~情報屋~
ワイマール王国滞在六日目。
街は大臣の逮捕で大騒ぎになっていた。
黒羽の使者がやったとの報告も出ていて、その騒ぎの大きさが分かる。
この大国にまで出現した黒羽の使者。
それは国の政治の中枢にまで衝撃を与える出来事だった。
国の議会は選挙前の大切な時期にやってくれたと頭を抱えているらしい。
「なんとか成功しましたね、ヒヤヒヤしました。」
「まさか本当に成功させるなんてな、大した奴だよ。」
カリーユも今回ばかりは褒めるしかなかった。
普段はあれだけ憎まれ口を叩くカリーユが褒めたのだから。
セファーナ達はその騒ぎをよそにその場をあとにする。
そのまま向かった先は人気のない裏通り。
なぜそんな場所に向かったか。
それは仕事をしている時に何者かに見られている感覚を覚えたからだ。
「…さて、いい加減に出てきたらどうですか?」
「隠れて見てたのはとっくに気づいてる、何者だ?」
するとそこから出てきたのは幼い少女だった。
だが彼女は只者ではない。
それを二人は瞬時に感じ取った。
そしてその少女に優しく問いかける。
少女は人が誰もいない、来ない事を確認して口を開く。
「えっと、お嬢さんは私達に何かご用でしょうか?」
「あんた、セファーナだよね?黒羽の使者って言われてる。」
その言葉にセファーナとカリーユは瞬時に武器に手をかける。
だが少女は続ける。
「あー、そんな警戒しなくていいよ、通報したりはしないから。」
「信じるとでも?その無防備も油断させるための…。」
警戒心を解かない二人。
だが少女はそれを証明すると言い出した。
「はぁ、ならこいつを見て、これで信じてくれると思うよ。」
「…情報屋?ヘイロン・ビーゲル?」
その名刺には情報屋と書かれていた。
本当かと疑いつつ彼女に質問を続ける。
「本当に情報屋だとしてもなぜそれが私に接触を?」
「簡単だよ、あんたが大好きだからさ、それで気になって今まで調べたよ。」
どうやら嘘は言っていないと見える。
その目には濁りがない、純粋な瞳だ。
「ここで提案なんだけどさ、私を仲間にしてよ、きっと役立つぜ。」
「なら証明してみせてもらえますか?」
セファーナはこの期に及んで疑い続ける。
ヘイロンもそれを証明するために何をすればいいのかと問う。
「そうですね、では私の出身を答えてもらえますか?」
「エルミナス王国アルゴー村、騎士になって異動の後今に至る、でしょ?」
その言葉は的確だった。
ヘイロンはさらに言葉を続ける。
「突然の開戦に伴い逃亡、そこから今の仕事を始め帰国の後母国は滅亡。」
「…その通りです、本当に調べたんですね。」
その正確さに驚くしかなかった。
だがカリーユが突っかかる。
「あんた、その情報を持ちながらなぜ通報しない。」
「そんなの簡単だよ、あんた達にシンパシーを感じてるからさ。」
どうやらここまで言うからには嘘ではないのだろう。
セファーナも武器から手を放し改めて彼女に問う。
「本当に仲間になるって言うんですね?簡単な仕事ではありませんよ。」
「そんなの承知の上様さ、そうでなかったらそんな事言うわけないじゃん。」
どうやら本気のようだ。
ヘイロンはさらに続ける。
「それでどう?私を仲間にしてくれる気になった?」
「いいでしょう、ただし三ヶ月の間は監視をつけます、いいですね?」
あくまでも様子を見るという事だ。
ヘイロンもそれを怒る事もせずに受け入れる。
「りょーかい、なら宜しく頼むよ。」
「信用したわけじゃないって忘れるなよ。」
カリーユはこの期に及んで突っかかる。
ヘイロンもそれに対し笑顔で返す。
そうして新たな仲間を増やし飛空艇に戻る。
飛空艇に戻るといつものようにシスシェナが出迎えてくれる。
「お帰りー…ってそのガキンチョ誰?」
「ガキンチョじゃねーよ、これでも大人だ、私はヘイロン、仲間になった。」
子供扱いに不服なヘイロン。
シスシェナもそれについては謝った上で言葉を続ける。
「ふーん、まあ少しは様子を見るわよ、仕事は出来るんだろうし。」
「一応情報屋だからね、情報集めは任せとけ。」
自信満々に言うヘイロン。
シスシェナはとりあえず部屋の事を説明する。
部屋は余っているものの家具がないので出発前に揃えるとの事。
それまでは床で寝るようにと言う。
「厳しいなぁ、まあ少しならいいよ。」
「それじゃその部屋に案内するわ、行くわよ。」
そう言ってシスシェナはヘイロンを部屋に連れていく。
そのタイミングでレイネが戻ってきた。
「あら、戻ってたのね。」
「はい、あと仲間が一人増える事になりました、少し頼んでいいですか。」
レイネにヘイロンの事を頼む事に。
レイネもそれを承諾する。
「分かったわ、任せておいて、それじゃね。」
そう言ってレイネはキッチンへ。
セファーナとカリーユもそれぞれ部屋に戻る。
フェラナにもその事を伝えておいた。
なお次の目的地はフーバー王国に決まった。
そうして日が暮れていき次の目的地に向け気合を入れなおす。
新たな仲間を加え仕事の効率はさらに上がるのである。
将来に結成するその組織に向け土台は出来ていくのである…。
 




