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「ねえ、ボス。あれかしら。」
レインの指差す方には、洞窟があった。
「あれは只の洞窟じゃないかな?」
「でも、それにしては足跡が多くない?」
その入り口付近は、確かに只の洞窟にしては足跡が多すぎるようだ。
「ちょっと入ってみるなりね。」
「そうね、入ってみましょう。」
俺の返事を待たずに、二人はどんどん入って行ってしまう。
事の起こりはダンジョン協会からの依頼だった。
最近、ダンジョン内で冒険者が襲われるという事件が多発しているらしいので調査してほしい、という話だ。
ダンジョン内で冒険者が襲われるとか、どこが事件なのかまったく分からなかったが、どうやら盗賊がダンジョンに見せかけた洞窟内で、冒険者を襲っているらしい。
そもそもダンジョンに入るのは自己責任なのだから、それはそれでしょうがないとは思うのだが、調査を依頼された以上は調べる必要がある。
さっそく、協会からの情報をもとに聞き込みをしてみると、運よく何人かの被害者に合うとこができた。
被害にあった冒険者達は、そのほとんどが殺されてしまっているため、被害者から直接話を聞けるというのはかなりの幸運だ。もっとも、その生存者がいなければ、今回のこともダンジョン内で全滅しただけ、という話で終わっていたのだろうが。
その結果、彼らが入ったダンジョンというのは、同じところではないらしい。
これは、盗賊たちが複数のダンジョンを根城にしているか、たまたま複数の盗賊たちが同時に別々の洞窟を根城としているということだろう。そして、そこにダンジョンと間違えて冒険者達が入ってしまった可能性もありうる。
さらに聞き込みを続けると、新しいダンジョンが出来たという噂に引かれて入ったら盗賊達に襲われた、と生き残った被害者達は口を揃えて言っていた。
とすると、盗賊が自分たちの根城をダンジョンとしてアピールするメリットはない。そんなことをしたら、あっというまに討伐されるのがおちである。
であれば、これは明らかにダンジョンを装った盗賊の仕業と考えて間違いなさそうだ。
ある程度戦果があがり、疑われ始めたところで次の場所に移動しているのだろう。だとすると、使えそうな洞窟の調査や宣伝など、とても小規模なグループの仕業とは思えない。ある程度、大掛かりな組織によるものと考えていいだろう。
とりあえず、一旦協会へ戻り、調査結果として報告したところ、そんな不埒なやつらはほっとけねぇ、とっ捕まえて背後関係を吐かせて、とっととそいつらを始末してこいや! とのご達しだった。まったくひどい話である。
そして、調査対象のうちの一つがこの洞窟であった。
「しょうがないな。」
俺は暗視薬をバックから取り出して飲み込む。暗視薬は暗闇でも目が見えるようになる。レインやスラ吉は暗闇でも目が見えるのだが、俺は暗闇では目が見えない。かといって、ダンジョン内で光魔法や松明を使うのは、ここに居るから襲ってください、といっているようなものだ。まあ、光魔法の場合には、それを嫌がる魔物もいるので、使い方次第ではあるのだが。
レインやスラ吉の後を追って、洞窟の中に入っていく。
洞窟の中は、一見変わったところはなさそうだったが、良く見ると壁に盾や防具が擦った後が目立つ。
これは冒険者達がここに入っているという事だろう。つまり、ここは洞窟に見えるがダンジョンのようだ。
しばらく進んでいくと、レイン達に追いついた。
「なあ、やっぱりここってダンジョンみたいだな。」
「親分、でも魔素がないなりね。」
「「え?」」
ダンジョンに魔素は不可欠である。むしろ魔素があるからダンジョンといえるのだ。
「ねえ、スラ吉。どういうこと?」
レインが首をかしげる。
「そんなの分かんないなりよ。たしかにここには魔素がないなり。それは間違いないなり。」
だとすると、ここに入っていた冒険者はダンジョンと間違って入っていったのか。
「とりあえず、もうちょっと奥行ってみるか。」
俺達はさらに奥へと進んでいく。
「あ、紐なり。」
スラ吉の前に、細い紐が張ってあるのが見える。
「うーん、これは罠?」
「罠だとしたら、ガーリンあたりがぶち切れそうな罠だな。」
ガーリンいわく、罠は芸術だそうだ。
しかし、目の前のこれは紐を張ってあるだけ。おそらく鳴子とかが繋がってるのかもしれない。だとするともはや罠ですらない。
「スラ吉、この紐の先を見てきてくれ。」
