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ようやく3話です。長い戦いでした・・・

■3


「ボス、それじゃないって。」


「え?」


 突然、壁から俺めがけて槍が飛び出してくる。

 レインの忠告もむなしく罠が発動し、俺は危うく串刺しになるところだった。

 

「親方、そういう解除の仕方はよくないなりよ。」


 レインとスラ吉の目線が痛い。

 

「つうか、俺シーフじゃねーし。」


「そういうのを言い訳っていうんです。」


 そういうと、レインはさっさと先に進んでしまう。

 

「わーい、怒られたなりね。」


「うるせえ。」


 スラ吉を一発殴るが、スライムは打撃耐性が高いので、まったくダメージは入らない。


 そんなことが数回あった後に、ようやく目的の扉の前に辿り着き、その扉を開ける。

 

「遅かったな。待ちくたびれたぞ。」


 そこにはドワーフ達がいた。そして、周りに指示を出している中央のドワーフが、このダンジョンのオーナーのドルストだ。

 

 このダンジョンはシーフダンジョンと呼ばれている。このダンジョンには殆ど魔物が居ない代わりに、罠が幾重にも張り巡らされているのが、その呼び名の由来である。

 これらの罠はオーナーであるドルストの作成したものだ。ドルストはトリックマスターの二つ名を持つ、有名な罠の製作者である。そして、このダンジョンはその作品のテストを兼ねたショールームのようなものだ。まあ、冒険者にしてみれは、罠しかないダンジョンなのだが。

 そして、このダンジョンは10層から成っており、無事5層をクリアできれば一人前のシーフと呼ばれる。

 

「ドルストさん、いいかげん裏道作りませんか?」


「それはダメだろう。ここまで辿り着けないようなやつとは付き合えんでな。」


「まあ、しょうがないですわ。たしかにそうですもの。」


「そうなりね。」


 こいつら、自分達は楽勝なんで勝手なことを言いやがる。


 今回の仕事は、新作の罠の設置をかねた、レイアウト変更だ。

 ここの仕事をするためには、この監視ルームがある6層までの罠をクリアする必要があった。で、俺は毎回6層の罠に引っかかっている。生きているのが不思議なぐらいだ。

 

「でだな、今回のは凄いぞ。これがあーなって、どわーっときて、ぐしゃっといく訳だ。」


 何をいっているのか、さっぱり分からんが、凄い罠だというのはなんとなく分かる。あれだ、芸術家とかによくいる感性のみってやつだ。作品は凄いんだが、その説明は何言ってるかまったく分からんというパターン。

 

「じゃあ、この辺を組み込んでレイアウトすればいいんですね。」


「ああ、よろしく頼む。」


 ドルストは罠は作るが、それをレイアウトするのは苦手だった。当初、自分でレイアウトして設置していたが、入っていきなり即死系の罠があったりして、あっというまに人が寄り付かなくなったのだ。

 で、ガーリンの紹介で俺達に仕事がまわってきて、それ以来レイアウト変更の度に呼ばれるようになった。そして、毎回俺だけ死にそうになっているのである。

 

「スラ吉、すまんが状況を見てきてくれ。」


「了解なりね。」


 鼻歌まじりで、スラ吉が去っていく。俺がこのダンジョンの中をうろつくのは即死を意味する。レインでも9層あたりから怪しくなるそうで、このダンジョンを安全に動き回れるのはスラ吉しかいない。そのスラ吉も、さすがに10層となると罠が発動するのだが、打撃耐性があるので、とりあえず問題なかった。まあ、普通の冒険者だとありえない話だ。

 

「じゃあ、レイアウトプランでも考えましょうか。」


 俺とレインが、ドルストと話をしながらレイアウトプランを考え始める。

 

「1層、2層は配置だけ変えましょう。3層はこれとこれを入れ替えですね。4層もこれを入れ替え。」


 レインがどんどん決めていく。レインにはこの手のセンスがあった。このダンジョンは罠も凄いが、レインのセンスによるものも大きい。出来上がったものは見事に各層のレベルにマッチしたものだった。それを見ながら、通路や部屋のレイアウト変更が必要となる場所を洗い出していく。このダンジョンは定期的なレイアウト変更があるので、一部は可動式の壁を使っているため比較的簡単にレイアウト変更が可能だ。可動式といっても、見た目は普通の壁だし殆ど違いは分からないのだが。

 

 そうこうしていると、スラ吉が戻ってくる。

 

「おつかれ、どうだった?」


「罠は全部良好なりね。でも、通路とかの掃除は必要なり。」


「ああ、掃除はしとらんな。」


 ドルストが笑いながらいう。いや、掃除もしようよ。

 

「じゃあ、掃除から始めましょうか。」


「掃除が終わったら、罠は一旦こっちで外しておくからな。」


 ドルストの罠は一級品だ。解除だけならともかく、罠をそっくり取り外すのは非常に難しい。それに、手練のシーフでも10層の罠については解除すらままならないのだ。


「ええ、よろしくお願いします。」


 掃除の手配はスラ吉に任せて、俺とレインは散歩に出かけることにする。

 

