―オリエンテーション宿泊-4
ずいぶんと更新出来ていなくてすみません!
「遙ちゃーん!お風呂次私たちの組だって!一緒に行こう!」
有栖川さんのその言葉を聞いた瞬間、私は一目散に駆け出した。勿論、目指すは大浴場である。
昼間の大騒動による疲れを癒すためには風呂に浸かるのが一番だ。
途中、「かけっこ?楽しそうだね!」なんて言って陵ヶ峰君が追いかけてきた。
お前は小学生か。
うざいから抜いてやったら意地になって抜き返してきた。
おまっ、帰宅部相手に本気出すなよ!オイコラ待てエース!……ってあれ?
なんで私こんな全力で走ってるの?
キャンプ場からの全力疾走で軽い酸欠になりながら、今更に思う。
「これ別に走る必要ないんじゃね?」
「いや、それ今走ってたお前が言う?」
いつの間にか追い付いてきた静が汗ひとつかかない涼しい顔で言ってきた。
ごもっとも。
だけど昼間の大騒動を引き起こした迷惑な人に言われたくなーい!
そんな思いをこめて睨んでやると静は「うっ…」と少し呻いてから
「反省しています……」と小さい声で呟いた。
「よろしい。もう二度とガスコンロに触らないように!」
そして金輪際君は二度と料理をすることなかれ。
▼▼▼
「いいお湯だった……」
星空輝く午後9時前。
現在私は大浴場へ行った後、各自就寝まで自由行動と言われたのでテント近くのベンチに座り世間話に身を投じている。
「本当だよねぇー。正直、学校の行事だから大浴場って言っても結構ショボいやつかと思ってたけど、まさか露天風呂まであるなんて」
「うんうん。入浴剤入ってるお風呂なんかもあったねー」
そう言って天使の笑顔で微笑んでくれたのは笹倉鈴ちゃん。私がお風呂を出たら話しかけてきた。
実は彼女とは中学からのお友達。
クラスは凌ヶ峰君と同じ三組。
いつも静とかばっかとつるんでるけど、私にだって女友達くらいいる。
ココ重要!
「しかしまぁ、お疲れ様でしたねぇ…お昼は。普通ガスコンロなんて爆発しないのに…。神崎くんだったよね?」
「そうなのー。お陰で先生には怒られるし、変に目立っちゃったし大変だったよ」
いや、簡単に言っちゃってるけど本当はそんな生温いものではなかった。
爆発による火を消火するのに走り回り、ヘトヘトになった私たちを待っていたのは、先生達による説教と、施設のスタッフへの謝罪、その他色々だった。
施設の人も爆発する可能性のあるガスコンロを提供してしまった事に謝ってくれた。
幸い、回りにあった油やガスボンベなどを巻き込まなかったから、そんなに大きな被害は出なかった。
ガスコンロと台が黒焦げになっただけだ。
後、一部芝生が消えたけど、なんかデザインみたいだし、結構良くない?うん。オシャレになったと思う。
そんなこんなで大変だったけどお昼はきっちり食べることができた。
何故か一人だけ説教されなかったモブ梅下君がカレーを完成させていたからだ。
別に一人だけ説教されてないから羨ましいな、なんて思ってないよ。全然。うん全然?
彼も彼で大変だったのだ。なんせ五人分のカレーを一人で作ってたんだから。
もちろん彼のカレーは絶品だった。料理上手は伊達ではなかった。
しかしカレーの味よりインパクトが強かったのがサラダの盛り付けが芸術的だった事だ。
思わず写真にして残したいくらいだった。携帯を持って来なかったのが悔やまれるっ…くっ!
私は梅下君に何かしらのセンスを感じたよ。
はっ!ダメだいかん。
話が飛んだ。
「それはそれは…お疲れ様ですね…」
心底お疲れ様という表情で哀れみの目を向けてくる鈴ちゃん。
「静は昔から料理下手だから仕方ないのは分かってるんだけどね…」
「いやもうあれは料理下手という次元じゃない気がするよー……」
「でもでも、意外とドジっ子な神崎くんもかわいいと思う!」
急に話に交ざってきた有栖川さん。一体どこから私たちの話を聞いていたのかね君は。
あと空気読め。
確かに同感だけどさ。
しかし有栖川さん、まさかこれあれかな?静狙っていきますよーっていうサインかな?それはヤバイ。
ノットヤンデレ。
「………前から思ってたんだけど、もしかして有栖川さんって神崎君のこと好きなの?」
おおっとーここで私と同じことを疑問に思った鈴ちゃんが直球ストレートで聞いてきたぞ。
君、遠慮という言葉知ってる?