「了解なり。」
「あっ、もし盗賊がいたら、せめて一人は生きたまま捕獲してくれよ。」
「たぶん了解なり。」
スラ吉は、紐に触らないようにどんどん進んでいく。
「じゃあ、こっちも行きましょうか。」
そういうと、レインはどんどん先へと進んでいく。
しばらく進むと、明らかに戦闘の痕跡があった。
「ここで戦ったみたいですね。やっぱり盗賊でしょうか。」
「さっきの紐といい、その可能性はありそうだな。」
さらに詳しく調べてみると、壁についた剣の痕は結構新しいようだ。しかも複数の種類の剣によってつけられている。
考えられることは、先ほどの紐に反応した後、ここが待ち伏せポイントになっているのだろうか。
ふと、奇妙な壁を見つける。
「なんだこれ?」
調べてみると、その壁は床に引きずったような跡がある。
「扉みたいですね。」
「ああ、でも盗賊がこんな手の込んだことをするか?」
これはさほど難しい技術ではないが、盗賊が作れるかというと、それは難しいだろう。
「とりあえず、開けてみましょう。」
俺は頷くと、その扉に手をかけて、ゆっくりと開いていく。が、はっきり言って非常に後悔した。
扉を開いていくと、強烈なにおいがしてくる。腐臭というやつだ。
そして、扉の中には、結構な数の冒険者の死体が散乱していた。そして、その死体には、戦闘の跡が見える。
「盗賊にやられたみたいですね。」
「ああ、間違いないだろう。」
そのとき、いくつかの死体がゆっくりと動き出す。
「うわっ、ゾンビ化してやがる。」
俺とレインは慌てて扉をきっちりと閉めた。ゾンビは知能がほとんどないため、扉を開けることはない。そもそも、そんな知能があれば、とっとと扉を開けて、その辺を徘徊しているだろう。
「スラ吉、大丈夫でしょうか。」
「まあ、スラ吉ならゾンビぐらいどうってことないだろう。でも、ゾンビとか消化したら、変な色になってそうだけどな。」
ゾンビはさほど強くない。強くないが、恐ろしく匂うので、それに戦意をそがれる。また、その見た目もグロテスクなため、見た目的にも戦意をそがれる。強くはないが、戦いたくない相手No1だ。もっとも、強くはないといえ、確実に頭をつぶさないとなかなか死なないため、面倒な相手でもある。
そがれた戦意を回復すべく、俺とレインはその場で座り込んだ。
すると、どこからともなく、ずるり、ずるりと音がする。
「なんだ、この音は!?」
まるで、ゾンビが這ってくるような音だ。しかも、かなりの数がいるか、もしくは大型のようだ。
「ゾンビでしょうか。」
レインが物凄くいやそうな表情で答える。レインと目があった。
「よし、レイン。じゃんけんしよう。」
「嫌ですわ。」
速攻でレインが答える。
「つうかさ、レインの弓で倒したらいいんじゃないか?」
「弓で狙うということは、ゾンビを直視するということですわ。そんなの耐えられません。」
いきなりレインが体をくねらせ始め、上目遣いで俺を見る。
「じゃあ、俺に倒して来いと?」
レインが当たり前と言わんばかりに頷く。
「か弱い女性を救うのも、紳士の務めです。」
胸の前で手を組んだレインが、体をくねらせながら上目遣いで俺をじっと見つめる
「いや、そういう時だけ、か弱い女性とかいうのやめようよ。まじで。」
しかし、そんな話をしているうちにも、その音はどんどん近づいてくる。
「なに漫才してるなり?」
「「ひぇっっ!」」
思わず、俺とレインは互いに抱き着きあう。
「え? スラ吉?」
そこには、10倍以上にも膨れ上がったスラ吉がいた。
「人がまじめに仕事してるのに、遊んでるとかひどいなりね。あ、人じゃなくてスライムなりね。」
そういうと、スラ吉は次々と武器や防具を吐き出していく。
「あ、やっぱり盗賊がいたのか?」
「大量なりね。20人ぐらいいたなりよ。」
そして最後に二人の男を吐き出した。
「どっちかが盗賊のリーダーなり。」
首筋に手を当て、二人とも脈があることを確認する。
「じゃあ、尋問しますか。っと、その前に。」
俺はマジックバックからロープを取り出すと、レインに手渡した。そして、レインが盗賊達を縛っている間に、スラ吉が吐き出した武器や防具をマジックバックに放り込んでいく。質はあまりよくなさそうだが、20人分ともなると売ればそこそこの金になるだろう。そして、その中にそこそこ金貨が入った袋があった。金貨はめったに盗賊が持てるようなものではない。やはり、こいつらは誰かに頼まれた可能性が高そうだ。