 

 そのへんをぶらぶらしていると、見慣れないダンジョンを見つけた。

 

「ここって、ガンディコンツェルンの新しいやつかな。」


 ガンディコンツェルンは、ダンジョンの設計から運用までをこなす、この業界の大手だ。ほかにも幅広くやってるらしい。


「ええ、ダンジョンマガジンにも載ってましたね。」


「ちょっと入ってみようか。」


 俺とレインは、ダンジョンに入っていく。中はちょっと暗めの迷路状のオーソドックスなダンジョンだった。とはいえ、通路の広さとか部屋の配置とか、かなり考えられているよくできたダンジョンだ。そして、魔物のレイアウトもなかなかのものだ。


 ダミーシステムを導入していたので、気にせずに魔物を倒していく。そしてサクッと15層ぐらいまで進んでいった。

 

「さすがはガンディコンツェルンだ。」


「ええ、うまくレイアウトされてますね。」


「10層ぐらいまでは、人も結構いるな。」


「ダンジョンマガジンの情報では30階層だったはずですね。10までが初級、20までが中級、それ以降が上級ですね。」


 ガンディコンツェルンのダンジョンは、大手ならではのバリエーションがあり、古典的なものから奇抜なものまで幅広く取り揃えられている。その分、運営も結構大変そうだと思うのだが、大手ならではのリソースとノウハウが可能としているのだろう。

 そして、このダンジョンもオープンして間もないはずだが、集客も良いようだ。この辺も宣伝のノウハウがあるのだろうと思う。

 

 さらに進んでいくと、20層辺りから冒険者を見かけなくなった。さすがにこのレベルまでは、まだ攻略が進んでいないようだ。大体は10層あたりで躓き始めている感じだろうか。


「あら、ロイドとレインじゃない。久しぶりね。」


 突然、声をかけられてドキッとした。声のした方を見ると、そこには美女が立っていた。

 

「ルーテシアか。脅かすなよ。」


「脅かしてなんかないわよ。そっちこそ、いきなり入ってくるとか何様よ。」


「いや、ここダンジョンだろ?」


「まあ、たしかにそうですわね。でもあなた達を招待したつもりもなくってよ。」


「だから、ダンジョンに招待されるとか聞いたことがないし、入るのに許可いるのかよ。」


 レインもさすがに呆れ顔だ。

 

 ルーテシアは神祖のバンパイアで、ガンディコンツェルンの社長の娘でもある。そして、ダンジョンの設計者としても有名だった。家柄もよく、実力がある上に美人というとんでもない女だ。ただし、性格はちょっと残念な感じだが。

 以前、とあるダンジョンの仕事で知り合ったのだが、どうも仲がいいのか悪いのかわからないような付き合いが続いていた。

 

「いえ、それは・・・ ともかく、私に何の用なのよ!」


「いや、別にルーテシアに用があったわけじゃないんだけどな。ここってルーテシアが設計したの?」


「ええ、テーマは原点回帰ね。」


 テーマがあるとか、すげえな。

 

「たしかに、原点回帰というのも頷けますね。」


「ああ、これは今年のベストダンジョンに入りそうだな。ガンディならではのオーソドックスなんだが、なんか飽きがこない感じという絶妙なバランスだよな。」


 ベストダンジョンは、ダンジョンマガジンの企画で、ランキングの上位10位に与えられる称号でもある。雑誌の企画とはいえ、この業界ではトップクラスと認められるに等しいことだった。ちなみに、冒険者達がランキング投票するようなことはなく、ダンジョンマガジンの独断と偏見で決められるのだが、なかなかちゃんとした結果だった。

 

「あ、あなた達にそこまで褒められるとか、全然うれしくもなんともないんだから。ええ、ほんとに。」


 その割には、ルーテシアは顔が赤い。一応は照れてるようだ。でも、なんか面倒くさいキャラだよな。

 

「ところで、この辺りには何の用事? お父様ならここには来てないけど。」


 ルーテシアの父親はガンディコンツェルンの社長で、ダンジョン協会の理事の一人でもある。俺達の大家のゼットの知り合いでもあり、見た目は厳しいのだが意外と気さくなおじさんだ。当然、神祖のバンパイアである。

 

「いえ、ドルストさんの所のレイアウト変更ですわ。」


「ああ、あそこ。ロイドのところでやってたわね。うちもやりたいんだけど、なんであんた達なのかしら。」


 ドルストのダンジョンは、罠については業界トップレベルなので、やりたがっている業者は多かった。でも、なぜかうちに依頼がきてるんだよな。やっぱり、たまたま紹介されたとはいえ、ガーリンの紹介ってのが大きいのだろう。

 

「で、今回の新作はどんなの?」


「あーなって、どわーっときて、ぐしゃっといくようなやつだ。」


 一応、身振りもつけて説明してやる。


「なにそれ、相変わらず意味分からないわ。」


 ルーテシアも思わず、笑ってしまう。ドルストの説明は、訳がわからないので有名だった。

 

