~異動~
それから二週間が過ぎていた。
セファーナの申請は受理され辺境警備隊へと異動が終わっていた。
辺境警備隊はアルゴー村の近く、国境警備隊とも言う。
村から少し離れた丘にある警備隊宿舎、そこで警備隊は寝泊まりをする。
ときおり村から差し入れはあるが基本的には自給自足である。
「ふぅ、いい獣が狩れましたね。」
セファーナは大型のイノシシを軽く狩っていた。
もともと村の仕事の手伝いをしていて慣れたものだ。
「隊長!見回り終わりました!」
「お疲れ様です、今お茶を淹れますね。」
彼の名はマイア・マリアネス、この警備隊の若い新人だ。
もともとこの警備隊は本国で問題を起こした騎士の島流しとしても知られる。
だが彼は本国よりも活き活きとしているようにも見えた。
「隊長!こっちも見回り終わりましたよ!」
彼女の名はマキア・ヒュンベル、元盗賊で今は警備隊で働く女の子だ。
そう、この警備隊はセファーナを含めこの三人だけである。
だが仕事には誇りを持っているしサボったりもしない。
「隊長は国で中隊長にまでなったのになんでこんなとこに来たの?」
マキアがセファーナにそう問う。
「私は疲れたんだと思います、だからここで働こうと。」
それにマキアは変な顔で言う。
「国の騎士団ってそんな面倒なの?」
「そうですね、夢を見てもそれは夢でしかなかった、かもしれません。」
決してセファーナは夢に破れたわけではない。
だが現実の騎士団は理想とは違っていた、それは確かなのだろう。
「それならここに来て正解だったんですか?」
マイアが割り込むようにそう問いかける。
「やっぱり騎士である事は誇りです、でも私の守りたいものはここにある。」
その言葉に二人は複雑そうな顔をする。
特にマキアはその経歴もあり世の中の汚さや理不尽を知っているからだ。
「でもこの世界では知らない方が幸せな事もあるよ、きっとね。」
マキアが悲しげな目でそう吐き捨てる。
彼女は生きるために盗賊をしていた、そのときに村で捕まったのだ。
幼いときに親を病で亡くし生きるために死に物狂いだったマキア。
それでも死ぬ事だけはしなかったそうだ。
「隊長は自分に誇りがあるんですか?」
「もちろんですよ、そうでなければ騎士なんて続けていません。」
胸を張ってそう答えるセファーナ。
その言葉には力強さが感じられる。
「それよりイノシシですよね、それは今夜のおかずですか。」
「その大きさならたらふく食えるね。」
そうして三人だけの小さな警備隊で今は充実した日々を過ごしている。
そんな時声が聞こえる、この声は神官のレイネ・カンツォーナだ。
空から下り立つその姿は天使のようでもあった。
レイネは有翼人でこの村の教会の神官をしている。
「あなた達も相変わらずですね。」
「ふふ、はい。」
村には流れ者が多く住み着いている、そうして形成されているのだ。
「それにしても大きい獲物を仕留めたのね。」
「これぐらいは軽いですから。」
レイネも呆れた顔で笑ってみせる。
そのあと神に祈りを捧げる。
「あんたも律儀だよね。」
マキアがそう言うとレイネは笑顔で返した。
「神に感謝しないと、こうして生きていられる事を。」
「そうですね、女神エルミナスはきっと見ていてくれます。」
そうして雑談を交わしたあとレイネは教会に戻っていった。
そうして日が暮れていく、その日の夜はイノシシの塩焼きだ。
あとは村で収穫した野菜のスープ、少ないがこれでも贅沢なのだ。
セファーナの両親も心配しているが、それを静かに見守っている。
だが思わぬ来客により事態は動き出す事となる。
それを今は知る由もないまま眠りについたのだった。
 




