―入学式― 生徒会
三人称って難しいですね。
多分今後は2度と三人称書かないかも…。
多分ですけど。
入学式後のHRも終わり在校生がこぞって後片付けに勤しむ中、生徒会顧問である椎葉克己は生徒会室で溜め息をついた。
「どうしたんですかぁ?椎葉センセー?」
ニヤニヤと、さぞ愉快そうに聞いてくるこの男子生徒は名前を藤堂柚月と言う。
藤堂はこの生徒会内において会長の次に権力を持っている。
要するに副会長だ。
そして、今現在椎葉の頭を悩ませている張本人でもあった。
「…お前のせいで、早速生徒に嫌われてしまったんだが?」
ある女生徒のことを思い浮かべる。
冷めた目で椎葉を見つめ、HR中ずっと負のオーラをとばしていた吉崎遙という女生徒だ。
「やだなー。俺、遙ちゃんを学級委員にしてねってお願いしただけじゃん。嫌われるようなやり方をしたのは先生でしょ」
そう、HRが始まる前に藤堂に呼び止められた椎葉は、吉崎遙を学級委員にしろ、と矢継ぎ早に告げられた。
しかも何故、と問う暇なく颯爽と消えていったのだから椎葉の不満は溜まる一方だった。
「だけどなぁー…。お前の動機が不純だったなんて知らなければ、あんな押し付けるような方法なんて取らなかったんだけどな」
「えー、不純だなんて。俺はただ、新入生の可愛い女の子とお近づきになりたかっただけだって」
「それが不純なんだよ。あー…ったくよー」
「でも先生、なんだかんだ言いながら俺のお願い聞いてくれたよね?」
さっきまでのニヤニヤとした絞まりのない表情とは一変して、不思議そうな疑問に満ちた表情を浮かべる藤堂。
「それは、お前の事だ。何か意図しての事だろう?」
今藤堂が言ったように、可愛い女子と近づきたいなら、なにも吉崎ではなくても良かったはずだ。
確かに、吉崎は他と比べて綺麗だが、初対面でも分かるほど、常に人を寄せ付けないオーラを纏っている。
なら、同じ美少女である有栖川の方が近付きやすいだろう。
しかし、その言葉を聞いた藤堂は一瞬間の抜けた顔をしたが、すぐに苦笑に変わった。
「克己ちゃんは俺のことを何だと思ってるの?遙ちゃんを学級委員にしたのは、ただ俺の好奇心を満たすためだけだって。学級委員は生徒会と関わることが多いでしょ。ね、不純な動機じゃない?」
「は、なんだよそれ?好奇心って…。俺、お前が何か理由があってとばかり…。あーくっそ!」
ぶつぶつと文句を言いながら椎葉は新品のスーツの内ポケットから煙草を取り出すが、後ろからな伸びてきた手によってそれは阻まれた。
「校内は禁煙です。何度言えば分かるんですか椎葉先生」
何事かと振り向くと後ろから咎めるような声をかけ、たった今椎葉から没収した煙草を片手でグシャグシャと握りつぶしている人物がいた。
会長の八王子陸人である。
八王子はすぐに藤堂に向き直り、分かっていて見てみぬふりをしていた、副会長を睨み付けた。
「柚月も柚月だ。今見逃そうとか思っていただろう?」
「ごめんごめん。あれ?他のメンバーは?」
生徒会執行部のメンバーは椎葉も合わせて6人いる。
あと3人足りない。
「仕事中だ」
「えー、じゃあ、陸人はサボり?」
「そんなわけがあるか。俺はお前というサボり魔を捕まえに来るために仕事を中断してきたんだ。しっかりしろ。副会長」
「アハハー…。やっぱ、俺も行かないとダメ?」
「当たり前だろう?先生、柚月借りてきますね」
「おー、どんどんコキ使ってやってくれ」
椎葉の気の抜けた返事を聞いて足早に立ち去ろうとしたが、ふと立ち止まり振り向きながら「そう言えば…」と八王子。
「外まで聞こえてきましたが、『吉崎遙』とは、誰のことですか?二人して、とても熱心に話し込んでいましたが…」
「あー…俺んとこの生徒だ。確か生徒代表で挨拶してたやつだよ」
「あぁ、あの生徒ですか。覚えてます。とても綺麗な声をしてまから。是非一度話してみたいですね」
その言葉に満面の笑みで反応したのは藤堂だった。
「えー、遙ちゃんは、俺の玩具だよ。手なんか出さないでよね?」
顔とは裏腹に声は冷えきっていて、思わず後ずさってしまうほどの威圧感を含んでいた。
それに薄く開いた目は獲物を狙う猛禽類のようで椎葉は息を飲んだ。
普段全くと言っていいほど執着なんて見せない藤堂がこんな反応をするとは…。
(大変なのに好かれたな…吉崎。)
椎葉の心の中の呟きは誰にも聞かれることなく、消えていった。
『藤堂柚月』
橙色の髪の毛が目立つ華やかなイケメン。
見た目とは裏腹に策士。
ゲームではそのギャップに惹かれる者も多かったらしい。
どこかで吉崎遙と会っているらしいが、吉崎遙本人は全く覚えていない。
一番進行が早いヤンデレ予備軍である。