「まあ、そのうちお披露目があるだろうから、それまでは待てよ。一応は秘守義務もあるしな。それに、あれは口では説明できん。」


 ルーテシアはそれでも食い下がってくる。

 

「ねえ、ロイド。もうちょっと教えてよ。誰にも言わないから。」


「ルーテシアさん、以前にも誰にも言わないって言いながら、あっと言う間に広がったことがありましたね。」


 そう言って、レインがにやりと笑う。

 

「そ、それは・・ あ、あれよ、あれ。私以外の誰かよきっと。」


「それは実在する人なのでしょうか?」


 もう、レインが意地悪すぎて、俺は噴出す寸前だ。


「ちょっと、ロイド。この女なんなのよ。」


 ルーテシアが涙目になりながら、訴えてきた。

 

「いや、レインのいってることは本当だし、今回もどこかから情報が漏れるとまずいから、教えら得ないことには変わらないぞ。」


 ようやくルーテシアが諦める。

 

「じゃあ、あとは勝手に見ていきなさいよ。」


 そういうと、ルーテシアはぷいっと行ってしまった。

 

「まあ、悪いやつではないんだけどな。」


「ええ、そうなんですけどね。」


 レインと顔を見合わせると、思わず笑ってしまった。

 それから気を取り直して25層付近までいったところで、ドルストのダンジョンに戻ることにする。

 

 

 ドルストのダンジョンに戻ると、掃除はすっかり終わっており、罠の取り外しにかかっていた。

 

「このパターンはな、ここをこうやってから外すんだ。」


「なるほどなりね。」


 スラ吉がドルストの手伝いをしながら、罠の取り外し方を教わっていた。


「ああ、お帰りなりね。もうちょっとで全部外し終わるなりよ。」


「流石に仕事がはやいですね。」


 レインがスラ吉の仕事を褒める。昔は怒られてばっかりだったが、いつのまにかスラ吉の仕事は恐ろしいまでに上達していた。やはり、スラ吉の魔王に対する思いが成長を促しているのだろう。

 

「とりあえず、先に奥にいっててくれ。」


 ドルストはそういいながら、手を止めることなく作業をどんどん進めていく。俺達は先に行くことにする。まあ、罠は外し終わっているはずなので・・・

 

「痛。」


 俺の足に矢が刺さっていた・・・

 

「「「・・・・・」」」


 一斉に注目された。しかも、笑いをこらえている。

 

「ドルストさん、罠外したっていいませんでしたっけ?」


 レインに矢を抜いてもらい、治療の魔法もかけてもらう。幸い、ドルストのダンジョンの矢は、毒の類は塗っていなかった。

 

「全部外したとはいってないな。」


「そうなりね。」


 ドルストとスラ吉は笑いをこらえながら、作業を続けている。

 

「まあ、どうせ俺が悪いんですけどね。」


「ええ、ちゃんと前をみないボスが悪いですわ。」


 もう、嫌。

 


 気を取り直して、この後のスケジュールを確認していると、ドルストとスラ吉が戻ってきた。

 

「そうそう、お前たちガンディの新しいダンジョンは見たか?」


「ええ、さっき見てきました。ルーテシアの設計らしく、なかなかの出来でしたよ。」


「やっぱり、ルーテシアのお嬢ちゃんの設計か。一度見ておく必要がありそうだな。」


 ドルストもルーテシアには注目しているようだ。

 

 とりあえず、こっちの仕事を先に済ませることにする。まずは、最終的な打ち合わせだ。

 

「罠のレイアウトは、先ほどのプランで大体良いと思うんですが。」

 

 レインの考えたプランは、ほぼ完璧といっていいだろう。


「でも、ちょっと思いつきなんですが、先ほどボスが油断して罠にかかったじゃないですか。」


 それを蒸し返す?

 

「あれは、笑えたな。」


 ドルストどころか、レインやスラ吉も笑い始めた。

 

「いや、人の不幸を笑うって、どうなのよ?」


「いえ、ごめんなさい。そういう意味じゃなくて、たとえばこの罠ってもう広く知られてますけど、発動条件を変えたら面白いかなと思って。」


「なるほど。下にスイッチがあると思って、下ばかり見てると、実は上にスイッチがあるとかだな。」


「裏をかくってやつなりね。」


 ドルストがしきりに頷く。

 

「それに、この罠かな?って思わせといて、実はこっちの罠が動くとか。」


「それなら失敗作品なんだが、いいのがあるぞ。やたらと目立ってしまってな。でも、ダミーとしてはありかもしれん。」


 さらに新しい罠のアイデアとかが次々と出てくる。そして、いきなりドルストが試作品を作り始めたりして、なんか訳が分からなくなってきた。

 

 

 なんとかかんとかレイアウト案が完成した。

 

「これはダメだろ。」


 スラ吉はもちろん、ドルストを除くドワーフ達もドン引きしている。

 

