~霧散~
エルミナス王国全土を大地震が襲った。
セファーナ達はなんとか逃げる事に成功する。
だが耐震など当然されていないこの時代だ。
あの建物の崩壊に巻き込まれて生きているのは難しいだろう。
セファーナ達は揺れの及ばない三つ隣のトラウム王国に避難していた。
「セファーナ…落ち込んでたわね。」
「仕方ないよ、自然災害、それもあの地震でまた自分だけ助かってさ。」
シスシェナとフェラナはかける言葉が見つからなかった。
レイネは信じる事しか出来ない、カリーユも今はそっとしておくと言う。
「元々エルミナス王国は地震があったんだっけ?」
シスシェナは経験はなかったようだ。
だが気象関係のニュースは図書館に行けば記事が残っているかもしれない。
シスシェナはセファーナの事を任せ図書館に向かった。
一方のセファーナは自室で塞ぎ込んでしまっていた。
「どうだ?様子はなにか変わったか?」
「駄目ですね、返事はありません。」
カリーユとレイネも心配だった。
だが下手な言葉はかえって傷つけてしまう、今はそっとしておくしかない。
「そういえばあなたはハーフエルフなのですね。」
「そうだ、あんたも僕を差別するのか?」
カリーユは疑うようにそう問いかける。
「差別なんてとんでもない、どんな種族でも神は等しく見ています。」
それは信仰心の強いレイネらしい言葉だった。
「そうか、でもまだ認めたわけじゃない、忘れるなよ。」
いつものメンバーには心を開くがレイネには冷たく当たる。
それはカリーユが知らない人間を信じられないという事でもある。
「それでセファーナ達はこの八年間何をなさっていたのですか?」
「…お前に言ったら幻滅するし怒る、お前はそういう奴だろ。」
それは当然だった。
レイネは聖職者だ、セファーナの今までの事を話せば当然怒るに決まっている。
「言えないというのですか?」
「言えないわけじゃない、でもお前に言うと怒るから言いたくないだけだ。」
カリーユはレイネの事を見抜いていた。
あのセファーナが悪人を断罪していた、当然怒るだろうと分かっているからだ。
「でもあのセファーナがあなたを世話していたのですよね?」
「そうだ、フィクサリオ公国で孤児だったのを拾われたんだ。」
レイネはそれを聞いて安堵する。
やはりセファーナは何も変わっていないのだと。
「僕は少し飲み物でも買いにいく、留守番してろ。」
そう言ってカリーユは行ってしまった。
それと入れ違いでフェラナがやってくる。
「あなた聖職者なんですってね。」
フェラナは率直にそれを訊く。
「ええ、アルゴー村の教会でシスターをしていました。」
「ふーん、あたしは神様とか信じないけど敬虔な人なんだ。」
フェラナは元研究者という事もあり宗教などには無関心だった。
非科学的なものには興味を示さないのもフェラナらしさだからだ。
「それでフェラナさんはどういうご関係なんですか?」
「あたしはセファーナに拾ってもらった、無気力だったとこをね。」
フェラナは恩義も感じていた、だからこそセファーナについていくと決めたのだ。
こう見えても義理堅く恩義には報いる性格をしている。
「はぁ、とはいえお仕事ですよね?カリーユさんは教えてくれませんでした。」
「言ってもいいけどあんた確実に怒るよ?怒られたくないから言わないでおく。」
フェラナらしさが出ていた。
こう見えて危険を察知する能力は高いのだ。
「もしかして悪い事ですか?それとも危険に巻き込むような事ですか?」
レイネは気になって仕方なかった。
とはいえ説教はされたくないので黙秘を貫くフェラナ。
「一体何を…言えないような仕事なんて…。」
「それならついてくる?あんたの目で確かめて好きに言えばいいよ。」
それは意外な言葉だった。
自分の目で確かめろ、それに対しレイネも返事をする。
「ならそうさせていただきます、その上で判断させていただきますから。」
レイネも多少強引ではあるがついてくる事になった。
とはいえ聖職者の彼女がなんと言うのか。
しばらくしてシスシェナが戻ってくる。
どうやらエルミナス王国は定期的な周期で大きな地震が起きていたらしい。
「あの国は100年周期で大地震が起きてる、復興と崩壊の繰り返しよ。」
「そんな…でも復興出来ていたなら今回も…。」
シスシェナは続ける。
「とはいえ空から見た限り今回は過去に類を見ない規模の大地震よ。」
「あたしも確認してた、地面に亀裂が入ってたよね?」
地面に亀裂が入るほどの大地震。
それだけで規模の大きさが分かる。
さらには地震による二次災害、津波なども考えられる。
そう考えると戻るのは今度こそ不可能であろう。
今はセファーナが立ち直るのを信じるしかない。
しばらくはトラウム王国に滞在する予定を組み今後を考える。
この地震がセファーナの心に与えた影響。
それはさらなる歪を生み出す事となるのだった。
運命は何度でも試練を与える。
彼女の心を試すかのように…。
 




