~少年~
エルスリート皇国滞在三日目。
セファーナは情報を集めつつ街で働いていた。
「こっちは終わりました!」
今回の職場は倉庫だ。
力仕事には慣れているので苦もなくこなしていく。
「そんじゃ休憩だ!」
リーダーの掛け声と同時に現場の人間は一斉に休憩に入る。
「ふぅ、疲れますね。」
「そうだね、でもお姉さん華奢な割に力あるよね。」
少年はセファーナを物珍しそうに見る。
一方のセファーナも少年を不思議そうに見ていた。
「あの、その右足…。」
「これ?凄いでしょ、驚いたかな。」
その少年の右足は義足になっていた。
今の時代それは高級品であり発展途上の技術だ。
「その足でそれだけ動けるなんて凄いです。」
「最初は凄い大変だったけどね、でも負けたくなかったんだ。」
その少年の目はとても輝いていた。
不幸な目に遭ってもそれに負けない強い光を宿す目だ。
「僕も生きてるっていう事が嬉しいもん、だからね。」
少年は過去を少し話してくれた。
「僕さ、昔事故に遭ったんだ、それで右足を失くしちゃった。」
セファーナはその事故の悲惨さを考える。
「それで命は助かったけど、こうして今みたいになるのに五年だよ。」
「五年も使ったんですか…。」
「うん、そのとき助けてくれたのは外国と付き合いのある貿易局だった。」
どうやらその義足も外国製らしい。
「この国にもあるにはあるけどね、外国製に比べたらまだまださ。」
「そうなんですね、でもそのお金はどこから?」
確かにそれは気になる話だった。
「そのお金は貿易局の人が全額出してくれたんだよ。」
「太っ腹ですね…でもそれは利益になるんでしょうか。」
自腹で全額捻出しても利益にはならない、それは人情なのだろう。
「あと付き合いのあった会社のテストユーザーなんだって。」
つまり助ける事を条件に全額負担してくれたのだろう。
そうして少年は義足を手に入れ相手の会社もテストを行えた。
お互いに得をした結果になったそうだ。
「それで僕はテストをして正式な完成品ももらった、感謝してるよ。」
少年は誇らしそうにしていた。
自分が力になれたのならそれは何よりの誇りなのだろう。
「それでそうやって元の生活に…尊敬しちゃいます。」
少年は続ける。
「僕はね、世の中には正義も悪もないと思うんだ。」
「それはどうして?」
セファーナはそれに対して問いかける。
「世の中正義で苦しむ人もいれば悪に救われる人もいる、違うかな?」
それは自分の経験から見た少年なりの答えなのだろう。
正義は必ずしも人を救わない、悪は必ずしも人を苦しめない。
「それにね、正義の暴走はそれこそ本物の悪よりずっと怖いよ。」
セファーナの胸にその言葉は染みていた。
自分のやっている事は正義と信じるだけの私刑なのだろうからだ。
「正義を語ってやった事で結果として酷い事になる、そんなの嫌だよ。」
「なら人はなぜそれを理解しないんでしょうか。」
セファーナなりの疑問だった。
正義とはなんなのだろうか、という問いでもある。
「なんでだろうね、でも滅ぶときは人間の手で滅ぶ、それが正義の末路かもね。」
少年は遠くを見ながらそう答えた。
セファーナもそんな言葉に顔色を変えずに自分に言い聞かせていた。
その後休憩が終わり作業が再開される。
そうして今日の仕事が終わり給料を受け取る。
そのまま飛空艇へと戻っていくセファーナ。
「お、お帰り、食事も買ってきたのね。」
エルスリート皇国は自炊よりも外食が多い文化なのだ。
そのため食材は多くが店に卸される。
結果としてこの国では自炊をする家庭は少ないらしい。
「はい、とりあえずサンドイッチと簡単なデザートを。」
「甘いものもあるんだ、あたしは甘いものがないと死ぬからね。」
フェラナは超が付くほどの甘党である。
甘いものを一日に一度は食べないと落ち着かないらしい。
「とりあえずさっさと食べよう、明日には決行しなくちゃならない。」
情報は大体は集まっている。
あとはそれを精査して密告するのみである。
今のところ顔は割れていない。
この国の監視装置の死角を全て調べてからやったからだ。
「とりあえずこれを食べたら休みましょうか。」
「そうね、次の目的地も決めなきゃだし。」
そうして食事を済ませ各自休む事になる。
セファーナはフェラナと共に情報を精査する。
カリーユは剣を振っていた、強くなりたい、その一心で。
シスシェナは夜空を見上げるが星は見えない。
この国は工業国なので工場の黒煙などで空が遮られるからだ。
そうして夜は更けていく。
正義の執行は昼頃を予定に行われる。
セファーナの正義はもう止められないのだろう。
歯車は鈍い音を立て回っている、静かに、そしてゆっくりと…。




