~慈悲~
ペリアン王国滞在六日目。
国内は大佐の逮捕で持ちきりになっていた。
国内はそれに伴い号外が配布されている。
軍隊も黒羽の使者はまだ国内にいると睨み捜索を続ける。
「…成功ですね。」
「にしてもあんた慈悲もないよな、冷血な奴だよ。」
カリーユはセファーナを冷血だと言い切る。
だが命を法に委ねるだけ優しいとも思っていた。
「私はこの手で命は奪いません、それだけは決めています。」
「優しいんだか冷酷なんだか分からないもんだな。」
カリーユなりに思うところはある。
だが差別を嫌い法を理解しているのも確かだ。
すると食堂の店主が声をかけてきた。
「セファーナか、まさかうちの国にまで出るなんてね。」
「そうですね、犯人はどこに消えたのやら。」
セファーナは顔色一つ変えずに白を切り通す。
「噂は聞いてる、法律による裁きに誘うだけで直接手は下さないだろ。」
世界的にもその情報は知れ渡っていた。
それもそのはず、この三年で幾多の国でその裁きが下されたかである。
「にしても法律任せ、それも逃げられないほど決定的な証拠、か。」
「証拠さえあればきちんと法律で裁ける、それは確かですよ。」
だが店主も疑問を述べる。
「仮にそうだとしても芋づる式になったら刑務所もパンパンだろうに。」
「多分見せしめに一人逮捕して抑止するのが目的では?」
それはセファーナの手口そのものだった。
狙う相手は特に黒い相手であり、それにより周囲に抑止力を与えるのだ。
「なるほどねぇ、特に黒い奴を狙って抑止力か、賢いもんだね。」
だがそれは的を射ていると店主も感心する。
「実際こうなったら身辺チェックは必要になる、だな。」
「ええ、犯人の目的はターゲットを使って国の汚れを洗い出す事かと。」
あくまでも他人事のように手口についての分析を語る。
実際今までの国でもこの手口により汚れた人間が多数洗い出されている。
「そんな賢いやり方とか犯人の目的は断罪じゃないのか?」
「勝手な推測ですけど国の中枢の浄化、それが目的なのかと。」
店主はそれを評価するような口振りで言う。
「それなら寧ろ国内の清掃、掃除屋ってとこか、意外といい奴なのか?」
「掃除屋ですか、確かに表現としてはいいかもしれません。」
店主もそれを評価すると同時に不安も口にする。
「だが国としては戦々恐々だろうな、不安になるのも無理もない。」
「そうですね、とはいえ犯人の目的は明白でもあります。」
店主は犯人についても考えを述べる。
「まあ悪い奴じゃないんだろう、やってる事はともかくとしてもだが。」
「その犯人もいつかは法によって裁かれる、そのときが来ますよ。」
「そりゃそうだ、まあ今は名も無きヒーローって事でいいな。」
店主は犯人には肯定的だった。
間違っていると認めつつもその信念には感心していたからだ。
「さて、俺は仕事に戻る、最後の給料をやるからあとで店に来な。」
店主はそう言って店に戻っていった。
セファーナ達もそれを見送り飛空艇に戻る。
「お、お帰り、その様子だと成功ね。」
「はい、特に滞りなく。」
シスシェナはその手口に感心するばかりだった。
そして次の目的地について尋ねる。
「次はどこに行く?もう決まってるでしょ。」
「そうですね、次はリトルトン王国に行きます。」
「はいよ、そんじゃ準備しとくから。」
次の目的地はリトルトン王国に決まった。
リトルトン王国は機織りで有名な国らしい。
「それじゃ僕は剣でも振ってる、用があるなら呼べばいい。」
そう言ってカリーユは広間に向かう。
最近は積極的に剣の稽古をしているらしい。
セファーナは次のリトルトン王国をリサーチすべく部屋に戻る。
「おや、お仕事お疲れ様。」
フェラナがセファーナの部屋の前で迎えてくれる。
そのまま二人は部屋の中へ。
「さて、次の目的地は決まったのかな?」
「次はリトルトン王国です、ご存じですか?」
フェラナはリトルトン王国について知っている事を語る。
「あの国は高地にある商業国だよ、紅茶なんかが名産だね。」
リトルトン王国は高地にある国らしい、つまり山の上という事だ。
「でもそれでも行きますからね、まだ諦めてませんし。」
「エルミナス王国の事だね、あたしも情報は集めてる、安心して。」
セファーナは今も母国の事が気になっていた。
情報は少しずつだが集まり内情は見え始めている。
「エルミナス王国に行くのはもう少し先だね、今は情報が優先。」
「分かっています、そのときまでは無駄には言いません。」
その後リトルトン王国について今ある情報を確認する。
そうして日が暮れていき夜の食堂へと繰り出す。
この国での最後の給料をもらい出発の準備を整える。
そうして出発まではこの国で静かにしている事になる。
その運命の歯車は静かに鈍く回り続ける。
それは未来を暗示するかのような鈍い音と共に…。