「なんで10mおきに罠があるんだ?」


 レイアウトはレインらしく、各層とのバランスの取れたものだった。しかし、なぜか10mおきにこれでもかというぐらい設置されていた。

 

「でも、設置する罠の数が多いので、そうなるんです。」


 レインがむくれている。

 

「まあ、確かに多すぎるかもしれんな。」


 ドルストも頭をかいていた。そして、ドワーフ達が一斉に首を縦にふる。

 結局、あの後、予定をはるかに上回る数の罠が次々と出来ていた。そして、それらを設置しようとした結果がこれである。

 

「これはちょっと選択しないとダメですよね。」


「うーん、しかしな。」


 ドルストはどうしても新作を設置したいようだった。

 

 突然、扉が開く。一斉に扉のほうを向くと、そこにはボロボロの服を着たルーテシアが居た。

 幸いというか、ルーテシアは神祖のバンパイアなので、脅威の回復力があるため怪我らしい怪我はしていない。ただし、服は当然回復しないのでボロボロだが。とはいえ、ルーテシアの露出度高めというのは、男としてうれしいのは間違いない。

 

「だからこのダンジョンは嫌いなのよ。」


「嫌いなら来なけりゃいいだろ? というか、罠は無かったはずなんだが。」


 俺はドルストとレインを見る。たしか罠は全部外したといっていたはずだ。

 しかし、ドルストとレインも驚いた表情でルーテシアを見ている。やはり罠ははずされていたか。

 

「気になったんだから、しょうがないでしょ!」


 ルーテシアがさらにむくれる。ドルストの新作が気になって仕方なかったようだ。

 

「それに、すべる床とか罠があったわ。」


 それって、ただの濡れた床という気がしないでもない。そして、転ぶだけでそこまで服がボロになるとか・・・

 

「あ、ルーテシアさんのところに設置させてもらったらどうでしょうか。」


 レインが思いついたようにいう。たしかにルーテシアのところに設置させてもらうのはありかもしれない。あの新作は結構近いし、オーソドックスなつくりなので、ちょっとスパイスにもなりうる。

 

「え? うちに新作を設置させてくれるの?」


 突然、ルーテシアの表情が明るくなる。現金な女である。

 

「ちょっと数が多すぎてな。」


 ドルストがレイアウト案をルーテシアに見せると、ルーテシアが絶句していた。

 

「なんなのよ、これ。こんなの有り得ないわ。」


 これが普通の反応である。俺達は間違っていなかった。

 

「どうだろう。お嬢ちゃん、新作の一部を設置させてくれないかね。」


「よろしいんですか? もちろんですわ。喜んで!」


 ルーテシアは罠の内容も聞かずに了承していた。大丈夫なんだろうか。

 

 その後、ルーテシアも交えて罠の選別と再レイアウトを行う。結局、難易度の高めなものはドルストのダンジョンに、低めなものはルーテシアのダンジョンにそれぞれ設置することで、ちょっと多いかな位で落ち着いた。

 

 さっそく罠の設置を行い、テストしてみることにする。

 

「じゃあ、いきますよ。」


 監視ルームのドルストに合図をすると、俺達は1層からスタートする。

 しばらく歩いていると、右の壁に怪しいものが見えてくる。正直、複合パターンの存在を知らないと、間違いなく右の罠に注意が向いてしまうな。

 とりあえず、罠と思われるところの周辺を探してみる。まずは目視だが、床や天井には怪しいものはなかった。

 

「ちょっと、ボス。時間かけすぎ。そこは単純な罠だから。」


 レインはレイアウトをしただけあって、全ての罠の場所と種類を把握している。まあ、反則だよな。

 

「いや、一応テストだし。」


 そういって、右の壁の罠の解除を行う。すると、あっさり解除されてしまった。

 

「次いくなりね、次。」


 スラ吉もちょっとイライラしているようだ。この二人ぐらいだと、1層の罠はあってないようなものだ。

 

 今度は左の壁に怪しいものが見える。やはり天井や床には異常がないようだ。ここも単純な罠なのだろう。

 と思ったら、スイッチらしきものも見当たらない。

 

「なあ、ここの罠ってスイッチなくないか?」


「そんな訳ないでしょ。もうちょっと先行ってみて。」


 レインに追い払うようなしぐさをされてしまった。しぶしぶ前に進んでみると、足元にスイッチらしきものが見える。

 しかし、これはどうやって解除するのだろう。初めて見るタイプの罠だった。

 

「すまん、解除の仕方がわからん。」


 そういって振り返ると、レインもスラ吉も数m離れている。先行するものが罠に巻き込まれても安全であり、突然魔物とかち合ってもすぐにフォローが出来る距離だ。まあ、ダンジョンのフォーメーションとしては正しいのだが。

 

「それ、解除できませんから。」


「な、なんだと。」


 解除できない罠とか、そんなものがあったとは。とりあえず、後ろの二人に声をかけて、罠を発動させる。

 

 すると、俺の後ろの天井が突然落ちてくる。

 

