~親友~
ミューア公国滞在三日目。
仕事をしつつ悪徳商人の情報を集めるセファーナ。
今は倉庫の棚卸しの仕事に精を出す。
力仕事など慣れ親しんだものである。
「ふぅ、こんなものですか。」
今ある商品は大体は棚卸しが完了した。
次の仕事までは時間が多少ある。
それまでは休憩という事になり、店主から休んでいいと言われた。
「セファーナさんは力仕事に慣れているね、大したものですよ。」
「ええ、昔村で力仕事はよく手伝っていましたから。」
それは平和だったときの話だ。
今のセファーナは歪な正義を掲げる黒羽の使者である。
「そういえば主人はこのお店は個人経営なんですね。」
「まあね、僕が何かしても罪滅ぼしになるかは分からないけどさ。」
店主は過去に何かあったらしい。
失礼を承知でそれを尋ねるセファーナ。
「僕の過去、か、大切な人を見捨てて生きてきた、それだけさ。」
「大切な人を見捨てた…ですか?」
それは自分にも重なるものがあった。
仕方なかったとはいえ家族や親友を捨てて逃げた過去があるからだ。
「僕はね、昔は結構な不良だった、そのときの話さ。」
昔は荒れていたらしい。
そのときの事が今でも忘れられないという。
「あのとき僕は仲間を見捨てて逃げた、今思えばその程度なのかもね。」
セファーナはその仲間の事を尋ねる。
「あのとき警察に僕は仲間を売り渡した、それで今ものうのうと生きてる。」
「でもどうしてそんな事に?あなたがそれをやったんですか?」
店主は当時の事を思い出しつつ語ってくれる。
「僕はそのグループを抜けたくてね、警察が腐敗してるって知ってたんだ。」
「それでその仲間はどうなったんですか?」
仲間達の顛末は酷いものだった。
それから逃げた、そして仲間を見殺しにしたらしい。
「仲間達は酷い尋問を受けた、そのまま精神鑑定送りさ。」
腐敗していた警察がそれで済ませるわけもなかったのだろう。
精神鑑定に送られたその仲間達はさらに酷い事になったらしい。
「そのまま少年院に送られてね、そこで薬漬けにされたって聞いてる。」
それは腐敗した組織の暴挙だった。
何もしてない仲間達を売りその結果を招いたのは自分自身なのに。
抜けたいという焦りがそれを起こしてしまったのだ。
「そのまま彼らは精神を破壊され廃人だよ、僕のせいでね。」
「それで…そのあとはどうなったんですか?」
その後も気になっていたためあえて踏み込む。
だがその結末は悲惨なものだった。
「それで結局そのまま彼らは自殺した、僕がそうしてしまった。」
彼らは精神異常者となりそのまま自殺したという。
抜けたいという焦りが彼らを殺してしまった。
店主はそれを今でも悔やみ続けているらしい。
「謝っても許されないのは分かってる、でも今でも怖いんだ。」
「その過去が縛り付ける、ですか?」
その過去に怯える店主、間接的とはいえ殺したのは自分だからだ。
「彼らはそれでも親友だった、道を踏み外しただけでね。」
今でも彼らを親友と呼ぶ。
それは本当にそう思っているからだろう。
「因果っていうのは巡り巡って自分に返ってくる、いつか僕も…。」
「それでそれが怖いんですか?」
その質問に店主は答える。
「怖くなんかないよ、それが罰だというなら受け入れる、それだけさ。」
店主の目は覚悟に満ちていた。
罰だというなら甘んじて受けよう、そんな覚悟だ。
「だから、そのときまでは仕事をするさ、それが僕の生き方だ。」
そう言って店主は腰を上げる。
「さて、次の仕事までもう少しあるし数の確認しておいて。」
「はい、あと箱の数も確認しておきますね。」
そうしてその後も仕事を片づけ今日の仕事が終わる。
給料を受け取り飛空艇に戻るセファーナ。
戻るとシスシェナが出迎えてくれる。
「あら、お帰り、仕事は順調かしら。」
「はい、特に問題はなく順調です。」
そうして今後の予定も確認する。
そのあとは情報の精査をするべく部屋に戻る。
部屋に戻りフェラナと共に情報の精査を始める。
そんな中フェラナがセファーナに問う。
「ねえ、母国には帰るんだよね?」
「はい、そろそろ機会かと思ってます。」
エルミナス王国に戻る覚悟は決まっているようだ。
次の目的地はエルミナス王国、そう決めている。
危険はもちろん覚悟の上だ。
それでも大切な人が生きている可能性を信じたいと思った。
今の自分には傲慢な願いだと分かっていても。
「次はエルミナス王国、それは近く伝えますよ。」
「そう、ならあたしもとことん付き合うよ、いいね?」
フェラナもその覚悟は決まっているようだ。
そのまま今ある情報の精査を終え食事の準備に移る。
そうして日が暮れていき今日の仕事が終わる。
母国に帰るまでもうすぐなのだから。
だがその帰還がセファーナの闇を強くしようとは今は誰も知らない…。




