~執行~
エルネラ公国滞在から五日が経過した。
街では国の汚職政治家の逮捕のニュースで持ちきりだった。
「あんた、本当にやっちまったのね。」
シスシェナは驚きもせずにそう言う。
そう、今回の逮捕はセファーナが情報を密告したのだ。
「あたしの力もあるってお忘れなく、ボス。」
フェラナも自信ありげな顔でそうドヤっていた。
彼女の情報解析と処理能力の高さは見事なものだったからだ。
「これが私の正義です、それはとても歪で黒いものです。」
セファーナは悪びれる様子もなくそう言い放つ。
だがその瞳には確かな力強さが感じられた。
「それでどうするんだ?すぐにでも次に行くのか?」
カリーユはそう問う。
「とりあえずあと二日滞在します、そしたら次に行きますか。」
「はいよ、なら今のうちに食料とか買い溜めしとくから。」
そう言ってシスシェナは必要な物資の買い溜めに向かう。
一方のセファーナはカリーユを連れ街を見にいく。
街は逮捕のニュースに騒々しくなっていた。
国民達もそんなニュースに不安を覚えていたようだ。
「やっぱりこうなるものですか。」
「当たり前だろ、人は見えないものに恐怖を感じるものだ。」
それは至極正論だった。
人は正義を求めるが見えないものであればそれに恐怖する。
目に見える正義にこそ民は熱狂し心酔するのだから。
「とりあえず平静を装うように。」
「分かってる、僕は元々感情には乏しいしな。」
そう言って街の人に事情を訊き何が起こったのかをあえて知っておく。
もちろん本当は知っているのだが旅人という事にしておく。
世界を旅しているわけだから間違ってはいない。
その後飛空艇に戻るセファーナとカリーユ。
戻るとフェラナが気だるげに迎えてくれる。
「おや、もういいのかな?」
フェラナはそう喋りつつ手元のパズルを回していた。
「なにやってんだ?それなんだよ?」
「こいつは東方の国から流れてきたおもちゃだよ。」
フェラナは頭がよくパズルが趣味らしい。
そのパズルは東方の国で作られたキューブの形をしたものらしい。
「僕には無理だな、頭を使うのは苦手なんだ。」
「ははっ、キミはまだ子供だろう?きちんと勉強すればこの程度簡単さ。」
フェラナは自信に満ちた顔でそう答える。
「勉強か、僕は文字も書けないのに。」
「なら今からお勉強しますか、街で勉強道具を買ってきましょうか?」
「そうだな、セファーナの仕事を手伝うならやっておくに越した事はない。」
そうしてセファーナは街に行き勉強道具一式を買い揃えた。
出発までにカリーユに最低限の教育を施しておく。
そうしてセファーナ先生の授業が始まる。
「難しいな、計算なんて頭にストレスが溜まるだけだ。」
「そうですね、でも数学は応用の知識ですから。」
他にも様々な国の言葉や理化学の知識などを叩き込む。
吸収はいいようで瞬く間に教えた事を吸収していく。
そのまま日が沈み食事にする事に。
「今夜はクリームソーススパゲッティですよ、あとはミルクスープです。」
「美味しそうだね、あたしもお腹空いたよ。」
「そんじゃさっさといただきましょ、明後日には出発だしね。」
そうして食事を済ませる一同。
その後飛空艇の簡単なシャワールームで体を洗っておく。
今はまだ高級品だが機械と呼ばれるものが多様に取り付けられている。
シスシェナのお金はまだまだ尽きる気配はない。
だがいつかはなくなる事を危惧してお金はきちんと稼いでいる。
滞在した国の短期求人で稼げるだけ稼いでしまうのだ。
仕事をしつつの稼ぎという荒技である。
少なくとも食費と飛空艇の維持費は稼がねばならない。
「にしても飛空艇の維持費もそんなかからなくていいわね。」
飛空艇の維持費は燃料を除けば修繕と溜まったものの処理費ぐらいだ。
それなら稼いだお金でなんとでもなる。
「はい、なので大きなお金が必要なとき以外は任せてください。」
「セファーナは働くねぇ、あたしは労働とかやってられないよ。」
フェラナは元研究員の割に無気力なものだった。
とはいえその頭脳は頼りになる、だからこそ勧誘したのだから。
なんにしても今はカリーユに教育を施す事が先だ。
二日後の出発までにやれる事はやっておく。
この国で執行された正義、その見えない鎌は人を恐れさせる。
お金を稼ぎつつ正義を執行し世界を飛び回る。
そんな光と闇の生活は始まったばかりだ。
そうして次の国へ向けて自分に活を入れるのであった。
新たな歯車は動き始めたばかりなのだから…。