「レ、レイン、スラ吉!」


 二人を呼んでみるが、当然返事はない。かといって、俺一人の力では、この天井は持ち上げることもできない。持ち上げられたとしても、二人は天井に押しつぶされてしまっているだろう。俺はその場にがっくりと膝をつく。

 

「う、うう。そんな・・・」


 この仕事には事故はつきものである。それは十分理解していたはずだ。とはいえ、俺のミスで自分の命を落とすのならともかく、仲間を失うというのは耐えられなかった。

 

 どこからともなく、なにかを巻き上げるような音がする。この罠のリセットがかかったようで、天井が上がり始める。

 せめて、骨だけでも拾ってやら無くては。まあ、スラ吉は骨がないのだが。と思ったら、二人はなぜかぴんぴんしている。丁度二人がいる辺りだけ、天井が落ちなかったようだった。

 

「え?」


 何事もなかったかのように、レインとスラ吉が近づいてくる。

 

「ちょっと、ボス。何泣いてるの?」


「ひょっとして、天井に足でも挟んだなりか?」


 いや、お前らのためなだが・・・

 

「なんで無事なんだ?」


 レインが訝しげに首を捻る。

 

「むしろ、なんでこの程度の罠で、私達がやられないといけないんでしょうか。」


 よく考えたら、ここは1層だ。ここでレインやスラ吉がやられるようなら、誰一人この先にはいけないのである。それはレイアウトミス以外のなにものでもない。そして、このレイアウトをしたのはレインであり、ミスなどありえない話だった。

 

「親分、この罠は、変に近づきすぎたり、離れすぎたりして、適正な距離を保っていないと天井に挟まれるなりよ。」


「ええ、先行するものとの距離は、ダンジョンの基本です。それすらできないのなら、この先にいく資格はありません。」


 なるほど、そういう罠だったのか。とりあえず、ほっとした。

 

「じゃあ、どんどん先にすすみましょう。」


 レインに促され、俺は先へと進んでいく。結局、1層には複合パターンの罠はなく、特に問題なく2層に向かうことにする。

 

 2層も俺が先行する。この3人の中で、一番罠の解除が下手なのが俺だからしょうがない。レインやスラ吉ではテストにもならないのだ。

 テストの内容は、罠の稼動確認、解除ができるかどうかなどの動作系の他に、罠の場所は適正か、各フロアの所要時間はどのくらいかなども確認項目として挙げられる。なので、レインやスラ吉だと所要時間が有り得ない時間になってしまうのだ。

 

 2層もいくつかの罠があったものの、順調に進んでいく。

 そして、目の前にまたしても罠がある。しかし、これまでのものとちょっと気配が違うようだった。

 この罠は足元のスイッチを踏むことで、壁の隙間から矢が出てくるタイプのはずだ。そう、俺が前に食らったタイプだ。しかし、壁には矢が通りそうな隙間が見当たらない。むしろ、天井にちょっと大きめの隙間が見える。

 とすれば、踏んだら天井から矢なり槍なりが出てくるはずだが、場所があっていないのだ。

 

「悩んでるなりよ。」


「ええ。」


 振り返ると、レインとスラ吉がニヤニヤしていた。さてはここが複合だろう。とすると、どこかに本当のスイッチがあるはずだ。

 

「じゃあ、いきましょうか。」


 レインとスラ吉がいきなり先に行こうとする。

 

「ちょっと待て。まだ罠の仕組みも解除も終わってないぞ。」


 あわてて二人を止めようとするが、俺もそのまま引きづられてしまう。

 

「ちょ、おい。」


 その時だった。突然壁に隙間が出来て槍が突き出される。あのままだったら、俺は串刺しに鳴っていただろう。

 

「どういうことだ?!」


 俺は呆然としていた。

 

「時限式なりね。」


「時限式?!」


 レインとスラ吉が頷いている。

 

「あのあたり一体の床がスイッチになってるの。つまり立ち入った瞬間にスイッチがはいるわけ。で、一定時間がくると、突然壁に隙間ができて槍がでてくるの。あの床のスイッチは完全にダミーね。」


「な、なんだと・・・」


 いつまでも調べてると、後ろに迷惑だから排除するということか。性格わりーな。

 

 どうにかこうにか、2層もクリアする。そして3層へ向かう。3層は思ったよりも楽だった。まあ、俺一人だと死んでるんだが。

 

 4層、5層も俺一人だと無理だが、レインやスラ吉がいるので、なんとかなった感じだ。

 

「なあ、ここ難易度あがってないか。」


 以前のパターンだと、俺一人でも5層ぐらいまでは来れたのだが、今は5層までに3回ぐらい死んでそうだった。

 

「そうでしょうか。でも、ルーテシアのところもあるんですから、差別化ってことですね。」


 なるほど、レベルの低いシーフはルーテシアのところに、その上はこちらにということか。

 

 さて、6層だが、俺は途中でリタイアして監視ルームに向かうことにする。さすがに、ここから先は足手まといになるし、下手すると死にかねない。

 

 監視ルームにつくと、ドルストやルーテシア達がモニターに釘付けになっていた。

 

