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~先手~

セクスタンス公国滞在六日目。

街は芸術院の院長のロドリグの逮捕で騒然としていた。


逮捕こそ国の警察機関だがそれをさせたのはセファーナである。

その事に今までも国の警察機関は苦虫を噛み潰していた。


セファーナの働きがなければどの国も何かしらの事が起きていたからだ。

そんな今回の逮捕もセクスタンス公国に激震を走らせる事となった。


「これでよかったんですよね、これで。」

「あんたが何を聞いたかは知らないけど、それが望みだったのか?」


ロドリグはもう何もかもが嫌になっていた。

だからこそ今回の逮捕は彼自身が望んだ事なのだ。


嘘を言い訳にして逃げた、それは天才が堕ちた瞬間でもあった。

何もかもが嫌になり栄光だけを手に勝ち逃げする。


それは彼が過去に縛られていた事も意味していた。

天才と呼ばれ、世間から過剰な期待を受ける、その重圧に負けたのだ。


自首しなかったのは彼自身も迷っていたのかもしれない。

いつかは嘘がバレる、それならそのときまで嘘をつき通したのだろう。


この先ロドリグがどんな処遇になるのかは分からない。

だが芸術院に泥を塗った事はこの国では死罪に匹敵する重罪なのだ。


死罪を免れたとしても10年単位での投獄は避けられないだろう。

あとは国に任せるがセファーナはその結末に複雑な感情も確かにあった。


「彼は、もう疲れたんですよ、天才である事に、その名声に。」

「天才ってのは天才にしか分からない悩みを抱えてる、そういうものなんだな。」


それは正論だった。

どんな人にもその人なりの悩みは常につきまとう。


ロドリグは天才と呼ばれる事に悩み続けていたのだろう。

そして重圧に負け絵が描けなくなった。


その結果嘘を言い、光を失った事を演じ続けてきた。

そんな人生に嫌気が差したのか、疲れ果てた彼は凄く苦しかったのだろう。


逃げてしまった事が、世界を騙し続けた事が、苦しかったに違いない。

先日の画廊でもセファーナはその叫びを確かに聞いていたのだから。


悲痛な叫び、誰にも届かない心の叫び、それをセファーナは聞いたのだ。

もしかしたら彼はセファーナの正体に気づいていたのか?


だが彼がセファーナの事を知っていてもいなくてもそれは変わらない。

あの時の叫びは助けを求めていたのだろうか、そうとも考えてしまう。


「ロドリグさんは人生に疲れたんでしょうね、だからこれでいい、きっと。」

「天才ってのは辛い生き物だろうな、天才っていうだけで重圧が凄いんだ。」


凡人には分からない悩み、そんな風にカリーユは考える。

人が抱える悩みは大小様々なのだ、それが届くかどうか、その違いである。


「僕はそのロドリグって奴に同情はしない、でも苦しかったんだとは思うよ。」

「カリーユも人の気持ちが少しは分かるようになったんですね。」


セファーナなりに褒めているのだろう。

カリーユもそれに厳しい口調で返す。


「他人の事なんて分からないさ、でもなんとなく気持ちは伝わるんだ。」

「そうですか、ならそれでいい、いいんだと思いますよ。」


セファーナもカリーユも人の事なんて分からない。

それでもそんな気持ちはどこかで感じ取れるんだとは感じていた。


今回の一件はそんな人の心の叫びを聞いたのだろう。

助けを求める声を、何もかもに疲れ果てた声を、それは本当に悲痛な声なのだから。


「それじゃ戻りますか、行きますよ。」

「ああ、次の目的地も決めなきゃな。」


そうして二人は飛空艇に戻る。


戻るとシスシェナが二人を出迎えてくれた。


「お帰り、その様子だと成功みたいね。」

「はい、特に問題なく終わりました。」


そうしてこの国での仕事は終わった。

シスシェナは次の目的地をセファーナに尋ねる。


「次ですか、ならエインセ王国に行きます。」

「はいよ、なら準備しとくから、あと絵画の買い手には近いうちに会うからね。」


そう言ってシスシェナは次に向けた準備へ向かう。

カリーユは部屋に戻って勉強だ。


そのタイミングでレイネも戻ってくる。


「あら、無事に終わったのね、何よりだわ。」


その手には食材の他にお菓子も抱えられていた。

たまにはご褒美という事らしい。


「なんにしてもあまり無理はしないでね、それじゃあとでね。」

「はい、分かってますよ。」


そう言ってレイネは食材とお菓子をキッチンへと運んでいく。

セファーナは次のエインセ王国についてリサーチをすべく部屋に戻る。


一方ヘイロンはシスシェナと話していた。


「絵画は結局誰に売るのさ?」

「今度ある国で新しく出来る美術館に高く売りつけるわ、いい機会よ。」


どうやら新しい美術館に買い取らせるらしい。

それなら結構な値で売れるのは確かであろう。


それは商人のシスシェナらしい商談相手だった。


一方のセファーナは部屋で次のエインセ王国について調べる。


「というわけなんです、どうですか?」

「いいと思うよ、あそこは娯楽の国だから面白いものも見れるかもね。」


そうしてリサーチは夕暮れまで続いた。

その後は次に向けて英気を養う。

そうして次の国への準備は進むのだ。


セファーナ達の名前は世界にすでに知れ渡っているのだから。

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