~呪術師~
ジーベル王国での仕事を始めて三日目。
情報は順調に集まりつつある。
セファーナは今まで以上に仕事に集中する。
仲間の力は頼もしいと改めて感じていた。
「…それにしても傭兵が多いですね。」
「そうだな、仕事はあるんだろうが人数が多い。」
カリーユも傭兵の多さには感心していた。
そんな中道に落ちていた財布に気づく。
くすねるつもりはないが一応拾っておく。
そんな中揉め事に遭遇する。
「おい、あんた俺から財布盗ったろ。」
「なんの事ですか?私は今ここを通ったのですが?」
どうやら財布をなくした傭兵と旅の魔道士らしき人が揉めているようだ。
「とりあえずその財布は私は知りません、取得物として届けられているのでは?」
「むぅ、なら証拠…ってもその格好じゃ隠せないか。」
そういえばさっき拾った財布があった。
それではないかとセファーナは二人の間に割って入る。
「あの、もしかしてそのお財布ってこれですか?」
セファーナが財布を傭兵に見せる。
「あっ、そいつだ、お嬢さんが…盗ったんじゃなくて拾ったのか。」
「ええ、さっきそこで。」
そう言って財布を渡す。
傭兵もそれに対して魔道士と思われる男に頭を下げる。
「別に気にしていませんよ、見つかってよかったですね。」
傭兵は謝罪をした後その場を去っていく。
魔道士らしき男はセファーナにも礼を言う。
「助かりました、相手が物分りがいいとはいえイチャモンは困りますからね。」
「えっと、あなたは傭兵…ではないですよね?」
セファーナはそれについて一応尋ねておく。
「おっと失礼、私はレザースと申します、旅の呪術師ですよ。」
魔道士ではなく呪術師だった。
だがその隙のなさから彼が只者ではないと感じ取る。
「あなたは…面白い人のようですね、実に。」
「えっ?それはどういう…。」
不意をついた言葉だった。
彼は見透かすような目であえてはぐらかしつつ言う。
「なんでもありませんよ、ですがあなたからは私と同じ臭いがする。」
同じ臭い、つまり彼も似たような仕事をしているのだろうか。
だがあえて詮索はせずに彼と話を続ける。
「まあ深い意味はありません、ですが私もあなたもまとう空気は同じ、それだけです。」
それは似たような空気を感じ取ったという事だろうか。
結局その意味は今は分からなかった。
「自分は正しいと思っている、いつかは切られるでしょう、それは運命です。」
「それは…どういう意味ですか。」
結局意味は教えてくれなかった。
その不思議な呪術師のレザースは不敵に笑う。
「ふふ、まあそれも正しさを求める者の果てにあるものですよ。」
レザースは似たような空気や臭いと言う。
同じような事をしているとも思えないが深追いはしない事にした。
「話に付き合わせてすみませんね、では私は失礼します、アリーヴェデルチ。」
そう言ってレザースは去っていった。
彼は何者だったのか、それは分からずじまいだった。
「あいつ変な奴だったな、スカした奴だよ。」
カリーユはどうにも気に入らないようだ。
とはいえ彼からはどこか不思議なものを感じたのは確かだった。
とりあえずそのまま情報収集を再開する。
調べられる限りは調べ今日の仕事は終わる。
そのまま飛空艇へ戻り情報を精査する事に。
「お、お帰り、仕事は無事に終わったみたいね。」
シスシェナが出迎えてくれた。
報告をした後部屋に戻りフェラナと共に情報の精査を始める。
カリーユは部屋で技術の勉強をするらしい。
シスシェナは裏方として出来る限りは支えているのだ。
そんな中レイネが戻ってくる。
「ただいま、戻ったわよ。」
「お、お帰り、稼ぎはどうよ。」
レイネは短期求人でお金を稼いでいる。
今回の仕事は酒場でのウェイトレスらしい。
「上々ね、これなら滞在中は少し余裕も出来そうよ。」
稼ぎは上々らしい。
今まではセファーナがそれもやっていた分負担は減ったので楽になった。
「とりあえず食材とか買ってくるわね、注文とかある?」
「ならお酒もお願い、リキュールね。」
その注文を受けレイネは食材を買いに出る。
一方のセファーナは情報を精査している。
今回のターゲットは国で傭兵を管轄する組織のトップだ。
相手にすれば戦いは避けられないだろうから、慎重になっているのだ。
「今日はこんなものですか、今回は用心していますし。」
「そうだね、武力でぶつからないようにするのは苦労するさ。」
戦いにならないように慎重かつ正確な裏取りを進める。
とりあえず今日はここまでにして明日以降も調査を継続する。
「さて、それじゃ夜の献立でも考えておきますね。」
そう言ってセファーナはキッチンへ向かう。
「セファーナも立ち直ったみたいだね、あれでこそ、かな。」
フェラナもそんなセファーナの背中を見て少し大きくなったように感じていた。
その後は食事を済ませ明日以降の仕事に備える。
今回の執行の日は少しずつ近づいている。
運命の歯車は鈍い音を立て回っているのだ。