「いや、ここ厳しいですよ。」


 そういいながら椅子に座ると、ドワーフの一人がお茶を出してくれた。

 

「まあ、こんなもんだろう。むしろ、見ものはここから先だ。」


 そういうと、モニターにレインとスラ吉が映し出される。そして、時々レインが身を屈めてなにかを操作したりするのが映し出されるが、ときどきドワーフ達の驚きにも似た声が上がる。おそらくだが、レインが何気なくやってるように見えることが、かなりの高レベルなものなのだろう。

 そして、時々わざと罠を発動させ、すばやい身のこなしで避けてみたりもしている。スラ吉にいたっては、わざと受けていたりもする。

 

 

 全てのフロアのテストを終え、レインとスラ吉が監視ルームに戻ってきた。

 

「どうかね。」


 ドルストがレインとスラ吉に尋ねる。

 

「まず、6Cはスイッチの感度がよくありません。7Fは場所を動かした方がよさそうですね。8Aもスイッチの感度がイマイチでした。」

 レインが次々と指摘していく。クリアするだけでも大変なのに、その細かい部分まで調べるとか、ちょっと引いてしまいそうになる。

 

「よし、ではさっそく調整にかかろう。」


 ドルスト達が立ち上がろうとする。

 

「あの、そろそろ帰ろうかと思っているのですが、どうやって帰ればいいのでしょうか。」


 ルーテシアがもじもじしていた。

 

「ん、別に普通に帰ったらいいだろう。」


 ドルストが不思議そうに答える。

 いや、ルーテシアの言いたいことは、俺にもわかる。

 

「入り口まで無事に辿り着ける気がしない、ってことだろ?」


 ルーテシアが恥ずかしそうに頷く。おそらくこの無事というのは、体ではなくて洋服なのだろう。さすがにボロボロを通り越してただの布きれになってしまうだろうし、着替えも当然持ってきていない。つまり、恥ずかしくて帰れなくなるということだ。

 

「ちなみに、俺も一人だと生きて帰れる自信がない。」


 思わず、ドヤ顔で言ってしまう。

 

「たしかに、今の状態だと、メンテナンスも大変かもしれませんね。」


 レインが考え込むように言う。そして、そのセリフにはっとするドワーフ達。

 

「うーん、そろそろ裏道が必要か。」


 そのセリフにドワーフ達が一斉に頷いていた。

 

 結局、裏道を作ることに落ち着き、俺とスラ吉を中心に裏道を作っていく。そして出来上がった裏道を使って、ルーテシアは帰っていった。ついでに、ルーテシアのダンジョンに設置する罠をもって、数人のドワーフ達も一緒についていった。

 

 その間にレインとドルスト達は罠の再調整を済ませていた。こうして、ドルストのダンジョンは再オープンを迎えたのだ。

 

 

「中堅レベルのパーティが5層にきました。戦士、シーフ、魔法使いが2名の4名構成です。」


 モニターをチェックしているドワーフから報告が入る。

 

 ドルストとレインがモニターを食い入るように見ていた。再オープンして初めての5層到達だった。やはり難易度はかなり上がっているようで、1層すらクリアできないパーティが2割ほどもいた。以前は1層のクリア率はほぼ100%だったので、明らかに難易度が上がっているようだ。

 とはいえ、その受け皿としてルーテシアのダンジョンがあるので、うまくそちらに流れれば問題は無いはずだ。そして、シーフとしての技量を挙げることを目指す場合にはこちらで、パーティとして上を目指す場合にはルーテシアのダンジョンをそれぞれ攻略していけばいい。なんとうまい住み分けであろうか。

 

 で、5層トライ中のパーティだが、シーフの集中力が持たなかったようで、あっさりとシーフが罠で死んでしまった。このダンジョンでシーフが居なくなるということは、全滅を意味する。なので、残されたメンバーは進むわけにも行かず、なんとか戻ろうとするがこちらも結局全滅してしまった。

 

「ちょっと、まずいですね。全滅率が高すぎるようです」


 レインが難しい表情をしている。そして、俺も頷くしかなかった。


 ドルストは気にしていないようだが、この全滅率はかなりヤバイ。すくなくとも2割ぐらいは戻らないと、評判が流れない。また、リスクが高すぎると思われると、最悪閑古鳥が鳴く。

 しかし、ここはそもそもシーフダンジョンといわれる、ちょっと特殊なダンジョンである。レイアウト的にも、大量のパーティが押し寄せるようには出来ていないのも事実だ。なので、多すぎるのも困るのではあるが。

 

「せめて、低レベルだけでもルーテシアの方に誘導する必要があるなりね。」


 スラ吉のいうように、低レベルだけでもルーテシアのダンジョンに誘導する必要があるだろう。高レベルについは、引く判断も求められるわけで、無茶をして全滅するのも自分達のせいである。

 

「じゃあ、ちょっと街にいってくる。」


 そういうと、出来立ての裏道を使って、町へと向かうことにする。

 

 

