5
前の話の続きです。
■5
そのあと、依頼されていたところをいくつか回ったが、2か所ほどで、同じような盗賊に出くわした。そして、そいつらから聞き出した情報は、最初の盗賊たちの話とほぼ一致していた。しかし、黒幕と思われる貴族の名前については、結局わからずじまいだった。
「ここが最後ですね。」
レインが指さす先には、洞窟、いやここはダンジョンのようだ。
「いくか。」
俺はダンジョンへと足を踏み入れる。そして、レインとスラ吉も俺に続く。
そのダンジョンはどうやら今も使われてるようだ。そして、スラ吉もさきほどから、わずかながらの魔素を感じているようだ。
「おい、そこにいるやつ。姿を現したらどうだ。」
ダンジョンを進むと、殺気がビシバシ飛んでくる。レインやスラ吉もその殺気に身構える。
「よくわかったぜよ。ほめてやるぜよ。」
そのセリフとともに、スライムが姿を現す。俺はとっさに剣を構え直した。
「どうしたぜよ? 俺たちはスライムぜよ? 弱いぜよ?」
スライムたちは、やたらと俺たちを挑発してくる。よほど腕に自信があるようだ。
「すまんが、恐ろしく強いスライムを知ってるんでな。その手には乗らないよ。」
俺は、後ろにいるはずのスラ吉を見る。あれ? そこにはスラ吉は居なかった・・・
「おまえ、ポン太なり?」
いつの間にか、スラ吉が俺の前にいた。
「お、お前、スラ吉じゃねえかよ。どうしたぜよ? そいつらに捕まったぜよ?」
こいつら、スラ吉の知り合いか?
「いや、捕まってないなり。親分と姉御は仲間なり。」
「仲間? そいつらがか? ちょっと待て、じゃあそいつが、その若造がロイドなのか?」
「そうなり。親分をしってるなりか?」
「ああ、前にいたダンジョンで話を聞いたことがある。人間みたいなのと、ダークエルフの女と魔法がつかえるスライムのやり手のダンジョンコンサルタントがいるってな。魔法がつかえるスライムってのは、スラ吉のことかとは思っていたが、本当だったとは驚きぜよ。」
やり手だったのか、俺は。しかし、レインとスラ吉は、俺の考えを読んでいるようで、悲しそうに顔を横に振る。
「でも、なんでポン太はここにいるなり?」
スラ吉がいうには、ポン太とその仲間はそこそこ有名なダンジョンにいたらしい。
「あれだ。跡目相続に巻き込まれてな。面倒になって出てきたぜよ。」
「そうなりか。じゃあ、ついにスライムダンジョンをつくるなりか?」
「ああ、ここを足掛かりに、俺たちはやるぜよ。」
俺も結構あちこちのダンジョンを見たが、スライムだけのダンジョンにはお目にかかっていない。
突然、レインが振り向く。俺たちがきたほうから、話声と足跡が聞こえてくる。
「どうやら、ほかのお客さんがいらしたようですわ。」
俺たちはレインにうなずく。
「おっと、あのお客は俺たちのもんぜよ。あんたらは見てるぜよ。」
そういうと、ポン太はお客さんたちが来る方へと向き合い、仲間たちは一斉に壁や天井に張り付く。
「お手並み拝見なり。親分、姉御、あっちで見てるなり。」
そういうと、スラ吉は奥へと進んでいく。
俺たちが隠れながら様子を見ていると、三人の冒険者が姿を現す。まあ、そこそこ強そうな感じだ。中級ぐらいだろうか。
「なあ、スラ吉。あのポン太って強いのか?」
「ポン太は強いなりね。昔、一緒に修行したなりよ。」
まあ、スラ吉が強いとかいうのなら、あの程度は問題ないってことか。そんなことを考えていると、戦闘が始まる。
「たかがスライムごときがぁ。」
冒険者の一人がポン太に襲い掛かる。おまえ、それって一番駄目なパターンだぞ? 相手の出方ぐらい見ろよ。などと思っていると、案の定、振り下ろされる剣に、ポン太がまとわりつく。そして、振り払おうとする冒険者をよそ眼に、ポン太はその腕へと進みガントレットの隙間からするりと入っていく。
突然、冒険者が腕を抑え、その顔が苦痛にゆがむ。すると、その剣を持ったガントレットごと、ガシャンと床に落ちた。
「うわ、生きながら手を食われるとか、えぐいな。」
思わず、レインと見合い、苦笑する。
「おい、魔法だ。魔法をつかえ。」
冒険者の一人が、叫ぶ。その様子を呆然と見ていた、ローブを着た魔法使いの冒険者が慌てて詠唱を始める。しかし、突然詠唱の声がとまる。その顔には天井から落ちてきたスライムがまとわりついていた。次の瞬間に、魔法使いはその場に倒れこむ。そして、残った一人も必死に剣を振り回すが、打撃耐性のあるスライムには歯がたたない。
わずかの間にその冒険者たちは全滅した。
「やるな。」
思わず、拍手しそうになる。
「まあ、こんなもんぜよ。」
ポン太がこちらに向かってくる。仲間たちは後始末をしていた。
「でも、ここは魔素が少なすぎるなり。」
