~悪事~
ミューア公国滞在六日目。
街は例の悪徳商人の逮捕で持ちきりだった。
普段は恐れられる事も多いが、今回は英雄扱いだった。
それだけその悪徳商人はこの国にとっての腫瘍だったらしい。
「…英雄扱い、それもあるんですよね。」
「自己満足の正義でも英雄扱いはされる、そんなもんだろ。」
カリーユはこの八年でそんな正義の何たるかを見ている。
それこそ恐れられもすれば英雄とも呼ばれた。
それは国によって変わるものでもあった。
だからこそその正義に対して信頼も持つようになっていた。
「まあどうなろうと僕は知らないさ、それも人生だろ。」
カリーユなりの人生観はすでに構築されているようだ。
孤児だった自分を拾い見捨てる事なく育ててくれた人。
そんな人に対して今は恩義も感じている。
「結局は私の自己満足ですけどね、それでいいんです。」
「お前も歪みきってるよな、怖い奴だよ。」
すると後ろから聞き覚えのある声がする。
「あの商人逮捕されたんだ、例の黒羽の使者がやったんだね。」
店主はそれを知っていたようだ。
この八年での世界中での噂だ、知らぬはずもない。
「でもあの商人は相当な利益を独占してた、狙われるのも分かるよ。」
店主も商人の事は知っていたようだ、寧ろこの国では周知なのだろう。
「相当な利益独占だったってどれぐらいなんですか?」
知らん顔でそれを尋ねるセファーナ。
だが本当は知っているのにあえて訊くのだ。
「聞いた話だとこの国の八割は独占してたらしいね。」
商業国における八割は馬鹿にならない金額である。
しかもそれだけでなく違法なカジノまで経営していたらしい。
「表向きは暴利を貪り裏では闇カジノ、どれだけ稼いだのやら。」
「そのお金はどうなるんでしょう。」
「多分国の税収として徴収されるよ、脱税もしてたらしいしね。」
まさに悪徳商人ここに極まれりだった。
国としてもようやく肩の荷が下りたというところだろう。
「でも国も手を出せないっていうのも怖いものだよね、本当にさ。」
「そうですね、それだけ権力を持つようになったという事ですか。」
富を盾に権力を振りかざす。
そうする事で横暴の限りを尽くしていたのだろう。
それは金の力を嫌というほど教えてもくれた。
「まあ結局世の中はお金が回らないと成り立たないって事だよ。」
「経済の基礎、ですよね。」
経済とはお金を使う事で回るものである。
特に富裕層がお金を使う国は経済も発展しているのが世界だ。
国によっては税金をもっと納められる、そう言う富裕層もいるらしい。
「僕みたいな大きくもない商人が言うのもあれではあるけどね。」
「それでもこの国の経済が停滞していたのもあの人のせいですか。」
悪徳商人のせいでこの国の経済は危険な水準になっていた。
これでようやく、少しずつこの国の経済も回復していくだろう。
店主はそれを信じてこれからも商売を続けていくそうだ。
「さて、それじお給料は用意しておくからね、あとで店に来て。」
そう言って店主は店に戻っていった。
セファーナもその後給料をもらいに店に出向いた。
そうして明日の出発に向け必要なものを買い揃えた。
飛空艇に戻ったセファーナはシスシェナに次の目的地を告げる。
「行くのね、エルミナス王国に。」
「はい、危険な目には遭わせませんから。」
セファーナの覚悟は本物だった。
情報は充分なほどに集まっている。
家族や仲間の生死を確かめたい、今はそれだけだった。
「とはいえあの国は新生グラマン軍が占領してる、分かってるわね?」
「はい、それを承知の上で行くんですから。」
シスシェナも覚悟は決めていた。
何かあったときのためにいつでも拾えるように動いてくれるとの事。
「あたしはあんたを拾えるようにしておく、基本的には単独よ。」
「分かっています、あとカリーユも連れていきます。」
カリーユもこの八年で強くなった、軍隊ぐらいなら戦えるだろう。
シスシェナはそれに反対もせずに承諾する。
「なら思いっきり暴れてきなさい、いいわね?」
「はい、そのために行くんです。」
そうして目的地はエルミナス王国に決まる。
今のエルミナス王国は危険な場所だ。
それでもこの八年で強くなった、それを信じるのみである。
その後部屋に戻る、カリーユは剣を振るというので広間へ行く。
部屋の前ではフェラナが待っていた。
「その様子だと決まったね?」
「はい、エルミナス王国に行く、決めました。」
フェラナもそれを支持してくれる。
軍隊の情報は少ないものの多少は情報も得ている。
「あたしも出来る限りのサポートはする、でも無理はしないでね。」
フェラナも彼女なりに心配はしてくれる。
そうしてエルミナス王国に向かう日が近づく。
だがその帰還が運命をさらに別の道に進めようとは今は知らない…。