 チェンジリングをつけて、中堅ぐらいのシーフに姿を変えると、とりあえず酒場へ向かうことにする。

 酒場では、ドルストのダンジョンと、ルーテシアのダンジョンの話題で持ちきりだった。

 

 ルーテシアのダンジョンについては、かなり好評なようだ。あそこは出来がいいので、当然だろう。そして、ドルストの罠の設置も終わったようで、そちらもかなり話題に上がっている。

 

 一方、ドルストのダンジョンだが、こちらはあまりよくない。やはり、低レベルのパーティの全滅率が響いているようだった。

 

 さっそくステマ開始である。おりしも、カウンターのとなりのパーティはなかなか出来そうな感じであり、ドルストのダンジョンの話をしている。

 

「だから、俺がいれば大丈夫だって。」


「でも、アーリのパーティも、ジルのパーティも戻ってきてないんだぞ。」


 シーフはしきりに行きたがっているが、ほかのメンバーは二の足を踏んでいるようだ。よし、さりげなくいくか。

 

「あんた達、シーフダンジョンにいくのか。」


 そいつらから一斉に注目を浴びる。

 

「ああ、シーフなら行くのは当然だろう。」


「そして、俺達も犠牲になるのか?」


 ああ、やばいぞ、こいつら。頭を冷やさせないと。

 

「たしかに、あのダンジョンはなんかやばくなってきたな。俺も以前は5層ぐらいまではいけたが、今はせいぜい3層ぐらいだ。4層はちょっとまずい。」


 おそらく、俺の見た目はこのシーフよりちょっと上ぐらいに見えるはずだ。

 

「なんだと・・・」


 シーフのやつの顔色が変わる。多分、こいつは以前の5層も行けていなかったのだろう。つまり、一人前といわれる5層クリアが目的だったのだろうが、お前死ぬって。

 

「ほら、やっぱり危険じゃねえか。」


 魔法使いと思われる男がシーフをちらっと見ながら言った。

 

「しかしですよ、この方は以前は5層をクリアできていても、今は3層あたりということは、今は3層をクリアできれば一人前ともいえるのではないですか。」


 あ、そうなるのか。だったら、4層にしとけばよかったかもしれない。ちょっとミス。まあ、いいか。

 

「なるほどな。たしかにそうだ。よし、3層クリアをめざそう。それでいいな。」


 シーフも頷いている。こいつらが無事戻れれば、かなり評判も変わるだろう。一応、後でドルストやレインにも連絡しておこうと思う。

 

「けっ、どいつもこいつも腰抜けかよ。」


 その声に振り返ると、やたらと高そうな装備の連中がいた。おそらく、どっかの貴族の三男とかだろう。

 貴族は次男ぐらいまでは跡目相続の可能性があるが、三男以降はほぼその可能性がないため、出来がいい奴は軍にはいったりするか、娘しかいない貴族のところに婿として入ったりするのである。そして、こいつらは出来が悪い方だろう。つまり、ダンジョンに入るとか傭兵になるしか選択肢がなかった連中だ。

 

「じゃあ、俺達は明日シーフダンジョンクリアしようぜ。」


 なんか、勝手に盛り上がっている。周りもこいつらの装備に惑わされていそうだ。こいつら、正直弱そうだぞ?

 そして、よく見るとシーフがいない。戦士が4人と魔法使いが1名とかいう、ありえない組み合わせだ。おそらく、知り合いで組んだらこうなった、というパターンだろう。

 よし、こいつらが本当に来たら全滅させておこう。もっとも、勝手に自滅するだろうけど。

 

 その後、見込みがありそうな2パーティぐらいと話をしたあと、ドルスト達のところに戻ることにした。

 

 

 翌日、例の中堅パーティがやってきた。

 かなり慎重に進んでいるようだが、その慎重さが仇になる罠があるんだよな。

 

 2層の時限式罠に差し掛かってきた。やはり、このシーフも悩んでいるようだ。まあ、俺も悩んだけどな。

 すると、戦士がほかのメンバーをつれて、シーフのところに進んでいく。お、うまくいきそうだぞ。

 

 戦士とシーフがなにか言い合いをしていた。そして突然、取っ組み合いが始まる。周りがあわてて止めようとして、そのまま罠を通り過ぎていった。次の瞬間、罠が発動するが、幸いなことになんとか切り抜けたようだ。

 とはいっても、自分達の後ろで起こったことに呆然としていたが。

 

 結局、このパーティは、なんとか3層をクリアして戻っていった。おそらく、これでいい方向に流れていくことを期待したい。

 

「なんか変なのが来たなり。」


 モニターを見ると、昨日の貴族のような奴らが来ていた。本当に来やがった。

 

「このパーティ、シーフがいないようなんですが。」


「ああ、昨日酒場で見かけた。おそらくどっかの貴族の倅だろうな。」


「あの剣とか、高く売れそうだな。」


 ドルストは剣とか防具とかしか見ていないようだ。まあ、全滅必須だしな。確実に取れる狸の皮算用である。

 