有栖川さんを見ると、彼女は顔を真っ赤に染めていた。
多分図星だろう。好きというか、お気に入りの中の一人という意味で。
「ち、違うの!だって神崎君、遙ちゃんの幼馴染みっていうから気になっちゃって…!」
「確かにうん。幼馴染みね」
もはや家族とか弟っていうイメージが強かったから、忘れてたわ。確かにそんなポジションになるな。
「うんうん。確かに幼馴染みですねー。しかし聞いて驚くことなかれ!吉崎氏にはもう一人幼馴染みがいちゃったりするのですー!」
どんどんパフパフと効果音をつけて大袈裟に言いきった鈴ちゃん。
けど別にそれ驚くようなことでもないよね。
仕方ないか。鷹臣は鈴ちゃんの好み(筋肉の)ドストライクだからね…。
案の定、有栖川さんは別段驚いた様子はない。
残念だな笹倉氏よ。
「うん。それ神崎君からも聞いたよ。見たことないんだけどね」
あ、さては静、面倒になって鷹臣に有栖川さん丸投げしようとした?
失敗したな静。彼女、一カケラの興味も示してないぞ。
鷹臣も可哀想に。君も彼女が好きそうなかなりのイケメンなのにな。
私は熊にしか見えないんだけど。
「見てないのは当たり前だよ。一昨日やっと学校に登校し始めたからね」
「えぇ!学校に来なかったって……。もしかして引きこもってたとか……?」
「ふふ、違うよー。あいつ、ココ数年風邪すら引いたことないような頑丈なやつよ?確か盲腸が入学式の前日見つかってね、あいつバカだから結構大きくなるまで気付かなくって…。手術するまでずっと入院中だったの。忘れてたけど」
そう。本気で忘れてたけど私にはもう一人、幼馴染みがいる。
ちゃんとお見舞いには行った。…今まで忘れてたけど。
「あ、噂をすれば。ほら、あの一番背の高い男の子!」
鈴ちゃんはクラスの男子数人でトランプをしている集団の中で一際目立つ熊、もとい鷹臣を指差した。
身長が大きい分、頭ひとつ飛び出てるからすぐわかる。
「遙ちゃん呼んできてよ!」
えぇ!マジか!できれば有栖川さんに会わせたくないんだけど……。
うわ、やめてーそんな期待を込めた眼差しで見つめないでー!
「ハァ…。おーい鷹臣ー!」
ちょうどテントに戻ろうとしていた彼は、私に気がつくとこちらに向かって歩いてきた。
そして189㎝ある巨体が私の前に立ち憚る。
う~ん。いつ見ても大迫力だ。
鈴ちゃんは鷹臣がやって来たのを確認し、「じゃじゃーん!紹介します!彼が噂の朽木鷹臣君です!見てよ、この筋肉!」と鼻息荒く紹介しはじめた。
流石、『腐』の字が付く女の子。
鷹臣は何がなんだか分かっていない様子だったけど、取り合えず初対面の有栖川さんにペコリと頭を下げてあいさつした。
「こんばんは。俺の名前はこいつが言ったとおりだ。クラスは三組な。よろしく」
あくまでフレンドリーに。さすが私達の幼馴染み。
そして同い年だけど、私と静の兄のような存在でもある。
お兄さん属性だから、私的にはポイント高いよ!
これはイケメン好きの有栖川さんは喜ぶだろう。
呆れながら彼女の反応を伺っていると、予想に反し彼女からは「…え……?」という呟きだけが聞こえてきた。
気になって彼女の方を振り向くと彼女は目は極限まで見開き(しかしその瞳はこれでもかというくらい輝いてる)、呆然として「なん……ここ…かくし……キャ……が…るの?」とブツブツ何かを呟き始めた。
しかし次の瞬間には彼女は頬を桃色に染め、恋する乙女……いや、獲物を狙う肉食獣の女の目に切り替わった。
有栖川さんは鷹臣に興味を持ったみたいだ。
鷹臣を狙うつもりなのかな?
でもそれにしてもおかしいな、鷹臣は攻略対象じゃないのに。
それに初対面なはずの鷹臣を知ってるように見えるのはなんでだろう?
でも、一番気になるのは彼女が呟いた「まだ出てこないはずなのに」という言葉だ。
鷹臣のことを言っているのは分かるんだけど……。
一体どういう意味なのだろうか?




