―入学式―2
「今日から俺がこのクラスを受け持つことになった。名前は椎葉克己だ。しっかり覚えとけ。担当教科は現国だ。面倒くさいことは全て学級委員に丸投げする事にしている。宜しく」
と初日から気だるいオーラを全面に押し出しているのが、我がクラスの担任になったらしい椎葉先生だ。
長身のイケメンで、緩くパーマのかかった明るい茶髪に、眠そうな目元。
新品のスーツによれたネクタイが先生の性格を表しているようだ。
この人も、言わずと知れた攻略対象である。
ほら、見てみろ。
さっきまで静をガン見していた主人公が瞳を輝かせながら先生の話を聞いている。
しかし、たまにチラチラと横目で静の事を見てる。
さすが。メイン攻略キャラである。
早くも主人公から気に入られている。
まあ大変。
そしてその静は私のことをガン見してる。なにこの連鎖?
そんなに見られたら女子の嫉妬買うって。
せっかく新入生代表の挨拶も上手くいったのに…。
そう、私が一番危惧していた新入生代表の挨拶も無事に終わった。
残るは目立たないように主人公の攻略妨害をするだけとなった。
入学式が終わった後、次に気になるのはクラス分けだ。
私はまだ生徒玄関に張り出されているクラス分けを見ていなかったので、静に聞いてみると呆れながらも嬉しそうに教えてくれた。
私と静が同じクラスであることを。
つまりそれは主人公と同じクラスであることを意味していた。
静と同じクラスになったことは嬉しかった。
しかし、同じクラスになったとたんにこれだ。
静、私はお前になにかしたか?
確かに中学では一度も同じクラスにならなかったから新鮮ではあると思うが見つめすぎだぞ。穴が空いてしまう。いや、空かないけど。
静がガン見してくるので、視線をどこに向ければいいかとさ迷わせていたら結局窓の外に落ち着いた。
普通は話をしている先生を見るとこだが、正直イケメンは目に悪いのだ。
遠目で見る分には全然構わないのだけど…。
そんな事を考えていると不意に、
ヒュンッ!!
と、私の鼻スレスレを白い何かが霞めて通過した。
……何、今の。
首だけを旋回させて後ろを見ると、折れたチョークが散らばってた。
犯人は決まってる。
たった今までチョークを片手に持ってたやつ、椎葉克己先生である。
…何をしとるんじゃ、うちの担任は…。
「あっ、ごっめーん。手が滑ったわ。俺の話を聞かず外ばっか見てるやつに勝手に手が反応してたわ」
「え、それ滑ったって言いませんよ。明らかに故意にやってんじゃないですか」
私の言葉にニヤリと笑った先生。
こういう時に必ず厄介事が降りかかるということを私は知っている。
「はい。そんなお前に罰を与える。多分聞いてなかったと思うから説明してやる」
「はあ?」
罰って…。なんだそりゃ?
「さっき学級委員を決める話をしていたんだかな、女子の立候補者がいないんだよ」
そして彼はわざとらしく続けた。
「お前、学級委員になれ」
『椎葉克己』
ゲームの中では無気力で、結構流れに身を任せるようなのらりくらりした人。面倒くさいことは他人任せにする癖があり、学級のことは学級委員に任せっきり。
そんな名誉ある学級委員になるためには自分から立候補してはいけない。
向こうから指名されるされるまで待たないといけない。
多分3、4回やって1回当たるかどうかの確率。とにかく攻略が面倒くさい。