~鉄鎚~
フィルニール王国滞在六日目。
街は現在の財政担当大臣の逮捕に騒然としていた。
新聞の一面を飾るほどの大ニュースである。
税金の横領だけでなく15年前の事件までもが暴露されたのだ。
それにより不正な献金の事実も浮かび上がり余罪も追求される事に。
国はその証拠のあまりの的確さに黙り込んでしまったのだ。
「どうやら成功したようですね。」
「そうだね、悪い事ってのはどこかから見られてるもんさ。」
悪い事は誰かが見ている。
それはセファーナも人の事は言えないのである。
いつかは自分達も裁かれる日が来るだろう。
だがそのときまで自分達はその正義を曲げる事だけはしない。
その決意は確かにその心に刻まれていた。
「にしても政治家ってなんでどいつもこいつもこういう事するのかね。」
「職権濫用とか立場の悪用とか、そういう事では?」
今までもそんな政治家の悪事を多く裁いてきた。
その多くは黒を白に染めているような連中だ。
自分は神か何かだと思い込んでいたのだろうか。
「政治家が黒いのは世の常、綺麗だったら政治家じゃないよね。」
「それは言い過ぎのような…、綺麗な政治家もいるのでは?」
ヘイロンなりの嫌味なのだろう。
情報屋という仕事上そういう情報も多数扱うからこそだ。
それにより政治家の黒い一面を嫌になるほど見ている。
「政治家なんてロクな生き物じゃないよ、まともな人間はならないさ。」
「本当に辛辣に言いますね、何か恨みでもあるんですか?」
恨みは特にないと言うヘイロン。
だが政治の世界ではまともな人間は駆逐され消される。
だから政治の世界は腐っているのだと言う。
「昔こんな言葉を聞いたよ、まともな人間は政治家じゃなく学者になるって。」
「なぜ学者に?学者もそんな綺麗な職業じゃないような…。」
ヘイロン曰く学者の方がずっと賢いらしい。
政治家など知識もロクにないのに都合の良い言葉を吐くゲス野郎だとか。
「結局さ、世の中ってのは真面目な人間は馬鹿を見る、そういう風に出来てる。」
「真面目にやるだけ損だし、何もメリットがないと?それは流石に…。」
ヘイロンの過去は知らない。
だが情報屋になるぐらいだ、いい過去は持ち合わせていないのだろうと感じる。
「貧しい人間が裕福になんてなれないのさ、逆はあるけどね。」
「でも一攫千金とか会社を起こして成功とか…。」
確かに巨万の富を手にする手段はあるだろう。
だが貧しい人間が裕福になれないとはお金ではないらしい。
「貧しい人間が大金を手にしても結局余らすよ、生活レベルはともかくね。」
「つまりお金を使わないという事ですか?」
ヘイロン曰く貧しい人間は贅沢も相応に貧しいらしい。
だから結果として極端なレベルアップは難しいという。
「貧しい人の贅沢は例えばステーキとかね、金持ちの贅沢は職人を呼ぶとか。」
「なるほど、つまり染み付いているからそれがそのまま贅沢に…。」
贅沢のレベルは人によって違うのだ。
外食が贅沢という人もいれば職人を家に呼ぶのが贅沢という人もいる。
今回の逮捕もそんな金銭感覚の欠如が関係しているとヘイロンは言う。
「お金を使えば経済が回る、でもそれには適切な物価と税金も求められるのさ。」
「ヘイロンさん…、そういう事を言えるような経験でもあるんですか?」
ヘイロンの過去は確かに気になる。
だがヘイロンはそれをはぐらかし飛空艇に戻ろうと言う。
「それは秘密、それより飛空艇に戻ろうぜ。」
「そうですね、仕事は終わりましたし。」
そう言って二人は飛空艇に戻る。
飛空艇に戻るとシスシェナが待っていた。
「おう、お帰り、その様子だと無事に終わったみたいね。」
「ええ、特に問題もなく。」
そしてシスシェナは次の目的地を尋ねる。
「そうですね、ならカロッサ王国に行こうと思います。」
「はいよ、なら準備しとくからね、あんた達は休んどきなさい。」
そう言ってシスシェナは部屋に戻っていく。
ヘイロンも部屋に戻りのんびりしているという。
そのタイミングでカリーユが姿を見せる。
「よう、終わったのか。」
「ええ、終わりましたよ。」
カリーユも今ではすっかりセファーナを信用している。
この約四十年は彼女に確実な変化を与えたのだろう。
「なんにしてもあまり無理はするなよ、いいな。」
「はい、そっちも体は大切に。」
少し話したらカリーユは部屋に戻ってしまった。
するとレイネが戻ってきた。
いつものように食材を抱える姿も見慣れたものだ。
「あら、無事に終わったのね。」
「ええ、あとは次の国のリサーチをしておくだけです。」
レイネも今ではすっかり馴染んでしまった。
聖職者だったとは思えないしたたかさを発揮しているのである。
「そう、でも無理は禁物よ、それじゃ今夜も期待しててね。」
「ええ、そっちもお世話になってますからね。」
そうしてレイネはキッチンへ向かう。
セファーナも部屋に戻り次のカロッサ王国について調べる事に。
部屋に戻るとフェラナが待っていた。
早速次のカロッサ王国について話を進める。
「カロッサ王国、そんな大きな国じゃないけどね、仕事は行ってからだよ。」
「とりあえず分かる事を調べておきますか。」
そうしてリサーチを続ける二人。
そうして次の国に向かう準備は進み夜になる。
英気を養い体を休める一同。
この年月は確実にその心に変化を与えていた。
歪な正義は善悪の二面性を持ち、世界を震わせるのである。
 