スラ吉が周りを見渡してる。作りはダンジョンとしてはまあまあだが、魔素が少ないのは致命的だ。
「それはしょうがねえぜよ。そのうち、別なところに移る予定ぜよ。次が見つかるまではここで我慢ぜよ。」
「じゃあ、いいところがあったら、連絡するなりよ。」
「すまんが、頼むぜよ。」
ポン太が頭を下げる。
「いいなり。ポン太の夢を応援するのが友の役目なりね。」
「ああ、スラ吉の友達なら応援しないとだな。スライムダンジョンてのも面白そうだしな。」
俺は、ふと思い出して、マジックバックをあさる。
「そうそう、これやるよ。中古で悪いが。」
そして、三個の宝箱をとりだす。前に廃棄を頼まれていたやつだが、まだ使えそうだと入れっぱなしにしていたやつだ。
「ロイド、それ一つは穴あいてますよ。」
レインが笑いながら、穴を指さす。
「いや、それも使えるぜよ。」
そういうと、ポン太はその穴から器用に中に入り込む。
「あけてみるぜよ。」
ポン太が箱の中から言う。
「ああ、そういうことか。って、開けたら襲うとかいうのは、今はなしだぞ?」
そういうと、俺はゆっくりと箱を開ける。
「あれ?」
箱の中にはポン太はいなかった。いや、いた。箱の蓋の裏に。
「ここで襲えば、あっという間ぜよ。」
そういうと、ポン太はにやりと笑う。
「間違いなくやられる自信があるよ。」
そこにいるとわかっていた俺ですら、今の手には引っかかった。初見なら間違いなくやられる。そして、二度目はないのだ。
「そういえば、ここには先客は居ませんでしたか?」
「ああ、盗賊がいたぜよ。面倒なんで、食ったぜよ。あいつら、ひょっとして知り合いかなにかだったか?」
ポン太の額らしきところに、汗がにじむ。
「いえ、大丈夫です。私たちもその盗賊たちに用事があったのですが、まあ、食べてしまったならそれはそれで問題ありません。」
レインがにっこり微笑む。情報はそれなりに集まっているし、ひょっとしたら貴族の名前を知っている可能性もあったが、まあしょうがないだろう。
そのあと、世間話をして、俺たちはポン太たちと別れる。
その後、俺たちはダンジョン協会に報告へと向かった。
「おお、ロイド君。久しぶりだね。」
「あ、メガーヌさん。お久しぶりです。というか、凄い人たちが・・・」
ダンジョン協会では、ルーテシアの父親、メガーヌをはじめとする理事たちが俺たちを待っていた。
「まあ、君たちに頼んだ仕事は、教会にとってはこのぐらい重要な仕事なんだよ。」
メガーヌが俺たちに笑いかける。正直、俺たちごときにそんな重要な仕事を振っていいのか、と思うが。
とりあえず、調査の結果を報告する。盗賊たちが洞窟でダンジョンのまねごとをしていたこと、バリドットというやつや貴族のような人物のことなど。
「バリドットか。」
メガーヌはその名前をつぶやくと、まわりの理事たちを一望する。そして、理事たちもメガーヌにうなずいていた。バリドットという人物を知っているようだ。ちょっと気になるが、下手に首を突っ込むのは怖いので、逃げるタイミングをうかがう。
「すまんが、バリドットとその貴族については、今はまだ話せん。そのうち、話せるときが来るだろうがな。」
いえ、結構です、と言いたかったが、俺もレインもスラ吉も無反応を貫く。その成果か、俺たちはその重苦しいメンバーのいる部屋から退出を許可された。
部屋を出ると、知り合いの職員から報酬を渡される。
「いや、これは多すぎませんかね?」
その職員が笑顔で手渡してきた革袋はずっしりと重い。おそらく百単位で金貨がはいってそうだ。
「いえいえ、正当な額だと思いますよ。だって、いや、これは言えませんでした。とりあえず、これはお受け取りください。」
この人は結構信用できる人で、変な裏とかはなさそうなので、ありがたく受け取っておく。
「ポン太たちのダンジョンは報告しなくていいなり?」
協会をでると、スラ吉が俺に尋ねてくる。
「ああ、別に問題ないだろ。協会に未登録のダンジョンなんて珍しくないしな。それにスラ吉の友達だし。」
そもそも、すべてのダンジョンが協会に登録や加入しているわけではない。ドルストのシーフダンジョンとかがいい例で、あそこは有名だが、協会には登録も加入もしていない。まあ、魔物がいないダンジョンなんて、登録も加入もできないという話もあるが。
「じゃあ、しばらくはこのお金で遊んでくらしますか。」
そういうと、そのままレインに革袋を奪われる。
「いえ、だめです。これはこちらで預かります。あと、ボスとスラ吉はたまってる書類をとっとと片づけてくださいね。」
「ええええええええ。」
「ちなみに、私の分はおわってますから。」
そういうと、レインがにっこりと微笑んだ。