~命令~
カティス滞在三日目。
セファーナは情報を集めつつ海辺の喫茶店で働いていた。
客はそんなに多くないがコーヒーの美味しい喫茶店だ。
仕事の休憩時間、マスターと共に店の裏で涼んでいた。
「ふぅ、いい風ですね。」
「そうだな、この風は気持ちを落ち着かせてくれる。」
そう言って煙草に火をつける。
ここのマスターは昔は海軍で将校をしていたらしい。
「俺も失ったものが多い、あいつらに顔向け出来る人間になれたかね。」
それはマスターの過去の話。
将校になって間もないときの話だった。
「あんたも昔は騎士をやってたって聞いた、そのときは輝いてたか?」
「はい、私なりにやれる事はしていましたから。」
マスターはある問いをセファーナに投げかける。
「あんたは軍人は命令に従って当然って思うか?」
「それは当然です、命令違反は重罪ですから。」
マスターは続ける。
「でもよ、命令を無視してでも助けたい、守りたいって思う事もあるだろ?」
「それは…なくはないですけど…。」
マスターの過去に何があったのか、神妙にそれを話してくれる。
「俺が将校になって間もないときに仲間が捕まってな、無茶な要求をされた。」
「無茶な要求を?」
マスターの苦い過去、天秤にかける事を経験したときの話だ。
「仲間が捕まって敵の要求はこっちの捕虜の即時解放だった。」
「それで仲間は助けられたんですか?」
だが現実は非情なものだった。
「上官から引き延ばすように命じられてな、それでも俺は助ける事に囚われてた。」
「それで…どうなったんですか?」
「俺は単独で敵に近づいた、所謂命令違反だ。」
つまり命令を無視して助けに向かったそうな。
上官の命令は交渉引き伸ばし、その隙に軍を動かすという策だった。
「その結果それが気づかれ目の前でそいつらは処刑されたよ、見せしめに。」
「それは…勝手な行動のせいでは?」
そのとき全てを悟ったそうだ、自分が勝手な真似をしたせいだと。
「俺が愚かだった、命令に従っていれば、あいつらは死ななかった…。」
「勝手な行動で仲間が死んでしまった…ですか。」
その後重罪として軍法会議にかけられたらしい。
判決は10年の禁固刑だったそうだ。
「俺は10年牢屋に入ってやっと出てきた、この店も5年前にな。」
「命令違反がそれだけの事になるなんて…。」
マスターは続ける。
「だからな、組織において命令違反を肯定しちゃならない、それは確かだ。」
「それが重罪だから…ですか。」
セファーナも騎士団に所属していた以上それは理解している。
所属時代に何をしたのかも、理解していた。
「命令に従うのは思考停止でも奴隷でもない、組織の規律のためなんだ。」
「規律を守り統率を整える、それが組織ですからね。」
「そうだ、それも理解してなかった俺の愚かさ、だな。」
そう言ってマスターは煙草を足で踏み潰す。
その過去は身勝手な命令違反が起こした悲劇なのだから。
「さて、休憩終わりだ、仕事に戻るぞ。」
そう言って二人は仕事に戻る。
そうして仕事も終わり給料をもらうセファーナ。
「お疲れさん、これが今日の給金な。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言って給料を受け取り飛空艇へと戻る。
仕事の方もきちんとこなしターゲットの中将について調べている。
「戻りました、食事も買ってきましたよ。」
「お帰り、やっと戻ったか。」
カリーユが出迎えてくれた。
店で買った食事を広間へ持っていきフェラナの下へいく。
「失礼します、入りますね。」
そう言ってフェラナの部屋に入る。
「お帰り、こっちも調べてるよ。」
フェラナに頼んであるエルミナス王国の現状。
それも少しづつではあるが見えてきている。
「今の状況はこんなとこ、まだ行くには早いかな。」
「それでも充分ですよ、助かります。」
エルミナス王国も今は沈黙を保っている。
新生グラマン軍が反抗を続けているためだ。
「もう少し調べるから、行くときは言いなよ。」
「はい、では私はこれで。」
そう言って部屋を出る。
その情報に目を通し今後の予定も考える。
とりあえず食事を済ませ今はこの国での仕事に集中する。
「あんたが辛いのは分かってる、でも今は我慢よ。」
シスシェナも彼女なりにセファーナを激励する。
そうして夜になっていった。
執行は明後日、それまでに仕事をこなすのだ。
体を休め仕事に本腰を入れるために。
セファーナの運命は刻み続ける。
その足跡を、歪な正義という軌跡を。
もう戻る事の出来ない道を、今日もこれからも進み続けていくために。
 




