~炎上~
国境の警備が増えてから一ヶ月が経過していた。
今のところ敵国に動きがある要素はない。
セファーナは念には念を入れ見回りは欠かさずにしていた。
その日も見回りを終え宿舎に戻ろうとしていた。
「これで今日も終わりですね。」
だがそんなとき茂みの方で何かが弾ける音がした。
不審に思ったが調べるのが先とそっちへ向かう。
そこには弾けた木の実が落ちていた。
動物がやったのだと思い帰ろうとしたとき即座に体が反応する。
「鋭いな…。」
その相手は軽装の男だった、盗賊か何かかと思い問いただす。
「へへっ、どうせ言っても変わらねぇか。」
その男は不敵に笑みを浮かべていた。
セファーナは勘付いた、この男はグラマン王国の人間だ。
「俺の目的はあんたをこっちに誘う事…そして火は燃える…。」
その言葉にセファーナは全てを理解した。
「あなた…まさか!?」
「へへっ、宴が始まるぜ。」
そのときだった、村の方から大きな音がする。
「あれは…!?何をしたのですか!」
「簡単さ…国内に潜ませてた奴らが一斉に発起した、それだけだ。」
つまりエルミナス王国領にはすでに敵が潜伏していた。
あとは機会を窺い時を待つ、そして今まさに戦火が燃えたのだ。
セファーナは男を強い言葉で問いただす。
「まさか国内に内通者を…!」
そう、王都はもちろん辺境や港町にも内通者が入り込んでいた。
それにより瞬く間に敵が動き出したのだ。
「今ごろ王都では騎士達が焦ってるだろうなぁ、港町は制圧されてるぜ。」
セファーナはその言葉に悟った、だが村、家族だけでも守ろうとする。
「守れるもんなら守ってみろよ、てめぇ一人が無力だって分かるぜ。」
セファーナは男を木に向かって投げつける。
男はそのまま横たわり静かになった。
セファーナは全速力で村へと向かう。
村に着くとそこはすでに火の海だった。
父であるベルシスと母であるラクシスが村の者達を避難させている。
「お父様!お母様!」
「セファーナ!無事だったか!」
だが村にはすでに敵国の兵が入り込み村民を拘束していた。
「セファーナ、よく聞いて、シスシェナに飛空艇を準備させてあるの、あなたはそれで逃げなさい。」
「しかし!私も騎士の端くれです!戦わずに逃げるなど!」
「この村はもう間もなく陥落します、あなただけでも逃げなさい。」
セファーナはそれを頑なに拒否する。
だが父はそれを厳しく強い言葉で制した。
「いいか、死を恐れないのが強さではない。」
「しかし!私は騎士になった身です!敵前逃亡など!」
「黙って従うのだ!一人でも逃げられれば希望は残る!」
その言葉は決意を示していた。
王都はすでに火の海、国内の街や村もすでに制圧されているだろう。
だがマキアやマイアもいる、王都にはゼノンやアーベルもいる。
その大切な親友を見捨てるなど出来なかった。
「おい!こっちはなんとか逃がしたぞ!」
「リコネットか、敵国の王女でありながら巻き込んでしまったな。」
「気にするな、どうせ裏切り者だ、なら騎士として最後まで抵抗する。」
セファーナはそれを見てやはり逃げるなど出来なかった。
それでも父と母はセファーナに逃げるように厳しく言う。
「どうして…私は騎士です!逃げるなんて無理です!」
村の中では兵士達が苦戦しつつも抵抗を続ける。
その間にベルシス達が村民を逃がしているのだ。
「もう長くは持たない!行くんだ!セファーナ!」
「飛空艇は村の広場よ!行きなさい!」
セファーナは意地でもそれを拒み続けた。
だがそんなとき敵兵の声が近くから聞こえた。
「セファーナ!言う事を聞くんだ!」
セファーナは悔しさのあまり拳を握り締めていた。
だがその意地が別の意地に変わる。
セファーナは村の広場へ向けて全速力で走る。
「それでいい…、さらばだ最愛の娘よ…。」
「強く生きるのよ、私の愛娘…。」
「さーて、どうせ死ぬなら盛大に散ってやる、行くぞ!」
セファーナは広場でシスシェナと合流する。
「遅いわよ!さっさと乗りなさい!」
セファーナは飛空艇に乗り込みシスシェナに確認する。
「目的地は北にあるフィクサリオ公国、全速力で飛ばすわよ!」
そんなとき敵兵が飛空艇に近づいてくる。
「逃がすな!攻撃開始だ!」
そう号令が飛ぶと同時に飛空艇に魔法が飛んでくる。
だが数発を受けたもののなんとか離脱に成功する。
飛空艇は煙を上げながらも北へ向けて逃亡に成功した。
窓から見た景色は大陸が戦火に包まれる姿だった。
村が、王都が、エルミナス王国が燃えている。
自分は全てを捨てて逃げた、涙が自然とこぼれ落ちる。
これがエルミナス王国の最後であり、同時にグラマン王国が内部分裂を起こす引き金であった。
飛空艇は飛ぶ、フィクサリオ公国へ向けて。
運命のいたずらはその運命をどこへと導いていくのか…。
 




