~過去~
エルネラ公国の仕事数日が経過した今現在。
セファーナ達はクロッツェ王国に滞在していた。
今回もターゲットの情報を集め精査しつつお金を稼ぐ。
セファーナはとある喫茶店で短期求人に応募し働いていた。
「お疲れさん、上がっていいぞ。」
店主はそう言い本日の営業が終わる。
セファーナはその店主に自分と似た影を見ていた。
「なんだ?帰らないのか?」
その質問にセファーナは問い返す。
「あの、マスターは過去に何かあったんですか?」
「…なんでそんな事を訊くんだ」
それはセファーナだから感じ取れる空気だった。
店主は数秒の沈黙の後口を開く。
「俺は昔やんちゃしててね、人殺しの仕事をやってたんだ。」
それは意外な言葉だった。
「でもよ、あるとき俺は仕事での殺しを躊躇った、それですっぱり引退さ。」
「どうしてそんな事を…?」
不思議そうに問うセファーナに店主は答える。
「俺は親も知らない奴で気付いたら裏組織に参加してた、それだけだ。」
「その組織で何かあったんですか?」
その問いに店主は答える。
「俺はいつも通り暗殺を依頼された、ターゲットは国の要人だった。」
それは自分と同じような過去。
デジャヴだろうと感じたが話を聞く。
「でもその要人に家族がいてよ、幸せそうな顔を見て俺は殺せなかった。」
「…それで組織を抜けたんですか?」
店主は話を続ける。
「そうだ、でもそれからは悪夢にうなされる日々、夜もまともに寝れない。」
「殺した人達が夢に出る、ですね。」
それは想像を絶する辛い日々だった。
精神を病みそうになりそれでも前向きに生きていた。
「それから俺はこの仕事を始めた、償いのつもりはない、でも笑顔が見たいんだ。」
この仕事は誰かを喜ばせるため、そんな理由なのだろう。
「人を殺すってのは難しくなんかないんだ、そんなもんだよ。」
「それでもそれに背いたんですね。」
店主は人殺しは簡単だと言い張る、その理由も話してくれた。
「人を殺すなら砂糖の味を忘れればいい、それだけなんだよな。」
「砂糖の味?どうしてそんな…。」
その後も店主は過去を話してくれた。
その話にセファーナは自分を重ねていた。
「人殺しは立派な罪だ、正当化されちゃいけない、それは確かなんだ。」
その言葉には自分が過去に殺めた人の分まで背負う覚悟を感じ取れた。
それでもセファーナは自分を曲げるつもりはなかった。
「俺は許されちゃいけない、許してもらおうとも思っちゃいない。」
店主は死ぬまで苦しみ続けるのだろう、それでも生きる事を選んだ。
「お嬢ちゃん、セファーナは道を踏み外すなよ、若いんだからな。」
「はい、約束します。」
それは優しい嘘だった。
とっくに道を踏み外していたセファーナに出来る精一杯の返事だった。
「さて、今日は閉店だ、次の国に行く一週間後までよろしく頼むぜ。」
そうしてセファーナは頭を下げ店をあとにする。
その帰路に夕食の食材を買い揃える。
そんなときカリーユが迎えにきてくれた。
「遅いぞ、心配させるな。」
生意気だが心配はしてくれたのだろう。
それに答え食材を買い飛空艇に戻る。
「ただいま戻りました」
「お、お帰り、遅かったね。」
とりあえず急いで夕食の準備に取り掛かる。
それから夕食を済ませ情報の精査を始める。
「こいつは確実性がある、こっちは黒。」
フェラナは手早く見定め情報を分別していく。
その速さは正確なものだった。
そうして精査を終え今後の予定も確認する。
「この国の次はどこか希望の行き先とかある?」
「では次はラーチカ王国にします。」
次の目的地は砂漠の国ラーチカに決まった。
そのあと予定などを確認し寝るまでは自由とした。
「星が綺麗ですね。」
「セファーナは星を見るのが好きなの?」
フェラナは横になりそう問いかける。
「はい、でも昔の事も思い出してしまいます。」
それは苦い記憶。
エルミナス王国で全てを捨てた自分への戒めでもあった。
「あんたが過去に何をしたかは訊かない、でも信じたならそれを貫けばいい。」
フェラナは不器用にもそう励ましてくれる。
フェラナ自身も正しいと思ってやった事で追放された身なのだ。
「そうですね、だから私は決して曲げないと誓います。」
「それでいいよ、敵を増やしても自分を曲げない、それは強さだ。」
その言葉に笑顔で返し寝室へと戻るセファーナ。
フェラナもまたその正義を信じる一人なのだから。
そうして今はこの国での仕事に向けて準備を進める。
世界のヒーローであり嫌われ者、それが今の姿だ。
その歪な正義は真実を暴く、そうあり続けるために…。
 




