うねぇ、女だからって…手は抜かねぇぞ!」
その言葉を待っていた、ゴロツキの拳がセファーナの顔面に飛んでくる。
だがその程度回避するのは容易いのだ。
セファーナは相手の拳を回避し素早く背後を取る、そして足払いから投げ飛ばした。
「ぐはっ!?」
「弱いですね、所詮は訓練も積んでいないチンピラですか。」
「てめぇ…兄貴が黙ってねぇぞ…分かってんのか…。」
兄貴とは昨日の支離滅裂な彼だろう、だが怖くなどはない。
所詮は下町のゴロツキ、騎士が相手をするまでもないのだ。
「それでは失礼します、配給した食べ物はキチンと食べてくださいね。」
そう言ってセファーナはその場をあとにする。
軍舎に戻ったセファーナは上官に報告をする。
遅れた理由もきちんと説明しておいた。
その後訓練で汗を流し今日の仕事は終わった。
寮に戻ったセファーナは今日の出来事を簡単に書類にまとめた。
それをどうするかは上官にも秘密にしておく。
食事を済ませたあと浴場へと向かう。
先客でアーベルが来ていた、あと数人の騎士達も。
アーベルはセファーナに小さな声で尋ねる。
下町の事も説明した。
「そんな事が…。」
「はい、一般的に貴族は腐敗の温床と言われますが実態は…。」
そう、少なくとも貴族達も国も下町を虐げてなどいない。
関心のない者は多いが虐げるほど暇でもないのだ。
「つまり国民の義務を放棄して横暴を働いている…か。」
「はい、恐らく法が適用出来ると思います。」
だが一ヶ月も待っていては国の財政に響いてしまう。
どうするべきか悩むがやはり法に任せるしかないのだろう。
入浴を済ませたあとは部屋に戻って消灯まで読書だ。
法学の本が今でもセファーナの愛読書である。
「うわ、難しそうな本を読んでいるね。」
スコットが驚いた顔をする。
「法律の勉強が好きなんです、昔から。」
「僕には無理そうだね、凄いよ。」
ケーシーも少し呆れた顔だった。
そこにリリーシェが戻ってくる。
感づかれないようにしつつ今日は眠りに就く。
だがセファーナの心の中ではモヤモヤしたものが残っていた。
今日の出来事が少し影を落としていたのだ。
それでも騎士である以上その責務を果たそう、そう言い聞かせた。
だが事態が動くのはそう遠くはない、歯車は少しずつ、そして確実に狂い出していたのだから。