~執事~
ヴァンハイト王国滞在三日目。
今回のターゲットである第三王子について調査を開始する。
ヘイロンに聞いた話では裏通りに元関係者が住んでいるらしい。
無理を承知でその家を訪ねてみる事にする。
セファーナは四葉と共に街の裏通りへ向かう。
言われた家の前に到着した二人は確認をする。
「ここですよね…。」
「だと思います、指定された住所は確かにここですから。」
どうやら間違いはないようだ。
家の扉を叩くと中から声がした。
「どちら様でしょうか?」
「えっと、元王族の使用人というのはあなたで合っていますか?」
その言葉に老人は数秒黙り込む。
そして家の中に入るように言われ、二人は家の中へ。
「さて、何が訊きたいのですか。」
「えっと、第三王子についてなんです。」
すると老人は眉をひそめ口を開く。
この老人が元王室の執事というのは間違いないようだ。
「彼は父、つまり国王には愛されていましたが、王妃には疎まれていました。」
「それはなぜなんですか?」
元執事は第三王子に専属として仕えていた。
当然現場を生で見ている。
「子供のころはとても優しい人でした、ですが王妃から毎日のように…。」
「それで精神が歪んだという事なんでしょうか。」
元執事もその変化を近くで見てきた。
そして話すのは衝撃の事件だった。
「第三王子はある日王妃の食事に毒を盛った、毒殺したのです。」
「そんな…、どうして…。」
元執事もそれには衝撃を受けたらしい。
そして彼が変わってしまったのはそこからだという。
「その日から彼は横暴を尽くすようになりました、その結果浮いてしまった。」
「毒殺は今回が初じゃないんですね、まさか過去にも…。」
今回は初めてではない。
その事実に二人は言葉を詰まらせる。
元執事は今回の一件もそんな野心からの犯行だと考える。
かつては彼の専属だった身、やはり気になってしまうのだろう。
「彼は王になりこの国を変えようとしている、経験からこの国をね。」
「でもたった一人の味方だった人は、結果的に幸せなんでしょうか。」
結果として彼はその過去から国を変えようとしている。
だが手段に取り憑かれた彼には目的が見えていない、元執事はそう語る。
目的は手段を正当化しない。
それにより彼のやっている事は立派な犯罪なのだ。
第三王子はその経験を元に国を平和にしたいと願う。
だがそれに対し目的が手段を正当化したりはしないのだ。
「それでも私だった間違っていると思いますよ。」
「それでも止められないんですか。」
今は執事を引退した身。
王家に口を挟むなど出来ないのだ。
そして元執事はセファーナ達に懇願する。
彼を助けて欲しい、あなた達が何者かは知らないが王子を助けて欲しいと言う。
「私達が何者かは訊かないんですか?」
「訊いたところで意味なんかありません、だけど彼を救えるのなら…。」
元執事はセファーナ達が何者かは薄々感づいているのか。
だが誰かが彼を止めてくれる、それを願っていた。
「分かりました、それが望みと言うのなら。」
「引き受けさせてもらうよ。」
二人はそれに快諾する。
だが正体を明かす事だけは最後までしなかった。
「彼を、巣食ってあげてください。」
「はい、必ずや。」
元執事はどこか悲しそうだった。
かつて忠義尽くした王子の変貌が悲しいのだろう。
セファーナと四葉は彼にお礼を述べ飛空艇に戻る。
飛空艇に戻るとシスシェナが待っていた。
それとヘイロンもである。
「お帰り、どうだった?」
「はい、情報は得られました、流石はヘイロンさんです。」
その言葉にヘイロンは自慢気に言う。
やはり情報屋はダテではないのだろう。
「とりあえず私は部屋に戻ります、何かあったら呼んでくださいね。」
「では私も、失礼しますね。」
そうして二人は部屋に戻る。
ヘイロンも今では欠かせない力である。
「そんじゃ私も戻るわ。」
ヘイロンもそのまま部屋に戻っていく。
そのタイミングでレイネが戻ってきた。
「あら、仕事は順調かしら。」
「一応ね、とは言え今回は結構ものよ。」
あいかわらず重そうな荷物だ。
だがレイネも裏方としてそれを支えているのである。
「何にしても相手を選んでははいらないわ。」
「それもそうね、あたし達はその正義の旗印なんだから。」
自分達の正義、それが今までも掲げてきたものである。
歪だと知っていて掲げるその正義は幾多の悪を裁いている。
「さて、それじゃ私はこれをキッチンへ運ぶわね。」
そう言ってレイネは食材をキッチンへ運ぶ。
シスシェナも出来る事はしておかねばと部屋へ。
一方セファーナとフェラナはその情報を確認している。
「というわけですけど。」
「過去がきっかけか、でもだからって許しちゃ駄目だよ。」
悲しい過去があろうとも罪は罪、フェラナはそれに念を押す。
セファーナもそれに同意し第三王子を狙う事を確認する。
その正義に慈悲はない、確実に相手を追いつめていくのである。




