~更正~
ペリアン王国滞在三日目。
セファーナは食堂で働きつつ情報を集めていた。
今回の職場は軍隊向けの大衆食堂だ。
昼間の忙しい時間を乗り切り今は休憩時間、店主と二人まかないを食べていた。
「美味いか?うちの自慢の飯は。」
「はい、軍隊飯って感じはしますけど。」
そう言ってまかないの肉丼を平らげる。
その食べっぷりに店主も満足気だ。
「あんた意外と食べるね、その細い体で見事だ。」
「昔は騎士をしていましたから、食べるのは慣れてますよ。」
その言葉に店主は意外そうな顔をする。
「へぇ、お嬢さんが騎士を…なのに今は旅人なのかい?」
「はい、見聞を広めたいと思って。」
「そうか、なら自分の目でなんでも見るといい、それが一番の勉強だ。」
そう言って店主も肉丼を一気に流し込む。
そんな中セファーナが店主に質問をする。
「あの、主人は昔軍人だったんですか?」
「そうだよ、とはいえ今は退職、こうして料理人になったけどな。」
その目は何かに怯えるような感じがした。
失礼を承知でそれを問う。
「あの、過去に何かあったんですか?失礼を承知で訊きますけど。」
「俺の過去?そうだな、救えなかった…そんな過去だよ。」
店主はそう言うと言葉を続ける。
「昔な、教育と称して軍の若い奴をイジメてたんだ。」
「そんなの…教育なんかじゃ…。」
セファーナもそれには言葉を詰まらせる。
「上官の命令は絶対、それに逆らえなくて仕方なかった。」
店主は苦虫を噛み潰したかのように言葉を続ける。
「でも俺は見てないところで密かにそいつを助けててな。」
本当は嫌だった、だが軍隊において命令には逆らえない。
「そんな中上官にそれがバレてさ、そしたらそいつへのイジメが酷くなった。」
「どうして…その人は悪くないのに…。」
それは見せしめだったのだろうか、そうも考える。
「それから一ヶ月がしてさ、そいつはおかしくなっちまった。」
「おかしく…ですか?」
それは精神が壊れてしまったという事だろう。
そのイジメは彼を追い詰めたという事だ。
「何かに怯えて部屋にに閉じこもる、そのまま退役したんだ。」
イジメが理由での退役、それは社会にある根深い問題でもある。
「それからそいつは社会不適合者、一方の上官は大隊長にまでなった。」
「そんなの納得出来ません…どうしてなんですか…。」
セファーナは納得なんか出来るはずもなかった。
その後輩は何も悪くなんかないのに、そう思っていた。
「俺は助けてやれたかもしれない、今でも謝りたくて仕方ない。」
店主は救えなかった事を今でも悔やんでいる。
だが悲劇は終わらないのだ。
「上官はそのあとは立派になった、そんなとき何者かに家族が刺されてな。」
「それって…まさか…。」
「そう、そいつは自殺した、そして親が報復としてやったらしい。」
それはあまりにも悲しい事件だった。
息子を殺された人間への復讐、ターゲットはその家族だった。
憎しみを抑えられなくなったが末の悲劇、報いだった。
「更正してもその罪は消えないんだ、報いも本人が受けるとも限らない。」
「その結果の悲劇…悲しいですね…。」
「だから忘れんなよ、一度罪を犯せばそれは永遠の十字架になる。」
それは経験が語るものだった。
罪が消える事は決してないのだという戒めでもあった。
「さて、皿を洗うか、手伝ってくれ。」
そう言って話を切り上げ山ほどある皿を洗い仕事の時間が終わる。
給料をもらって飛空艇に戻るセファーナ。
「お、戻ったか、遅いぞ。」
そう言ってカリーユが出迎える。
セファーナも情報はきちんと集めているのでそれを精査している。
「それより情報は集まってんだよな。」
「はい、集まってますよ、執行は明後日です。」
そのあと部屋でフェラナと一緒に情報を精査する。
そうして日が暮れていき今日も夜の食堂で食事を済ませる。
飛空艇に戻ったあとは今後の予定も確認する。
「さてっと、次に行きたいところとかあるかね。」
シスシェナの質問に次の目的地を考える。
今は一旦保留にし今は仕事に集中する。
そんな中シスシェナとフェラナは空を見ていた。
「いい空ね、吸い込まれそう。」
「そうだね、それにしてもあたしもすっかり堕ちたもんだよ。」
それでもその目に迷いはなかった。
「あたし達はセファーナを信じてる、その果てまで一緒よ。」
「だね、堕落してたあたしに仕事をくれた、それは感謝してる。」
フェラナなりの感謝はあるようだった。
シスシェナもセファーナを支えると決めている以上何も言う事はない。
「この先どうなっても、あたし達はそれを信じるだけ、よね。」
「そうだね、もう引き返せない、それなら奈落の底の底まで堕ちるさ。」
二人の決意も堅い、それは信じる人のために尽くす決意だ。
そうして情報の精査を終わらせ今日が終わる。
正義の果てにあるもの、それは誰にも分からない。
運命の歯車は鈍い音を立て確実に回っている…。