 こいつら、フォーメーションとか間隔とかお構いなしに歩っていやがった。と思ったとたんに、天井が落ちてきて後ろの戦士と魔法使いがつぶされる。

 流石に、残った3人は唖然としていた。まあ、当然だな。

 

 ここで戻るかと思いきや、3人で奥へと進み始める。まったく何も考えていないようだ。

 

「じゃあ、あの装備拾ってくるなり。全滅も時間の問題なりね。」


 スラ吉が装備を拾いに向かう。スラ吉を見送ったあと、モニターに目を移すとあの3人がさらに矢の罠にはまっていた。

 

「まさか、あの罠にはまる奴がいるとは・・・」


 監視を担当しているドワーフが、思わずつぶやく。ここにも居るけど、それは口が裂けてもいえない。

 

「あ、まずいですわ。戻り始めました。」


 レインがスラ吉を追いかけようとするが、ふと足が止まった。

 

「でも、別にあの人達が罠以外で全滅しても困りませんね。」


 そういうと、席に戻り、お茶をすすり始める。おそらく、あの3人は装備を拾いにいったスラ吉と出会うだろう。そして、あの3人は間違いなくスラ吉に襲い掛かるだろうが、逆にスラ吉にあっさりと仕留められるのだ。

 

 モニターを見ていると、やはりスラ吉とばったり出会った。案の定、スラ吉に襲い掛かる。しかし、スラ吉の様子が変だった。なんかダメージを受けているように見える。

 

「あれ、遊んでないか?」


「ええ、遊んでますね。」


 スラ吉はダメージを受けているフリをしていた。そして、かれこれ100回近く攻撃されていた。さすがにあの3人も、肩で息をしながらおかしいと思い始めたようだった。普通はもっと前に気が付くんだがな。

 その瞬間、スラ吉が手前の一人を捕食する。残った二人は何が起こったのか理解できていないようだった。さらに一人、そして最後の一人が捕食される。まったく、どうしようもない。

 

 しばらくして、スラ吉が戻ってくると、拾った装備を吐き出した。

 

「なんか変わった装備なりね。でも、持ち主はどうしようもないなり。」


 ドルストが装備をチェックする。

 

「これは、儀式用だな。」


「「え?」」


 なんだと?!

 

「じゃあ、なんですか。あいつらは儀式用の装備でダンジョン来たんですか。」


 見た目だけ派手な、実用性のない剣や鎧があるのは知っていた。でも、始めて見た。そんな装備は国の式典ぐらいでしか使われないし、式典だけでしか着用しないものなど、持っていないほうが多いのだ。

 

「とはいえ、結構高く売れるだろう。」


 どっちかっていうと、置物として売れるそうだ。どっかの成金商人とかが見栄で家に飾るのだろう。

 

「世の中って広いですわね。」


 レインがあきれ返っていた。少なくとも、レインの実家には無さそうなものだ。

 

 

 その後、初心者の数が減ってきたようだ。どうやら、うまくルーテシアのダンジョンに誘導できたようだった。そして、こちらに来るパーティも徐々にレベルが上がってきたように見える。

 

「よし、今回の改装はひとまず成功と考えていいな。最下層までクリアとなると、ずいぶん先になるだろうが。」


 いや、最下層いけるようなパーティは、ずいぶん先どころかいないような気がするぞ。

 

「じゃあ、とりあえず今回の仕事は終了ということでよろしいですか。」


「ああ、そうだな。」


 これでようやく終わった。

 

「しかし、今回はいろいろと勉強になったな。まさか既存の罠が組み合わせで新しい罠になるとは思いもしなかった。」


 ドルストがうんうん頷いている。

 

「そうですわね。」


 レインもニコニコしていた。

 

「そうだ、スラ吉。お前、また遊びに来い。いろいろ罠について教えてやる。」


「了解なり。よろしくお願いするなり。」


 どうやら、スラ吉はドルストに気に入られたようだ。

 

「よし、じゃあこれで失礼します。」


「また頼むぞ。」


 俺達はドルストに挨拶すると、裏道から外に出た。

 

 変える途中でルーテシアのダンジョンに寄り道したところ、こちらも大盛況のようだった。

 

「ルーテシアのダンジョンも、結構賑わってるようですわね。」


「ああ、なんてったってドルストさんの新作もあるしな。」


「そうなりね。」


「でも、ルーテシアには負けていられませんわ。」


「そうだな。俺達ももっと頑張らないと。」


「そうなり。でないと、魔王にはなれないなりね。」


 俺達は、気持ちも新たに次の仕事に取り掛かることにした。

 

「え? 休暇じゃないなり?」


「お前、今頑張って魔王になるって言ったばっかりだろ?」


「うう、休暇終わってから本気だすなり。」


「それって、ダメパターンですわ。」


 レインが思わず笑ってしまう。それにつられて、俺とスラ吉も笑ってしまった。

 

「じゃあ、次の仕事が終わったら、休暇にするか。」


「分かったなり。頑張るなり。」


 今度こそ、気持ちも新たに次の仕事に取り掛かることにした。

 


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