~今後~
ジーベル王国滞在六日目。
国内は傭兵を管轄する組織のトップの逮捕で騒がしい。
傭兵達も感づいているようだ。
やったのは黒羽の使者なのだと。
セファーナはそれを遠目に見ていた。
自分達の正義を粛々と執行したその顔には清々しささえある。
「結局人は欲には勝てないんでしょうね。」
「でも欲望を持たなくなったら人じゃなくなるだろ。」
カリーユがもっともな事を言う。
人とは欲望を抱く生き物なのだから。
そんな中背後から声がする。
「おや、何事かと思えば面白い事になっていますね。」
それはレザースだった。
彼はこの逮捕劇に表情も変えずに語る。
「誰がやったのかは知りませんが、悪人を逮捕させるとは大したものです。」
「あんたも興味があるのか?」
カリーユがレザースに問う。
それに対し意外な答えを返すレザース。
「興味はありますよ、とはいえあるのはその確実で精巧な手口にですが。」
どうやら興味があるのは悪人ではなくその手口らしい。
確実かつ逃げ場のないその手口はレザースも褒めているのだ。
「ここまでやれるとは相当な手練なのでしょうね。」
「その犯人の姿が見えなくてもですか?」
確かに過去にも犯人の顔を見た者は誰もいない。
その手口には中央政府すら困惑するほどだという。
「とはいえ法の裁きでは限界もある、この手口はしょせんは見せしめにすぎない。」
「その見せしめで犯罪が減ったとしてもですか?」
レザースもそれには感心する。
その犯罪を減らすための見せしめにやる行為にだ。
「犯人は国の汚職を減らすために逮捕に追い込んでいる、面倒な人ですよ。」
「あんたは誰の味方なんだよ、食えない奴だな。」
カリーユは気に食わないようだった。
元々初対面の人間を信用しない性格故なのだが。
「まあ私には関係のない話です、国が少しでも綺麗になるならいいのでは?」
「相変わらず読めない人ですね、本当に。」
セファーナもそれを疑っている。
とはいえ悪い人には見えないので深追いはしないようにする。
「あなたも気をつけた方がいいですよ、誰が見ているか分かりませんしね。」
その言葉は意味深に聞こえた。
誰が見ているか分からない、それはそうである。
「さて、私は行くとしますか、それではご機嫌よう。」
そう言ってレザースは去っていった。
結局彼が何者なのかは知れなかった。
「あの人は結局何者なんでしょうか?」
「知るか、嫌味な奴なのは確かだったけどな。」
カリーユなりの感想だった。
どこかスカした人ではあるが悪い人には見えない。
それは薄々感じ取っていたが踏み込む事はしなかった。
またどこかで彼に会うのか、それを考えつつ飛空艇に戻る。
飛空艇に戻るとシスシェナが出迎えてくれる。
「お帰り、その様子だと問題はなさそうね。」
「はい、特には問題なしですよ。」
報告を終え今後についても相談する。
「出来れば仲間を増やしたいところですね、どうにかならないでしょうか。」
セファーナは仲間を増やしたいと言う。
だが大所帯にするわけにはいかない、そこが悩みだった。
そんな中以前の言葉を思い出す。
それは掃除屋と言われたあの言葉だった。
仲間を増やせないなら現地に仲間を置ければいい。
つまりその国に同志を作り組織として動かすのだ。
とはいえ連絡手段が問題になる。
機械的な通信は発展途上、手紙の連絡も時間を要する。
とりあえず今は構想として考えておくだけにする。
今後技術の発展があったときにそれを実現出来る事を信じて。
「仲間を増やすってどうするのよ?」
「今は構想だけにしておきます、この先それが出来るかもしれませんし。」
今はあくまでも構想の段階である。
今後その組織を旗揚げする事は決定事項だが今は保留案件だ。
「それはこの先の話ですね、今はどうにもなりませんよ。」
シスシェナもそれを考え、今の時点での構想として留めておく。
とりあえずこの国での仕事は終わったので次の目的地を尋ねる。
「次はクィン王国に行きます。」
「はいよ、なら準備しとくわね。」
そう言ってシスシェナは準備に向かう。
「それにしても大きく出たもんだな。」
「組織化の事ですか?でも悪くはないですよね。」
セファーナをリーダーとする組織の旗揚げ。
それは今は難しいがこの先の未来ならあるいは。
「とりあえず僕は勉強してるからな。」
そう言ってカリーユは行ってしまった。
セファーナは部屋に戻りフェラナと今後を相談する。
そのあとレイネが戻ってくる。
手には食材が抱えられていた。
「お、あんたも戻ったわね。」
シスシェナがレイネを出迎える。
レイネもじゅうぶんな稼ぎを手に入れたようだ。
「お金は結構稼いだわね、これでいつでも飛び立てるわよ。」
「そいつはどうも、あんた意外とやり手ね。」
素直に褒めるシスシェナ。
レイネもその言葉を受け取りキッチンへ向かう。
その後は次の目的地へ向け準備を整える。
セファーナ達の目的のためにも知名度は必要だ。
新たな目標に向けその正義は加速していくのである。




