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-オリエンテーション宿泊-3

えー、さてさて、私一人を取り残して昼食作りに盛り上がっていく我が1班メンバー。


しかしその現状はあまりに悲惨なものだった。




まず、トップバッターは陵ヶ峰君だった。


陵ヶ峰君は間違っても器用ではない。

二つのことを同時にやれと言ったら失敗するし、彼が描いた風景画は必ず抽象画になるという特技まで持ちあわせている(ファンブック記載)くらいである。


しかし、人生の中で1度も料理をしたことがないという彼に、材料を切るぐらいは出来るだろうとじゃがいもの皮剥きを任せた私。


案の定、切り終えたじゃがいもは不格好で、まさかの"真っ赤"だった。


「え、ちょ、なんで真っ赤なの!?ていうかその手!血がでてるじゃない!」


「え、いや、あの、包丁って思いの外鋭くて……」


「なに当たり前のこと言ってんのよ!」


昔の静じゃあるまいし、なんで両手切ってくんのよ!切るなら一ヶ所だけにして!せめて左手!


つーか、昔の静も「包丁って…鋭いな?」とか言ってたような気がする!両手を血で真っ赤にしながら!しかも爽やかに!

はうぅっ!既視感がするうぅ!


「こっちに来て!手当てするから!」


私は陵ヶ峰君の腕を無理やり掴み、救護用の部屋につれて行った。


部屋に着くと何故か養護教諭の先生がいなかった。

何ヵ所か探し回ったけど、探しているうちにも陵ヶ峰君の血はドクドクと吹き出てくるので断念し、結局、私が手当てをすることになってしまった。


手当て中、顔を真っ赤にして私が彼の手にさわるたびビクビクされた。

でもごめん。今はそのピュアさが気持ち悪い。


私の陵ヶ峰君への高感度は只今低迷中です。

御愁傷様。


ちなみに後から聞いた話によると養護教諭こと赤石志乃(あかいししの)(31歳独身。女)はキャンプ場の休憩施設にある大型テレビで競馬中継を観ていたらしい。


……キャラ濃すぎだろ。

しかも美人だから怒るに怒れない私。

残念すぎる……。



そして彼の手当てが一通り終わり調理場に戻った頃、またさらに悲劇がおきた。


「遙ちゃーん!お米研ぎ終わったよー!」


そう言ってガバッと抱きついてきたのは本日の問題児2だ。しかもエース級である。

私とあなたはいつの間にそんなに仲良くなったんだ。おい。


しかし嫌な予感がする。

陵ヶ峰君の流血事件の後だからなおさらだ。

私の班は何かと問題児が多いから何かしでかさないかと内心ヒヤヒヤしている。


「終わったんだ?ありがとー。あ、一応聞いておくけど、まさかお米を洗剤で洗ったとか、そんなことないよねー?」


「えーやだなぁー遙ちゃん。私のことをなんだと思ってるのー。ちゃんと水で洗ったよ!」


「え、あははごめんね。そうだよね。そんな失敗しないよねー」


いや、流石にそんな失敗はしないよ。

いくら有栖川さんがスタイルよくて絶世の美少女だからって、日本人なんだからそんなことしないよね。


「もう、そんな心配しなくても、ほら!」

これ見よがしに私に研ぎ終わった米を見せてくる有栖川さん。

ちょっ、ウザい。

見るから、見るから顔に押し付けないで。痛い。


私は仕方なしに米が入った釜を覗き込んだ。


…………あれ?


「………ねぇ、有栖川さん、なんかこれおかしくない?」


「え、どこが?」


可愛らしくコテンと首を傾げる有栖川さん。

うっ…。可愛くない可愛くない……。


「なんか、最初に配られた量より、大分少なく感じるんだけど?」


気のせい…ではないよね、明らかに。

三分の一は確実に無くなっている。


「あれ?水を替えるとき少しこぼれちゃったけど、でも、量はあんまり変わってなくない?」


「なくなくない!!」


「え、どっち?」


ええい!今そんなことは関係無いっつーの!

有栖川さんは聞いて無かったかも知れないけど、準備してある材料を余らないように均等に各班に配ったため、一班の材料の量は決まっている。

つまり材料に余りがない。

ということは、ニンジンが川に落ちて流されたって、じゃがいもを熊に襲われて奪われったって、追加で貰える訳ではないのだ。

先生だって説明の時ここを強調して話していたのだから間違いない。


うちの班には食べ盛りの男子が3人もいるのだ。

しかも一人は剣道部のエースの陵ヶ峰君もいる。

足りるわけないだろ!


しかしそれを説明する気力も残ってない私は、弱々しい声で「もうなにもしないで」と言うしかなかった。

…仕方ない。他の班から少しずつ分けて貰おう。


「………なんかごめんね」


……………そう思うなら問題を起こさないでくれ。




そんなハプニングだらけの中、唯一の希望と言ったらモブの梅下君だった。


彼は料理が上手だった。

聞くと彼は母子家庭で家事は一通りこなすことができるらしい。

キャベツの千切りだって熟練の主婦並みにはやい。


あ、勿論、私も料理は得意だよ?



全く、静も見習ってほしい。主に料理方面で。

いや、無理か。


…ん?そういや、静といえば。


「ねぇ静さ、なんか戻ってくんの遅くないかな?」


「あれ?確かに。そういえば、静君の担当ってなんなのかなぁ?」


「ん?ああ、静にはガスコンロを貰ってくるように頼んでるよ」


料理が壊滅的に出来ない静にはガスコンロなどの調理器具を運ぶように頼んでおいた。

これなら料理しないし、静にもできる。


「だったら僕が探してくるよ!することないしね」

と言った陵ヶ峰君は先程私が手当てしてあげた両手をあげながら苦笑いしてみせた。


確かに。怪我人にも人探しくらいはできるだろうしね。

何よりこの人に料理を任せたくない。


「うーん……。お願いしようかな。調理器具が置いてある教員テントの所にいると思うんだけど……」


そう言って私は包丁を持つ手元から視線をあげた。


瞬間--。


ドオォン!!


けたたましい"爆発音"が聞こえた。



それは今まさに陵ヶ峰君が行こうとしていた場所から放たれた音だった。


生徒の悲鳴で騒然とする中、私は本日2度目の嫌な予感がしていた。

いや、"予感"なんかじゃない。


私の直感が告げている。

犯人は絶対に静だ。


静っ!お前は一体何をやらかしたんだ!


人の波に逆らって駆け出す私の顔は、きっと世界中の誰よりも青かったに違いない。


もうっ!今日はなんて災難な日なんだ!





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