レインが盗賊達を縛り終えると、軽く剣を盗賊の足に突き刺して、二人ともたたき起こす。
「痛ってえ。な、なんだ、おめえらは。」
めを覚ました盗賊達が、縄を解こうと暴れ始める。
「俺達のことはどうでもいい。それより聞きたいことがある。正直に答えてくれれば殺さない。」
「ふん、おめえらに話すことなんて、なんもねえぜ。」
小柄な方の盗賊が口を開く。どうやらこいつがリーダーのようだ。
「じゃあ、その気になるまで、指を一本ずつ落としてみようか。それとも、手首とかいってみるか?」
そういって、小柄な盗賊の腕を動かないように足で踏み、剣を指に食い込ませる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。話す。なんでも話す。」
盗賊が涙目で訴えかけてくる。大柄な盗賊にいたっては、目をつぶって震えていた。
「ここで冒険者を襲ったのは、お前らの考えか?」
「いや、俺達はここで冒険者を襲うように頼まれただけだ。冒険者どもは、結構いい物を持ってるから、それもボーナスってことで俺達のものにしていいってことになってたんだ。」
やっぱり、こいつらのバックには誰かいるってことか。」
「じゃあ、お前らのバックにいるのは誰だ。」
「しらん。」
「やっぱり、指切らないとダメみたいですね。」
レインが表情一つ変えずにいう。
「ほんとだ、頼まれただけなんだ。そいつらがどういうやつかは、本当に知らねえんだ。」
「誰に頼まれた?」
「黒ずくめの貴族みたいなやつだ。もっとも、俺達と話をしたのは、その従者みたいなやつだけどな。」
「そいつらの名前は?」
「そいつは勘弁してくれ。それを言ったら殺されちまう。」
「じゃあ、それを言わずに、ここで死ぬか、そいつを言って、見つからないところにかくまわれるか、ってことになるな。」
盗賊にニヤリと笑って見せる。
「そんなもん、信用できるか!」
こいつはダメだ。しょうがない、ターゲットを変えるか。俺は大柄な方の盗賊を見る。そいつは俺ともう一人の盗賊とのやり取りを見ながら、ガタガタ震えていた。
「お前はどうする? ここで死ぬか?」
「しゃべる、しゃべるから、殺さないでくれ。」
こいつは体に似合わず、肝っ玉は小さそうだ。
「ああ、安心しろ。誰にも見つからないところに隠れさせてやる。」
大柄な方が、ほっとした表情で話し始めた。
「た、たしか、従者は様バリドットとか呼ばれていたはずだ。貴族の方はわからねえ。」
「て、てめえ!」
小柄な方が、大柄な盗賊に掴みかかろうとするが、縛られているのでジタバタするだけだった。
「俺はまだ、死にたくねえ。」
「じゃあ、約束通り、お前は奴らの目の届かないところへかくまってやるよ。」
小柄な方が、大柄な盗賊を睨みつけるが、ガクッと力を落とす。
「おまえはどうする?」
小柄な盗賊に、そっと語り掛ける。おそらく、こいつはもっと情報を持っているはずだ。
ふと、小柄な盗賊が顔を上げる。その表情は焦燥しきった顔つきだった。
「おい、本当にかくまってくれるのか。」
「ああ、俺は嘘は言わない。」
そういって、小柄な盗賊の目を見つめる。
「わかった。どのみち、奴らに疑われて消されるのが落ちだ。俺もかくまってくれ。」
小柄な盗賊が話始める、
バリドット達は、ダンジョンに対する嫌がらせや、偽ダンジョンを作り、そこで冒険者たちを次々と襲わせていたそうだ。たぶんこれはダンジョン連合になにか恨みがあるのだろう。
「よし、わかった。それですべてだな?」
二人の盗賊がうなずく。
「じゃあ、約束通り、お前らを隠れさせてやる。」
そして、二人を先ほどのゾンビのいる部屋へと押し込める。
「ま、待て。死体置き場じゃねえかよ。しかもゾンビまでいやがるぞ。」
「絶好の隠れ家だろ? 入口は二度と開かないように固めてやる。そうそう、剣ぐらいは置いてってやるよ。」
剣を一本、盗賊たちの足元に投げてやった。
「あとはがんばれよ。」
そういうと、叫ぶ盗賊をしり目に扉を閉めると、魔法で扉をがっちりと固める。
「バリドットっていうのは聞いたことないな。その貴族ってのが怪しそうだけど。」
レインもうなずいている。レインもバリドットという名には覚えが無いようだ。
「じゃあ、次いきますか。」
俺たちはその洞窟を後にする。
今後も不定期になりますが、数話分はチェックでき次第、UP予定です。その後は、プロットが細切れなので、さらに時間が・・・